それは突然だった。
『だ、誰か! た、助けてくれ!! 誰か居ないか!』
そんな通信が、研究所の付近に移動してきたあゆと栞の耳に入ったのは。
「あゆさん!」
『分かってるよ……でもこんな時間に何で居るんだろう?』
「でも、見捨てるわけにはいきません」
『それも分かってるよ……だから、納得が出来ないんだ……』
エンジェリックがライフルを構えた。
その先にはトラックがジグザグに回避行動を取りながらこちらに向かって来ている。
トラックの後ろに居る敵の数は見えるだけ6機。
「そこのトラック! 所属は何処ですか!?」
『助けてくれるのか!?』
「援護します! ゲートを一時開けるので、すぐに中に入ってください!」
開き始めたゲートの扉の真ん中で敵との距離を目で測るあゆ。
ガァァァァァァン!
あゆの正確な1撃が、敵の一機の膝を襲う。
『所属は、エリアM、kanon工場の山路比叡だ! ともかく、ゲート内に入れてくれるんだな!?』
『安全かどうか知らないけどねっ!』
がぁぁぁぁぁぁん!
先ほどと同じ敵機の殆ど同じ部位に弾丸を撃ち込む。
神業とも言っても良い位の精度でライフルを操っている。
弾丸を撃ち込まれたドールは片足の膝から先を失ってこけた。
そのせいで後続に続いていたドールの一団の進行は乱れ、遅れる。
『何を運んでいるの!? 何か心当たり有るんじゃない?』
『警備隊のドールのトライアルが明日あるんだ! 今晩搬入して、明日お披露目のはずなのに畜生!』
「警備隊のトライアル? 明日ですか?」
『僕たちはそんな事知らないよ……』
『そう言われても、俺が困っちまう!』
警備隊と特殊部隊が仲が悪いと知っていたが、ここまで悪いとは思っていなかった栞にあゆ。
本当か、嘘か解らないが、ゲートを閉じてしまえば外から進入するのは大変なはずだ。
『栞ちゃん、入って来たら入所許可証を受け取って貰えるかな?』
「解りました」
ゲートの近くからあゆが飛び退き、トラックが中に入って来る。
トラックが中に入ったのを確認すると、すぐさまゲートの扉を閉める。
ギギっと言う音を立てながら扉は閉まり始めた。
しぐさで、入所許可証を栞に確認するように指示を出すあゆ。
(そういえば、何故この研究室には人が居ないのでしょうか? 警備員くらい居てもいい筈です)
そんな事を思いながらアレスをトラックの横につけて、コクピットから出る。
ここの警備は警備隊の管轄になる。
本部が混乱しているために情報が飛び交い、ここに張り付かなくてはいけないはずのドールがここには居なかった。
「いやぁ〜、助かった」
「まだ、助かったわけではないですけどね」
「ちがいない」
トラックから降りてきた山路比叡という男はツナギ服姿で、いかにもメカニックという感じの男だった。
「すいませんが、入所許可証とIDカードを見せてもらえませんか?」
「あぁ、これが入所許可証だ。受け取ってくれ」
渡された紙には、確かに正式に発行されたというホログラムがついている。
確かに、今の時間帯にこの研究所にドールを搬入することを許可する内容で書いてあった。
「それで、こっちがIDだ」
胸ポケットから、IDをだす山路。
栞はポケットを漁ってデジタルカメラを取り出す。
IDカードを記録に収めた。
「すいません、規則ですので……」
「まぁ、IDのコピーが悪用されなきゃ別に良いさ」
「では、ここからシェルターの方へ非難してもらえますか?」
「俺も力になれないか?」
「気持ちだけ受け取ります。何せ、相手が相手ですから」
「解った……トラックを隠してから避難する」
そういってトラックに乗り込む山路。
