〜気になることは星の数ほど。調べなきゃいけない事も星の数ほど。あぁ、仕事が有るって嬉しいナァ。〜
石橋彰雄、何処と無く現実逃避をしながら。


〜あいつの仕事にはいつも驚かされる。流石は戦友というところだな。〜
相沢有夏、石橋の持ってきたレポートを見て。


〜ここは、ライフルやろ! 〜いえ、グレネードですわ! 〜なんや、やるんか!? 〜そちらがお望みならば! 〜
仲が良いのか悪いのか分からない有夏の昔の同僚の日常風景。









  
 
神の居ないこの世界で


→誰にだって知られたくない過去はある。それが心の傷ならば尚更だ。










 場所は、相沢家に当てられた一室。つまりは祐一たちの住んでいる部屋である。

 部屋のリビングには、互いに難しい顔をしている石橋と有夏が居た。

 祐一は新しい機体を組み上げるためにここには居ない。

 祐夏は香里に体術の基礎を教えてもらうためにこの場には居なかった。

 雰囲気が張り詰めている。




「さて、これが前回頼まれてた調べ物だ」

「あぁ、ありがとう彰雄」




 そう言って彰雄は紙の束を渡し、有夏はそれを受け取って見始めた。

 それは、祐一の居た研究所に関するものだった。

 祐一が記憶を取り戻して、何も説明できないのでは拙いという事。

 それに加えて、有夏自身もその研究所で何が有ったか興味があった。

 研究所をつぶした時には大雑把にしかその内容を知らない。

 一端の傭兵にそんな内容を伝えるはずが無いのだから。

 だから有夏は、祐一が記憶を取り戻したら、それを調べようとしていた。

 それは、サイレンスのメンバーの総意でもある。

 もし、この先に祐一の記憶が戻るような事があれば、その研究所の『意味』を調べようと。

 そしてもし、祐一が何かするときには力を貸そうと。

 そう約束してサイレンスのメンバーは解散している。

 その約束を果たすべく、資料をパラパラっと捲っていく。

 有夏はその紙の内容を見て目を疑った。




「おい、これは本当か?」

「信じる信じないは勝手だが、情報を探り出したのは……」

「このエリアの相沢祐治のドール研究所。それは分かっている!」

「なら何が不満なんだ?」

「……何だか複雑な気分だ」



 苦虫を噛み潰したような顔の有夏。

 どうやら有夏が想像した内容以上だったようだ。

 まず初めに有夏の目が止まった場所は、GEナンバーに関する記述だった。



「GEナンバーの前身はAHナンバーだったのか?」



 GEナンバーとはかつて研究所で祐一が所属させられていたグループである。

 AHナンバーとはかつて研究所であゆが所属させられていたグループであった。

 AHナンバーは生身でドールなどの重兵器に対抗できるように訓練した子供達を指し、

 GEナンバーは人の身でありながら機械と融合するために育成された子供達の事だった。

 そこには、GEナンバーはAHナンバーより適正の有る者を選抜と書いてある。



「そうと見たほうが良いだろうな。事実、残っていた資料にもそれと同じ記述があった」

「つまりはAHナンバーから適正のある奴をGEナンバーに仕立てたというわけだな?」

「それならば、坊主があれほどの戦闘技術があるのも納得できる」



 石橋の説明にムスッとした有夏はそのまま、レポートを読んでいく。

 その表情はお前の言っていることは正しいですねフゥンだ! と言う感じだった。

 今度はHドールに関するところで、手が止まった。



「YA−04−ベルセルクは、今はここのドール研究所にあるあれだよな?」

「そうだが?」

「あれに登録されているのはGEナンバー全部で……ちょっと待て。何だこれは!?」



 その記述の途中で有夏の手が震えだした。

 しかし、手の震えよりも声の震えのほうが酷かった。

 こんな事実知らないとばかりに歯がカチカチと鳴っている。



「GE−01、発狂、ロストナンバー。

 GE−02、コクピットにて舌を噛み切り自殺、ロストナンバー。

 GE−03、制御不能に、スイッチを入れ廃棄、ロストナンバー。
 
 GE−04、精神強化後、一応の成功。しかし、性能は満足できず。その後、精神崩壊。ロストナンバー!!」



 最後の方は怒りで怒鳴り声になっていた。

 石橋は目で落ち着けと促す。

 有夏は深呼吸を何回かした後に、石橋の目を見た。



