〜佐祐理は私の全て。それのためなら死をも厭わない〜
川澄舞の存在理由。


〜佐祐理は許せない。佐祐理の幸せな時間と右腕を奪った、相沢祐治を、その関係者を、その存在を、その技術を、その全てを!〜
倉田佐祐理の信念。


〜あぅ……新しい機体は嬉しいけど、ちょっと気が乗らない……〜
沢渡真琴、また失敗をするのではないかと危惧しながら。










  
 
神の居ないこの世界で


→研ぎ澄まされた復讐の牙を今ここに。佐祐理にはその権利と義務があります。













 格納庫の一角、北川がアルテミスの装備を見ている。

 名雪の機体、宵を試験的に運用する事になった。

 その機能の中にあるデータリンクの試験をするために、アルテミスと阿修羅の2機が運用に刈り出されるためだ。

 時刻は夕方。夜間訓練も兼ねての事らしく、装備を見る目にも余念が無い。

 使用するのは実弾だった。

 なお、別の場所では、アレスとエンジェリックにガンショット、サイレントの試し撃ちがある。

 こちらも夜間訓練を兼ねるらしい。

 格納庫に残るパイロットは香里と祐一だけだった。

 と言っても普段格納庫に残るメンバーはあまり居ない。

 今日は祐一は猿飛の最終調整のために残るだけだ。

 香里も栞が作った新しい武器の説明をメカニックから受けるために居残るだけだった。




「大将! 見てくれ! 可愛いだろ? 俺の娘だぞ!」



 そんな北川を横目に牧田は微笑み、家族3人が映った写真を猿飛の横で休んでいた祐一に見せる。



「可愛いですね。でも、この子は母親似……ですよね?」

「あぁ、そうとも! 俺の妻に似て美人だろ? この子は良い子いや、美人に育つぞ!」

「楽しみ……でもその頃には俺もおじさんになっているわけですか……」

「その頃には、娘さんをくださいとか言われるのか……ちょっと寂しい話だな。よし! 絶対に娘は嫁にやらなんぞ!」



 会話に聞き耳を立てていた北川が、おどけながら会話に入ってくる。

 どうやらアルテミスの準備は終わったみたいだ。

 その顔は如何にも嬉しそうで、一回こんな事してみたかったんだと、言わんばかりの笑顔だった。



「お義父さん! 娘さんを僕にください!」

「お前のような青二才に、娘をやる事は出来ん!」



 牧田も北川とは付き合いが長いので芝居がかっている北川の問いかけに芝居がかって答え返した。

 そのやり取りに誰もが笑っていた。

 確かにここには幸せがあった。

 暖かいやり取りと、幸せな笑い声が。

 まさかこの後に起こる事で、これが壊れるとは誰も思ってもいなかった。




























 かつて、エリアMとエリアKは一つの鉄道で結ばれていた。と言っても鉄道といえない。

 何故なら、人ではなく物のみの交流の為に作られたからだ。

 通称カタパルト。

 途中に電線を張るだけの友好関係が無かったために、一定の距離で加速させるだけ加速させて打ち出す。

 打ち出された後は知らない。

 相手も同じだ送られてくるのは自分の設備で減速しなくてはいけないと言った殺伐とした物。

 列車がついたかどうか、無事がどうか、中身は大丈夫か、を確認するだけというものだった。

 もちろん今は使われていないが、エリアKでは設備は維持されている。

 稼動には問題は無い。

 そのカタパルトに接続された4機のHドール。

 そのうちの3機が真っ赤なカラーリングをされている。

 残りの1機は真っ黒なカラーリングでまるでこれからやってくる夜の帳に溶け込むような色だった。

 その全てがHドールだ。

 カタパルトを制御をする部屋の中の内線を使う人物がいる。

 右腕のプロテクターを外し、それを点検しながら内線でやり取りをしていた。

 彼女の右腕は筋が切れてしまっている。その為に肘から先はピクリとも動かない。

 それでも、ドールを動かす為に右腕にプロテクターをしているのだ。




「久瀬さん。佐祐理達はこれから仕掛けますから、へまはしないでくださいね」