栞はそれを見送ってから、すぐにコクピットの中に戻った。
『どうだった?』
「本物です。この精度で複製ができるとしたらそれは問題になってしまいますよ」
『じゃ、後ろは気にしなくて良いんだね?』
「IDも記録に取りましたから、多分良いはずです」
『じゃぁ、栞ちゃん。ちょっと手伝って貰えるかな?』
そういって塀の横のトラックを2台、指差した。
塀に近寄っている間にゲートを叩く音がする。
無理にこじ開けようとしているが、ここのゲートは国家レベルの研究所の一つなので、ゲートは固い。
よほどのものを持ってこない限り、打ち破られることはないだろう。
心持焦りながら、そのトラックの前後に互いについた。
トラックを二人のドールで持ち上げて、もう一台の上に載せる。
それで6メートルくらいの踏み台になった。
あゆはそのまま、踏み台になったトラックによじ登った。
トラックの上によじ登っただけでもまだ塀の上まで10m位ある。
自分の身長ほどもあるライフルの銃底部分をいじってフックを取り出した。
それを塀に引っ掛ける。そしてあゆは塀の上までのぼりきった。
『栞ちゃんはゲートが開けられた時に備えて!』
「わかりました!」
あゆはそのまま塀の上でライフルを構えて外のゲートの扉に群がっている機体を狙撃し始める。
相手に反撃されるたびに銃底のフックを塀に引っ掛けて塀の内側にぶら下がった。
(すごい……これが、メカニックと戦闘員の違いですか……)
その惚れ惚れするような動きを熱い視線で見つめる栞。
(才能と、その努力が違うのでしょうね……努力ではどうにもならないものが有るのは知っていますが……っこんなにも)
栞は羨ましく思う。
その動きが出来る事が。
その動きに耐えられる丈夫な体が。
それが出来れば、姉にだけ危ない思いをさせなくても済むのにっと唇を噛んでいた。
タン!
それは、栞の後ろから音がした。
ちょうどあゆが塀の上に上ったときにその弾丸が、あゆ機体を貫いた。
『うぐぅ!』
足元の不安定な塀の上ではその衝撃に耐え切れない。
そのまま塀の外側にエンジェリックは落ちていく。
ぐしゃぁっという音を立てて、頭部から地面に激突する。
頭部はひしゃげ、砕けている。右腕はコクピットに押しつぶされていた。
そのコクピットもかなり変形している。
衝撃を受けた機関部はそのまま、休眠モードに移行した。
ドールがいくら頑丈とはいえ、自分の身長の3倍強の高さから落ちれば自分の自重で壊れてしまう。
あゆは、コクピットの中で気絶していた。
「あゆさん!」
すぐにそこに確認に行きたい衝動に駆られたが、それは出来ない。
四面楚歌の状態だろう。
外には多分6機のドールが待機していて、自分の後ろにはもう1機いる。
栞はすぐにその場から動いた。
アレスの居た場所に雪が舞い上がる。
『っち』
通信に何か加工してあるのか、声がおかしな声で聞こえる。
しかし、栞にはそんな事を気にしている余裕は無かった。
(ともかく! この場は私がどうかしないと!)
そんな思いをしながら、通信機で何度目かになるSOSを発する。
(もう! 何で!? 何で応答してくれないの!?)
そんな思いで一杯になってしまった。
繋がる。しかし返事は無い。
無いのでは無くて取り合ってもらえない。
何故なら、何処も彼処も戦闘状態だったからだ。
アレスは先ほどから逃げ回ってばかりだ。
既に弾丸を何発か、貰ってしまっている。
それは、戦闘訓練をしているものと戦闘訓練をしていなかったものの違いだった。
(これ以上はもらえない。時間を稼ぐのだったら、内側の一機を倒せば少なくとも外の連中はなかなか入って来れないはず!)
