〜……私をあまり怒らせないで! 私は佐祐理ほど優しくない!〜
川澄舞、誇りを痛く傷つけられて。


〜悔しい……何も出来ない自分が、なんで!? 何でなのよぉ!〜
美坂香里、アポロのコクピットの中で。


〜何でも良いから動いてよ! 私には動くドールが必要なの! 何でも良いから動け! この!〜
七瀬瑠奈、初めてHドールに乗り込んで。









  
 
神の居ないこの世界で


→あなたに意地があるように、私にも意地がある。絶っ対に後悔させてやる!






 佐祐理たちの陣形がかなり乱れている。

 佐祐理のテラーズだけが、大きく2機から離れていた。

 それを祐一は見逃さない。

 獲物を追い詰めるように、静かに確実に距離を詰めていく。

 それに気がついた美汐。今まで動いていなかったために、状況が分かっていたおかげだった。

 舞と真琴は今は自分のことで手一杯で、佐祐理が大きく離れている事に気がつけない。



(狙いはやはり佐祐理さんですか……なら、後ろから襲わせてもらいます)



 狙いを定めてスタンロッドを振りかぶった瞬間、祐一の操る猿飛が振り向いた。



『やはり居たか』



 通信機を切っていないのか、声が聞こえてくる。



(何故? 私が見つかったのですか!?)



 そんな疑問を感じるが、行動を遅らせる事は無い。

 しかし、分かっていた奇襲は大体が失敗する物である。

 振り下ろされたスタンロッドの先には猿飛は居ない。

 カン、という乾いた音が、ファントムの頭辺りでする。


パァァァァァン!


 甲高い音に加えて凄まじい閃光。

 それが美汐を襲った。



(閃光弾!)



 全てを飲み込むような光の奔走。

 目を保護するために、アイモニターの光が消える。

 それが、致命的な隙になってしまうのは、誰もが承知な事だった。



「くぅ!」



 我武者羅に腕を振り回す。

 敵をつかめてしまえば何とかなる、そんな思いだった。

 猿飛は、視界の無い状態でテラーズに向けて走っている。

 ファントムの事は無視して、テラーズに向けて走る。

 テラーズもまた、閃光に包み込まれて混乱していた。



「っく……敵さんもなかなか味な物を!!」



 佐祐理の視界に光が戻る。

 距離が比較的遠かったために、回復は早かった。

 その光が戻った視界に、猿飛の姿が映った。



(っ、回避!)



 距離と位置が圧倒的に拙い。

 援護無しではあの機体の勢いが止まらない事は、佐祐理は分かっている。

 無駄に弾丸をばら撒いて初撃をもらうより、それなら、初撃を避けて0距離で弾丸を喰らわせた方が良い、そう判断していた。

 機体に掛かる急激な横G、それに歯を食いしばって耐えながら機体を横に回避させる。

 しかし目の前では信じられない光景が展開されてしまった。

 その回避に合わせて猿飛も付いて来ている。


シュルン。


 右腕と肩を繋ぐ辺りに何かを巻きつけられる。

 肩からそれを外そうと左腕を伸ばしながら必死に回避行動を続けた。

 しかし、しっかりと絡みついたそれは巧く外れてくれない。


ザきゅぅ!


 猿飛の自重に耐えることの出来る特殊鋼のワイヤーに猿飛の全自重が掛かった。

 結果、肩に巻かれたそれは輪が小さくなり、右肩から右腕を切断される。



「くぅ!」



 右腕を切断されるような感覚を味わいながら、佐祐理は舞達の方向に向けて必死に走り出した。

 猿飛は追ってはいかない。



『まだいるか……』



 そんな呟きが聞こえてきた。

 しかし、今はそんな事に気にしている場合では無い。

 舞達の居る方向に必死に走らせながら、被害状況をチェックする。



「被害、報告」

【右腕切断、他機能に問題は有りません。バランスが右側から左側に移っています。調整しますか?】

「調整開始」

【調整開始します】



 そして、急に久瀬の部下から通信が入ってきた。



『こちら、アクト5、ファング1応答してください。』

「こちらファング1、どうしましたか?」

『お勤めご苦労様です。交代の時間です』

「……分かりました。ルート24で撤退をします」

『では、残った敵は私が引き受けます。では』



 ブつっと通信が途切れる。

 すぐに舞達が佐祐理の周りに集まった。



Fang1:撤退します。

Fang4:分かりました。

Fang3:大丈夫なの?