「GE−06までそれらの試行錯誤が続き、一応の成功を収め、YA−04−ベルセルクの計画は凍結、放棄された」

「あれは失敗作だというのか!?」

「そうじゃないだろうな。一応の成功作だろう。LOSと言われるプログラムのな」

「LOSだと? 何だそれは?」



 石橋は目を伏せてボソッと言う。



「lose one’s sanity……の頭文字だろう。意味は気が狂う」

「つまりは、機体の性能の為に人側の意識に働きかけて性能を上げようというわけか?」

「それを意図したのだろうね。その頃にはGEナンバーの初期の方の子供達はお荷物になっていた。と言う記述が見受けられる」

「……くそ!」

「その子達が後期の子供達に対抗するためにあの機体は作られたと言うわけだ」



 有夏は奥歯が鳴るのが分からないくらい歯を食いしばっていた。

 彰雄の顔だって舌の回り方とは違って、かなり怖い顔をしている。



「こんな事ならもっと早くにあの研究所を潰しておけば良かった!」

「今から言うのは無駄だぞ。有夏」

「分かっている!」



 乱暴に次のページをめくる。そしてまた手が止まった。



「YAのドールはまだあったのか!?」

「ある。このエリアの相沢祐治の研究所にまだ2機残されている。ベルセルクも入れれば3機だな」

「冗談だろ!? 残りのYA2機の、このスペックはなんだ!?」



 通称YAタイプは、かの狂科学者・相沢祐治が製作した機体だ。

 その普通の技術者には全てが理解できない内容だったと言う。

 数少ないYAのドール。戦場では死神の象徴だった。

 数ある戦争の中、星の数ほどあるドールの製作者を見分けるのは難しい。

 だが、例外がある。YAのドールだ。周囲に与える威圧感が既に違う。

 動きが、突破力が、破壊力が、振り撒く恐怖が、敵を屠る方法が、その全てが違った。

 加えてYAのドールに乗るメンバーは必ず悲劇的な最後を歩んでいる。

 常に激戦区にしか投入されなかった為に悲劇的な結末しかなかったといった方が良いだろう。

 流星の様に激戦区に現れて凄まじい戦果を上げて、そして儚く散っていく。

 それが、YAのドールだった。激戦区に居たがためにどれも短命。

 死して歴史に名を残したいのなら、YAと言われるくらいだった。

 祐一が名前をつける際にYAの名前を付けたがらないのはこの為である。縁起が悪すぎる。

 戦争で確認されたのは4機。それ以外は研究所で廃棄されたというはずだった。

 ベルセルク以外にYAのドールが残っていないと思っていた有夏にはえらくショックな事だった。

 加えて、そのスペック表が通常のドールの数値と桁違いな値を示していた。



「本当の事だろう。相沢祐治の奴は本当の天才だったからな。オーパーツと言っても良いくらいの技術差がある」

「行き過ぎた技術だ」

「全くだ。これほどのスペックは一体何に使うのか分からない。必要が無いくらいだ。半分以下でちょうど良いと思う」

「それは専門家の意見か?」

「あぁ、言い忘れたが、晴子と由紀子にはそれと同じ物を送ってある。後で聞いてみれば良い」

「なるほど。分かった、あとで聞いておく」



 さてと、っと石橋は伸びをする。

 ぽきぽきっと背中から乾いた音がした。



「実際に行なわれた事は殆ど判らなかった。結果しか残っていないのは多分、証拠に残るのが怖かったんだろう」

「これでも十分証拠になると思うけどな」

「大変だったんだぞ〜。ちょっとは感謝してくれ」

「これでも感謝している。それで、何処かに行くのか?」

「あぁ、ちょっと気になることがあってな、エリアKまで調べ物に」

「わかった。チョクチョク連絡をくれ」

「あゆは置いていくから。秋子さんに宜しく言っておいてくれないか?」

「分かった。気をつけて行ってこい」



 石橋は手をひらひらさせて、外に出て行った。

 苦笑いを浮かべる有夏はそれを確認せずに電話の受話器を上げて電話をかける。

 何回かのコールの後に、向こう側の声が聞こえた。



「晴子か?」

『久しぶりやな〜、直通番号に電話が来るのも。しかも相手は有夏ときてる。珍しいわぁ』

「ちょっと火急で聞きたい事があってな」

『それはそうと、新しい機体は届いたんか?』

「ちゃんと届いた。悪いな、あんな値段で良いのか?」

『かまへん。やけどしっかり、データは送ってや』 

