〜始まるというこの感覚に、嬉しいというこの感覚。久瀬大尉、私はあなたの横に居て良いのですね〜
柳皇子、初めての実戦に緊張しながら。


〜舞台の幕開けは倉田君達の役目。私達、主役の夜は今から始まる。〜
久瀬圭一、黒曜のコクピットに身を任せながら。


〜私だって! 役に立つんだ! いつまでも子供じゃない!〜
相沢祐夏、行動で見返しながら。










  
 
神の居ないこの世界で


→舞台の幕開けは混乱と共に。『悪夢』開演。主演は神々の尖兵。道化は警備隊。





















 エリアKを日が暮れ始めてから出発して、1時間。

 エリアMとエリアKの境目でそれは止まっていた。

 多くの荷物を載せた1台のキャリアーと、多くの機体がそこに止まっている。

 他に、5台のキャリアーがそこにあった。

 機体には遠くから、ばれないように雪にまぎれるように真っ白のシートをかぶせてあった。

 今、外では5人がその機体について説明を受けている。

 今晩、相沢祐治お手製の機体を強奪するために使うためだ。

 その時、斎藤はキャリアーのハンドルに頭を載せ、ボーっとしていた。

 ふと、斎藤は想像する。もし、この場で自分の心臓をえぐり出せたら。

 キャリアーの運転席で、自分の右手を心臓部分に当てて想像する。

 多分、その時、自分は腹の底から笑っているだろう。

 何故だか分からないが、そんな姿が簡単に想像できた。

 血が抜けて真っ青になっていく体の内側……代わりに傷口から真っ赤になっていく体の外側。

 でも実際にはそんな勇気も無い事も自分ではわかっている。

 情けない話かもしれないが、自分はかなり臆病なようだ。

 自分自身、自殺がしたい、いや自分を殺したいと思った事も多々ある。

 自殺を直接見た事もあるが、それを見ても自分には決心はつかなかった。

 周りの皆は自殺はただ逃げるだけだという。

 自分には違った、羨ましくそして、凄まじいものだと思ったのだ。

 簡単に自分を殺すという決意は出来るものではない。

 自分はそんな決意が出来る人間を羨ましく思っている。

 この前、真っ黒なあの機体に殺されそうになったとき、自分は恥じも外見もかなぐり捨てて逃げた。

 自分の死という現象から、殺されるとも決まっていないのに。
 
 心の中では自分は必要の無いものだと思っていた時期が有る。

 多分、そのときに同じ目に会っても同じように逃げ、助けを求めていただろう。

 そんな自分を想像が出来て苦笑する。

 そんな、自分は4人家族の2番目で、兄が優秀すぎた。

 もう既に家族の交流というものはあまり無い。

 が、あの兄は少なくとも、自分よりもうまく立ち回っているだろう。

 才能の無い自分はいつも親から親類から他人から比べられ、何か有ったときは引き合いに兄が出てきた。

 それが、耐え難いほどの苦痛だった。

 ぐれるような勇気も無ければ、見返せるような輝かしい才能も無かった。

 ただ、苦痛から逃れるために真面目なふりをするしかない。

 そうすれば比べられる回数も減る。

 真面目なふりをしていた頃、自分は必要が無いのではと思った。

 たぶん、自分が死んでも誰も涙を流さないし、居なくなっても生活は変わらない。

 そう感じたし、事実そうだった。

 兄の目が、親の目が、親類の目がそう言っていた。「お前は要らない」っと。

 そう感じたとたん、家族という場所には自分の居場所が無くなっていた。

 目的もなく生きる。それは果てしなく苦痛だった。

 ただ何となく、生きている。必要も目的も無く、ただ、何となく生きる。

 そんな時に親類の葬儀があった。