Fang1:腕は落とされましたが、撤退には支障がありません。

Fang2:……長居は無用。

Fang1:進行形態ランスで、撤退開始。


 その一言で綺麗に列を作った。

 ガーディアンを先頭にして中団に右腕の無いテラーズその後ろにドルフィン。

 そして殿をファントムという陣形を作って撤退を開始した。





































 満身創痍のサイレントと、距離をとりつつもそれを援護するガンショット。

 サイレントの防弾繊維で出来たマントは既に引き裂かれている。

 足回りはまだ無事なものの、上半身は酷い。

 肩の装甲はひしゃげ、右手の薬指、小指はあらぬ方向に折れ曲がり火花を散らしている。

 胴体の装甲などもかなり抉られていた。

 そして、あたり一面には弾丸を撃ちつくした銃器が散乱していた。

 一方、祐夏は一心不乱に弾丸をばら撒いている。

 当たる当たらないは無視してともかく、敵機が居る場所に向けて弾丸を撃っていた。



「お母さん! 味方機が!」

『ほぉ? 誰だ?』

「わからないけど、味方の識別標!」



 レーダーが味方機を捉える。

 すぐに祐夏が識別標を確認すると、それはアポロだった。

 その間も有夏と祐夏はまだ弾丸を吐き出している。



「応答して!」

『祐夏ちゃん!? 隊長は!?』

「秋子さんは……」

『秋子のことは後にして、ともかく敵を殲滅してくれ。話は後だ!』

『分かりました!』



 残り3機となった敵のドールに、ようやく数で1対1となった。



『祐夏、援護はもう良い。それぞれノルマは1機だ。いいな!』

「うん!」

『言われなくても!』



 ふと、敵の陣形がおかしくなった。

 今まで一糸乱れぬ動きをしていたのに、1機だけがその場を離脱していく。

 香里は1機を相手にし始めていたので反応しきれない。

 ガンショットがそれを追いかけようと動きを見せた。



「逃がさない!」

『待て! 追うな!』

「お母さん!? どうして!?」

『今は残ったのを潰すのが先だ!』

「う、うん!」


 その言葉に、祐夏は有夏の援護に入った。

 2対1なら負けはしない。

 一方、香里は残った1機を圧倒していた。

 手数が圧倒的に多く、剣を持った敵のF型ドールを翻弄している。


ガイン! キャァァァン!


 香里が、トンファーで敵の剣を弾き上げた。

 剣は回転しつつ、空中を飛んでいく。

 ゾクゥっと嫌な物が、香里の背筋を通っていった。



(なに? この感覚!)

