〜俺に敗北は許されない。それは死を意味することだから。切り捨ててしまった兄さん達の為にも、自分のためにも〜
相沢祐一、機体に乗り込みながら思ったこと。


〜相沢のやつ! やってくれる! 畜生! 格好つけやがって!〜
北川潤、新聞記事を握り締めて。


〜あぅ〜……こんなとき、祐一ならどんなことするんだろ?〜
沢渡真琴、罠に引っかかって。









  
 
神の居ないこの世界で


→おおきな大きな送り火をかの人に。心より感謝と謝罪を込めて。















 静かな夜中にとどろく轟音。

 そう、真夜中のその衝撃と音に対応できたのはその当人以外に誰も居なかった。

 大きな塊が空いや、天井を突き破ってYA−04の上に落ちてきたのだ、誰も想像だにしていなかっただろう。



「母さんも! ドンピシャで真上でなくても良いだろうに!!」



 祐一はそんな独り言をこぼしながら、佐助を操作して爆薬の点火装置に火を入れる。

 タイマーが作動して、5:00という表示が現れた。

 塊から飛び出たのは、ひしゃげて変形した真っ赤な装甲をまとった佐助。

 それは脇目もふらずに、外に繋がっているであろう通路に向かって走り出した。



「柳! 壱次! 奴を追いかけろ! 破壊してでも中のパイロットを捕まえるんだ!」



 その場に居合わせた久瀬は状況を理解できないが、指示を飛ばした。

 斉藤はその言葉よりも早くマリオネットを起動させている。

 そして、柳は久瀬の言葉に弾かれたようにマリオネットを起動させた。

 斉藤が武器を手に取っている間に、柳はそのまま空手で出て行った。

 柳の後を後を追うように斉藤が続く。



「残りメンバーは手分けをして、そいつを退かせ!」



 久瀬が機体に乗り込んで塊を退かそうとするが、地面にめり込んだそれはびくともしない。



「大尉! 爆薬が仕掛けられています! 爆破まで約3分!」



 それを確認したのは、たまたま機体の整備中の隊員だった。

 もし気付かなかったら、そのまま巻き込まれていたのかもしれない。



「くそ! 現時点を持ってこの建物を廃棄! 全員、退避しろ!」



 その判断は正しかったとしか言いようが無い。

 久瀬が最後に半地下から脱出したと同時に大きな爆音と衝撃が外に出たメンバーを襲ったからだ。

 もし、判断が遅れていたら巻き込まれていたではすまないだろう。

 一方、祐一を追いかけていた柳と斉藤は、どんどんと引き離されていく事に苛立ちを隠せないでいた。

 既に半地下から飛び出て、近くの森の中に入っている。

 ひったくる様にして持ってきた武器の片方を柳に渡して銃撃を加えていた。

 しかし、真っ赤な機体は後ろに目がついているのでは無いのかと思うくらいに当らない。

 ふっと、視界から赤い機体が消えた。



「くそ!」

『逃さない!』



 視界から消えたのは、急な方向転換のせいだ。

 足元の雪の乱れ具合から、その方向を辿る。

 真っ赤な機体が、そこに跪いていた。

 嫌な予感がする斉藤、柳は捕まえようと前に出ようとしてる。

 そんな柳の機体を引っつかんで自分の機体と共に無理やりでも地に伏せさせた。



『……自爆は、お家芸でな』



 それと同時に通信が入った一瞬後、その真っ赤な機体がおおきな光を発して爆発する。

 耳がキィーンと痛くなる爆音。

 爆発が収まった後、柳が通信を入れてきた。

 2人とも、ようやく目が暗闇に、耳が無音に慣れたところだった。



『……斉藤さん、ありがとうございます』

「いや、良い。俺達が無事じゃなかったら圭一が悲しむからな」



 憮然とした柳の声に、硬い声しか返せない斉藤。

 2人とも今の状況に歯噛みをしている。