『解っています。それよりもそちらこそ、しっかりと仕事をしてください』

「あはは〜。そんな事、言われなくてもしますから、心配しないでくださいね〜」

「……佐祐理、時間」

「時間が来たので失礼しますね、久瀬さん」

『解りました』




 内線を切り、佐祐理の前に集まったいつものメンバーを見る。

 既にカタパルトのパワー調整は済んでいた。

 自動発射の設定も済んでいるので、後は乗り込んで時間を待つだけとなっている。

 佐祐理は右腕にプロテクトをはめ込みながら笑顔を浮かべて皆に言葉を発する。



「それでは、行きますよ。舞、美汐さん、真琴」



 その一言でそれぞれの機体に乗り込み始めた。

 その全てが倉田佐祐理の手によって設計された機体だった。



 SK−007−ガーディアン。


 舞専用に作られ、格闘、特に剣を用いるために特化した機体。

 そのため通常よりも装甲を多く取っている。

 重い機体だが、通常1つしか載せない水素エンジンを2つ載せているために、機動性は見た目に反してかなりある。

 武装は剣に盾。

 ただし、機体は通常サイズよりもかなり大きく、かなり操縦に癖がある。

 ある時期、これを指揮官機にしようと言う話があったが、あまりに操縦者を選ぶ機体の為に話が流れてしまった。

 現在は舞以外に操縦が出来る人が居ない。



 SK−175−テラーズ。


 佐祐理専用に作られた機体で砲撃主体の機体だ。

 佐祐理の右腕が動かない為、通常の腕ではCROSSの反応が鈍かった。

 その欠点を補うために機体の右腕をレールガンの砲にして操縦性を高めた機体。

 大きさこそ、標準サイズだが右腕の砲が大きく突き出している。

 右腕の砲の部分の為に、機体は純粋に佐祐理にしか操縦が出来ないような構造になってしまった。

 佐祐理と全く同じような体をしている人ならば操縦は出来るだろうが、そんな人は世界中を探しても殆ど居ないだろう。



 SK−201−ファントム。


 出撃するたびに、改良を入れられる美汐専用機で、レーダーに映らないという特殊な機体。

 コストが高く、構造も特殊なためにこれ以上、同じ機体は生産されないことが決定してしまった不運な機体でもある。

 ただし、レーダーに映らないというノウハウは他の機体に受け継がれている。良くも悪くも試作機だった。



 SK−211−ドルフィン。


 佐祐理の最新型で真琴のアイディアを使った機体。

 モニターを排除し、音響システムでモニターの代わりにしている。

 優雅そうな名前と裏腹に本当に乗る人を選ぶ機体に仕上がっている。

 それは音響システムで無理やり画像化しているためだ。

 真琴はこのシステムに耐性があったが、他の操縦者には無いために10分として乗り続けられない事が判明。

 やはり、今の所は真琴以外に操縦者がいない。

 作られた瞬間は誰も乗れる人が居ないのではと佐祐理は思っていた。

 作った佐祐理も一度このモニターシステムを試しているが、12分耐えただけだった。

 舞は15分だったが、もうつけないしつけたくないと言っている。


































 警護隊の本部、普段ならば特に何もなく過ぎていくだけだろうが、今晩は違った。



『聞こえていますか、エリアMの警護隊の皆さん。私はAYA、Anti Yuuzi Aizawaのメンバーです』



 まさか、テロリストに認定されている集団からの通信が入ってきているのだから。

 しかもそれは、少女の声らしき物なのだから、オペレーターが驚いたのは言うまでも無い。



『我々の目的は現在封印されている相沢祐治の研究所の破壊、その研究室に残っている研究成果の消去です。それを要求します』

「私は、警護隊の者だ。この通信を発している人よ、応答して欲しい」

『聞こえています。何でしょうか?』

「時間をくれないか? この国の首脳部に確認を取りたい」

『……良いでしょう。ただし、時間を設定させてもらいます』