『いかん! 離れろ!』



 嫌な予感を感じたのとほぼ同時だった。有夏が声を張り上げたのは。

 その一言に、一斉に対峙していたドールから飛びのく。

 それからワンテンポ遅れて爆音、閃光、爆風がそれぞれのドールを襲った。



『自爆とは味な真似を!』

「……損傷スキャン開始。」

【……スキャン中……損傷率1.4%。作戦は続行できます】

「分かったわ」

『祐夏、香里、大丈夫か?』

「私は大丈夫です」

『祐夏も大丈夫だよ』



 その声を聞いて、有夏の声が沈んでいった。

 機動力が元々低いサイレント、その上に先ほどまでの無茶が祟っていた。

 無茶のお陰で機動力が落ちていた所に先ほどの自爆。

 飛びのくのが一瞬だが遅れてしまった為に、サイレントの右足が爆風の直撃を受けてごっそりと持っていかれた。



『私は右足がやられている。全く忌々しい!』



 通信にガンッと何かを殴る音が混じる。

 有夏がコンソールを殴りつける音だった。



「先ほどの奴は追撃しますか?」

『やめておけ、今から行っても間に合わんだろう』



 疲れたとばかりに言い放つ。



『お母さん、これからどうするの?』

『どうするも何も、秋子のところに行くかそれとも栞とあゆの所に行くかだろうな』

「どうするんですか? 今なら二手に分かれることが出来ますけど……」

『私は……そうだな格納庫まで戻ってボイス・レスをひっぱって来ようと思う』

『「ボイス・レス?」』

『ONE最新型だ。私に試作機を回してくれてな』

「それで、三つに分かれるんですか?」



 ここで、祐夏が慌て始める。

 ガンショットのレーダーに赤い斑点が写っていた。



『お母さん! 敵がまだ来るよ! 香里さんの来た方向から!』

『何だと!? 敵の数は!?』

「……もしかして3機?」

『え!? そうだよ香里さん!』



 祐夏の困惑する声を聞きながら、ぐっと歯噛みをする香里。



『ともかくこのままでは、袋の鼠にもなる。陣形を組むぞ』

『うん』

「わかりました」

『私はもう片足が死んでるから固定砲台だ。祐夏は移動しながら敵を翻弄しろ。悪いが前衛は香里だ』

『じゃあ、お母さんをあそこまで連れて行くね』

「私はここで待機します」

『良いか、無理をするな。ここで命を散らす事は私が許さん。良いな!』

「分かっています!」



 そう言って有夏は這いずりながらボロボロになった壁の後ろに移動していく。

 祐夏は落ちている武器の弾数があるかないかをチェックした後に有夏の元に持っていった。



(落ち着きなさい。相沢君が簡単にやられるわけ無いじゃない)



 香里はその場で自分を落ち着かせようと深呼吸を繰り返す。

 しかし、体が微かに震えている。それが機体にも現れていた。



『来たよって!? 何で4機なの!?』



 来たのは右腕の無いドールを筆頭に4機。



『祐夏、止まるんじゃない!』

『ぇっ!』



 祐夏の目の前に居るのはスタンロッドを構えるドール。

 慌てて、回避行動に移る。

 ブン! っと回避した所にロッドが通った。



「私の相手は、あの剣を持ったF型にします」

『祐夏、そのままそいつの相手をしろ。私は残りの2機を相手にする』

『でも!』

『よく見ろ。あの2機は積極的に戦闘に参加していない。銃撃戦ならまだ私にも出来る』

『……わかったよ』



 そんな事を言い合っている間にも、剣を持ったドール・ガーディアンを相手にするために香里は突っ込んでいる。


がぁん! キャリィ、ズパン!


 香里のトンファーは盾に阻まれる。その盾から相手の死角になる方向に向けて機体を回転。

 そのまま、回転した勢いをのせて、相手の背中付近を殴りつける。

 その音に弾かれたように一気に戦闘になだれ込んだ。

 有夏は、弾のある武器を選別しながら、積極的に戦闘に参加しない2機の注意を自分にひきつける為に発砲する。

 2機は壁の後ろに隠れている有夏を標的に定めたようだ。

 祐夏はロッドで接近戦を挑んでくるファントムを相手に苦戦をしている。

 香里はそのまま剣を持つガーディアンの相手をしている。

 香里は、ガーディアンの装甲の厚さに、舞はガーディアンよりも小さいアポロの小回りの良さに互いに悪態を付いていた。



(硬い! なんて装甲してるのよ!)

(くっ! ちょこまかと!)



 アポロが拳を打ち抜けなかったのをあざ笑うかのように、剣が振り回される。

 それをブリッジのようにして避けた。

 距離を少し置く。すると相手は剣を納めて、盾の後ろに右手を突き入れた。

 ヒュっと風を切る音がする。



(投げナイフ!? く!)