 親には世間体というものが有ったのだろう。その為だけに自分は呼び戻された。

 その葬儀に出席をしたが、皆が涙を流す中、自分は必死に笑いをこらえていた。

 先に断っておくと、死者に対する冒涜ではなくて、自分が可笑しかったのだ。目的も無く、自分に必要も無い。

 それは殆ど生きている死者ではないかっと。

 あそこにある、腐敗しないように蝋で固められた死体と変らないではないかと。

 ただ違いが有れば、心臓が動いているか、いないかだけで、と思って無性に可笑しく、笑いたくなった。

 それを必死にこらえていた。葬儀から外に出たときに声をかけられたのが久瀬圭一だった。

 それが久瀬圭一との初めての出会いでもある。



『お前の生に目的を与えてやる』



 初めはコイツ、いっちゃってるんじゃないかと思った。

 呆気に取られてしまって、何を言っているのかさっぱり理解出来なかった。

 ちょっと、いや、かなり頭のおかしな同年代の男。それが圭一の第一印象だった。

 後で聞くと、同い年だったのだからさらに驚いた。



『斉藤壱次、お前は今、自分が可笑しくて可笑しくてたまらない。そうだろ?』



 自分の名前を知っている事に驚いたが、何処かの暇人なら俺の事を調べる事はたやすいだろう。

 見透かしたような目、でもこの目は嫌いじゃなかった。

 他人は自分を直接見ない。引き合いの出来損ないとして自分を見る。

 でも圭一は違い、自分を見ている。

 引き合いの出来損ないでは無く、斉藤壱次として自分を見てくれていた。



『私にはお前が必要だ。居場所が無いなら私が作ってやる。目的が無いなら私が作ってやる』



 なんだか無性に嬉しかったのを覚えている。

 自分を必要としてくれている人が居ると分かっただけで嬉しかった。

 ただ、この台詞はちょっと嫌だった。残念だが、俺はそっち系の趣味は無い。

 その、なんだ。これは女の人にプロポーズをする言葉ではないのかと一瞬思ってしまったわけだ。



『残念だけど、俺はそっち系の趣味は無いぞ』

『私にも、そっち系の趣味は無い。私にはお前が必要なんだ』

『どうして? 出来損ないなのは分かっているだろ?』

『そんな事は無い。お前は自分の才能に気が付いていないだけだ』

『何かの才能なんて持ち合わせていない。そんな才能が有るなら、こんな所には居ないだろ』

『気が付かないという事は悲劇だな』



 顔を顰めて反論する圭一がなんだか印象的だった。

 まぁ、なんだかんだあって、今は圭一の右腕として働いているわけだ。

 そんな自分がここにいるのは昔は想像出来なかった。

 今の自分があるのは圭一のおかげだと思う。

 まぁ、今でも自分の才能については分からないわけなんだが。

 初めに考えていた事から、なんだかかなり他の方向に考えが動いた事にもう一度苦笑してしまった。



「あの……斉藤さん?」



 どうやら、物思いにふけってよほど、ボーっとしていたらしい。

 新しく配属された女性のパイロットが呆れたように斉藤を見上げていた。

 この柳という女性も斉藤と同じように久瀬にスカウトされてきた人材であった。

 配属されたのが、1ヶ月前。

 誰とも話そうとせずに、ただ久瀬の後ろを歩いていた。

 極度の顔見知りの彼女が部隊と馴染む様になったがようやく1週間前。

 それ以前は他の部隊の人間が居る所には顔も出さなかった。

 そんな状態では作戦に参加できるはずもなく、馴染んだ今回ようやく初陣となった。

 斉藤が辺りを見回すと外に置いてある今回の作戦の目玉の説明は既に終っていた。




「なんだ? 柳」

「あの、久瀬大尉は……」

「あぁ、圭一なら今は後ろの仮眠室で休んでるはずだ。会いたいなら行ってくると良い」