『……久瀬大尉に何と言えば良いでしょうか……』

「死人に口無しだ。ありのままで良いだろう」



 吐き捨てるように言い放つ斉藤。苛立ちは隠す事は出来ない。

 まだ燃えている、爆発していた辺りを見ながら二人は呆然と立っているしかなかった。





















▲▽  ▲▽  ▲▽  ▲▽  ▲▽
 その頃祐一は、痕跡を残さないように雪の跡を巧妙に隠しながら森の中を走っていた。  ひしゃげた形をした装甲だったのは、無理やり爆薬を佐助に積み込んでいたからであった。 「ふぅ、引っかかってくれたみたいだな」  わざわざ、目立つ赤色の装甲にしてきたのは2つほど理由がある。  一つ目が目立つ色ということだ。  しかし目立つ色でも暗闇の中では辺りに溶け込みやすい色でもある。  赤い装甲のお陰であれが追加装甲部分だけという事に気が付かれなかった。  自爆したのは、追加装甲部分に仕掛けた爆薬だけで中身は無傷も良い所。  これが第一の理由。  二つ目は、犯行声明を出しやすい事。  赤は、AYAのイメージカラーである。  赤い機体が、自爆、そして偽の犯行声明が出れば本人達は嘘だと分かるだろうが世間ではAYAがやったと警察を牽制できる。  初動の捜査で、全く見当違いのところを捜査するわけになる訳だ。  これが第二の理由。 「ここら辺で良いな」  爆発地点から、かなり離れた場所で猿飛を止める。  猿飛のコクピットの下辺りからアウトドア用品を引っ張り出した。  それを引っ張り出した後に、祐一は猿飛を雪の中に埋め始めた。  そして、その上にテントを張り始める。  10分程度でテントは出来き、首を回しながらテントの外に出てきた。 「さて、警戒のために簡単な罠でも仕掛けるか」  そんな事を言ってテントから離れた。
▲▽  ▲▽  ▲▽  ▲▽  ▲▽
 あの爆発は翌日の記事の一面トップに持ってこられていた。  前日にエリアMの襲撃に続いて、エリアKも襲撃されたという感じでだ。  大体の記事の内容が、協力し合ったテロリスト達が仲間割れをしたと書かれている。  佐祐理はそんな記事をため息をつきながら読んでいた。 「ふぅ……何だか複雑な気分ですね」  久瀬が破壊すると言っていたYAタイプの機体は何故かこちらのエリアに持ち帰られていた。 (しかし、誰だか知らないですが、やってくれましたね……)  その事を知って、詰問しに行こうとした矢先にあの爆発である。  たまたま、その時間帯は格納庫で機体のメンテナンスをしていたので疑われなかったが、疑われてもしょうがない展開だった。  しかも、AYAの活動は当分出来ない。  当分は情報収集に精を出すしかないとちょっと悔しくなっていた。 (真っ赤な機体が自爆……間違っても私の部隊の人間がするわけないじゃないですか……)  でも、自爆してしまった人には気の毒かもしれないが、感謝してもいいかもしれないなんて思っている。 (これで、また一つYAの技術の塊がなくなりました)  少しだけ唇が歪む。それに気がついて佐祐理は顔の表情を引き締めた。  結果がともあれ、目的が果たせたのには間違いは無い。  こんこんっと部屋の扉が叩かれる音。 「入ってください」 「……佐祐理、何のよう?」  舞と美汐そして真琴が佐祐理の部屋に入ってくる。  佐祐理はその三人に今まで目を通していた記事を見せた。 「この記事を見ましたか?」 「……見た」 「はい」 「あぅ? なにそれ?」  3者3様の返事で、特に真琴の返事でちょっとした頭痛を感じる佐祐理だった。  ため息をつきたいのをぐっと堪えて、先に話を続けようとする。 「美汐さん、後で説明してください。それで2組に分かれて自爆した周辺の調査を行ないます」 「組み分けはどうするのですか? って聞くだけ野暮かもしれませんね」 「そうですね。いつもの通りにしましょう」 「……担当地区は?」 「佐祐理と舞はその機体の周辺を、美汐さん達はその地区に人がいるか歩いて確認してください」 「分かりました。集合場所もしくは連絡はどうしますか? 「3時間後にいつもの場所でいいですか?」 「はい、了解しました。では、行きますよ。真琴」 「うん」  話を聞いていて出て行く2人。 「じゃあ、舞、行こっか」  それに頷いて、残った2人も行動を開始する。
