佐祐理達の操る4機のドールは、そのまま封印されている相沢祐治のドール研究所を目指していた。
相沢祐治の研究所は市街から大きく外れた所に有る。
一見、研究所には見えない、寂れた炭鉱とその加工工場。
故に市民にはそれが研究所とは分からない。
そのルートの途中での出来事。
Fang4:あの建物は何でしょうか?
一番初めに特殊部隊の格納庫を見つけたのは美汐だった。
特殊部隊の情報まで掴みきれていなかったので見つけられたのは本当に偶然だった。
明かりの落ちた格納庫が、視界の端にある。
Fang1:何にせよ、あれはドールの格納庫でしょう。
Fang3:どうするの?
Fang2:……私はFang1に従う。
Fang4:同じく。
Fang1:あはは〜。簡単ですよ〜そんな事。こうすれば良いんです!
ぱ、ぱ、ぱ、ぱしゅう!
テラーズの右腕から放たれた4つの弾丸は、見事に見えている範囲で格納庫の壁にある鉄筋の柱を打ち抜いていた。
支えるべき支柱を失った格納庫は反対側の壁の柱を残して崩れていく。
先ほどまで格納庫だった建物。
それは見事に瓦礫の山と化していた。
4つの破壊音いや爆音の後に、特殊部隊の第1格納庫は瓦礫の山と化した。
香里は今、隊長室のあるフロアにいるが、どこかを攻撃されているなんて今は知る事もできない。
フロアは格納庫と切り離された場所にはあるためである。
申し訳程度に司令室もあり、秋子が在住しているのなら今頃そこで指揮を執っていたであろう。
『その音ですと、既に遅かったみたいですね』
「何なのよ! これは!」
『落ち着きなさい! 美坂少尉。今は状況報告をしっかりとしなさい』
叱責され多少落ち着きを取戻した香里。
秋子との通信途中で特殊部隊の格納庫は攻撃された。
自分を落ち着けるように香里は状況を説明しながら、自分の中の気持ちを整理していく。
しかし、それは纏まりきってはくれない。
それに情報が少なすぎる。
「以上です」
『分かりました。では、総員退避して下さい。後、祐一さんを呼んでもらえますか?』
「……了解しました」
よく分からない状況に歯を食いしばりながら、祐一を呼びに行く。
「第1格納庫が……」
途中で、第1格納庫を横切るはずだった。
しかし、そこは既に瓦礫の山となっている。
人の被害が無かったのが、唯一の救いだろう。
何故そんな事が判るかというと、既に灯の落ちた格納庫だったために人は帰るまたは他に移っている。
被害が出ようが無い事が救いと考えるしかなかった。
しかし、自分の機体がその下に埋もれている状態を認識しないといけないのは苦痛だった。
「っ!」
吐き出したい感情を無理やり喉の奥に飲み込んだ。
2、3回頭を降って感情を落ち着ける。
そして、遠回りをして他の格納庫を見て回る事にした。
次の第2格納庫で祐一を発見したが、祐一は既に猿飛に搭乗している。
「えっ?」
どうしてという言葉を飲み込んで、その機体を見上げていた。
猿飛の外部マイクから雑音の混じった声が聞こえてくる。
『香里、良いか落ち着いてよく聞け。第3格納庫にあゆ用に作られて放置された未登録のHドールがある』
「ちょっと! これはどう言う事!?」
『ここが襲われるのは時間の問題だろ? だったら時間を引き伸ばさないと皆が逃げれない』
「その前に、秋子隊長に連絡を入れて!」
『そんな時間は無いんだ!』
畳み掛けるように祐一が続けた。
『それを登録して、武装のミサイルを敵の全体にロックオンしたら発射。武装を廃棄して真っ先に逃げろ。良いな!』
「でも! それじゃあ、相沢君が助からないじゃない!」
『だから、落ち着け。俺は死なない!』