 左手のトンファーをくるんと回転させて、キャインっとナイフと叩き落とす。

 それを見た舞は驚きで目を見開く。



(出来る! でも、これなら!)



 ガーディアンの指に3つのナイフを挟ませる。

 そして、タイミングをずらして腕を三回振った。

 ナイフは腕を振るたびに不規則に飛んでいく。

 アポロは狙いを絞らせないために、動き回り近づきつつ、それを回避する。

 ガーディアンはナイフが尽きるまでそれを続ける。


がスン!


 アポロの右腕の二の腕部分にナイフは突き刺さる。

 香里はそれを無視して相手につっこんだ。


【警告します。右腕機能10%低下】

「A準備!」

【イエス、マスター。A準備開始】



ガコン!


 機関部を狙ったトンファーは当然のことながらガァーディアンの盾に阻まれる事になる。



「くぅ! A発動!」



 何か、嫌な物を感じた舞はすぐさま後退しようとする。

 その為に、盾に密着したトンファーがずれた。



【A発動します】



ズガァン!


 トンファーの筒から飛出た杭。

 それはコクピットにいる舞の喉もとの前で止まっていた。

 少しでも反応が遅ければ、それは舞の喉に打ち込まれていたであろう。

 もしくは、機関部を貫かれていたであろう。

 冷や汗が背中を伝うと同時に怒りがふつふつと湧いてきた。



「……傷つけられた……私のガーディアンが……こんなにも……」



 川澄舞の誇りだった事。

 それは、装甲はいくら損傷しようとも、装甲以外はほぼ無傷で帰ってくる事。

 それがたった今、打ち破られていた。

 コクピットの正面には大穴があき、機能が低下し始めている。

 佐祐理の盾や剣となると誓ってから、その誇りは守られ続けた。

 それを目の前の敵が打ち破り、そして誇りを踏みにじったのだ。



「……赦せない!」



 怒り、それも極上の憎悪を目の前の敵に打ち付ける舞。

 一方、香里は右腕の反応が悲劇的に悪くなっている事に焦っていた。



【右腕が磁気嵐の為に能力80%ダウンしています。現在、復旧作業中。復旧予定時間は5分後です】

「あぁ、もうこんなに酷いなんて! アテナならこんな事にならないのに!!」



ガキン! がシャン!


 舞が動いた。剣がコクピットに突き刺さった仕込みトンファーから出た杭を打ち払う。

 右腕が巧く動かない香里は右腕のトンファーを失ってしまった。

 空中で半ばから折れ曲がったトンファーが地面におちる。

 それと同時に舞は片腕にしていた穴の空いた盾を放り捨てた。

 剣を中段に構えてアポロを見据える。

 機体を半身にして、満足に動かない右腕を後ろにする。左手を前に突き出して構えた。

 香里はこの時点で、もう片腕の仕込みトンファーの内容物を使うことを諦めていた。

 片腕を失った状態で勝てる相手ではないことは重々承知である。

 もう一つの腕まで機能低下を招いて勝てるはずが無い。

 それに、左手のトンファーの仕込みは一発逆転用のパイルバンカーではなくニードルガンだ。

 あれだけ分厚い装甲を纏っているドールには有効とは言いがたい。



(まだ動けるの!? 致命傷なはずなのに! 出鱈目にも程があるわ!)

(……あの構え、私を侮辱している! もう赦さない!!)



 ほぼ動かなくなったアポロの腕を庇うような構え、左腕だけで舞の剣撃を捌いたのは自慢して良いだろう。

 集中力はこれ以上続かない。香里は息が上がっているのを自覚した。

 纏わり付くような嫌な汗が手に浮かんでいる。それでも機体を動かし続けた。


ガイン!