「なに?」

『現在は午後6時。午後9時までの3時間の間に何も無い場合は実力行使をさせていただきます』



 それっきり、通信は切れてしまった。

 現場の人間は困ってしまう。これは本物なのか、それとも悪戯なのか。

 緊急のマニュアル通りに時間の引き延ばしをしてしまったが、証拠が少ない。

 結局、現場の人間は悪戯と判断してしまった。

 その理由として、時間の短さ、そして調査されている情報ではその集団の規模が小さすぎるからだ。



「司令。先ほどの通信の内容をどうしますか?」

「所詮、悪戯もしくはハッタリだろう。間違っても特殊部隊の連中には伝えるなよ。前々回の件があるからな」

「しかし……大丈夫でしょうか?」

「心配性だな。これが『神々の尖兵』だったら考えなくてはいけないが、活動も殆どして無い集団だぞ?」

「そうですね、分かりました。通常の形態を維持します」



 神々の尖兵とは大規模に組織されたテロリストだ。

 前回の襲撃に前々回の襲撃もそこから声明が出ていた。

 何もしないまま、時間は刻一刻と過ぎていく。

 時計が夜の9時を指した。

 都市の入り口を見張る監視カメラの一つが3機のドールを映し出したのだった。

 それも通り過ぎる一瞬を。

 近くで爆発音が鳴り響いたのはその直後の事だった。

 警報が鳴り警備隊の本部が大騒ぎになったのは言うまでも無い。
































 時は少し戻る。時刻は午後6時を指す少し前。

 場所はエリアMとエリアKを結ぶ鉄橋の上。

 カタパルトから打ち出された列車はその場で止まっている。

 4機のHドールは固定されていた機体を外して外に出てきていた。



「……真琴どうしたの?」

「あぅ〜、ちょっと気持ち悪い……」



 列車の中では美汐と佐祐理が警備隊への警告を兼ねた通信を入れている。

 今頃、美汐が警備隊に通信を入れているだろう。

 その間に真琴と舞は列車の破壊と鉄橋を破壊するために爆薬を列車に設置していた。

 もちろん時限式である。

 ちなみに、ここまでの旅は散々な物だった。

 やはり物を運ぶ事を専用とする鉄道は人間が乗るものではなかったみたいだ。

 列車を降りた佐祐理に美汐、真琴は一通り顔色が悪かった。

 舞は顔色こそ変らなかったが、絶対にもう乗らないと心に決めていたりする。

 爆薬を設置を終えて機体の足元に戻ってきた。

 辺りはすでに暗い。

 雪と月明かりのおかげで多少、辺りが分かる程度だった。



「あはは〜、あの調子だと悪戯だと思ってるかもしれませんね。もっとも、要求が呑まれることは無いでしょうね」

「それでは、作戦続行ですか?」

「えぇ、そうなります。舞、そっちは終わった?」

「こっちは問題ない」

「ありがとう。舞。これより通信は光通信でします。いいですね?」

「わかりました。」

「うん」

「了解」

「それでは、行きましょうか。それでは各機に搭乗してください」



 Fangは今回の割り振られた作戦ネームである。

 もっとも、名前で呼び合っている癖のある真琴と美汐はこれに合わせてきつく説教をされていた。

 今回は名前で呼び合うようなへまはしないであろうと思われる。

 ちなみに1が佐祐理、2が舞、3が真琴で4が美汐となっている。

 光通信と言っても通常の通信とはあまり変らない。

 ただ、聞こえてくる音声の代わりに文字がモニターに映されるだけだ。

 通常の通信と同じようにマイクを通してやり取りは行なわれる。

 ただマイクに雑音が入ったりするとそれが文字に現れたりする欠点もあった。




Fang1:みんな搭乗しましたよね?

Fang4:時間はまだ有りますが、もう出発しますか?

Fang1:時は金なりです。用心に越した事はありません

Fang3:行くの? 行かないの?

Fang1:もちろん、行きます。途中、監視カメラ等に引っかからないように気をつけてくださいね

Fang2:進行形態は?