▲▽  ▲▽  ▲▽  ▲▽  ▲▽
 美汐が、真琴に事件のを概要を説明しながら、その森を適当に歩いている。 「でも、美汐……この森に人なんているの?」 「雲を掴むような事ですが、居なかったら居ないで良いんですよ」 「そんなものなんだ」 ばさぁ!  足元から突然の音。  真琴はネットで吊り上げられてしまった。 「あぅ! 何なのよ! これ!」 「真琴!?」  ネットの中でもがく真琴に、それを見て慌ててその下へ行こうとする美汐。 ばっ!  美汐はロープが足に引っかかり、罠が発動。逆さ吊りになってしまう。  ネットの中でもがきながら、情けない声を上げる真琴。 「あぅ〜、美汐……」 「こんな酷い事無いでしょう……」  そしてから、からんからんと鳴子が鳴った。  真琴は心配そうに、必死に逆さ吊りの状態から抜け出そうとしている美汐を見ていた。 「さて、何が引っかかったかな」  鳴子の鳴った方向から現れたのは祐一だった。  真琴を見てあからさまにため息をつく。  そして、遠い目をして黄昏ていた。 「人間が引っかかっているなんて……あぁ、今晩も携帯食か……」 「あぁ! 祐一!」  ん? と言う感じで真琴の方を見る祐一。  祐一は何かを思い出すようにあごに手を当てた後に、手を叩いた。 「あぁ! 何処かで見た事あるかと思ったら……真琴? ……じゃないか?」 「あぅ……何でそう、自信が無さそうなのよぅ……」 「そう、久しぶりだな。元気にしてるか?」 「うん。真琴は元気なんだから!」 「そうか、それは良かった」 「あの、和んでいる所に申し訳ないのですが、これを解いてもらえないですか?」  美汐の存在を忘れていた真琴に、罠にかかっていたのは真琴だけだと思っていて祐一。  祐一はあきらかにビビっていた。  気を取り直して、考え込む。そして口を開いた。 「えーっと、あんたは確かミッシー。」 「人を変な名前で覚えないでください! 天野美汐です!」 「そうか、じゃあ、天野」 「はい?」 「パンツ見えてるぞ。」 「!!」  美汐の服装は下はスカートではなくズボンだった。  だからパンツなど見えるわけも無い。  耳まで真っ赤になって慌てる美汐をニヤニヤと笑いながら見る祐一。 「人として不出来です!」 「そんな事言うなよ。軽い冗談だろ?」  罠を外しながら、祐一は美汐と軽口のラリーを繰り返していた。  罠を外しきって、二人を地上に降ろしたところで祐一を先頭に歩き始める。 「ところで、何故相沢さんはこんな所にいるのですか?」 「趣味と実益を兼ねてかな?」 「……私は何故と聞いているのですが?」 「ちょっとこの近くに面白いものがあってな。それを調べに来たついでにキャンプを張りに来たという所」  これで満足か? という顔の祐一を横目に美汐は何か考えるしぐさをする。 「ねぇ、ねぇ、祐一は何であんなものを仕掛けてたの?」 「まぁ、趣味かな? 後は食料の確保とか」 「へぇ〜」 「ちなみに真琴が掛かったのが猪を捕らえる為のもので、天野が掛かってたのが兎を捕らえる為のものだ」 「あぅ!? 真琴は猪じゃないわよぅ!」  猪の罠に掛かったと知って憤慨する真琴。  祐一はそれを苦笑しつつ、わかっていると返した。 「ところで、面白いものって何? それって面白いの?」 「真琴には面白いかどうか判らないな。何せ野生の生活をするんだから」  あまり大きくないテントが目の前に現れた。 