隊長室から外に出て場所は倉庫。
倉庫はドールのパーツなどの備品を収めておく場所である。
修理などに必要な物から、腕一本など、コクピットが無事ならば修理できるだけの材料がそこにはあった。
その場に居るのは祐一とメカニックチーフの牧田だ。
祐一は牧田に計画書等を渡して一緒になって部品をチェックしていく。
その途中で祐一が何かに気がついた。
指でそれを示しつつ牧田に尋ねる。
「あの水素エンジンらしき物はリストに載ってなかったみたいですが、何なんですか?」
「大将。興味があるのか?」
「えぇ。何せこの機体に使う水素エンジンは本来、こっちの方に使いたかったので」
二枚有る計画書のうちの片方を指しつつ、祐一は説明を始める。
牧田は説明したくてうずうずしていた。
よほどこの水素エンジンを使って欲しいみたいだ。
しょうがないなぁ、大将だから特別だぞ。と言う顔で牧田は説明を始めた。
祐一は恩にきりますという顔をした。
「この水素エンジンは小型の癖にこのリストの中に有るやつよりも出力が高いんだ。ただ……」
「ただ?」
「試作品で作られたは良いが、出力が高くなり過ぎてバランスが悪くなりすぎる」
感心したように祐一はそれを見上げた。
「じゃじゃ馬なんてものじゃないらしい。それに加えて」
「加えて?」
「これを作った会社が潰れてしまってね。二束三文で売られたこれが、警備隊に搬入されたんだわ。良くも悪くも出力馬鹿でな」
「へぇ……」
「警備隊でもこれを持て余して、こんなにバランスの悪い物は使えないと言ってお蔵入り」
「お蔵入りとは? 欠陥でもあったんですか?」
「いや、バランスが駄目な以外に欠陥は無い。ただメカニックよりもパイロットに恵まれなかったと」
「せっかく良い物を使えるのに。勿体無い」
「で、そっちのメカニックから貰ってきて、現在に至るって訳だ。どうだ?」
「これって使っても大丈夫なんですか?」
「そうこなくっちゃ!」
待ってましたといわんばかりの嬉しそうな牧田の表情。
祐一も嬉しそうだ。
2人でしゃがみ込み、計画書の両方を地面に置いた。
指差しながら、今後の打ち合わせを始める。
「Hドールのほうにこれを載せて、これに使うはずだった水素エンジンをNドールの方にスライドで良いですかね?」
「……この設計なら問題ない。全く、大将の考えてくる設計書はメカニック冥利に尽きるね」
「さて、組み立ててみてからのお楽しみですね。結果は」
「全くだ! どんなのに仕上がるか。今から楽しみだ!」
早速、内線でいつものメンバーを呼び出して2機分の機材を運び出す。
その途中で牧田が心配そうな顔を押している。
「そういえば、大将。昨日、警備隊の連中と何か有ったんだって?」
「あったと言えばあったですね」
「香里嬢がいうには、一言二言で相手の上官らしき人が震え上がったらしいが……あんた何者だい?」
「何者の何も……その場のハッタリと演出ですよ」
へ? という顔をする牧田。
「口から出た嘘も、その以前の行動を見ていて真実味が増すでしょう?」
「……ハッタリを咬ましただけか?」
「当たり前じゃないですか。俺に母さんほどの影響力は無いですよ」
「あ〜〜、忘れてた。姐御の息子だったかぁ……だったらしょうがないな……」
ぼりぼりと頭を掻きつつ何か矢鱈と納得する牧田を横目に祐一はちょっと複雑だった。
そんな理由で納得されるのも何か納得がいかないっと。
ちなみに、姐御とは有夏の事である。
順調に運び出される資材に機材。
それを第1格納庫に運び込み、組み立てが始まった。
たちまち、第1格納庫は部品で溢れ返り、アルテミスを磨いていた北川の目を点にさせたことは言うまでもない。
「おいおい、一体何が始まるんだ?」
「ん? 牧田さん。北川には言ってなかったのか?」
「あ? 忘れてた。すまないな」
悪びれた様子もない牧田に、北川はため息を吐いた。