「相沢君が残るというなら私だって最後まで残って戦うわ!」
『はぁ、こんな事で使いたくなかったけど、これは、約束だ。言う事を聞くって言う』
「でも! でも、でもぉ……」
『大丈夫。俺は生き残るよ。だから香里、行け!』
猿飛の足元辺りから、呆れた顔の牧田が出てきた。
「俺からも頼む。ホストコンピュータのバックアップを持って行ってくれ」
「そんな……」
「秋子隊長の所まで持って行ってくれれば安心できるんだ。頼む」
牧田が香里に一つのケースを渡した。
「……分かりました。でも、必ず生き残ってくださいね。」
「あぁ」
『大丈夫だ』
第3格納庫に走り去る香里。
『牧田さん。猿飛、出ます。ですから、ちゃんと避難してください』
「任せておけ!大将」
『足元の人! 出ます! 避難してください!』
祐一はそのまま、外に出て行った。
―――あなたは機械仕掛けの神の部品です。
(うるさい。俺は機械じゃない。)
―――敵を屠りなさい。それがあなたに与えられた使命。
(あぁ、敵は屠るさ。でもそれは使命じゃない。)
―――それを実行しなさい。
(うるさい! これは俺の意志だ。)
頭の中に響く、研究所で叩き込まれた催眠の言葉。
それが祐一の頭の中を走り回っていた。
七瀬瑠奈がそこに着いたときは、既に同僚、先輩達の機体は鉄くずだった。
その先には6機のドールが立っている。
3体1組で小隊を組んで行動していた。だから、今は3体のNドールがここにいる。
しかし、それはまさに『今』だけだった。
ダカン! ガンガガガガァ!
その光景に気を取られた、ほんの一瞬で一番先頭にいたドールが鉄くずへと姿を変えた。
一糸乱れぬ機械的な敵の動き。
その動きはまるで悪い悪夢を見ているようだった。
ゆっくりとした無機質的な動き、それをビデオで早回しで見ているような動きだった。
バカン。ダシュウゥ!
瑠奈の前にいた先輩の機体が胴体部分に大きな鉄の塊を突き入れられて崩れ落ちた。
油断なんてしていない、驕りなんてしていない、筈だった。
捕食者に見つかった被食者の気持ちが痛いほど分かる。
ことわざに例えると、蛇に睨まれた蛙のような気持ちだった。
(動かなきゃ、やられる!)
外聞も恥もかなぐり捨てたような動きで右に機体を奔らせる。
それでも、相手の砲撃は避け切れなかった。
運悪く、膝部分に弾丸を受けてしまった。
損傷を示す赤ランプが灯る。それでもう致命的なダメージだった。
完調の状態でさえ、避け切る事は出来ない攻撃。
それを今の状態で避ける事なんて出来ない。
窮鼠、猫を噛むと言うことわざのように追い詰められての行動を始めた。
「あぁあぁあぁあぁあぁ!!」
鈍くなった右足を引きずって、動けるだけの動きをしながら右手に持っているマシンガンを乱射させる。
当たっている当たっていないを無視して我武者羅に発砲させる。
しかしそれも、すぐに終わってしまう。
先ほど先輩の機体の胴体に鉄の塊を突き入れたドールが自分の視界の隅に捕らえられたと思った瞬間だった。
ガキぁん!
マシンガンを持った左腕がそれごと、宙を不自然に飛んでいく光景を見たのは。
そして、振り向いた時には鉄の塊を持って、大上段に構えているドールがいるのを確認したのは。
それが自分の機体のコクピットを狙っているのが分かってしまったのは。
ぼきん!
それまで必死に動いてくれていた右膝がついに壊れ右膝をついた。
これでもうすぐに動く事は出来ないし、その一撃を避ける事は出来ない。
(あぁ、私はここでお仕舞いなのね……)
そんな覚悟したくない覚悟だけは簡単に出来てしまった自分が恨めしいと思ってしまって瑠奈は少し自分が可笑しくなった。
ガォン! バキャン!