敵の動きが変った。どうやら栞が素人だということに気が付いたようだ。
動きが猫が鼠をいたぶるような動きに変った。
「侮ってくれてありがとう」
そう言って覚悟を決める。
「侮辱してくれてありがとう」
覚悟が決まり、アレスの動きが変った。
「油断してくれてありがとう」
徐々に距離を詰めてくる敵の機体。
弾丸を機関部などの大切な部分に貰わない様に注意しながら敵に接近するアレス。
その為に弾丸でアレスの装甲の殆どは削り取られている。
「私にはお姉ちゃんのような戦闘の才能が有りませんから」
栞の機体は距離が詰まってくるにつれてどんどんとダメージを蓄積していく。
「私にはあゆさんや北川さんのような狙撃の才能が有りませんから」
敵が武器を持ち替えた。その隙を待っていたといわんばかりに最大戦速で敵に密着した。
がつん!
酷い衝撃が痛みとなって栞を襲う。
「まだ! 動いて! アレス!」
気力を振り絞って腰の後ろからショットガンを取り出した。
「初めからこれを狙っていたんです!」
ゼロ距離。
銃口が敵の腰椎辺りにあるであろう機関部に突きつけられていた。
引き金が引かれる。
バスゥン!!
派手に吹き飛ぶ敵の腰椎部。
敵も引き金が引かれる一瞬前にアレスの機関部に鉄の塊を突き入れていた。
「相打ちなら! 私の勝ちです!!」
アレスは機関を停止する。
機関部を直接やられた為に灯りと言う明かりが一斉に消えた。
(痛い……ですね)
アレスの最大戦速でぶつかった衝撃に耐えられなかった栞の体は、反動でかなりダメージを受けている。
(でも……私にはこんな事しか出来なかったんですね)
そんな事を思いながら、栞の意識は闇にまぎれていく。
それは、少しの気の緩みから始まったものだったが、初めて戦闘を経験したものだったらしょうがない事だった。
『壱次……ちょっとこいつを甘く見たようだった』
「全くだ」
そう言って現れたのは山路比叡といわれていたメカニック風の男。
苦笑いを浮かべる山路比叡。
山路比叡とは、あらかじめそう名乗るように決まられていた名前。
本当の名前は斉藤壱次という。
先ほどの機体からもう一人降りてくる。久瀬圭一だ。
久瀬の黒曜は見事に機関部が大破していて動きそうに無い。
「さて、圭一。どうするんだ?」
「とりあえず、ゲートを開けよう」
「分かった。では開けてくる。あぁ、柳の奴が心配してるから無線に出てやってくれ」
「では頼んだし、頼まれた」
そう言って久瀬はトラックのほうへ、斉藤はゲートの扉を開けにゲートの方へ歩いていった。
秋子達は苦戦している。
苦戦と言っても秋子達が一方的に攻撃しているのだが、前衛が居ないために距離はどんどん詰められていく。
それも盾のように3機がダメージを負っていくのだ。
初めは仲間思いに見えたその行動も今ではただただ気味の悪いだけだった。
「くっそ!」
狙いを絞った弾丸がまたも盾の役割をしてる敵機に止められた。
相手も反撃に銃を持ち出すような距離になってきている。
『おか、隊長! 多分、味方機だと思う反応が来てる!』
『多分? はっきりと報告しなさい』
『機体の識別票はボイス・レス、でも、誰が乗っているか解らないの!』
「おいおい……」
『敵には気が付かれているの?』
『多分まだ!』
『あの装備なら……この状況を打破できますけど……』
秋子の渋い声。何故こんな声を出すか、名雪にも北川にも分からなかった。
『こんのぉぉぉぉぉぉ!!』
怒鳴り散らす通信が届いたのは、そんな時だった。
敵の真横に陣取って真っ白の機体が真っ黒のガトリングガンを持って仁王立ちしている。
敵の反応は虚を突かれた様に鈍い。
きゃりきゃりキャキャギャギャギャギャ!