「ここで生活してるんだ。真琴には耐えられるか?」 「あぅ……ちょっと無理かも」  そのままテントに入って、中から手招きをする祐一。  真琴と美汐は誘われるがままに中に入っていく。 「ちょっと待っていてくれ、何か飲み物を出すから」  薄暗いテントの中は意外に広くて、中には寝袋に簡易のテーブルと椅子が2脚あった。  仕切りがあってその奥で祐一が何かをしているらしい。甘い香りが漂い始めた。 「口に合うか判らないが、どうぞ」  祐一はコップを2つ持って二人の前に現れる。  それをそれぞれの前に置いた。それはココアだった。 「いただきます!」  真琴は遠慮無くそれに手を伸ばして口をつける。  あちっと唇を離してから、コップを両手で包み込みながらふーふーと息をかけて冷ましに入った。  お茶請けは無いが我慢してくれと言う感じの表情で祐一が仕切りの奥から出てくる。 「ありがとうございます。ところでこれはどうやって沸かしたんですか?」 「あぁ、発電用の水素発電機があるんだ」 「そんな高価な物を持ってきているのですか?」  信じられないという感じで祐一を見る美汐。  祐一は苦笑して、そんな高価なものではないよっと手を振った。  実際に使用しているのは、猿飛の水素エンジンなのだから、口には出来ない。  確かに高価かもしれないが、ドールのエネルギーを流用しているだけである。 「その代わり、燃費がかなり悪いんだ。後で水素燃料を何処かに買いに行かないとな……」 「すいませんが、もう一つ質問していいですか?」 「ん? まぁ、一つ位なら良いぞ」 「昨日何か変な音が聞こえませんでしたか?」 「音?」  うーんと何かを考えるように、眉間に手を当てる祐一。  そして何かを思い出したように手を打った。 「あぁ、昨日の寝袋に入ってから花火のような音がしたな」 「何時くらいでしたか? 方向は?」 「おいおい……そんな事を聞いてどうするんだ? 何か事件でもあったのか?」 「相沢さんは、事件を知らないのですか?」  美汐は祐一に事件の概要を説明する。  幸せそうにちびちびココアを飲む真琴を横目に祐一の表情を慎重に観察しながら説明を続けた。  話し終わって祐一が口を開いた。 「と言われてもなぁ……寝袋に入ってから時計も見ていないし半分夢の中だったからな」    その言葉と今までの表情から、納得せざる終えない美汐。  嘘はついていないとしか判断できない。  それほど祐一の表情は、嘘の痕跡が無かったと判断するしかないくらい普通だった。 「そうですね、協力感謝します」 「あ、そうだ。その感謝の代わりにこの後、町を案内してくれないか?」 「何故ですか?」 「ちょっと手持ちの食料と燃料が怪しくなってきたからな。頼めるか?」 「町までの案内でいいのなら出来ます」  ここでようやく、ココアを飲みきって幸せ顔の真琴が初めて口を開いた。 「どうして、案内できないの?」 「約束の時間まで町に戻ったら、ぎりぎりです」 「あぅ……そうだった」 「まぁ、町まで案内してくれれば、後は自分で探すさ」 「そう言って貰えると、助かります」  美汐は少しさめたココアを一気に飲み込んでから渋い顔をした。 「口に合わなかったか?」 「いえ、こんなに美味しいのならもっと味わいながら飲めばよかったです……」 「じゃあ、行こ!」  そんな渋い顔の美汐の手を引っ張りながら、真琴は外に出る。  真琴に引きずられるように外に出る美汐。  祐一は苦笑しつつ手早くコップを片付けて、その二人の後を追った。  そのまま、町まで歩く事になる。 「相沢さん、あの板はどうしたのですか?」 「板? あぁ、もしかしてあのホバーボードの事か?」 「それがあれば楽に移動できるじゃない!」 「真琴……この森の中で走ったら簡単に事故るぞ……」  祐一は真琴を見て苦笑した。 