(あ……れ?)
目の前の機体の手首が吹き飛んだ。それと同時に鉄の塊がその手から落ちる。
『逃げろ!』
「えっ?」
我ながら間抜けな声だ。なんて思いながら、自分の無事を確認する。
『ここは俺達が引き受けたから、生きているのが居れば撤退しろ!』
その声は、北川の声だった。
コクピットの計器をざっとチェックしていく。
「嘘でしょ……機体を廃棄するしかないなんて……」
機体の損傷が激しい。特に右足はもう動かない。
悔しくて、手を握り締める。
ばかぁん!
機体を襲う振動と爆音でフッと機体内の灯りという灯りが消えた。
ドールの中にある者の心はただ怖いという感覚だけだった。
瑠奈はコクピットの中で小さくなって震えている。
半分以上は棺桶に入っていると言っても過言では無い状態で一つの思いがよぎった。
(また、助けられっぱなしなの? そんなの、辛すぎる!)
自分はあの人と対等に有りたいと思っていたのではなかったのか。
あの時生身で向かって行ったあの人と対等に有りたいと思ったのではなかったのではないかと。
(まだ私に何か出来るはず……)
気持ちを切り換えて、思考をとりまとめる。
(一番近い格納庫は……警備隊のは無理ね。あのドールの群れを潜り抜けていく事は出来ない)
自身の頭の中の地図のルートをどんどんと探っていく。
(……北川さんの格納庫が近くにある! そこでドールを調達すれば!!)
バコン、ガシャァ!
もう一度、激しい振動が瑠奈を襲う。今回は殴り飛ばされたらしい。
「好都合! 覚悟を決めれば恐いものは無いのよ!!」
瑠奈は、そんな言葉を叫びながら、コクピットから飛び出したのだった。
北川達は香里から、警備隊から出撃要請が来ている事を聞いて試験運転を切り上げて自分の格納庫に帰る途中だった。
通信をしながら帰る途中で特殊部隊の格納庫は襲撃され、そして自分達も良く分からない集団と遭遇してしまっている。
『名雪、データリンク開始してちょうだい。あそこはさっきセンサーをばら撒いた場所でしょ?』
『え、あ、うん!』
『北川さん。データリンクが始まり次第、狙撃を開始してください』
「了解!」
北川のレーダーには反応しない一団。
それはどう見ても人間の動きをしていなかった。
宵からのデータを参照しながら、敵の正確な位置を割り出していく。
データリンクのデータは驚くほど正確だった。
いつも訓練している通りに引き金を引いては排莢をして狙撃する。
しかし、狙撃されているにも拘らずに、一団の近くの機体を嬲っていた。
「何なんだよあいつらは……」
『北川さん。2時方向の敵を中心にお願いします』
「分かりました」
右膝をついた状態で、スコープを覗き込み狙撃する対象を絞り込んでから、引き金を引く。
ガォン! ガァらん。かシャン。
弾を放ってすぐに排莢、そして次弾を装填する。
ドゴン! ドゴン! ドゴン!
阿修羅に握られている3丁のライフル。それが一定のタイミングを置いて火を噴いた。
秋子も北川も見事なもので、敵機の何処かのパーツが銃の火を吹くたびに飛んでいる。
しかし、敵機の勢いは止まらない。
警備隊のドールを殲滅し終ってからは真っ直ぐに秋子たちの方へ向かってきた。
「お母さん! 北川君! 変な電波出しているのがいる! 狙って!」
6つの赤の斑点の中の一つが黄色く光る。
それを確認したとたん、2人は銃撃をそれに集中させる。
ガォン! ドゴン! ドゴン! ドゴン!