「そ、そんなんじゃないです!」

「そうか? 顔が真っ赤だが?」

「もう! からかわないでください! それにしてもすごいですね」

「何がだ?」

「私だったら作戦前に眠ることなんて出来ません。緊張しちゃって……」



 照れたように笑いながら、柳は言った。柳は今回の作戦で始めて実戦となる。

 だったらその緊張もしょうがないのではないかと思われた。



「だったら、俺の所になんか来ないで、圭一の所に行って緊張を解してもらえ」

「もう! そんなんじゃないんですってば!」

「だったら圭一の居場所は教えなくてよかったか?」

「あ、いえ、その、そこまで言うなら行ってきます」



 苦笑しながら、柳の後姿を見送る。

 作戦の開始までまだ時間があった。































 特殊部隊の格納庫に比較的に近い場所にある、ドール訓練場。

 NM−08−宵の運用に当たって一番、困惑しているのは名雪だろう。

 誰にでも操縦できるNドールではあるが慣れるまでは大変だ。

 名雪が宵を操縦するのは初めてではないが、ぎこちなさが残っている。

 加えて、宵にはその機材のバリエーションに効果的な運用方法、スイッチなどの位置など、覚えることが山とあった。




「ねえ、お母さん」

「何? 名雪」

「お母さんの機体は放って置いて良いの?」

「大丈夫よ。今日は訓練だもの」



 名雪の真後ろの席から秋子の声が聞こえる。

 宵は基本設計の時には単座だったが、いつの間にかに複座になっていた。

 これも名雪が困惑している原因のうちの一つだろう。

 確かに一人で情報を捌くよりも2人の方が効率も良い。

 そんな事を行ったら情報の処理は2人以上でやったほうが良いだろうが、そんな事をすれば巨大にならざる終えない。

 宵にはNドールに限って遠隔操作が出来るようになっている。

 Hドールは操る事は出来ないにしても、強制アクセスをする事で内部から動きを止めることが出来る。

 ただし、これには技術と訓練が必要なので、今は出来ないに等しいが。

 もっとも、情報戦をやるだけならば人型にする理由は無い。

 しかし、車両などが入り込めないところにもドールは進行する事が多々あるので、人型のにする必要性があった。

 困惑した声と呆れた声を混ぜこぜにしたまま、名雪は声を発した。



「その割には、操る気満々だよね?」

「そうかしら?」

「だって阿修羅から有線ケーブルで操縦系を引っ張ってきてるでしょ」

「あら、このボタンは何かしら」

「え? 何してるのお母さん?」



 秋子が誤魔化すようにぽちっとボタンを押した瞬間。


バ、バシュぅう!


 宵の肩から圧力を検知するセンサーが広範囲にばら撒かれた。

 その先には北川のアルテミスがいる。



『うお!? 何だ何だ!?』

「お、お母さん!」

「あらあら」

『水瀬さん! 一体これはなんだ!?』

「もう……ごめんちょっと手元が狂っちゃた」

『……次から注意してくれ』

「うん。ごめんね」

「あらあら」



 驚いて心拍数をかなり上げた北川。

 呆れたそして、疲れた声を出す名雪。

 秋子は落ち着いた声だったが、目は白黒させていた。

 これが後々、役に立つとはこの時は誰も思っていなかった。



































 キャリアー6台はエリアMの中に入っていた。

 しかし、斉藤のキャリアーの後ろには他の種類のキャリアーが一台しかない。

 途中で分かれて、他の場所へとそれぞれが移動をしていった。


(なんて警備の甘い……)