「まぁ、あれはちょっと忘れてきたんだ」 「便利そうなのに……」 「まぁ、こんな中で生活するつもりだったから別にあってもなぁ?」  そんな感じの事を美汐に同意を求める。 「確かに町の中では役に立つでしょうけど、こんな中では逆に危ないですね」 「だろ? あれって結構整備された所じゃないと危なっかしいんだよな」  概ね町に到着するまでそんな感じのことをはなしていた。 「では、相沢さん。ここで失礼します」 「祐一、またね!」 「あぁ、ここまでありがとな、まこぴーにみっしー」 「変な名前で呼ばないでください!」 「真琴はまこぴーじゃないわよ!」 「あぁ、真琴に天野。またな」  ものすごい形相をする2人を背に祐一は2人と分かれた。  人に道を聞きながら、町の商店街らしき所を歩く。  まずは、軽く食料を見るために商店街のお店を見る。 「お? これはいいな」  なんて独り言をこぼしながらちゃんと買い物をしていく。  人々の顔がエリアMと違って何処と無く穏やかだ。  それは、テロリストに襲われるか襲われないかの違いだろうが、それは何も知らない住民にとっては大きい事だろう。  有事に慣れてしまったエリアMの住民と有事を知らないエリアKの住民。  その違いが如実に現れている。  そんな事を祐一は思っていた。  食料関係の買い物を一通り済ませて次は、町工場の場所を尋ねて歩く。  道に迷うたびに人に聞き、その方向へ向けて歩く。 (全く、地図を知らないとすぐにこれだ)  いい加減、気が滅入ってきた時だった。 「あなたが、相沢祐一さんですね?」  後ろからいきなり肩を叩かれて、声をかけられたのは。 「えーっと、あなたは?」  おおきなリボンで、髪を止めて人懐っこそうな笑みを浮かべている女の人。  そして、その後ろで髪をポニーテールにして同じくリボンで止めて無表情で立っている女の人。  そんな人が祐一の後ろに立っていた。 「まずは御礼をしないといけませんね。美汐さんと真琴がお世話になりました。」  真琴と美汐と言われて、多分その2人の上司であろうと見当をつける。  でも、何故自分を知っているか解らないし、わざわざ上司がお礼を言いに歩き回るはずかないと祐一は困惑していた。 「いえいえ、どういたしまして。それであなたは?」 「私に見覚えがありませんか?」  この言葉に一層困惑を強める祐一。 「あの、話が見えないのですが……」  相手の表情豊かな女性が悲しそうな顔を作る。 「冗談ですよね?」 「冗談に見えますか?」 「あはは〜……はぁ……」  明らかな落胆の顔。祐一は何故こんな顔をされるのか解らない。  話が良く見えなくて困惑し通しだった。 「あ、あの?」 「あなたのお姉さんの倉田佐祐理ですよ!」 「はぁ!?」  驚きも驚きだ。絶対に有り得ないだろうって顔で祐一は困惑をしている。    佐祐理の目に苛立ちの色が灯る。  その後ろの舞の目には呆れの色が灯っていた。 「その顔疑ってますね!?」 「だってそれはありえないですよ?」 「え?」  それは、何故って言う顔で祐一の顔を見る佐祐理。  何でそんなに驚いてるかなって顔で見返す祐一。 「俺は生まれも育ちもとある施設ですから……」 「育ちはともかく! 生まれはそんなはず有りません!」  感情を押えきれなくなったのか、祐一の襟首を掴んで前後に大きく揺らす佐祐理。  更に困惑を通り越して狼狽の色を顔に浮かべる祐一だった。 「ともかく、今、自分のIDを見せますから」  苦し紛れに自分の身分を知らせるIDを出す。 「そんな偽物、信じられません!」  見せる前にばっさりと信じられないと言われて、祐一はIDカードを元のポケットの位置に戻した。  そして、援護を佐祐理の後ろの舞に求めるように視線をさ迷わせる。 「えぇーっと、そっちの人も何か言ってくれ……」 「……私は舞。」  