合同葬儀からの帰り。
名雪は香里と分かれてから、祐一を探していた。
自分でもどうかしているっと名雪は思う。
祐一が居るであろう場所の見当はついている。
そこへ名雪は真っ直ぐに足を向けた。
案の定、祐一は自宅で端末に向かっていた。
「祐一……」
その名雪の声に祐一が画面から名雪に視線を移した。
目の下にくまが出来き、目が真っ赤な祐一を見て名雪は次の言葉が継げない。
「どうした?」
不思議そうに椅子から立ち上がって、名雪のほうに向かって歩いてくる。
「何していたの?」
「猿飛のチェックと調整だ……牧田さんはもう居ないからな……」
どこか、寂しそうな自嘲を浮かべた笑みをする祐一。
(あぁ、祐一も私と同じなんだね……)
それを見て名雪は感情が溢れて、抑えられなくなる。
見る見るうちに涙が目尻に溜まって来た。
「ねぇ、祐一、泣いても良いかな……」
そう言うが早いか、祐一の胸を借りるのが早いか。
名雪は祐一の胸に顔を埋めて泣き始めた。
そんな名雪に祐一は困惑していたが、やがて諦めたように言う。
「あぁ、好きなだけ泣いて良いぞ」
その声に名雪が少し泣き止んで弱弱しく反応する。
「……返事しなくて良いから、聞いてくれるかな……」
少し、考えるような仕草を祐一は取った。
「…………解った」
「……私ね、祐一が無事だったって聞いてものすごく安心したんだよ。私って酷いよね。無事じゃない人がいるのに……」
祐一はただ黙ってその言葉に耳を傾ける。
「私、嘘ついちゃったよ……牧田さんの子に……」
「……」
「お父さんは遠い所に行ったんだって……必ず帰ってくるって……私、嘘ついちゃった……」
「……」
「……酷いよね……許してもらえないよね……辛くて、顔もあわせないよ……」
顔を見ようと祐一が動こうとする。
名雪が祐一に回している手の力を強めてそれを拒否した。
「……名雪」
「……今の顔見ないで。私、酷い顔してるから……だからもう少しこのままで良いよね?」
「あぁ、今は泣けるだけ、泣きたいだけ、泣いておけ……」
「……ごめんね……泣き終わったらいつもの私になるから…………もう少しこのままで………」
「……」
祐一は、名雪が泣き終わるまで、その場にずっといた。
結局名雪が泣き疲れて眠ってしまうまでそれは続く事になる。
祐一は名雪を抱えたまま、名雪の部屋に運びベットに名雪を寝かせた。
(俺は……無力だ……)
名雪は祐一の右手が硬く握り締められている事に気が付かずに。
その手から血が滲んでいる事に気が付かずに。
名雪はそのまま眠っていた。
祐一は名雪はぐっすり寝ている事を確認してから部屋を出て格納庫に向けて歩き始めた。
その頃、秋子は軍本部に召集されていた。
一室の会議室の中央にはエリアMの軍総司令が座っていた。
人の良さそうな初老の男、それが堀江総司令だ。真っ白の髪で、穏やかな目をしている。
どこかの縁側でお茶を啜っていそうな雰囲気を纏っている。
秋子はその対面の席で静かに、秋子の地区の警備隊の司令達が入ってくるのを待っていた。
「遅れて申し訳ありません!」
秋子たちの居る地域担当の警備隊司令の五木が入ってくる。
その後ろに、副司令の長山が続く。
じろりと五木が秋子を睨んだ。
「さて、役者が揃ったので、報告を聞きたいと思う」
堀江総司令の目に鋭さが宿り、人の良さそうな雰囲気は吹き飛んだ。
「では、正式な被害状況、そして敵の情報を、三浦君」
「はっ」
堀江の横で佇んでいた男が口を開く。
五木は何故、それらの事を当事者に聞かないのかという顔をした。
「被害は甚大です。特に警備隊の被害は酷いものです。こちらの図を見てください」
プロジェクターから、被害を受けた箇所などの書き込まれた地図が映し出された。
想像以上の被害が出た事がそれを見ただけで分かる。
堀江は目を細めて、それを見ているだけだった。
「敵は確認されているだけで、35機。そのうち破壊したのは自爆も含め11機」