「分かっている。ところで、手元に彰雄の資料があるか?」

『ちょっと待っとき。いま、手元に出してるさかい』

「目は通してあるのか?」

『当たり前やんか。しっかし、天才と何とかは紙一重とはよう言ったもんや』

「まったくだ」



 呆れた風の向こう側の声。相手は現Air会長の神尾晴子だった。



「率直に聞く。一つ目はLOSについてだ」

『はっきり言って非効率や。パイロットは一度限りの使い捨てとはいかんからね。ただ……』

「ただ?」

『考え的には悪くないんや。勝手に機械の性能まで人を引き上げてくれるって言う考えかたは』

「技術的には?」

『無理。それなら、人に合わせて機械を作った方が、遥かに安うあがる上に効率的や。それにな』

「それになんだ」

『いちいち人死にを出す機械は欠陥以外の何者でもないで』



 晴子の言葉には嘘は無い。有夏は安心してそれを聞いていた。



「次に、YAのドール特に後期2機のスペックについてだ。これの実現は?」

『無理。相沢祐治の技術はオーバーテクノロジーとなんら変らんわ。私ら凡人には信じられまへんわ』

「現段階の技術で再現可能なのはこのスペックの何処までだ?」

『5分の3が限界や。人も技術も。こんなスペックの機械にのってみ?中の人間はバターになれるわ』

「そうか。機体のAirでもそんな数字か……」



 疲れたような声を出す有夏にため息を吐く晴子。



『有夏、私は会長やってるけどな、私の乗りやすい機体を作るように指示してるだけやで?』

「それだけで商売が出来ているのか?」

『それが不思議でな、私の好みの機体がよう売れんねん。世の中不思議やな〜。気がついたら会長や』

「すまないな、忙しいときに」

『今度は、祐一と祐夏を連れて酒持って、うちに遊びに来るとええわ。まっとるさかい』

「あぁ、そうさせてもらう」



 そう言って電話は途切れた。有夏はそのまま、受話器を新たな番号を押し込んだ。

 2回目のコールの後に、向こう側の声が聞こえた。



『そろそろ電話が来る頃と思ってましたわ。有夏』

「あぁ、元気そうで何よりだ。由紀子」

『言い忘れていましたが、近日中にそちらに新しい機体が届きますわ』

「何だと? 私は注文した覚えが無いぞ」

『えぇ。何せ試作機ですから、御代は結構です。秋子様にはちゃんと許可を貰いましたわ』

「何か下心でもあるのか?」

『晴子の所の機体に負けないだけの武装をさせてありますわ。フフフフフフフ……』



 電話の向こうで小さく、見ていらっしゃい晴子さんという呟きが聞こえたような気がした。

 ちなみに、由紀子と晴子は見た目の仲がすこぶる悪い。

 晴子は貧弱な武器でも優秀な機体性能で相手を屠る戦法を好む。

 それに対して、由紀子は機体性能はそこそこでも強力な武器で相手を屠る戦闘を好んだ。

 片方は酒を飲む、飲めるのに対して、片方は全く飲めない。

 機体は片方は機動力を好むのに対して、片方は火力が大きい事を好む。

 朝食は片方はご飯派、片方はパン派。

 片方は食パンに塗るのは必ずバター。片方は必ずマーガリン。

 片方はラフな格好を好むのに対してもう片方はきっちりとした服装を好む。

 それに、会社の事もある。

 ONEは元々結構な規模を持つ会社だった。それが今、由紀子の手によりエリアO最大の企業に成長させた。

 Airは元々町工場の製作所だった。それが今は、ONEに肩を並べる大企業にまで成長している。

 元々の規模が違うのにここまで追いつかれた由紀子が晴子にライバル心を持つのはしょうがないだろう。

 そんな訳で2人の関係は、水と油、闇と光、剣と盾。そんな感じの関係だ。

 お互いが認め合ってはいるが、お互いに素直になれないので未だにこんな関係だった。

 決して仲が悪いというわけではないが、そのやりとりを初めて見る人は仲が悪いと感じるだろう。

 軽口の応酬も、激しい討論も互いに恥ずかしさを隠すためのものだと有夏は知っている。


 さて、ドールの大手メーカーには3社がある。Air、ONE、kanonの3社だ。 

 会社のトップ、二人の性格を現すように互いの会社の製品もその性格が色強く反映されている。

 晴子が会長を務めるAirは、機体のAirと呼ばれて優秀な機体性能とそれを生かしきれる武器が特徴となっている。

 対して、由紀子が社長を務めるONEは、武器のONEと呼ばれて優秀な武器とそれを使いこなす機体に重点を置いている。