Fang1:進行形態はダイヤで行きます。Fang2が先頭、真ん中をFang1とFang3、殿がFang4です

Fang2:じゃあ、行く

Fang3:うん

Fang1:Fang4は索敵をお願いしますね。索敵はこっちでもしますが気を抜かないでください

Fang4:わかりました



 静かに赤い集団は動き始める。

 目標は相沢祐治の研究所だが、遠回りをして警備隊の本部を襲ってからそちらへ向かう予定だった。

 佐祐理が通るルートの指示を出し、ゆっくりとした速度で監視カメラ以外の物にも引っかからないように進んでいく。

 時刻は8時を過ぎた所だった。

 佐祐理が指示して、皆がその場に留まる。



Fang1:いいですか、9時きっかりに仕掛けます。これ以上先に良くと必ず監視カメラに引っかかりますから、ここで待機です

Fang2:敵は?

Fang4:今の所、反応はありません。ここまでは巧く来れたみたいです

Fang1:この作戦の目的は先に説明したように、敵戦力の引きつけとそれの殲滅です

Fang3:要するに、出てくるの全部が敵?

Fang1:そうなりますね。白い機体には注意を払ってください。それ以外は雑魚ですが、気を抜かないようにお願いしますよ〜

Fang4:お土産はどうしましょう?

Fang1:ここにセットしましょう。出発と同時に破裂させてください 

Fang4:了解しました

Fang3:あぅ

Fang2:Fang3、どうしたの?

Fang3:関係無い人は巻き込まないかな?

Fang1:ここでは被害の出ようが無いでしょうね。爆発で市民は避難すると思いますし

Fang3:なら、良いの



 美汐の真っ黒の機体がお土産をセットし始める。

 その横では機関を停止させて時間を待つ3機のHドール。

 セットを終えた美汐も機関を停止させて、静かに時間が来るのを待った。

 時刻が8時50分を超える。



Fang1:そろそろ行く準備をしてください

Fang2:いつでも大丈夫

Fang3:こっちも大丈夫よぅ!

Fang4:大丈夫です

Fang1:さて、エリアMの警備隊のお手並み、拝見といたしましょう。カウント開始



 全てのドールの画面に数字が現れた。

 その数字は刻一刻と少なくなっていく。

 それが0になった。

 その瞬間、一斉に動き出す佐祐理達。

 一糸乱れぬその動きは訓練され尽しているとしか言い用が無い。

 3機はそのまま正面突破を。

 残る1機は別行動を取り始めた。

 その背後では大きな爆発が起きていた。

 正面突破する3機は舞、佐祐理、真琴で先頭が舞。

 その後ろに真琴、殿が佐祐理だった。



Fang1:このまま、敵格納庫まで行きます。次を右に曲がってください

Fang2:遅れないで。Fang3

Fang3:あぅ……頑張ってるわよぅ



 右に曲がりエリアM警備隊の格納庫を目指す。

 エリアM警備隊はNドールを大量に配備しているために格納庫が10ある。

 そのうちの一番大型の所を目指していた。

 そこにはNドールが12機、配備されている。

 その数は警備隊に配備されているNドールの全体の約17パーセントに当たっていた。

 まだ、9時から5分も経っていない。

 スピードは緩めずに、そのまま角を曲がる。横にGが、かかるが弱音を吐くのは真琴ぐらいだった。

 そのままの速度で舗装されている道路を疾走する。

 道路を走っている車は慌てて道を譲る。

 譲った先で事故になろうとも赤い一団は速度を緩める事は無かった。

 気がつけば避難を促すサイレンが鳴り響いている。




Fang1:第一目標の格納庫は、次を左に曲がって。正面のゲートを破壊した先です

Fang3:ゲートを破壊ってどうするの?

Fang2:……こうするの




 真琴の素直な疑問に、先頭の舞が角を曲がる。

 続いて曲がろうとした真琴の耳に派手な破壊音が届いた。

 ドルフィンの視界が一瞬、真っ白に染まる。

 すぐに元の視界に戻るが、あまり気持ちの良いものではなかった。

 破壊音は舞の機体が剣を持ち、そのままゲートに突きをいれ、そのまま体当たりをかました結果だった。

 ゲートは大きく罅が入りひしゃげ、その中央には大穴が開いている。

 舞はそのまま突き抜けたようだった。真琴もその後に続く。



Fang1:Fang2、Fang3、避けてくださいよ〜!