そこに通称美坂チームが入ってくる。
やはり皆の顔は一様に驚いていた。
牧田は大将に任せたと言い、組み立ての指示に戻る。
祐一は牧田さん、そりゃないよ。って顔をしていた。
そんな祐一を見て周りを囲む美坂チーム。
笑顔の女性陣。しかし一様に目が笑っていなかった。
「祐一。一体何の騒ぎなのかな?」
「そうね、知りたいわ相沢君。みんなに内緒で一体何の騒ぎかしら?」
「祐一さん? 教えてくれますよね?」
北川も祐一も女性陣のあまりの剣幕に引き気味であった。
祐一は北川に助けを求める視線を送る。
それに北川は俺を巻き込むな! 身から出た錆だろ! と言う視線を返した。
諦めに似た感情で覚悟を決める祐一。
そんな祐一を助ける一言がその後ろから聞こえてきた。
「あ〜、お兄ちゃんの機体もう組み立て始めるんだ。早いね〜」
「僕の機体も明日には搬入されるし、どんな機体か楽しみだよ」
「む? 明日からではなかったのか組み立ては……祐一と訓練をしようと思ったのに、しょうがないか」
美坂チームに遅れて入ってくる、相沢親子にあゆ。
美坂チームは一様にそんな話、聞いていない。と言う顔をしていた。
しかし、そんな顔も次の一言で吹き飛んでしまう。
「それなら、あゆ、香里に北川、祐夏は私と訓練だ。栞と名雪は祐一の手伝いだな。そうだ、秋子の奴も誘おう」
名案とばかりに鼻歌交じりに内線の位置まで歩いていく有夏。
内線を掴み取り、秋子の居る隊長室に向けてなにやら話している。
呆気に取られたままの北川に香里、栞に名雪。
幾分、栞と名雪は顔色が良く、北川に香里は顔色が悪かった。
覚悟を決めた祐夏にあゆ。この後に訓練の名の元に行なわれる、理不尽な憂さ晴らしを覚悟していた。
そのまま有夏に引きずられるようにして、格納庫を出て行く4人。
その背中に哀愁が漂っていたのは気のせいではない。
「それで説明してくれますか? 祐一さん」
「あぁ、明日辺りに母さんが注文した最後の機体がここに届くらしいんだ。それを正式にここに入隊したあゆに譲ってだな」
「それで、祐一が新しい機体を作ってるの?」
「そんな所だ。新しいのが母さん曰く、あゆ好みだというから秋子さんにお願いして、部品と交換するっていう話でまとまったんだ」
「でも、この材料の量は異常じゃありませんか? 1機分を軽くオーバーしていると思いますよ?」
「そりゃ、2機を作るつもりだから。そう言えば、名雪はちょうどいいところに来たな」
へ? という顔をする名雪。
祐一は格納庫横の休憩室に入って、手に電話帳2冊分ぐらいの本を一冊、2機の設計図を持って出てきた。
その分厚い一冊を名雪に渡し、栞には設計図を渡した。
名雪は何これと言う顔をし、その間に栞は渡された設計図を食入る様に見ている。
そして祐一は名雪の肩を軽く叩いた。
名雪は何の事か分からずにただあいまいな笑みを浮かべるだけだ。
「名雪、頑張れよ」
「え? え? どういう事かな?」
「今、組み立てているのは俺の機体と、名雪の機体だ」
「それとこの本は何が関係あるのかな?」
「名雪の機体は情報戦用になるんだ。それで、搭載する機能の解説と特徴、利点と欠点をまとめておいた」
「……それを状況に応じて使える様に機体が出来る前から覚えておくの?」
「頑張れ、名雪」
「う〜〜。難しいよ……」
「ファイト、だよ」
「祐一が言っても気持ちが悪いだけだよ。でも、頑張るよ。祐一」
名雪が本に目を通し始めたときに、入れ替わるようにして、栞が祐一に詰め寄った。
「祐一さん! これはまずいですよ! バランスが悪すぎます!」
「そんな事、知ってるよ。Hドールのほうだろ?」
「……なんでそんなに落ち着いているんですか?」
「じゃじゃ馬ほど乗りこなせば、強い存在はいないじゃないか」
「あの……じゃじゃ馬レベルのバランスの悪さじゃないと思いますよ?」