 ここでは関係ないが、kanonは企画のkanonと呼ばれ、水中型等の意外性のあるものばかり製造している。

 二人の会社が製造するの機体と武器の相性も二人の表面上の仲を表すようにすこぶる悪い。

 Airの機体にONEの武器を装備すると、その武器が扱いきれないことがしばしば。

 逆にONEの機体にAirの武器を装備させると、肝心の破壊力が無くなる。

 両社の機体や武器とkanonの機体や武器との相性は可も無く不可も無くという感じである。

 余談だが、売り上げはONEとAirが併走しており、その後ろをkanonが追走している感じだ。



「データが取れたら、そちらに転送すればいいのか?」

『お願いいたします』

「さて聞きたい事が有る。手元に……」

『彰雄の資料ならあります』

「そうか、まずはLOSについてだ」

『あれは前提が間違っていますわ』

「どういうことだ?」

『人を追い込んで最大限の力を引き出す、と言うのが間違っていますわ』

「ふむ」

『最大の力が発揮されるのは追い込まれた一瞬だけ。その瞬間をずっと持続する事、自体が無理な話です』

「確かに。人が追い込まれた時の爆発的な力を維持する事は不可能だな」

『そんな事をすれば精神が壊れるか、自殺を嫌でも選びますわ』




 ここで由紀子は一区切りを置いた。有夏はその先の言葉を待った。




『でも人というファクターを取り除けばLOSは成功するでしょうね』

「なんだと?」

『LOSと言う物に人を乗せないで無人で活動させる。つまりは、オートマシンですわ』

「そんな事が可能なのか?」

『可能でしょうけど、人が乗った機械よりも精度、動き共にがた落ちでしょうね』

「それではあまり意味は無いか」

『トレースする動きの大本にそれを機体に反映しうるだけのプログラミング……途方も無い時間がかかりますわ』

「時間をかければ出来る物か?」

『答えは否。よほどの天才で無い限りはそこいらの凡才ドール乗りと動きはあまり変りません』

「そうか……」

『もし、それなりの動きを実現できたとしても問題は山済みですわ』

「ほぉ?」



 ちょっとした興味を引かれた有夏は黙っている事にした。



『動き以外に大きな問題は認識させるということ。機械に認識させるというのは想像以上に大変なことなんです』

「動くもの全てを敵にすれば良いのではないか?」

『有夏……本気で言ってますの? そんな事をしたら盛大に仲間同士で破壊し合いますわ……』

「あ……そうか」



 由紀子の疲れたような溜息が聞こえてくる。



『認識させるのはかなり難しい事なんです。人間のような判断はまだ出来ません』

「識別票をつけるとかすれば解決するじゃないか」

『それでも、駄目なんです。単独で突撃させるならそれで良いのですけどね』

「どうしてだ?」

『ドールが通常兵器よりも強いのは連携が出来るからです。ここまでは良いですか?』

「あぁ、良いぞ」

『人は1度識別票で確認した後は画像だけで味方を判別できますわね?』

「当たり前だ」

『機械にそれをやらせると、画像では区別がつきにくいですからいちいち認識票を確認するのですわ』

「つまり……」

『何度も確認すれば連携なんて夢のまた夢。互いに確認していては連携も取れないほど悲惨な動きをするでしょうね』

「画像を覚えることは出来ないのか?」

『もし、腕などが飛んで形状が変わってしまったら? 頭部が破壊されたら?』

「う……わかったもう良い。次だ」



 由紀子はもう一度、溜息をついていた。

 次に質問する事は分かりきっているという感じでだ。



『あのスペック表ははっきり言ってナンセンス』

「なぜだ?」

『最大で動けば、操縦者が持たないでしょう。あれの5分の2もあれば十分に高性能ですからね』

「モンスターマシンって言えるのか?」

『もしあのスペックを操れる人間が居るとしたら、それは人間じゃなくて人外といわれてもしょうが有りません』

「1機でどれだけの部隊を相手に出来るだろうな」

『条件にもよるでしょうけど、1機でエリアの全兵力を撃破できるでしょうね』

「武器のONEの製品を用いても撃破されるのか?」

『武器を持って囲んだ所で、命中しなければ意味は有りませんもの』

「そうか……」

『と言っても、それだけの機体を維持するには人の数もそれなりに必要ですから一人では運営は出来ないでしょう』