 斉藤はそんな思いのまま、偽装されたキャリアーの水素エンジンを止めていた。

 バラバラになった6台のキャリアー、そのそれぞれと、トラック運送の通信を偽装して定期的に連絡をとっている。

 斉藤の乗るキャリアーの横で起動しようとしている機体があった。



『アクト7、マリオネットを起動させます』

「アクト2、了解。周りに払う注意を怠るな」

『了解』



 静かな駆動音で、マリオネットは起動した。

 時刻が午後の9時半を過ぎ、キャリアーの仮眠室から久瀬が出てきた。



「壱次、準備は?」

「問題ない。皆、予定位置についている」

「では、通信を繋いでくれ」

「まずは、どっちからだ? 味方側か?」

「味方側からだ」

「了解」



 斎藤がキャリアーの通信機をいじる。

 味方5機に通信がつながった。



「こちらアクト1。今回の作戦はどれだけ機体を壊してもかまわん。ただし諸君はデータを持って必ず帰還すること」



 声をそろえたように了解と言う言葉が帰ってきた。
 


「いいか、一人でも欠けることは許さん。以上だ。持ち場にて合図を待て」



 久瀬は目で、通信の先をエリアM警備隊にするように斎藤に合図を出した。

 斎藤は一度頷くとすぐに通信の先を切り替えた。

 久瀬が少し咳払いをして、喉の調子を整える。そして、声を発した。



「ご機嫌いかがかな? エリアM警備隊の皆さん。私達は神々の尖兵です」



 落ち着いた久瀬の声。その声とは対照的にエリアM警備隊の無線は混乱していた。



『報告を忘れるな!』

「さて、落ち着いて話を聞いてもらえませんか? 繰り返して言いますが、私たちは神々の尖兵です」

『おい! ふざけた真似はやめろ! これは軍の専用周波数だぞ!?』

「ふざけた? 面白い事を言う。われわれ神の尖兵はAYAと共同戦線をはる事になっています」

『……おい。』

「AYAが同じ周波数から警告をしたはずではありませんか? と言う訳で、私達も進行しますからそのつもりで」

『一体何が、目的だ。』

「相沢祐治が残した遺産ですよ。YA−04−ベルセルクを始めとする機体を破壊させていただきます」



 騒ぎ立てる無線の向こう側を無視して乱暴に通信を打ち切る。

 久瀬はため息をついた。そして、斉藤を見る。



「さて、私たちのステージの始まりだ。合図を出せ」

「了解」

「私は黒曜に乗り込み、柳と共に行動する」



 頷きながら斉藤は再び、味方に通信を入れた。



「アクト2より、各機へ。『悪夢』開始! 思う存分暴れろ! アクト7、お前の王子様が出るぞ。エスコートしてやれ」



 アクト7は先ほどの柳というパイロットだ。

 とたんに冷やかす内容の無線が飛び交う。

 久瀬の部隊で、柳が久瀬にお熱なのは久瀬以外の全員が知っていた。



『アクト7より、アクト2へ。アクト1をエスコートします』

『アクト1より、アクト7へ。よろしく頼んだ』

「アクト2より各機へ。先ほど通達が有った様に一人の欠員も出さずに帰還する事を祈る以上」



 そうして、通信は切れた。キャリアーのパネルの表示に文字が浮かび上がる。



act7:うぅ……顔から火が出そうですよぅ……

act2:良かったじゃないか。周知の事実になって

act7:後で覚えておいてくださいね!

act2:無事に作戦が終わってから恨み辛みは聞いてやる

act1:私も聞こうか?

act7:そ、そんな、いいです! 大丈夫です!

act1:なら行こう。作戦を遅らせるわけには行かないからな

act7:はい!

