窓の付いていないホールのような場所。
天井の高さもあり、それ自体がかなり広い。
ドールが10機位、暴れてもお釣りが来る様な広さだ。
その真ん中にぽつんと一つ、手に何かの本と杖を持った天使らしきものの像がある。
光が届かないはずの窓の無いホール。
太陽の光が幾重にも絡まって、その像を照らしていた。
光は、いたる所から反射され、屈折されてその像を照らしているようである。
よほど、高度に設計されている建物だった。
「柳は、この場所を見てどう思う?」
そこに居るのは、久瀬圭一と柳皇子の2人だけ。
もし像を一人と数えるならば、3人だと数えるだろう。
柳は、久瀬の質問に対して眉を顰めた。
そして、何かを考え、迷った挙句に口を開く。
「久瀬大尉はどう感じていらっしゃるのですか?」
「私は……そうだな、美しいと感じる」
「ならば、美しいのでしょう」
久瀬の答えに間髪を入れずに、言葉を返した柳。
「……フフフ、そうか」
久瀬は寂しげな笑みを浮かべて像に背を向ける。
しかし、柳の位置からはその表情は見えない。
そのため柳は言葉の響きから機嫌を損ねたかとちょっとしょんぼりした顔をしていた。
「戻るぞ柳。忙しくなる」
「はい。何処までもお供します」
「あぁ、頼りにしてる」
「はい!」
久瀬はそのままドールさえも入れそうな大きな通路からその場を後にした。
柳はその久瀬の後を慌てる様に追っていく。
(久瀬大尉の力になれる)
そう思いながら、幸せそうな顔をして。
▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽
エリアMの特殊部隊の隊長室から大きな声での口論が聞こえてくる。
それはあの事件が起った翌日の事だ。
「だって! 絶対に祐一が行ったんだよ!? 何で、帰ってきてないの!? 何でそんなに冷静でいられるの!?」
「落ち着きなさい! 名雪。何故、祐一さんだと言い切れるのですか?」
「じゃあ、あれを起こしたのは誰なのかお母さんは、分かっているの!?」
秋子としてもあれを起こしたのは何となく祐一ではないかと思っている。
しかし、決定的な証拠がない限り、断定してしまうわけにはいかない。
隊長室に用があり、扉をノックしようとしていた香里はそれを聞いて何度目かになるため息を吐いた。
『あの時にこうすれば』はもう考えないようにしている。
次を考えて行動しないと、それで行動の引き金を引いてしまったであろう自分が許せなくなる。
あの祐一に言っておいて、自分がそれを行なわないのは酷い裏切りに思えたからだ。
あの事件を起こしたのは祐一だと香里もそう思っている。
ただ、名雪と違うのは口には出していないだけだ。確信が有る訳でもなかった。
なら、行動するしかない。
「でも!?」
「焦って祐一さんが帰ってくるなら私だって焦ります! 状況はそうじゃないでしょ? 落ち着きなさい。そこからよ」
事件、主に祐一に関しての口論はまだ続いている。
(名雪は……当分駄目ね)
香里の心の冷めた部分が冷静に判断を下していた。
あの事件に対して、あまりに感情的になりすぎている。
確かに、あの事件がもし祐一が起こしたとしたら、香里の思う全ての疑問の辻褄は合う。
しかし、香里にはそれを確かめる術は無い。
祐一は表向きには、有夏につれられてエリアOに向かった事になっている。
名雪は名雪の情報網で多分あの事件を祐一が起こしたという確証を得たのであろう。
(……メカニックの人に聞いても何も教えてはくれないし)
最近になってパイロット達とメカニック達に温度差のような物が出来てしまった。
原因は分かっている。メカニックたちの中心に居た人物を失った事。
そして、それに対して何もアクションを起こせない部隊に苛立ちを感じている事。
その2つが温度差の原因だろう。
今は少しの違和感だが、一つ間違えると修復不可能な物になってしまいそうなデリケートな物になっている。
危険を冒してまで、聞けるものではなかった。
もし、聞いたとしたら、絶対に行動を起こさなくては成らない。
起こさなければ、修復不能な関係の出来上がりだ。
「……解ったよ。」
がちゃりと、隊長室の扉が開いて、かなり疲れた顔の名雪が出てきた。
香里をみてちょっと驚いた顔をする。