三浦は画像を切り換えて、敵をどのように破壊したか、どのように味方は破壊されたかを説明していく。
五木の隣に居る、副司令の長山は改めてショックを受けたみたいだった。
何せ、軍を構成しているNドールの4分の1をほぼ失ってしまったのだから。
三浦の説明は滔々と進んでいった。
「五木司令。何か間違いはありますか?」
一通り、説明の終わった三浦が確認の為に五木に意味ありげな視線をよこす。
「……有りません」
「では、テロリストから警告があったことはご存知ですか?」
「そんなものは有りませんでした!」
「ほっほっほ……嘘はいかんなぁ」
堀江が静かに笑う。しかし、目は笑っていなかった。
すぃっと三浦に仕草を一つ送り三浦が続ける。
「結論からいいますと、五木司令が緘口令を敷いたことまでこちらは知っています。情報部をなめないでください」
「っな?」
「それと、特殊部隊の責任だと喚き回っている者は全て捕縛させていただきました」
「ここまで来て、言い訳が有るかね? 五木君」
「……」
君には失望したと言う感じで首を振る堀江。
ため息を盛大についた後に、冷たい目線を五木に送った。
それがつぃっと横にスライドする。
「君を拘束させてもらう。それと長山君。君もだ」
「何故です! 理由を! 理由を説明していただきたい!」
「長山副司令……貴方も、五木司令と同じ理由です。シラを通しても無駄です。捕らえられた人が口を割ってくれました」
「さて、こういうわけじゃ。2人にはご退場願おう」
「ですから、二人は拘束させていただきます」
三浦のその言葉に五木が噛み付いた。
「何故だ!!」
「五木君……あまり私を怒らせないでくれたまえ」
「私には明確な罪が無いはずだ!!」
「明確な? これは面白い事を言いますね」
「そうです! 私にも無いはずです!」
「ふむ……ここまで腐っとるとは……情けない。綱紀粛正が必要じゃな」
「あなた方が、情報を握り潰した事を罪だとは思わないのですか? それでどれだけ被害を出したかも理解できないのですか?」
「貴様らは何か勘違いをしておるかも知れぬが……我々はこのエリアを護る為に存在している。それを忘れてはいかん」
手をパンパンと叩いて外に待機していた兵士を会議室に呼び込む。
「言い訳は後で聞こうかの。では、2人を拘束して外に連れ出してくれんかな」
兵士達は2人を連れて部屋を出て行った。
五木は激しく抵抗していて、長山は抵抗していなかった。
「申し訳ありません……」
秋子の一言目はそれだった。
「ほっほっほ。秋子君の所はよく善戦した、あの戦力差と情報の無い状態で良く持ちこたえたものだ」
「準備の時間があればまた結果は違ってきたでしょうしね」
「後、かなり気になることが有るのです。私の隊員が接触したkanonの……」
秋子は栞とあゆが接触した状況を説明する。
その時、回収した入所許可証に栞のデジタルカメラの画像の入ったディスクを三浦に渡した。
「この入所許可証は……複製された物ではありませんね……」
「ふむ、ではこれを手引きした者が居るのかも知れんのぅ」
「山路比叡という人物についても、ちょっと問い合わせてみます」
「あの……」
秋子はここで申し訳無さそうに口を開いた。
「では、秋子君の苦慮している点を聞こうかの?」
「何か、有るのですか?」
秋子は今の部隊の状態、構成を説明し始めた。
特に、相沢一家にかなり依存している事を中心に。
説明が終わった後に堀江は顔を顰めた。
「むぅ……あのやんちゃ娘が来ておるのか……」
そう言って、困ったように頬を掻いた。
「姉さんを知っているのですか?」
「それは置いておいてだな、警備隊はこれより大幅な編成をかける」
「特殊部隊には物資の補給後、通常任務に加えて、夜間にあの研究所の警備についてもらいたいのです」
「……何故ですか?」
三浦はプロジェクターの画像を切り換えて説明を開始する。
「今回の失態は警備隊の落ち度のせいです」
「戦力の分散が無ければ、防げたと?」