そのねらいは全て、向かってくるドールに防がれる。
防ぐためにかなりの犠牲を払っているが。
ある者は、コクピット部分の装甲が剥がされていたり、ある者はすでに人型になっていない。
それでも、もう機体を廃棄しないとおかしいくらいのダメージを受けていてなお、向かってくる。
良く見ると、ダメージを受けているのは3機のみだった。
残りの3体はほぼ無傷に近い。
「敵機を近づけてはいけません!」
『了解!』
「名雪は引き続いて、敵の解析を」
「うん!」
狙いを上半身から足元に集中する。
敵は足に弾丸が当たっても、前に進むことをやめない。
まるで、ゾンビのように徐々に徐々に距離を詰めてくる。
狙撃中心の機体、そして、戦闘力の無い機体のみで構成された部隊。
懐に潜られたら、危険なんて物じゃなかった。
そんな状況が始まった。
祐一は機体の中で、静かに息を吐く。
――――敵戦力分析
F型、M型、M型。これより呼称をF1、M1、M2とする。
F1、武装は剣。接近戦に特化している模様。
M1、右腕全てが銃身になっている。第1格納庫を攻撃したのはこの機体だと考えられる。
M2、詳しくは不明。ただし、手に持つ武器には注意が必要。
――――敵布陣分析
M1・2がF1をバックアップする陣形。
1箇所に穴があり。M2右斜め後方に連携の死角がある。
ただし、罠の可能性あり。
なお、視界、レーダーの死角に敵が存在する可能性あり。
――――自戦力分析
両腕にワイヤーカッター。閃光弾が2つ。
機動力のみ、こちらが勝っていると考えられる。
味方援護は1回に限りあり。
それ以降は期待できない。
――――自戦略検討
最大戦力である、M1を叩く事が最善。
機体を格納庫の扉の後ろに配置して、ふぅっと息を吐く祐一。
赤い色をした敵機は既に格納庫付近まで近づいていた。
(この感覚、もう思い出したくは無かった)
俺はこんなにも弱くなったのか? と自答自問し、自分に対する嘲りを顔に浮かべながら声を出した。
「機体出力を90%で固定」
【YES、Master。出力を90%に固定します】
「……いくぞ」
猿飛を走らせる。
(援護は香里の一回だけ。加えて、俺は一撃ももらえない)
殆ど装甲の無い状態の猿飛。
手には何も持っていない。
(せめて、飛び道具が有って欲しかったな……)
扉の外には多分3機、居る。
そんな気配を感じながら、猿飛を飛び出させた。
目立つように、敵の注意をこちらに向くように、敵の正面に向けて。
真正面にいた舞は驚いた。
何せ、いきなり一機のドールが目の前に飛び出てくるのだから。
Fang2:……敵襲!
いつもと変わらない声で、後衛の2人に警告を入れる。
そんな変化は、画面には表示されないが変化が無い事は他の3人は十分に知っていた。
Fang1:陣形はそのまま、このまま敵機を迎撃します
Fang3:了解よ!
Fang2:わかった
Fang4:了解しました
即座に迎撃体制を整えようとする。
それよりも早く、猿飛はガーディアンに向けて機体を走らせる。
ガーディアン手前でいきなり方向転換をする。
その反動で雪が舞い上がり、舞の視界は一瞬だが真っ白になってしまった。
直後に肩に軽い衝撃。
Fang2:くっ!
すぐに、雪を振り払い見失ってしまった猿飛を探す。
それはすぐに見つかった。真直ぐにテラーズに向けて走っている。
まるで、自分が居ないかのように行動する猿飛の目的が解ってしまった。
Fang2:狙いはFang1!
Fang1:そのようですね!
舞は慌てて猿飛を追いかけるが、追いつけない。
圧倒的に速度が違っていた。
佐祐理は目の前に迫っている一風変ったドールに照準を合わせる。
そのまま、合わせ切らない内にそれを放った。
パ、ぱ、パ、ぱシュウ!