「名雪、ちょっと頼みたい事があるんだけど」
「……何かな?」
その目には生気が無い。香里は心の中でため息を吐く。
ここまで駄目になっているとは、思っていなかったのだ。
「このディスクを解析してそのデータを入院してる、栞に渡して欲しいの」
「そんなの初めから栞ちゃんに頼めばいいじゃない……」
投げやりに香里の頼みごとを断る名雪。
香里は名雪を見てから2度の目のため息を心の中で吐いた。
「栞には栞の仕事を頼んであるのよ。それに、相沢君の残した猿飛の整備データだとしても?」
え? っと行った感じで、名雪の目に生気が戻り始める。
「どういうこと?」
「相沢君、端末借りてたでしょ? でもその端末は見つからない。でも、部屋には一枚ディスクが残ってたのね」
「それ本当!?」
「中身は暗号だらけ。でも、それらしきデータではあるわ」
その言葉に嬉しそうな顔をする名雪。
しかし、すぐに俯いてしまった。
その口から発せられる声は震えていて、しかも弱弱しい。
「香里は強いね……そんなに冷静に居られるなんて。私、羨ましいよ」
「私だって不安でつぶれそうよ……こんな気持ちは初めてかもしれないわ」
「え? でも香里……」
「名雪、もしかして甘えてるの? 私が強い? 面白い事、言ってくれるわね。ただ強がっているだけよ」
「香里?」
「私が動けるならとっくの当に動いてるわ! でも、私はここを動けない」
香里のその表情には苦渋の色が浮かんでいた。
名雪はその顔を見て羨望の眼差しを送る。
「やっぱり、香里は強いよ。私は駄目だね……」
「私は強いんじゃないの。強くなろうとしてるの。名雪はそのままで良いの?」
「……私だって。香里には負けないよ。このディスクちょっと借りるね」
そう言って、名雪はディスクを受け取り、その場を後にする。
香里も、秋子にあゆの退院と栞の長期入院の報告を行いにいった。
▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽
祐一から髪の毛を受け取ってから、およそ1週間。
佐祐理の部屋から大声が聞こえてきた。
「なんですって!」
隣の部屋に居た舞は顔を顰める。
部屋と部屋の壁の厚さはかなり有り、その壁と壁の間には防音の素材が挟まれているはずである。
手抜き工事か、それとも、ものすごく大きな声を佐祐理が発したかのどちらかであった。
「その結果は……」
その声まで聞こえて、残り言葉が聞こえなくなってきた。
ちょっと心配になった舞は、隣の部屋に行くことにして机の上で製作していた報告書の手を止めた。
そっと部屋を出て、佐祐理の居る部屋に行く。
「……」
佐祐理はその部屋の真ん中で感情を全て落としたように呆然と立っている。
舞の姿を認めた、誰かが、後は頼みますと言ってそそくさと、その場をあとにした。
「……佐祐理?」
「………………酷いよね……弟だって思ってた人が全くの別人なんて……」
祐一の調べられる事を調べたのだろう。
レポートのように纏まられた、情報の束にある祐一の写真のふちをくるくると指でなぞりながら佐祐理は答える。
やはりその声は、感情の抜け落ちたような声だった。
「何でなの? 佐祐理が悪いの?」
「……佐祐理」
「一弥だと思ったのに……思ったのにぃ!!」
その場に崩れ落ちて、わぁっと泣き出す佐祐理。
(慰める事も出来ない……私じゃ一弥の代わりにはなれないから……)
舞はどうする事も出来ずに、レポートの束に手を出していた。
(私もあの男が、佐祐理の弟だったら良かったのに……もしかしたら、私の弟なのかもしれない……)
確認するべき事が出来てしまった、そう感じていた。
調べて解った情報の束に目を走らせる。
(この情報はあまり当てにならない……でも、何かの揺さぶりの材料になるかも……)
特に目の止まる場所は無い。
でも、その情報を暗記する勢いで読み漁っていく。
その情報の束の最後のページはDNA検査の結果だった。
それは悲しいくらいに、他人を指している。
このページを見て、佐祐理は叫んだのだろう。
気が付けば佐祐理は泣き止み、舞の正面に立っていた。
「……舞、ちょっと出かけてきます」
「……解った。気をつけて」
「うん」