「そこまでは言いませんが、今回のような持ち場を離れるような失態を犯す事はあなたの部隊では無いでしょう」
三浦は苦笑しながら、堀江のほうを向く。
「あそこまで練度が低いのはわしも驚いておる」
「警備隊を編成しなおして、まともな人間を頭に添えて巧く運営できるまで頼みたいのです」
「……わかりました。あの、七瀬少尉を私の部隊に配属してもらいたいのですが」
「三浦君、その手はずを取ってくれたまえ」
「では、本日付で特殊部隊に配属という辞令を出します」
「理由は聞かないのですか?」
「ほっほっほ、Hドールを操れる人間は多いに越した事は無い。このエリアでは適性のある人間が出にくいのだからな」
「ありがとうございます」
正式にではないものの、瑠奈を引き抜いていた秋子はこれにほっとしていた。
「では、任務に戻ってくれたまえ」
「はい、失礼します」
そう言って、秋子は一礼をして部屋を出て行った。
「ふむ……あのやんちゃ娘が何をしでかすやら……」
「どうしますか? 監視をつけますか?」
困ったように眉間に皺を作る堀江。
「判断に迷うわい……あやつに関わると火傷では済まんのでなぁ……」
「とりあえず、このエリアに居る間にだけでも監視しましょう」
「……良いだろう。頼んだよ」
そういって、堀江は三浦が出て行く姿を眺めていた。
その頃、祐一は格納庫で猿飛の調子を見ていた。
「すいません、我侭を言っちゃて」
「なに、牧田さんの敵を取る為だろ?」
「出来れば……ですけどね」
知り合いのメカニックたちに追加装甲のカラーリングを赤に塗装しなおすように頼んでいたのだ。
それと平行して、ある物の調達を頼んでいる。
「このことは皆には秘密にしてください」
「……どうしてだ?」
「だって無茶するからに決まってるじゃないですか」
手の空いたメカニック達が代わる代わる祐一の会話に相づちを打つ。
「あぁ、分かってるよな。牧田さんのためだ」
両手を赤の塗料で真っ赤にしていた一人が手を振ってそれに答える。
「もちろんだ……牧田さんは……」
「牧田さんの為に、大きな送り火を打ち上げてあげたいからですけど、途中で止められるわけには行きませんから……」
「任せておけ……俺達の気持ちは一つだ」
「ありがとうございます……」
祐一の肩をばしばし叩いてからそれぞれの作業に戻るメカニックたち。
「ところで、調達する物資はどうするんだ?」
「ここに持ってきてもらえませんか?」
「……大将が何をするか聞かないが、言う通り用意するぞ?」
「お願いします」
「なに、牧田さんのためだ」
「えぇ、新聞を楽しみにしていてください」
「……あまり期待しないで待っているよ」
慌しく、動き回るメカニックたち。
その動きには鬼気迫るものがあった。
メカニック達も知っている、YA−04、ベルセルクが奪われた事を。
そして、その為に牧田が巻き込まれた事を。
「すいません、塗装が終わったらばれない様に物資と同じ場所まで佐助の状態で持って行ってもらえないですか?」
「分かった。大将は今の内に最終チェックをしておいてくれ」
「はい、ありがとうございます」
祐一が一通り指示を出し終えてから、猿飛のデータを映している端末まで歩いていく。
「俺は……やっぱり無力だな……」
その独り言は誰にも聞かれないはずだった。
香里が隣に来ていることに気が付かなければ。
「相沢君が無力なら、私は何なのかしらね?」
「香里?」
祐一は香里に気付かれないように舌打ちをする。
自分がもっと気を周囲に配っていたらこんな事にならなかったであろう事に対して、自分を戒めるために。
そして、自分の疲れを呪った。何故こんな事にも気が付かなかったのかと。
「あなたの自分だけに責任があるって言う考え方は私を不快にさせるわ」
「……だってそうだろ? あのとき「ストップ」」
砂を噛み締めるような顔で反論する祐一に手をつきつける香里。