右腕のレールガンを速射した瞬間に指示を飛ばす。
バカァン! だん! バァン! ダァン! かン。
Fang1:Fang3! いまです!
足元に固め撃ちをした佐祐理。
目的は猿飛を空中に跳ばせるためだ。
如何に素早い機体だろうとも、空中で方向転換して移動する事は出来ない。
それこそ翼でも持っていない限りは。
佐祐理の予想通りに猿飛は跳んでいる。
Fang3:うん!
訓練と同じコンビネーションを見せる真琴。
バシュぅ!
空中に居る猿飛を完璧に捉えたはずだった。
まるで、重力、慣性の法則を無視したような動きさえ猿飛が見せなければ。
クン! ギュルルるる!
よく見れば、猿飛の右腕から伸びた黒いワイヤーが、巻き戻されている。
ワイヤーの先は崩れた格納庫の支柱だった物に引っかかっていた。
その為に空中で、不可思議な動きが出てたのだと、佐祐理は理解し、真琴は本能的に理解した。
それを踏まえたうえで、真琴と佐祐理の弾丸が猿飛に集中する。
今度は、蛇のように地を這うような動きでそれを回避した。
Fang3:何なのよぅ!
Fang2:厄介
真琴は理不尽な動きに癇癪を起こしかけ、舞は2人の銃撃の嵐に入る事が出来ない事にいらだっていた。
その頃、香里はSM−301−アポロのコクピットでパイロット登録をしていた。
その行程が殆ど終わっているが、まだ起動しきってはいない。
イライラする感情を押さえつけて、冷静になるように呪詛のような物を心の中で繰り返す。
SM−301−アポロは元々はあゆ専用になるはずだった機体。
完成よりも早くエンジェリックが届いた事で、未登録のまま非常時に備える機体として格納庫にストックされていた。
(武装確認……ミサイル……それだけ?)
その武装は、1撃離脱用で肩、腕、脚のそれぞれの部位にミサイルを乗せている。
計14発のそれの発射装置は使い捨てだった。
香里はこんな高価な武器をストックにして……っと最愛の妹を詰りたくなった。
(アテナの武器がこの格納庫で改修中だったわよね?)
落ち着ききっていない頭をひっくり返すように記憶を辿る。
(これを放ってから、速攻で武装廃棄ね……)
プランを幾つも立てる。
【アポロ、起動します】
その声と共にアポロは格納庫の片隅に立てかけてあった愛用のトンファーを持って格納庫の外に出た。
「ターゲットロック開始! 平行して、武装解除準備!」
【……ターゲット対象が複数存在します……いかがいたしますか?】
「味方識別表を出しているもの以外をロック」
【……ターゲットロック、発射後、武装は解除いたしますか?】
「一斉発射後、武装廃棄!」
【イエス。一斉発射後、武装を廃棄します】
甲高い音がコクピットの中に鳴り響く。
「相沢君! 一度っきりの援護よ! 巧く使って!」
『まかせろ』
「いっけぇ!」
【ターゲット数3、武装一斉発射】
アポロから発される、爆音。
機体の全体を襲う生々しい衝撃。
飛び出たそれはまるで意思を持つかのように、ターゲットに向けて奔り出した。
全てが飛び立った瞬間に装甲と兼用になっていたミサイルの発射装置が全て地面に落ちる。
「相沢君! 必ず生き残るのよ!」
『分かっている』
そんな短い通話をした後に香里の操るアポロは秋子が訓練している場所に向けて機体を走らせた。
それを見送るしかないというよりも、それどころではない佐祐理達。
Fang1:防御陣形!