「整備している間に……」

『襲われてそこでお終い。ゲリラ的に運営するならこれほど怖い存在は無いでしょうね』

「さて」


 有夏が話の内容を換えようとする。

 由紀子は先にその内容の答えを言った。



『私のところではあのスペック表の半分の値が出るか出ないかでしょうね。それでも扱える人間は少ないのが現状ですから』

「わかった。ありがとう」

『えぇ、どういたしまして』

「また世話になる」

『今度は、直接会いましょうね』

「わかった。またな」


 その受け答えが当然のようなやりとり。以心伝心とはよく言ったものだった。

 電話を切り、ばふっとソファーに沈み込む有夏。

 疲れたといわんばかりのその表情で、もう一度電話機を取った。

 そして、秋子の居る隊長室直通の番号を押した。



「秋子か?」

『どうしましたか?』

「ちょっと私の部屋まで来い。姉の命令だ」

『……何かあったのですか?』

「あることには有った。ちょっと考えたい事がな」

『分かりました。すぐに行きます』



 時間が少し経った後。部屋に秋子が現れた。



「お待たせしました。姉さん。用は何ですか?」

「あぁ、まずそのレポート見ろ」



 有夏は彰雄のレポートを指差して秋子に読むように薦めた。

 見る見るうちに秋子の顔色が変っていく。

 秋子自身も知らない情報の山。

 その情報の山の中には秋子にも見知っている事が幾つかある。



「姉さん! これは!?」

「慌てなくても良い。違法な情報さ」

「どうやって手に入れたんですか!?」

「あぁ、秋子。言い忘れたが、お前もこれで共犯だ」



 へ? っと言う顔を見せる秋子。
 
 その顔がよほど面白かったのか、有夏はテーブルに手を叩きつけて笑い出した。

 その姿がカチンと来たのか、秋子はとたんに不機嫌になった。



「あぁ、悪い。その情報は彰雄の奴に手に入れてもらった」

「えぇ!?」

「サイレンスは各分野のエキスパートで構成されているのを忘れていないか?」

「あ……」

「主分野以外もそれなりに持っているが、あいつは情報戦のエキスパートだ。」

「じゃあ、この情報は……」

「彰雄の奴が言うには相沢祐治の研究所に残っていた残骸さ」

「でも! あそこは封印されてますよ!?」

「だから、あいつは情報戦のエキスパートだといってるだろ? あいつの腕の見せ所なのさ。ともかく読んでみろ」



 納得がいかないと言う顔の秋子。しかし、目はしっかりとレポートを捉えている。



「さて、何が気になった」

「気になる事が有りすぎます」

「それはそうだ。私だって戸惑っている」

「本当ですか?」

「顔に出したら泣き出しそうだ」



 有夏の言う事を耳に残しつつ、レポートをものすごい勢いで読んでいく。



「わからない事ばかりです。不可解すぎます」

「奇怪極まるって感じだな。それで出来たのが、ベルセルクにそれを動かした祐一だ」

「あれは……」

「ベルセルクを動かせたのはどういう事か分かるか」

「GEナンバーと言う事ですね」



 秋子の手がスペック表の所で止まる。



「どうした秋子」

「なんでもないです。姉さん」

「なんでもないって顔ではないぞ」

「姉さん。GEナンバーは、つまりは祐一さん以外に生き残りは居ないのですか?」

「多分、多く見積もっても一人は居るだろう」

「えっ? どうしてそれが?」



 その問に有夏は苦い顔をする。



「私の親友だった川澄冬葵は相沢祐治の研究所の研究員だった。その事はこの前に話したよな?」

「えぇ、その人の密告で世界政府が動いたと」

「そう、冬葵からの密告で私達が動いたんだ。そのときの言葉が何だと思う?」



 ここで一旦言葉を区切る有夏。秋子はその続きを待った。



「私はこの子の為にここを裏切る。だから他の子供達を助けてあげて。私はあまりに非力だから……だ」

「この子……」

「あいつはこの資料にあるように……」

「GEナンバーの研究員……」

「ナンバーは何番か分からない。でも確実に一人は生き残っていると言う訳だ」



 何と言って良いか判らない秋子。有夏は話を変えた。



「さて、話が変わるが……」

「何ですか?」

「YA−04に発信機を付けれないか?」

「どうしてですか?」

「持っていかれたときの保険だな。気がつかないか? 最近の襲撃の特徴を見て」