「そこまで悲惨なレベルじゃないと思うぞ?」
「……なんだか、心配するのが馬鹿馬鹿しくなって来ました……」
遠い目の栞。
祐一は何がそんなに引っかかるんのか解らない。
確かに祐一の製作するHドールはバランスが悪いって言う物じゃない。
祐一はじゃじゃ馬と言っているが、馬に例えれない。
暴れ龍と言った方がしっくり来るかもしれない。
そんな栞を横目に、祐一はポケットから新しい紙を取り出して、なにやら書き出した。
栞は何事かと思って、それを覗き込む。
祐一は気にせずに、栞に話し掛けながら書き続ける。
「……香里の武器ってあのトンファーだけだろ?」
「そうですね」
「敵の意表をつけるように遠距離攻撃が出来る様なアイディアを考えたんだ。うん。よし」
書き上げた紙を栞の目の前に持ってきて、説明を開始する。
頭を寄せて秘密のお話しをしているようだった。
そのまま、説明をする祐一。
説明が進むにつれて栞の目がどんどん輝いていく。
「そのアイディア、いただきです!」
「あぁ、いただいてくれ」
「ちょっと相談してくるので、失礼します!」
そのまま、祐一の手にあった紙をひったくる様にして紙を奪って走り去ってしまった。
苦笑しつつ、名雪のほうへ目を向ける。
しかし、そこには名雪は居なく、代わりに紙が一枚おいてあった。
(本格的にやります。探さないでください。名雪)
またも苦笑して、本来の自分の作業に戻った。
牧田達、メカニックと一緒になって走り回る。
この次の日、第3格納庫にあゆ専用になる機体が届いた。
MK−204−エンジェリック。
通常の物より少し小さめだが、しっかりとした装甲のついている機体。
確かにあゆ向きの綺麗にまとめられた機体でスペック表では巧い具合にバランスも取れている。
もちろんあゆは到着したその日に、操縦者登録をした。
問題無くそれが終わったのは言うまでも無い。
その日の内に、その起動確認と初期不良が無いか、稼動試験をしたのも言うまでも無い。
あゆが試験をした日から1週間後に、NM−07α−猿飛が出来上がることになる。
追加装甲ユニットを装備して、NM−07β−佐助と呼称する事もある祐一の専用機だった。
エンジェリックと同じく、通常の物よりも少し小さめの機体。
ただ、猿飛の状態では、装甲は無い様なものだった。
佐助の状態になって、初めて装甲という物がついたと認識できる。
それでも、標準のドールと比べるとはっきり言って少ない方に分類されるだろう。
祐一の登録は既に終わっていたので問題は無かった。
それに遅れる事、4日。
NM−08−宵がようやく出来上がった。
その日に、祐一は稼動試験をすることにした。
宵に取り付いていたメカニックも作業が一段落し、何があっても速やかに対応できるような時期を見計らっての事だ。
2機の機体が完成した事を秋子に伝えに行く。
もちろん稼動試験をするためのメンバーを引き連れてだ。
「栞と香里とあゆ、アテナとエンジェリックを借りてちょっと猿飛と佐助の試運転に行って着て良いですか? 秋子さん」
「どうぞ行ってきてください。ケガと故障には気をつけてくださいね」
「ありがとうございます。では行ってきますね。というわけで、行こうか美坂姉妹にあゆ」
「あのね。あんまり、姉妹とかで一括りにして欲しくないんだけど」
「祐一さん以外なら嬉しいんですけどね……」
「そんなものか?」
「「そんなものよ(です)」」
「祐一君ってそういう所、鈍いよね」
「今度から注意するよ。じゃ、行こうか」
そのまま、2台のキャリアーの所に歩いていく。
1台にはアテナとエンジェリックがもう1台には猿飛と追加装甲ユニットが積まれている。
美坂姉妹にあゆは自分の機体に積まれているキャリアーに乗る。
祐一も同じように自分の機体の積まれているキャリアーに乗った。