佐祐理のその一つの言葉で、舞と真琴は一気に動き始める。
「強制冷却開始、水素エンジンの片方をそれに回して」
【いえす、まいすたー。水素エンジンの片方を切って強制冷却に当てます】
つたない声に合成されたガーディアンのCROSSの声。
ちなみに、まいすたーとは、舞マスターの略らしい。
ガーディアンは盾を構えてドルフィンの前に立った。
ドルフィンは機体を出来るだけ小さくして衝撃に備えている。
水素エンジンの燃料といえば、大体が液体水素である。
それを機体中に循環させる事で強制的に冷却する事が出来る。
ガーディアンには二つの水素エンジンが載っているのでそれを行う事が可能なのだ。
ただし、それ相応の代償がある。
片方のエンジンを切っている間は動きが壊滅的に悪くなる。
何故それを行なうかといえば、高熱は機体の電子機器、特にOS関係や駆動系に時として壊滅的なダメージを与えるからだ。
ミサイルなどに代表される炎熱関係の武器はその衝撃よりも熱の方が怖い。
最も、火炎放射器にしてもミサイルにしても武器の弾薬の単価が高すぎるのでそんな機会は滅多にないのだが。
今回はその少ないケースのうちの一つだったみたいだ。
向かってくるミサイルは6つ。
盾の上に着弾したのは4つ、脇に着弾したのは2つだった。
舞の視界はオレンジ色に塗りつぶされ、真琴の視界は轟音の為に真っ白になる。
「機関状況報告」
【冷却に30秒掛かります。機能損傷率は7こんま2%です】
Fang2:Fang3、被害は?
Fang3:あぅ……機能に問題無い……ありがと
Fang2:よかった
舞と真琴はガーディアンが盾になったおかげで大きな被害は出なかった。
一方、テラーズはというと……
「8つですか……」
佐祐理はそんな事を呟きながら、落ち着き払っていた。
地図を確認しつつ、前を向いたまま後退しながら、砲撃を加える。
パ、ぱ、パ、は、ぱ、パ、ぱシュウ!
冷静かつ繊細かつ大胆にテラーズを追跡してきている飛んで来ているミサイルを打ち落とす。
ミサイルにテラーズの弾丸が当たった瞬間にそれは大きく爆発して空中に大きな花を咲かせる。
その花の数は5つ。
「くっう!」
後退をやめる事はしない。
パ、パ、ぱ、パシュう!
顔を少し焦りで彩りながら、右腕の微調整を続け弾丸を吐き出し続ける。
ひときわ大きな爆発音と共に空中に大きな大輪が咲いた。
3つのうちのどれかに弾丸がぶつかりその残りを巻き込んで誘爆したみたいだった。
そんな事は佐祐理には分からないが、襲ってくる衝撃にそれどころでは無かった。
襲ってくる熱風はそれほど酷い物ではないが、襲ってくる衝撃は容赦ない。
それに翻弄されるように、その場を後退するしかなかった。
レーダーに映らない美汐のファントムはそのターゲットにはなっていない。
しかし、その場を動けずにいた。
この小隊の切り札であり、陣形の穴を埋めるためのジョーカー。
それが美汐の役目だからだ。
もし敵機が陣形の弱点に気がついてその点を攻めてくる事があるのならば、それが攻めた機体の最後になる。
計算された弱点とは一気に敵を殲滅する事の出来るまたとないチャンスなのだ。
その為にも美汐はその場を動く事は出来なかった。
To the next stage
あとがき
今回はあとがき少な目です。どうしてもあとがきが苦手で……
ともかく、ここまで読んでいただきましてありがとうございます。ゆーろでした。
管理人の感想
ゆーろさんからSSを頂きました。
今回は斎藤君たちはお休みのようです。
祐一君が1人で頑張ってますが、どうなるやら。
目的は時間稼ぎでしょうから、まぁ何とかなるのかな?
秋子さんたちが戦っていた機体ですが、誘爆はしなのでしょうかね?
あれだけ攻撃されてると、制御系に致命的なダメージも受けてそうですが。
遠隔操作でも、前進鉄だけって事は無いでしょうし……。
感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。
感想はBBSメール(yu_ro_clock@hotmail.com)まで。(ウイルス対策につき、@全角)