ガドリングの砲身が回転を始めて中から弾丸が吐き出される。
銃身がかなりの勢いで暴れる。
『この! 暴れるんじゃないわよ!』
必死に暴れる銃身を押さえつける瑠奈。
吐き出される弾丸は普通の弾丸ではなく対装甲弾だった。
対装甲弾は人間サイズしか開発されていない。
それを無理やりドールサイズにしたそれはかなりの破壊力を持っている。
盾になった機体を貫通してその後ろに居る機体にまで弾丸が降り注ぐ。
北川や秋子の使っているライフルの弾丸もかなりの威力を持つがそれでもここまで威力は持てない。
正確にはここまでの貫通力は持てない。
まるで装甲が紙のように簡単に破られていく。
既にボロボロだった前衛3機は火を噴いてその場に崩れ始めた。
「なんだ? 魔法を見ているのか?」
あまりにおかしな威力に開いた口が塞がらないといった感じだ。
北川は呟きながらも、先ほど変な電波を出しているといわれていた機体を狙撃し始める。
『こちら、アクト1。目標は達成した。撤退を開始しろ』
敵の動きが変る。2機の動きがこちらに向かい、残り1機が撤退を開始する。
撤退を開始したのは変な電波を出しているものだった。
「仲間思いなのは良いが……逃がさないぜ!」
敵機がまるで紙の様に打ち抜かれていくのを横目に撤退を開始する1機を狙い撃ちにすべく、北川が銃を構えた。
『きゃぁ!』
その声に、その電波を発しているであろう方向を向く。
鈍い爆発音、ガドリングガンが暴発していた。
ボロボロになった敵機がボイス・レスに向かっていく。
「っくそ!」
銃身を味方を援護するためにそちらに向ける。
ガォン!
その直後に北川はアルテミスを敵に向けて走らせた。
「間に合え!!」
くるんと機体を回転させて、遠心力を付ける。
そして、敵に体当たりをさせるように銃底で敵を殴りつけた。
その動きは祐一から教えてもらった動きにアレンジを加えたもので、威力は申し分ない。
がキャん! っという音を立てて敵機が吹き飛んだ。
「大丈夫か!?」
『指が何本か馬鹿になっちゃったけど、まだいけるわ!』
そんな返事を聞けて安心する北川。
『追撃は、考えないでください。敵の殲滅を最優先』
「了解! 隊長!」
『分かりました!』
『名雪は引き続き、敵機の解析をお願い』
『うん!』
その後、1機は逃したものの残りの敵は全て殲滅できた。
その頃、祐一は6機を相手に大立ち回りを演じていた。
猿飛のスピードのみを頼りにして敵を翻弄する。
攻撃能力の乏しい猿飛ではしょうがない事だった。
今は時間を稼ぐしかない。
――――敵行動解析完了
敵機、オート機能で行動している可能性大。
行動パターンに類似点。
その事より、閃光弾に戦略的効果はほぼ無し。
「くそっ!」
苛立ちが前面にきている。歯がギリリとなった。
閃光弾を使用して敵に効果があれば、真っ先に使用しているだろう。
しかし、効果が薄いとなってしまっては攻撃は1対1ならいざ知らず、1対6の状態では圧倒的な隙となる。
装甲の殆ど無い猿飛ではそれはしてはいけないことだった。
弾丸の一発が致命傷になりかねない。
今はただひたすらに敵、6機の統率された動きを読んで避け続けるしか道は無かった。
(見たことのある行動パターン、見たことのあるモーションが2機)
猿飛を円を描くように回避させながら、敵機をこの場所に縫い付ける。
敵も祐一の機体を追いかけるように照準をあわせようとしていた。
(敵の殲滅は考えなくて良い。今は皆が避難する時間を稼げればいいんだ)
考えを切り換える。
それは敵が撤退を開始するまで続けられた。
時間にして15分程度。
祐一にとってはどうと言うことの無い時間。
相手にとっては長く感じた時間だった。
結局、敵の操るマリオネット達は、祐一に一太刀を浴びせる事も出来無いまま撤退を開始した。