そこの助手席には牧田が既に居た。
どうやら猿飛の最終チェックが終わったらしい。
「牧田さん、何から何までありがとうございます」
「よせやい、大将、照れぜ。それよりもこれから試運転に行くんだろ?」
「えぇ。牧田さんは言わなくても付いて来るでしょ?」
「もちろん」
その答えが解っているとばかりに祐一はエンジンをかける。
電動のモーターが高い音を立てて回転を始める。
そのままキャリアーを発進させて前のキャリアーの後につける。そのまま、走り続けた。
ドールの訓練所、つまりは広めのグラウンドに色々な物が置いてあるところと思っていただければ良い。
そこに十分くらいで到着した。祐一はキャリアーから機体・猿飛に乗り換える。
「牧田さん、モニターをお願いします」
『解ってる、まかせろ』
「猿飛、起動する。出力は70%を維持」
【Yes、Master。水素エンジンの出力を70%で維持します】
香里達は猿飛が起動する様子を隣で見ていた。
装甲の殆ど無い、華奢な機体。それが立ち上がる。
普通に立ち上がる。それを見た三人の感想はそれが戦闘用なのか甚だ疑問だという事だった。
「それにしても、何か凄いわね」
『コンセプトがコンセプトだからな』
「私だったこんなの作れません」
「外見にもこだわるものね。栞はね」
『動きを見てから、判断してくれ。あゆと香里は少ししたら起動してくれるか?』
「はいはい」
「うん。分かったよ」
軽く、柔軟のような動きをした後に、急に走り始めた。
動きは考えられないくらいに速く、鋭い。
その動きの速さは、ベルセルクのそれよりも速かった。
しかし、それは装甲が無いための速さだ。
猿飛がダッシュをやめて、助走をつけて、体操選手のような動きを始める。
側転から宙返り、それを何度も何度も繰り返す。
雑技団の人もびっくりな動きである。
「それにしても、よく動くわね……」
「祐一さんってかなり奇抜なものが好きなんですね……あんな動きしたら中の人、大変ですよ?」
「うぐぅ……あれは真似したくないかな」
「……栞は、あんなの動きのやつ作らないでね」
『興味あるのか? 体験したいなら、シミュレーター室に登録してあるからそれで体験すれば良いぞ』
「考えておくわ」
「僕は遠慮しておくよ」
「私も遠慮しておきます」
『ただな、データ上の問題で猿飛しか登録されて無いからな』
「そんな心配しなくても良いわよ」
「祐一君、そろそろエンジェリックを起動させるよ」
「私もアテナを立ち上げるわ」
『頼んだ。俺はちょっと衣替えをしてくる』
栞がアテナとエンジェリックのモニターに入り、二人が立ち上げる機体のデータを計測を始める。
祐一は猿飛の機体に追加装甲をつけて、佐助の状態にした。
そこに、牧田から通信が入った。
『大将。バランスはどうだ?』
「えぇ、良いですよ。俺好みのバランスですよ」
『でも出力を最大にしたわけではないだろ? どうしてだ?』
「牧田さん。今日は慣らしですよ?」
『じゃあ、今日は出力は最大にしないのか?』
「それは帰ってからしようと思います。一人のときにね」
『それは……』
「もしも間違いがあったら困りますからね」
『そうか。なら後の楽しみにしますか!』
その後、3機で稼動試験をしたのは言うまでも無い。
問題は特に見当たらなかった。
帰り際、香里の機嫌はすこぶる悪かった。
あゆも乾いた笑いを浮かべ、栞はもう笑うしかないという感じだった。
それは猿飛のあまりに高い機動性の為に2対1で戦闘を行ったが、有効打にひとつのペイントもつけれなかった。
ちなにみ、途中の通信で飛んだ言葉はこんな感じだった。
「あ〜〜〜〜〜! なんなのよ! あの動きは!」
「うぐぅ……速過ぎてターゲッティング出来ないよ!」
「……祐一さんはどんな体してるんでしょうかね?」
そのために、3人があんな反応をしているのだ。