「その考え方が不快にさせるのよ。あなたはそのときの最善を尽くしたわ。褒められこそすれ、責められる事は無いはずよ」
「でも現に被害者が出ているじゃないか!」
「確かに、起こった事を見て反省する事は必要よ。でもね」
香里は祐一の顔を両腕で挟んだ。そして祐一の顔をかなり近い距離で睨む。
「私達は神じゃないし、出来る、出来ない事がある。その時の事を今、悔やむくらいなら、次の被害者を出さない事を考えなさい!」
祐一は目を見開いて驚いている。
そして感じて驚いていた、香里と祐一は違う『性質』を持った人間なのだと。
香里は真剣に祐一の目を見つめながら話し続ける。
「私だって、悔やまないわけ無いじゃない! 悔しいわよ! でも、起きてしまった事はしょうがないの!」
「香里……」
「だから、そのためにも次の人を出さないために私達は次を考えなくちゃいけないのよ! 助けられなかった人達の為に!」
香里はぼろぼろ涙を零しながら祐一に訴え続ける。
祐一は香里が羨ましかった。
自分の目はどんなに悲しくても涙すら流れてくれないのに。
自分とそして他人の事で涙を流す事の出来る香里が羨ましいと。
「私だって悔しいわよ! あのときの何も出来なかった自分自身が! 逃げる事しか出来なかった自分自身が!」
「……」
「後悔してるのはあなただけじゃないのよ! 自分だけが悪かったなんて間違ってる! みんなで考えなきゃならないのよ!」
「……ごめんな香里、だから、もう泣かないでくれ」
「あなただけじゃないんだから! こんな辛い想いを抱いているのは!」
「……」
「何で沢山の人を助けたあなたが一番辛そうなのよ! 間違ってるわ!」
祐一はボロボロと涙を零す香里を優しく抱きとめた。
香里の顔を見ていられなかったからである。
もし、その顔で、その表情で、これ以上言われたら自分が耐え切れない。
その痛みは、自分の弱い心を打崩してしまうであろうと。
そんな事は露知らず、香里は祐一の胸をポカポカと両腕で殴り始めた。
「悪かった。もう俺一人だけじゃないんだな、周りにはこんなにも暖かい人達がいる」
祐一はいつか秋子に言われた事を思い出していた。
あの時も、祐一は同じような事をしてもらったような気がする。
あの時も、他人の心は温かかった。
「後ろを向いていつまでも悔やんでいるあなたを見ているのはもっと辛いんだから! だからもっと前を見てよ! お願いだから!」
「わかったよ香里。だから泣き止んでくれ。せっかくの綺麗な顔が台無しだ」
香里も気がつかなかった。
祐一の右手が硬く握られている事を。
その手から血が滲んでいる事を。
その事がより一層、祐一の『本質』を追い詰めている事に気が付いていない事を香里も名雪も気がついていない。
「……はぁ、私ももっと落ち着かないとね……」
「香里、北川と七瀬さんの機体を使って瓦礫をどかしたらいいんじゃないか?」
「え?」
いきなり話が変わったので、香里は戸惑った。
「アテナはもしかしたら使えるかもしれないだろ?」
「そうね……ありがとう、相沢君。思いつかなかったわ」
「こんな時は体を動かしていた方が良いからな」
困ったような笑みを浮かべる祐一。
「ふふ、そうね」
この場には居ない北川たちの協力を取り付けようと香里は出て行く。
それを見送った後に、祐一は佐助の足元に居たメカニックに近づいた。
「この後、頼んでいいですか?」
「チェックが終わっているなら、任せられる」
「ではこのことは絶対に俺以外に漏らさないでください」
「分かってるさ」
「では、後の事はよろしく頼みました」
祐一も行動を開始していた。
祐一が自分の部屋の扉を開けようとしたとき。
「なに!? それは本当か!?」
そんな大声が聞こえてきた。
なにやら有夏が電話に向かって大声で叫んでいる。
「分かった。では、私と……祐夏は先にエリアOに行っている。調べ物が終わり次第そっちで合流だ」
電話の声に驚いて出てきた祐夏と祐一の目が合った。
(なんだ? 何か有ったのか?)