 ガーディアンの剣が左腕のトンファーを跳ね上げた。

 その構えは中段から大上段。



「っく!」



 跳ね上げられたトンファーを手放して、急いで手をコクピットのガードに回す。

 それと同時に、機体を後ろにステップさせた。


ザきゅ。


 鈍く、そして、あっさりとしたガーディアンの全自重をかけた絶望的な一撃が決まった。

 アポロは左腕と共に、肩からコクピットの左隅をかすめて大腿部を両断された。


ガタン。


 今の香里の位置からアイモニターを外せば外を見ることが出来るだろう。


ぐわっシャン!


 左足という支えをなくしたアポロはそのままバランスを崩して倒れてしまった。



『今です! 突破します!』

『でも!』

『機体の事を考えて! 今の状態じゃ、撤退できるかどうかも怪しいんだから!』

『……でも!』

『機体の状態を知ろうとしないのは2流以下だよ! このまま突破して!』

「!」

『…………分かった』



 そんな通信の後に、急激な動きを見せる4機のドール。

 祐夏を相手にしていたドールも、剣を構えたドールの後ろに居た2機のドールもあっという間に撤退をする。

 要であった香里がやられてしまったのだ。足止めの仕様が無い。

 水を得た魚のように、あっという間にそれに追いつく事が出来なくなってしまった。



『皆無事か?』

『祐夏は右腕をやられちゃった。代わりに相手の左腕を貰ったけど』



 ガンショットの右腕が火花を散らしているのが分かる。

 どうやら拳銃でスタンロッドをガードしたまでは良いが、その上から最大電流を喰らったようだった。

 腕の回路がその電流に耐え切れずにショートしてしまっている。



「……生きてはいます……」

『追撃したくても、出来無いよ……弾薬全て吐き出しちゃったもん』

『全く……完敗だな』


 
 有夏の言葉に、香里はコンソールに腕を叩きつけた。



































 七瀬瑠奈が走っていく先には、北川の格納庫、つまりは特殊部隊の格納庫がある。

 その少し手前で、前面だけが大破しているキャリアーが止まっていた。

 その横では、タバコをふかしている人がいる。

 瑠奈はその顔に見覚えがあった。



「あなたは、確か牧田さん」

「あぁ、北川の……恥ずかしい所を見せるね」



 暗い闇の中、顔が少し分かる程度の暗闇の中だった。

 どうやら牧田は苦笑いをしているようだ。



「どうしたんですか?」

「格納庫から、1機、Hドールを運び出そうとしてこのざまだ」

「ドール! 動かせますか!?」



 目的の物があったという感じで声を張り上げる瑠奈。

 牧田はちょっと戸惑った。



「待て、嬢ちゃん。CROSSの適正試験は受けた事はあるか?」

「無いです」


 
 きっぱりと答える瑠奈に牧田は眩暈を覚える。

 そんな眩暈を感じさせないように言葉を選びながら話しかけた。



「親類にHドール乗りはいるか?」

「従妹に、一人居ますけど……それがどうしましたか?」

「……試してみる価値有りだな。ほらよ」

「え?」


 
 牧田はキーを放り投げる。瑠奈はそれを手にとって困惑した。



「キャリアーのキーだ。これで中に入れる」

「良いのですか?」

「非常事態だ。俺が責任を取るから良い」

「分かりました!」



 そのまま、キャリアーの中に入り込む瑠奈。

 それを見送ってため息を吐く、牧田。



「死んで責任を取るからな……良いだろ? 大将……すまねぇ……約束は守れそうにもねぇ……」



 その場に座り込む牧田。

 その背中からはとめどなく血が溢れている。

 徐々に血溜まりが出来て、広がっていく。

 暗い場所だったから瑠奈には気が付かれなかった。

 瑠奈はそんな事にも気が付かずにキャリアーの中に入っていく。



「これは……」



 横たわる純白の機体。

 その横に存在感を多分にアピールするガドリングガン。

 それを見て息を呑む。

 機体のあまりの幻想さに。

 そして、武器のあまりの禍々しさに。



「これなら!」



 決意も新たにコクピットまで這い上がって、その中に入り込む。