これを見ていた牧田は嬉しそうだった。
よほど、自分の作った機体が優秀だったのが嬉しかったらしい。
格納庫へ戻ってきた祐一たち。
祐一と牧田は居残りで最大出力の時の様子を見た。
『牧田さん。モニターをよろしくお願いしますよ』
「解ってる」
『出力を100%で維持』
【Yes、Master。水素エンジンの出力を100%で維持します】
先ほどとは全く違うエンジンの回転音。
それはこのエンジンがモンスターだと言う事を教えてくれる。
『では動かしますから』
「お、おぉ!」
動き始めた猿飛。動き始めたと言うのは語弊かもしれない。
はっきり言って初めから全速力という感じだった。
香里達の機体が立ち上がる前の動きを比較的、狭い格納庫の中で再現する。
距離が足りない時は折り返して同じ事をしている。
もちろんこうなる事が解っていたので、あらかじめ他の機体と関係者以外の締め出しは行なっていた。
今ここにいるのは牧田と祐一、そして、猿飛に関わったメカニックだけだった。
牧田は祐一の操縦技術の高さに舌を巻く。
そして、自分の作った傑作に心から喜んでいた。
他のメカニックも同じような顔をしている。
「すげぇ! すげぇすげぇすげぇ!!」
『牧田さん……反応速度とか、教えてくださいよ……』
「あぁ、すまないな。大将。ちょっと興奮しちまってな」
目をモニターの画面に走らせる。
その目がおかしなものを捉えていた。
「なぁ、大将……」
『何か問題ありましたか?』
「いや、そうじゃないんだが……出力は今、100%だよな?」
『そうですが?』
「なら、なんでエンジンにこれだけ余裕が有るんだ?」
『それ以上あげると部品が崩壊しますよ?』
「ぬぅ……」
結局、そのまま稼動試験は終わる。
そして正式に祐一の専用機として基地に配備される事となった。
時はかなり戻る。場所はエリアK。
情報収集と敵部隊の実力を調べるためにエリアMを襲撃した部隊の反省会の会場。
その場では、真琴の操っていたサイクロプスの映像が流されていた。
その映像が突然途切れ、音声のみに切り替わる。
「これは……頭部カメラを破壊されたというのですか?」
「あぅ……」
「黙り込まれると困ります。はっきりと答えなさい」
ものすごい剣幕の久瀬に真琴がひるんでいる。
その顔にはあんたが命令した通りに動いてこうなったのよぅと書いてあった。
そんな真琴の顔を見て、久瀬は真琴を睨みつけた。
あまりの剣幕に、真琴は佐祐理の後ろに隠れる。
「久瀬さん? あまり私の部下を虐めないで欲しいのですが?」
「……失礼。しかし、部下を甘やかすのはどうかと思いますが?」
「あはは〜。でも、あなたに言われたくないですね」
「……そうですか。では後で書類を提出してもらえますか? 何故頭部カメラを破壊されてしまったのか知りたいので」
「解りました……一つ良いですか?」
「えぇ。何か?」
「私はあなたが大っ嫌いです」
突然でしかも脈略の無い言葉。
周りに居た誰もが、その言葉に唖然とするしかなかった。
「あぁ、安心しました。私だけがそう思っていたのかと思いましたよ。安心してください、私もですよ」
そのまま真琴を引き連れて部屋を出て行く佐祐理。
その後に無言で舞と美汐が続いた。
「さて、目的の機体の場所は判明しました」
「圭一、行動を起こすのか?」
「壱次、まだ時期が早い。警戒が解けた頃を見計らってもう一度仕掛けましょう」
「了解した」
「では皆さん、通常の職務に戻ってください」
「「「了解」」」
その場は解散となり、久瀬、斉藤を含めて通常の職務に戻った。
部屋を出て行った佐祐理達は自分たちの小隊の部屋に戻ってきている。
「さて、真琴。佐祐理には説明してくれるよね?」
「うん」
真琴はエリアMであった事を全て話す。
祐一の話になり、美汐の頭部カメラの映像を見る事になった。