(さっきから電話してたみたいだけど、祐夏にも分からないよ……)
アイコンタクト。伊達に、兄妹を長年やっているだけの事はある。
2人がそんな事をしているとは露知らず、有夏は話し続けていた。
「場所は、ONE本社社長室だな? 分かった。ではまたな」
がちゃんっと電話を置いて一言。
「祐一、何をたくらんでいる」
まるでそこに祐一がいることが分かっているような感じで有夏が言った。
「母さんこそ」
「祐一、隠し事は良くないぞ」
「母さんだって」
苦笑を浮かべて祐一がテーブルに着く。
有夏はその対面に、祐夏は祐一と有夏に挟まれるようにその側面に座った。
「まずは、祐一から話せ」
「分かった、企んでいる事は奪われたベルセルクの破壊だ」
「どうしてだ?」
「あの機体は兄さんたちを殺したから……では駄目かな?」
「……良いだろう」
「母さんはベルセルクに発信機をつけているだろ? どこに有るか分かっているはずだ」
祐夏はその言葉に驚き、有夏は不敵に微笑んだ。
祐一はそんな反応を見ないまま、地図を広げる。
「お母さん! そんな事してたの!?」
「祐夏、相沢家家訓、その14条だろ? 母さん?」
「そうだ」
「……14条? 不測の事態に備えて出来る事をしておく事? でも、今回の件と、どう関係があるの?」
「ベルセルクいや、YAタイプが標的になっていることは判っていたからな」
「万が一、奪われた時に場所が分かるようにしたんだろ? 母さん」
「そうだ、そしてその点はここで止まっている」
広げられた地図の一点で有夏の手が止まっている。
「その位置なら十分射程の範囲内だ」
「射程距離だと?」
「母さん、エリアを襲撃した連中が何故カタパルトの途中に架かってる橋を破壊したと思う?」
「なるほどな……」
「祐夏にはさっぱりだよ! ちゃんと説明してよ」
2人だけで会話が進んでいくのが癪なのか、祐夏が声を上げる。
「いろいろな考え方が出来るが、一つに拠点がカタパルトの線路の近くにある可能性」
「もしくは重要な拠点か、重大な弱点がカタパルトの直線上にある」
「橋を落とす事でカタパルトを使えなくしたって事なのかな?」
「そう、事実、ベルセルクはカタパルトの近くで発信機が反応しているからね」
「この事を考えれば、拠点が直接襲撃を受けかねないからな。保険の為に橋を落としたんだろ」
「それで、お兄ちゃんはどんな事を考えてるの? カタパルトはもう使えないでしょ?」
祐一は説明を始める。概要はこうだ。
まず、破壊された橋付近にスロープを作っておく。
佐助と大量の爆薬を搭載した箱をカタパルトで加速。
その後、作られたスロープから打ち出されて空から、その場所を襲撃する。
これの有利な点は、敵はカタパルトをもう使っては来ないと信じ込んでいる事で虚を付く事が出来る。
そして、空から直接攻撃を加えることで地上のセンサーの類には引っかからない。
ただし、神風特攻なのが最大の欠点だった。
「お兄ちゃん……もしかして祐夏が口ずさんでた歌から?」
「お? よく分かったな」
「むー……」
「祐一、成功率は?」
「俺が単独で仕掛けるなら、考えるだけで98%」
有夏が、考え込むように腕を組む。
「止めても無駄だな?」
「母さんの頼みでもね。あの機体は絶対に壊さないといけない」
「そうか、ならスロープの件は私が手配しておこう」
「ありがとう、それで母さん達は何か有ったのか?」
自分の話が終わったので祐一は有夏達の話に移るように促した。
「問題という問題ではないが、私の標的が見つかったらしい。それで、祐夏をつれてエリアOに行くつもりだ」
「お母さん! 祐夏は聞いてないよ!!」
「当たり前だ、言っていない。が、決定事項だ」