act2:了解



 くつくつと斉藤は笑いながらキャリアーの運転を始めた。





























 エリアMの警備隊本部は混乱していた。

 何人のも通信士が、情報の収集に騒ぎまわっている。



「第5番格納庫が襲撃されました!」

「何だと!? 状況は!?」

「機体は全て使用不可能です! 敵は武器を奪って、さらに進行しています!」

「いま、第3小隊と、第8小隊が戦闘に入りました!」

「全戦闘員を招集しろ! 緊急事態だ!」

「はっ! 急いで招集をかけます!」



 ばたばたと後ろを走り回る通信士。

 指令は椅子に深く腰掛けながら苛立たしげに足を揺すっていた。



「敵は3機!」

「これ以上進行はさせるな!」

「嘘だ……嘘だ!」

「おい! どうしたというのだ!」

「……第3小隊と第8小隊が沈黙しました」



 この後に『神々の尖兵』からの宣言が入ってくるわけだ。

 そのときの様子は省く。
 


「……特殊部隊に連絡を入れろ」

「ですが……」

「今すぐにだ!」

「は、はい!」



 指令のあまりの剣幕に慌てて通信士は秋子に連絡を入れたのだった。




































 その頃、有夏達は試射の途中だった。



「嫌な夜だ」

『お母さんどうしたの?』



 祐夏と有夏の性格は面白いくらい違う。

 本当に親子なのかと疑いたくなるくらいだ。

 祐夏が石橋を叩いて渡る慎重派なら、有夏は橋は無くとも向こうを目指す臨機応変派。

 無鉄砲な有夏を支えているのは彼女自身の経験と嗅覚、鼻が良いと言うものではなく、勘が異常に良かった事に尽きる。



「あゆ、栞、お前達はこの近くのドール研究所に行け」

『え? どうしてですか?』

「空気が不穏だ。勘違いならそれに越した事が無いが。何か有る」

『お母さん。それだけで、予定を変更するの?』

「そうだ。文句があるのか? 文句が有るならこの後に何も無かったら聞いてやる」



 あゆ、栞及び祐夏は有夏に気が付かれないようなため息を吐いた。

 こうなってしまった祐夏は何をどうしようと言葉を曲げない。



『了解したよ。僕は近くの研究所に行きます』

『私もそちらに向かいます』

「頼んだぞ。あっと、あゆ、ちょっと待った」



 AS−701−サイレントの防弾繊維で出来ているマントの下からマシンガンを一つを取り出した。

 それとそれの予備弾倉の幾つかをあゆの機体に渡す。



「お前は接近戦に入られると弱い、だからこれを持っていけ」

『有夏さん……ありがたく受け取けとるよ』

「あぁ、使った感じはあとでレポートに書け。大体A4の用紙に4枚くらい書けば良い。頼んだぞ」

『うぐぅ!?』



 心配して渡してくれたのではなく、ただ単に武器の試作品の検査手伝いだという事にあゆは凹んだ。

 そのまま、2機は移動していく。あゆの機体の背中が何となく煤けて見えるのは気のせいだと思いたい。
 
 祐夏はそれを見送り、有夏は祐夏が背を向けている先にあるゲートを見ていた。


バカァン!!
 

 突然、ゲートが吹き飛んだ。



「来たぞ!」

『きゃ!』


 
 祐夏がその音に反応して振り返ったとき、そこには6機のドールが居た。

 それはバリエーションに富んだ6機だった。

 既にサイレントはその中心に入り込んでいる。


『お母さん!』

「臨機応変だ! その位分かれ!」

『あ〜〜〜〜もう、そうやって子ども扱いする! 当たっても知らないから!』



バスン! ガガガガガガン!


 有夏がマントの下から先の出たショットガンが火を噴き、祐夏の2丁の拳銃も火を噴いた。

 有夏のショットガンが、敵6機のうちの1機の右腕を吹き飛ばす。

 祐夏の拳銃も全てが敵のどれかに当たっているが、装甲に阻まれるまたは盾に阻まれていた。

 敵の火線が有夏に集中する。

 ショットガンを乱射しながらその火線を乱し、乱れた線と線の隙間を縫うように弾丸を避けていく。


「何だ? この動きは」


 敵5体の一糸乱れぬ動きに有夏は困惑した。

 仮にも仲間の右腕が吹き飛んでいるのだ。動揺しないはずがない。

 右腕を吹き飛ばされたその機体でさえもまるで右腕が存在しないような素振りで有夏に銃口を突きつけている。

 初撃こそ、相手の腕を吹き飛ばすが2撃目からは相手の装甲を削る程度しかショットガンの効果は出ていない。


かちん!



「ぬ!? 弾数をしっかり把握していなかったか! なんて間抜けな!!」



 ショットガンの弾切れだった。迷わずそのショットガンを手放す。


ガガガガガガン!


 有夏に集中していた敵の銃の火線が突如として乱れた。

 祐夏に援護されていると気がついて思考を切り換える。



(いつまでも子供では無いらしいな)

『お母さん! 何ボーっとしているの!?』

「祐夏、私を援護しろ。私達に出会った事を後悔させてやる!」

『うん!』



 素早く拳銃を腰の後ろのホルスターの物と入れ替える。
 
 ホルスターに入れた瞬間に弾が入れ替えられていく。
 
 サイレントがまたも敵の中に突っ込んでいく。



(少しでも、お母さんに集まる弾丸の量を少なくしなきゃ!)