「この人なの。真琴を助けてくれたのは……」
美汐が帰還途中の道で偶然、真琴を捉えた時の映像が画面に流れる。
そこには、真琴のそばにいる優男が写っていた。
舞はどこかに引っかかっている顔をし、佐祐理はその映像に呆然とした。
「佐祐理? どうしたの?」
呆然とした佐祐理の顔を覗き込みながら、真琴が心配そうにしている。
その隣に居る美汐も同じような顔だ。
ただ、舞だけは画面を見てまだ何かを考えていた。
「ふぇ? あはは〜、ちょっと考え事ですよ」
「そうなの?」
「顔色が悪いですが、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。真琴、あのアイディアで次の機体を設計しますから」
「本当? やったぁ! ありがとう! 佐祐理!」
「すいませんが、やっぱり一人にしてもらえませんか? ちょっと調子が悪いみたいです……」
「わかりました。真琴、行きますよ」
「うん。佐祐理、体を壊しちゃ嫌だよ」
「ちょっと休めば治りますよ〜。設計図を楽しみにしてくださいね?」
そのまま、外に出て行く二人。
佐祐理はそれを見送った。
二人が部屋を出て行った後に舞が佐祐理を心配そうにしている。
「佐祐理どうしたの?」
「なんでもないよ。舞。ごめんね。でも、一人にさせてくれるかな?」
「……そう。問題ないなら良い」
心配そうな顔のまま、舞は佐祐理を置いて部屋を出て行った。
舞はしきりに首をかしげている。
一体、何に引っかかっているのか解らない。
ただ何に引っかかっている何かは、悪寒や、不安などの嫌なものだと言うのは間違いなかった。
「……何処かで会った事が……ううん。多分、勘違い」
舞は自分の中であの画像に写っていた人物について必死に否定していた。
あまりに不吉すぎるから。
首をかしげたまま、美汐と真琴の行ったであろう方向に歩いていく。
「……この時間なら、トレーニングルームかな?」
部屋に残った佐祐理は舞が完全に出て行き、部屋の近くにいない事を確認してから一息をはいた。
そして、その優男の画面を拡大して、その画像を見る。
自分の感じた何かが確信に変わる。
「一弥が生きていた……」
佐祐理の覚えている一弥の面影がその優男に全てある。
家族だけがわかる感覚。それがそこにはあった。
目から涙が零れ、頬を伝う。
その姿だけは誰にも、親友いや家族である舞にも見られたくなかった。
(佐祐理は忘れない、一弥が4歳のときに誘拐された事を。その際、お母様が殺された事も)
黒い感情の中にとめどなく溢れてくる、暖かい気持ち。
その心地よい感覚に身を任せながら佐祐理は部屋の中で涙を流し続けていた。
To the next stage
あとがき
佐祐理さん黒いですね……どうもゆーろです。
ようやく佐祐理さん達が出てきました。これで心置きなく書けるはずです。
今回からちょっとプロットを作ってから書くようにし始めました。
そうしたら、書き易くなってくれたのはいいのですが、なかなかキャラが動いてくれなくなってしまいました……
難しい事を痛感しています。こんな私の文を読んでくれてありがとうございます。ではゆーろでした。
管理人の感想
ゆーろさんからSSを頂きました。
祐一専用機が完成。
忍者ですか。
とすると、用途は暗殺専用に。(笑
一瞬飛猿ではなく飛影と読んだのは内緒。
敵陣で祐一の存在がクローズアップ。
佐祐理さんは一弥と決めてかかってますね。
これで祐一の実年齢が彼女以上だと面白いんですが。
舞とも因縁がありそうで。
やはり彼女だと例の場所なんでしょうね。
感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。
感想はBBSメール(yu_ro_clock@hotmail.com)まで。(ウイルス対策につき、@全角)