ぱしゅう!

 
 最後尾にいた佐祐理の右腕から弾丸が放たれる。

 舞は余裕を持って、真琴は泣きそうな感じでそれを避けた。

 弾丸は格納庫の搬入口に着弾し、搬入口の扉を吹き飛ばす。

 間髪をいれずに舞がそこに突入。遅れて真琴が入っていく。

 舞は先ほど抜かれた剣で、まだ起動していないドールを破壊していく。

 真琴は警備隊のドールが装備するであろう銃を奪い、同じように起動していないドールを破壊していく。

 人は集まってきていたが、扉が破壊されたとたんに逃げていた。

 佐祐理はその中には入らずに外で敵が来るか索敵をしている。

 中のドールを破壊し尽くした舞と真琴が外に出てくる。

 真琴の手には戦利品が握られている。

 先ほど奪ったマシンガンにグレネードらしきものを腕に持っていた。

 グレネードらしきものの換えの弾薬のいくつかを佐祐理に渡しながら、真琴は装備の確認をする。



Fang1:次にいきますよ〜

Fang3:次は、何処なの?

Fang2:いい加減、敵が出てくるはず

Fang1:タイムは……13分42秒ですね〜、まだ、ドールが起動しないと言うのは訓練が足りない証拠ですよ〜

Fang2:……人の振り見て我が振り直せ

Fang3:あぅ……次はいるのかな? あの白いのが

Fang1:気は抜かないでくださいね。これから先は警備専用道路を通りますから足元に気を払わなくて良いですよ

Fang3:ほんと?

Fang1:本当です。では、いつものシフトで行きます。専用道路は分かりやすいですね。そのまま走り抜けましょう



 炎上する格納庫の横から伸びる専用道路。

 本来ならば、ここからエリアMのドールが溢れんばかりに出てくるはずの道路だった。

 それを獰猛な速度で逆走する赤い集団。

 まだ、警備隊のドールとは遭遇していなかった。



Fang1:次の交差に敵機、計6です。右に3左に3で、どうやら敵さんは挟撃するみたいですね

Fang2:どうする?