その後、敵が一斉に居なくなった。
しかし、秋子の部隊も警備隊の部隊も追撃するような余裕も有るはずも無い。
1日経って判明した被害は甚大な物だった。
敵の正体は神々の尖兵が犯行声明を出しているので断定は出来たが、それに繋がる情報は無かった。
秋子たちの居た東方部の軍の受けた損害は甚大だった。
警備隊の被害がその担当している地域全体で72機配備されていたドールのうち、48機が大破。
中破、小破を含めた要メンテナンス状態が残りの24機だった。
警備隊の全体のNドール約300機の内の約4分の1のドールが一気に工場送り、または廃棄となる失態だった。
人的被害としてパイロットの死傷者が4人、逃げ遅れたメカニック等のサポート要員の被害が3人。
それぞれの格納庫もかなりの被害を受けている。
警備隊の運営もままならない程のダメージを受けていた。
もちろん、秋子の部隊も似たようなものだった。
秋子、名雪、北川、祐一の機体はほぼ無傷だとしても、残りの機体は悲惨だった。
アポロは修理が出来ないほど大破しているし、サイレントはメーカー修理が必要。
アテナは瓦礫と化した格納庫の下。
アレスはパイロットである栞がひだり大腿部骨折の怪我をしているため動かせない。
最もそのアレスはメーカー修理が必要だ。
エンジェリックもメーカー修理が必要である。
が、破損状態が酷いので、新しく作った方が安上がりという状態だった。
ボイス・レスは指の殆どが馬鹿になっただけなので交換で何とかなる。
ガンショットは片腕の状態ならいつでも稼動できるが、これもメーカーに部品を発注しないといけなかった。
栞とあゆは精密検査を受けるために入院。
瑠奈は秋子が警備隊から引き抜いてきた形を取った。
これは、秋子の部隊(正確には有夏の持ち物)のHドールを勝手に動かしたためでもある。
有夏が有無を言わせずに引き抜けと指示したのは言うまでも無い。
怪我人が出る事は無かったが、死亡者が出た。それはメカニックチーフの牧田だ。
その為に、まるで格納庫の中はお通夜のように雰囲気が湿っていた。
どんよりとした空気が辺りを包み込む。
今日は、犠牲になった被害者を合同で葬儀する事になっていた。
その会場での事。
香里と名雪は部隊に指定された位置についている。
周りにはメカニック達が居る。涙を流している者も居れば、憮然としている者も居る。
共通している事といえば、皆が悲しそうだった。
秋子と相沢一家と検査入院している二人はこれに参加できなかった。
相沢一家に関して言えば、部外者だからの一言で参加を拒否されたという方が正しい。
秋子は、緊急に開かれた軍の会議に参加している為に参加できなかった。
入院している二人も来たがっていたが、秋子が許可しなかった。
「ねぇ、七瀬さん大丈夫かな?」
「分からないわ。でも北川君がついているから大丈夫でしょ?」
「……そうだと良いね」
今頃、北川と瑠奈の2人は最前列に並んでいる事であろう。
北川と瑠奈が居るであろう方向を見てから、名雪と香里は顔を見合わせてため息を吐く。
瑠奈は最後に牧田を見ていてしかも殆ど見殺しの状態にしてしまったのだ。
その為にショックも大きい。初めて聞いた時は瑠奈は派手に取り乱した。
今は北川が横についているので幾分落ち着いてはいるが、それでもまだ泣いている。
北川もショックが大きい。父や兄同然に慕っていた人がいきなり亡くなったのだ。
ショックを受けない方がおかしい。それでも顔に出さずに、瑠奈の横に居た。
そして、2人も大丈夫なわけではない。でも、まだましな方だった。
葬儀が始まり、献花が始まる。
名雪と香里の晩が回ってきて一輪の花を手に前に進む。
花と祈りを捧げる。
「……」
「……うそつき……」