 そこで、ピタリと瑠奈の動きが止まってしまった。



「Nドールと全く違う……」



 もちろん初めて乗るHドール。

 Hドールとは何かも良く知らないし、その動かし方、起動の方法も良く分からない。



「何でも良いから反応しなさいよ!」



 焦って、何でも良いので手当たり次第にスイッチらしき物を押していく。

 その中の当りにあたったのか、ブゥンと音がなった。



【CROSSへ、ようこそ】

「なに?」



 アイモニターに表示される文字、しかし瑠奈はアイモニターをつけていないのでその文字は見えていない。

 それと同じ音声が流れ始める。



【アイモニター及びトレーサーを装着してください】

「アイモニター? トレーサー? これかしら?」



 ともかく、それらしきものを身に付ける。

 アイモニターをつけてモニターの役割をするものの意味を知った。



【適正確認を開始します。そのままお待ちください】

「あーもう! 早くしなさいよ!」

【……………………………確認完了、ランクC+、登録いたしますか?】

「登録するわ!」

【氏名確認】

「七瀬瑠奈」

【ただいまより、ボイス・レスは搭乗者を七瀬瑠奈に定めました。起動しますか?】

「起動して!」



 そこまで言って困った。

 このHドールの操り方が分からない。



「機体の動かし方の説明は無いの?」



 とりあえず、声に出してみる。



【操作確認いたしますか?】

「えぇ、出来るだけ早くお願いするわ」

【操作確認、簡易モードで起動します。以後、指示に従って機体を動かしてみてください】



 指示に従って機体の動かし方をレクチャーされる。



(こんなに簡単で良いの?)



 今まで、Nドールしか触った事が無かったので自分のモーションをトレースするHドールは気持ちが悪かった。

 しかし、慣れてくると、これほど頼もしい物は無い。

 Nドールはこれほど簡単に動かせる物ではない。

 瑠奈は少なくとも6ヶ月の訓練を受けてようやく半人前のNドール乗りだったのだ。

 それに比べると、笑ってしまうくらい簡単な操作方法だった。



(すごい……これなら!)



 手動で、キャリアーのコンテナ部分をあけて外を見回す。
 
 手にガドリングガンを持って、足元にいる牧田を探した。

 すぐに牧田は見つかった。座り込んで、ボイスレスを見上げている。

 牧田は手を振って、早く行けとジェスチャーをしているようだった。

 そのジェスチャーに敬礼を返してその場を去る。



「牧田さん。ありがとうございます!」


 
 牧田に礼を言いつつ、足を速める。

 気持ちは一刻も早く先ほどの場所に行きたかった。

 残された牧田は、くわえていたタバコから紫煙を長く長く吐き出した。



「行ってくれたか……これで……俺も終わりか……すまねぇ……大将……」



 その瞳から涙が零れ落ちる。



「すまねぇ……美樹……姫……すま……」


 くわえていたタバコがぽとりと落ちる。

 そして、それに添えていた右手が力なくだらりと、たれ落ちた。 






To the next stage







あとがき えー、ようやく戦闘関係が終りそうです。本当の予定だったら今回くらいには終ってるはずだったのですが…… 延びました。あぁ、もっとまとめれる才能が欲しいです。何故こんなにも延びるのか不明です…… まぁ、原因はわかっているんですけどね。自分が思いついたら吉日みたいに加えていくから悪いんです。 とにかく、ここまで読んでいただいてありがとうございました。これからもよろしくお願いします。ゆーろでした。

管理人の感想


 ゆーろさんからSSを頂きました。
 漢、牧田さんがお亡くなりになりました。  もう今回はそれが全て。(違  結構好きなキャラだったんですが、残念です。
 秋子さんや名雪は何をしているんでしょうかね。  途中でいなくなった祐一の動向も気になるところ。


 感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。

 感想はBBSメール(yu_ro_clock@hotmail.com)まで。(ウイルス対策につき、@全角)