ガガン! ガガン! ガガン!


 2丁の拳銃が同時に火を噴く。

 それはサイレントを中心に円陣を組みつつある6機の腕に吸い込まれるように奔って行く。


ギャン! バツン! キャン!



(威力が!でもこれ以上はお母さんを巻き込んじゃう!)


 サイレントに照準を合わせていた銃の照準を逸らす程度でしかない。
 
 しかし、それで有夏には十分だった。

 一糸乱れぬ動きに綻びが出来る。

 綻びから火線の集中している箇所から脱出する。

 そして、有夏に一番近くに居る長めのライフルらしき物を持っているドールのライフルの銃口を蹴り上げる。


がん! ギャォン!


 蹴り上げた時。引き金を引かれたのか、それが火を噴いた。

 そのまま、そいつの背後を取る。

 右手にはマントの下の新たな得物を手にしていた。



「さよならだ」



ガスゥン!


 サイレントは背中からパイルバンカーでコクピットを貫いた。



「私は甘くない。死は隣にある。それを見過ごせるほど私は強くは無い」



 それを盾にしたまま、回りはなおも銃撃をやめようとはしない。

 祐夏は少し離れた所から、有夏の援護を続けていた。



「そのまま続けろ!」

『うん!』



かっちゃ。

 
 銃撃の音に紛れるはずのその音は、やけに大きく聞こえたような気がする。

 パイルバンカーをそのまま差したままにしてサイレントは両手に新たな得物を持っていた。


シュ、シュポン。バカァン!


 その情けない発射音とは別にその弾丸に捉えられた2機の機体は大きく後方に飛ばされていた。

 片方は胸部に着弾したのかコクピットを覆っている装甲は既に無い。

 頭部が危ういバランスで繋がっていた。

 もう片方は頭部に弾丸が着弾したのであろう。

 頭部が無く、コクピット部分の装甲が見事にひしゃげた機体が立ち上がってきていた。



「致命傷じゃないだと!?」



 それを見て有夏は目を疑った。

 コクピットには誰もいないのだから。

 どう見ても致命傷のドールがまだ動いているのだから。

 驚き。それは有ってはならない隙を生み出した。


がキャン!


 有夏の体に予想もしていない方向のGが掛かる。

 目の前の今まで盾だった機体、人が乗って操っているのなら致命傷のはずのそのドール。

 それが、有夏の方を向いて裏拳気味にサイレントを殴り飛ばしていた。


ズサァァ!


(くっそ! 私らしくない油断の仕方だ!)


 毒付く有夏。戦闘は相沢親子、不利でまだ始まったばかりだった。 






To the next stage







あとがき 斎藤さんは書いてて楽しいです。戦闘も書いてて楽しいですね。 でも無用に長くならないようにしないと……ダラダラ書いていると……愛想つかされちゃいそうですから。 その点では、斎藤さん関係のことはダラダラ書いてしまいました。反省です。 では、ここまで読んでいただきましてありがとうございます。ゆーろでした。

管理人の感想


 ゆーろさんからSSを頂きました。
 斎藤さん思考ダークですよ。  まぁ私も思わない考えではないんですがね。  死にたい欲求なんて生きてる限り付き纏う問題ですし。
 しかし久瀬君怪しいなぁ。  まるで新興宗教の教祖のようなマインドコントロールっぷりですわ。  やはり確実に堕とす為、思考や感情の推測とかしたんでしょうね。  確実に斎藤君には救いになったんでしょうから、一概に悪いとは言えないですが。

 柳さんは名前なんて言うんでしょうか?  ……おうじさん?(違うだろうな


 感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。

 感想はBBSメール(yu_ro_clock@hotmail.com)まで。(ウイルス対策につき、@全角)