香里の独り言は名雪には聞こえなかったようだ。
元の席に戻ろうとした所で、名雪は先に行ってというジェスチャーを香里に示した。
それにしたがって香里は元の席に戻る。
「あの……美樹さん……」
最前列の一番先に牧田の妻の美樹とまだ幼い娘の姫が居る。
その2人と名雪は顔見知りだった。牧田に何度か2人の目の前で自慢された事がある。
その時、美樹は顔を赤くして照れ、姫は向日葵のような笑顔を見せて笑って居たのを覚えている。
名雪はどう声をかけて良いか分からなかった。
姫は何故ここに居るか解らないような仕草をしている。
「名雪さん……あの人のために、わざわざありがとうございます……」
一方、美樹は目は腫れていて、真っ赤だった。
多分寝ていなくて、一晩泣き明かしたんだっと名雪は思った。
「私だって……何も出来ませんでした……この位の事しか出来なくて……ごめんなさい」
「気にするなという方が無理だと思いますが……名雪さん達のせいではありませんでしょ?」
美樹は無理に微笑んで見せる。
それが痛々しくて、名雪は俯く。
服の裾を引っ張られて姫と目が合った。
「ねぇ、お姉ちゃん……お父さんはいつ帰ってくるの?」
「……」
名雪は固まった。どう答えて良いか解らない。
「ねぇ、お母さんに聞いても教えてくれないの……お父さん何処に行ったの?」
美樹の方を向く。美樹はただ首を横に振るだけだった。
「あのね、姫ちゃん。牧田さんはね、遠い所に行っちゃったの」
「遠い所?」
「うん……お仕事でね」
「いつ帰ってくるの?」
人の死を理解できない子の無邪気な問が痛かった。
「姫ちゃんがいい子にしてたらきっと帰ってきてくれるよ。だって牧田さん優しいから」
「うん、姫、いい子にしてお父さんが帰ってくるの待ってる!」
無邪気な微笑み。名雪は泣きそうになるのを堪えて、微笑んで姫の頭を撫でた。
「うん。牧田さんは必ず帰ってくるから……良い子にして無いと駄目だよ」
「うん!」
元気よく返事をする姫。
「美樹さん……失礼します……」
その場に居られなくなって丁寧に礼をした後に元の席の戻った。
名雪を見送った後に、美樹は姫を抱きしめて泣き始めた。
「お母さん……なんで泣いてるの? 痛いところがあるの?」
美樹は泣き続けて、姫はそんな母親の頭を撫で続けた。
To the next stage
あとがき
とりあえず、これにて大きな戦闘は終りました。むぅ……って思うくらい延びてます。
もっと纏めないといけないなぁって思うのですが、どうにもなりませんでした。
切った部分もかなり中途半端ですし。今回はこれが切るにはちょうど良い部分だったんです。
あーもう、言い訳はしません。これからも頑張りますのでこれからもよろしくお願いします。ゆーろでした
管理人の感想
ゆーろさんからSSを頂きました。
栞とあゆの危機感が足りないと思うのは私だけでしょうか?
いくら味方とはいえ丸腰、しかも1人で出て行くのは……。
確認してから外に出るべきじゃないかなぁ、と思いました。
栞が闘った1機ですが、どこから現れたんでしょう?
いきなり出現したように見えたんですが……。
栞も全然驚いてなさそうだったので、多分正規の手段で現れたんでしょうけど。
あゆが狙撃したやつが中にいたんでしょうかね?
牧田氏の死は、中々に辛いですね。
犠牲は戦争につきものとはいえ。
しかし全体的に見て、人的被害が全然無いのが気になります。
栞やあゆを捕虜にすれば情報も引き出せようモノなのに、久瀬の狙いはどこなんでしょうか。
感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。
感想はBBSメール(yu_ro_clock@hotmail.com)まで。(ウイルス対策につき、@全角)