「むー……分かった……」
有夏は電話に番号を打ち込み始める。
祐一はそれを見つつ自分の部屋に戻り、荷物をまとめ始めた。
祐夏も同じように自分の部屋に戻って荷物をまとめる。
1時間後、3人はテーブルの同じ位置に座っていた。
「祐一、手配は済んだ。それでこのように打ち出せば、しっかり目標の上に着くという話だ」
そんな事を言いつつ、有夏は祐一に紙を渡す。
そこには有夏の手書きで多分電話で会話をしていたであろう事が書いてある。
「ありがとう母さん」
「それでは、祐一。『宵』と『猿飛』及び『阿修羅』の設計図とデータを寄越せ」
「ん? 何に使うんだ? 母さん」
「ちょっと由紀子の手を借りるんでな。ちょっとした代金みたいな物だ」
「分かったよ、母さん。設計図と稼動データ、そしてマニュアルでいいのか?」
「あぁ、そこまでつけてくれるとありがたい」
祐一は自分の部屋に戻ってごそごそと何かをいじり始めた。
そしてすぐに出てくる。
手に持っていたは、かなり分厚い本とディスクが9枚だった。
「この本が宵のマニュアルで、ディスクにはそれぞれ設計図と稼動データ、欠点の改善方法になってるから」
「あぁ、助かる」
祐一から渡された物を自分の鞄に詰める有夏。
「では、ここからは別行動だが、そうだな……祐一に私の夫に送ってやった言葉を送ってやろう」
コホンと一度、咳払いをしてから祐一を真剣に見詰める有夏。
祐夏と祐一はそれを真剣に聞こうと、祐一は有夏を見詰め返し、祐夏はゴクリとつばを飲んだ。
「死ぬ事は許さない、例えどんな事があろうとも……」
有夏の目にはどんな感情が渦巻いているか祐一には読み取る事は出来ない。
「もし、お前の理想を自ら折ることがあるなら、その前に私が全身全霊を持ってへし折ってやる……以上だ」
真剣な言葉、祐一はそれを受け取って一息、吸い込んだ。
「分かってるよ、母さん。俺は、折れるつもりもないし、死ぬつもりも無いよ」
「祐一、もし私よりも先に死のうものなら地獄の果てまで追ってやるからな」
「お兄ちゃん! 祐夏もだからね!」
「あぁ、絶対に死にはしない」
三人は拳を作って、こつんと互いにぶつけあう。
「祐夏、準備は出来てるな?」
「うん、出来てるよ。お母さん!」
「では行くぞ」
「うん!」
二人はそのまま部屋を出て行く。
祐一は部屋に一礼をしてからそこを後にした。
To the next stage
あとがき
とりあえず、これ以降は当分の間、今までのメンバーは出てこないと思います。
もしかすると、報告的みたいな感じで断片的に出てくるかもしれませんが、断言できないのが申し訳ないです。
次から中心が佐祐理さんや舞さんたちに移ります。そのはずです。これも断言できないですけど……
では、ここまで読んでいただいてありがとうございました。これからもよろしくお願いしますね。ゆーろでした。
管理人の感想
ゆーろさんからSSを頂きました。
敵討ちですか。
戦争では必ずついて回る問題ですね。
誰かがどこかで許さないと永遠に収まらないという……。
まぁ私も漢牧田さんの敵討ちは賛成すべきところですが。(ぉぃ
ベルセルクには発信機。
どうせなら遠隔操作の自爆装置をつけたら良いんじゃないかなぁ、と思う私はダメなのか……。
確かにそれじゃ面白くないんですがね。
今回は敵討ちがメインなので、結局ベルセルクが破壊されても祐一は向かうんでしょう。
祐一がどう佐祐理や舞と関わるか気になるところです。
感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。
感想はBBSメール(yu_ro_clock@hotmail.com)まで。(ウイルス対策につき、@全角)