自己紹介か? っという感じで、先ほどとは別の困惑の色を浮かべる祐一。  どうやら、舞は『そっちの人』と言われたのが気に食わないようだった。 「舞さんからも何か言ってくれ」 「舞」  佐祐理に襟首を掴まれていい加減苦しくなってくる。  舞は舞で、舞さんと呼ばれるのが嫌だったらしい。 「……舞さんからも何か言ってくれ」 「舞」  祐一が折れた。 「…………舞からも何か言ってくれ」 「佐祐理、この人が困ってる」  ようやく満足したように、舞が祐一のして欲しい事をしてくれる。  祐一は祐一で『この人』と呼ばれるのが気に食わない。  ちゃっかり、訂正させる。 「祐一」 「……佐祐理、祐一が困ってる」  強要したのだから、しょうがないと言う感じのかなり嫌そうな表情で舞は言い直した。 「実の姉を無視して……舞とは仲が良いんですねぇ……」  フルフルと、手に力が入り始め震えている佐祐理。  顔が俯いていて、表情は見えない。  その声に舞は顔の色を無くすほど恐怖し、祐一は首がさらに絞まってくる力に辟易した。  祐一の視界の端っこに、白い靄がかかり始めている。 「苦、苦しい……」 「あ、ごめんなさい!」  佐祐理が、今、自分が何をしているかに気が付いて慌てて、手を離した。  祐一は前かがみになって両手を自分の膝につき、大きく深呼吸をする。  そして、何で俺がこんな目に合わないといけないんだと言う感じで一杯一杯になっていた。 「あはは〜」 「佐祐理、やりすぎ……」  頭に大きな汗マークを浮かべて、誤魔化すように微笑む佐祐理。  舞は呆れ顔でそれを見詰め、祐一はそれ所ではなかった。 「そう! そこまで言うなら、調べてみれば良いんです! それではっきりします!」  誤魔化すような大声で、祐一に向かって話した。 「……それはDNA検査みたいな物か?」  ようやく落ち着いてきて、佐祐理に向き返す。  もう誤魔化されてやるっと結構投げやりな感じになっていた。 「そうですね。髪の毛か血液を少しもらえませんか?」 「髪の毛なら……」  ぷちっと前髪を2、3本抜いて佐祐理に手渡す。  佐祐理はハンカチを取り出してそれを大切に包んだ。 「それじゃあ楽しみにして待っていてくださいね」 「分かりました。俺は逃げも隠れもしません。テントにいますから結果が出たら来て下さい」 「テント?」 「あぁ、天野か、真琴に聞けば分かりますよ」  ようやく解放されたという感じの祐一。  そこで、2人は祐一と別れたのだった。 To the next stage
 あとがき  何だか、展開が急なような気がしましたが、こんな感じで後半が始まりました。どうもゆーろです。  多分後半だと思います。佐祐理さん達の出会いもこんな感じで。真琴さんと美汐さんとはすでに顔見知りですし。  最初の部分はかなり端折りました。なぜなら書いてて自分でも訳がわからなくなったからです。  ことごとく自分の駄目さ加減が良く解りました。それではこれからもよろしくお願いしますね。ゆーろでした。

管理人の感想


 ゆーろさんからSSを頂きました。  私の不徳で掲載が遅れて申し訳ないことです。
 初っ端から頑張る祐一。  台詞や行動が某MSパイロットに……。  任務了解なのか?(爆
 罠にかかった真琴と美汐。  抜けてると言えばその通りなんでしょうが、まぁ普通罠あるなんて思わないでしょうしねぇ。  食料にされなかっただけマシかも。
 その後佐祐理さんとの初顔合わせですが、彼女暴走しすぎ。(苦笑  弟が生きてたらさぞかし重度のブラコンだったんだろうなぁ。


 感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。

 感想はBBSメール(yu_ro_clock@hotmail.com)まで。(ウイルス対策につき、@全角)