「姉さんに言われなくても分かってます。YAタイプの機体の強奪が目的だって事は」

「なら何故、対策を練らない」

「警備隊が嫌がるんですよ。私の部隊が上に許可を取る事を」



 有夏はため息を吐いた。



「なんて幼稚な……」

「嫌がらせで物資が止められたことがありますし……それは流石に部隊の運営に関わりますから……」

「そこまで根が深いのか?」



 驚いたという顔をする有夏に、ため息を吐いて秋子は答えた。



「ここまで意識の低い部隊があること自体驚きだな」

「私達はエリート意識なんて持っていないのですが……」

「だが、CROSSを操れる。それだけで奴らはエリートだと言うと言いたいわけだな」

「そうですね」

「馬鹿馬鹿しい」



 そう切って捨てる有夏。秋子はそんな事を簡単に言える姉が羨ましくなった。



「なら、私が勝手に仕掛ける。それならば問題は有るまい」

「でも、それでは姉さんに何か有るのでは?」

「私に? 何かが? ある?」



 いかにも可笑しいと言わんばかり顔に秋子は眉を寄せる。



「世界政府の官僚どもに私がどんな風に言われているのか知らないのか?」

「え?」

「奴に関わるな。関わればその身は不幸に見舞われるぞ。奴の名前は相沢有夏。不幸を笑顔で振りまく女だ」

「そんなこと聞いた事無いですよ?」

「連中の暗黙の了解と言う訳だ。世界政府の顔見知りがこのエリアの上層部という事を考えれば?」

「……口には出しませんね」

「そういうことだ。という事で勝手に仕掛けるからな」

「分かりました」



 ここに来て有夏はこの話の中で一番真剣な顔をした。



「それと祐一のことだ。あいつはいつか行動を起こすだろう」

「それは確実ですか?」

「確実とは言いきれないのが怖いところだな」

「私はどうすれば?」

「覚悟を決めておけ。自分が祐一を撃つと言うな」



 秋子が息を呑むのが分かる。有夏はその様子を無視して続けた。



「どんな行動を起こすか分からない。最悪、敵となる可能性もある。あくまでも可能性の話だがな」

「そんな事……」

「言いきれないか?」



 口をつぐんでしまう秋子。それはその事を否定できないと言うことの表れだった。



「杞憂だと良いのだが、行動力には馬鹿に出来ない物がある」

「そうですね……」

「加えて、奴をドールに乗せたら止めるのは一苦労だろう?」

「味方ならこれほど心強い人は居ないでしょうけど……」

「敵となったらこれほど怖い者は無い。困った奴だ」



 肩をすくませてため息をつく有夏。



「我侭を言えば……」

「言えば?」

「祐一の奴がGE−13ではない事を祈るばかりだ」



 有夏の手に残っている石橋の資料のページにはYA−11とYA−13のスペック表が載っている。

 そのどちらも、GEナンバーの登録という事になっていた。

 特に、YA−13はGE−13のみ登録となっていた。 






To the next stage







あとがき えー、ちょっとクッションを置いてみました。書いてて問題がボロボロ出てきそうです。 出来れば、機械に認識させるとかそこらへんの突っ込みは勘弁してください…… 私は専門家ではないので……こんなことを書いている私はつくづく捻くれているのかも知れませんね。 スパロボの敵の人工知能とかは高性能すぎだと思います。敵だけを認識して敵だけを攻撃するんですから! ちょっと現実逃避してしまいました。ではここまで読んでいただいてありがとうございます。ゆーろでした。

管理人の感想


 ゆーろさんからSSを頂きました。
 今回1番気になったのは、なんと言っても由紀子さん。  あの喋り方は何だー。(笑  まぁ元々お嬢様なんでしょうけど、どこの貴族様かと。  そっからどうして有夏女史と知り合ったのやら。
 オートマシン云々ですけど、別に映像に頼る必要はないんじゃないかなぁと思います。  特殊なパルスを常時発しているとか。  コア自体に識別信号を埋め込んでおけば大丈夫ではないのかと。  ジャミング等の対策とられるまではね。


 感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。

 感想はBBSメール(yu_ro_clock@hotmail.com)まで。(ウイルス対策につき、@全角)