Fang1:いつも通りにしましょうか。Fang4も合流しますし



 それを聞いた舞はそのまま、交差に飛び出ると、盾を構えつつ右に曲がる。

 その背後を敵に見せながら。

 舞が向かってくる先のドール達もその反対側のドール達も持っている銃が一斉に火を噴いた、がそれも長くは続かない。

 盾で弾丸の直撃を避けながら、突進する舞。

 一番右のドールの横に滑り込む。そのドールを殴り、真ん中のドールにぶつける。




「なぜ、我々に背を向けて特攻するんだ? あの機体は!?」



 銃を乱射しながらガーディアンの後姿を見ているしかない、エリアM警備隊の隊員。



『なら、何故、貴方は私に背を向けているのでしょうか?』

「何!?」



 通常電波で飛ばされる、その独り言の通信。

 それに答えるはずの無い答えが返ってきた。


ガキン! バス、バチン。


 舞とは反対側のドール達の後ろに暗闇に溶け込む形で美汐の機体が居た。

 手に持ったロッドが腰椎部にある機関部を貫き、止めとばかりに電撃が放たれた。

 機関を停止し倒れこむドール。

 残りの2機が美汐の居るほうに向く。

 それは美汐の思うつぼだった。

 銃撃が止んだのを見計らって真琴と佐祐理がそれぞれに銃撃を開始した。

 佐祐理は直線上に重なった2機に銃撃を入れる。

 前の機体の武器を装備する腕を肩から吹き飛ばし、後ろの機体はカメラを吹き飛ばした。



「敵は私、一人ではありません。ちゃんと状況把握してますか?」



 やれやれとばかりに、ため息をつきつつ、機体を操り振り向いた2機のうち1機を相手する。


バガン。


 もう1機は真琴が先ほど奪ったグレネードらしき物が、腰椎部の機関部に直撃して沈黙した。

 格闘戦になったら、HドールとNドールは勝ち目が無い。

 ファントムは放たれる弾丸を器用に避けながら、

 武器を持っているほうの相手の肩の部分にロッドを捻じ込む。

 電撃を放ち、それを引き抜いた。

 今の電撃で少なくとも武器はつかえない。

 追加のもう一撃は腰椎部の機関部に突き入れられた。

 舞は機体を回転させて、遠心力をつけて残った1機の胴体を横に一閃する。

 装甲のついていない腹部から上下に2つになった機体は動きを止めた。

 戦力の無い2機の方へ振り向いたときには、佐祐理が敵ドール、2機のそれぞれの機関部を打ち抜いて停止させていた。



Fang3:あぅ〜、これを撃つ度に視界が真っ白になる〜

Fang1:それは困りましたね〜、改良の余地がありますね……

Fang4:遅れてすいませんでした

Fang2:Fang4は遅れてない。私たちが早かっただけ

Fang4:そうなんですか?

Fang1:そうですよ〜。敵さんの訓練不足のせいも有るでしょうけどね

Fang3:ねぇ、これって本当に正規軍なの?



 真琴が上下に両断されたドールを片方で指差し、もう片方の手では佐祐理にグレネードを渡しながら聞く。



Fang1:正規軍でしょうが……怠けてますね〜。ところでFang3、マシンガンのほうは画面には問題は出ないの?

Fang3:うん。マシンガンなら多少、出るけどここまで酷くない

Fang1:やっぱり改良の余地が有りますね。帰ったら改良と調整しましょう

Fang3:うん。よろしくお願いします

Fang4:あの、こんなにのんびりしてて良いのでしょうか?

Fang2:油断は駄目だけど、多分ここには来ない

Fang1:そうですね〜、今頃は陣でも築いてるんじゃないんですか〜?

Fang4:ならば、早く行った方が良いのでは?

Fang2:まだ駄目



 舞は自分の機体の装甲のダメージをチェックしながら、美汐に答えた。

 機体にはそれほどダメージは入っていないようだ。

 多少、装甲の一部が凹んだり抉られたりはしているが、それの全ては主要部分ではない。

 つまりは関節や機関部、カメラではない部分だった。

 

Fang1:そうですね〜。まだ駄目ですよ〜

Fang4:どう言う事ですか?

Fang2:まだ、『神々の尖兵』が仕掛けてない

Fang4:あ



 存在をすっかり忘れられていたと言わんばかりの美汐の反応に残りの3人が笑い出した。

 顔を真っ赤にする美汐。まるで休憩室で雑談しているかのような雰囲気になっていた。



Fang1:時間までまだ少しありますからね

Fang3:ここまで、そんなに時間がかからなかったもんね

Fang2:……戦力の分散を待ってから仕掛けたほうが効率的

Fang1:もちろん、敵が仕掛けてきたら反撃はしますが……

Fang4:敵がこの近くに来るような感じはありませんね

Fang1:こちらでも索敵はしてますが、怪しい点はありませんし

Fang4:こちらもそうです

Fang1:さて、『神々の尖兵』お手並みを拝見しましょうか



 その場で油断無く構え、次の開始の合図を待つこととなった。 






To the next stage







あとがき ようやく、本当にようやくです。ここから本格的に佐祐理さん達が物語りに絡んできます。 と言っても、戦闘シーンをしっかりとまとめて書かないといけないんですけどね。 だらだらと書いていたら終わらないでしょうし……はぁ、何だか気がちょっと重たいです。 でも頑張ります。ここまで読んでいただきましてありがとうございます。ゆーろでした。

管理人の感想


 ゆーろさんからSSを頂きました。
 前哨戦って感じですね。  しかし警護隊の対応はお役所仕事ですか。  ダメなサラリーマンみたいですね。
 次回は祐一達と激突かな?  『神々の尖兵』とやらがどれほどの戦力を投入するのかわかりませんが、守る側はきついでしょうね。  ジョーカーっぽいおっかさんがいたりしますから、一概にどうなるかは分かりませんけど。  記憶を取り戻した祐一は、果たして強くなっているのでしょうか……。


 感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。

 感想はBBSメール(yu_ro_clock@hotmail.com)まで。(ウイルス対策につき、@全角)