目を腫らして、寂しい笑みを浮かべて外に出て行く佐祐理を引き止めるなんて事は出来ない。
行きたい場所も多分判る。舞は、ため息を吐いた。
そして気が付かれない様に後を追う。
▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽
名雪と秋子の口論の件からある程度、日にちのたったある日。
「あれ? 美坂、どうしたんだ?」
「何しているんですか?」
「あ、北川君に七瀬さん。ちょうど良い所に着たわね」
場所はシミュレーター室。香里は設定を行える席についていた。
後ろを振り返らずに、手を止めずに画面に目を走らせる。
声だけで、2人が来たと感じて会話を始めた。
「この前の襲撃で、Hドールの部隊と戦う怖さを知ったじゃない」
「……あぁそうだな」
「そうですね……」
2人ともすぐに反応をしてくる。
「痛感したのは、私たちの技量不足と、連携不足」
「そうは言っても、あの状況じゃあしょうがないぜ」
「そうね。でも、言い訳していいのかしら?」
「……そんな事は分かってる。していいはずが無い」
「そうですね……」
香里は肯定しか出来ない瑠奈の声を聞いていて、ちょっと可笑しく思う。
まだ、部隊の雰囲気に慣れていないのだからしょうがないわねって自己完結をしていたりする。
「そうそう、今、あゆちゃんがそのデータと戦っているわ」
言われて二人の目は、大きめのモニターに釘付けになった。
そこにはあゆのエンジェリックが佐助を相手に一方的な攻撃を受けている。
1対1のはずだが、佐助のスピードに全くと言って対応できていないエンジェリックがそこにはいた。
そんな2人の様子に気が付かないまま、香里はもくもくと設定を続けていく。
「それ用にシミュレーターでの仮想敵の設定をしているの。これでね」
左手に持たれたディスクをひらひらと動かしながら残った手で設定を続ける。
「これは?」
ディスクを引っ手繰る様にして奪ってそれを確認する北川に瑠奈。
「相沢君のデータよ。相沢君は全部、自分で整備から調整までやっていたんだけど……」
ぱん! と良い音がする。設定が終わったようだ。
そして、席から振り返りつつ、事情を説明し始める。
「これで終りね。話は戻るけど、そのデータが彼の部屋に残っていたの。今、栞と名雪がああでしょ?」
苦笑いを浮かべて、北川と瑠奈に確認を取る。
「気が紛れるように名雪に相沢君のディスクを預けて、データの抽出を頼んだのね。それで、出てきたデータがこれ」
大きめのモニターに映されている佐助を指差した。
「それは解ったけど……これでどうするんだ?」
「仮想敵を相沢さんにするのですか?」
「その通りっと言っても入院している栞に頼んで敵の機体パターンを数パターン作ってもらったから猿飛だけが相手じゃないわ」
ポケットの中から紙を取り出して2人に見せる。
そこには栞の文字で、シミュレーターの機体に使われる武器と機体。
その、それぞれに祐一のデータがどれが合うかという考えが濃縮されていた。
「シミュレーターにも、相沢君の操作記録が残っていたからね。案外簡単に済んだみたいよ」
「確かに、あいつの技能は異常だからな……」
「だから、訓練になるんじゃない。相沢君の反応速度、行動パターンなどのパラメータをパターンにはめ込んで……」
「全員が『相沢』の小隊を相手に訓練をするわけか……それは伸びるわ」
「そう、それが目的。隊長にも許可は取ってあるわ」
複雑な笑顔を浮かべる北川。
その顔を見て首をかしげる瑠奈。
瑠奈は祐一がどんなパイロットなのかも知らない。
だから、北川の浮かべている表情の意味が解らなかった。
「かなりシビアな訓練になりそうだな……」
「現状を見ると私たちのレベルアップは急務のはずよ」
「そうですね。私はやりますよ」
「じゃぁ、俺も……気が進まないけど」
こうして、敵データ『相沢祐一』で訓練が始まったのだった。
▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽
祐一の居るテント。
鳴子が何処からとも無く、鳴る。
「……祐一さんはいらっしゃいますか?」
「あぁ、中に居ますよ。入ってきてください」
中で何かをいじっている祐一。
その手を止めて佐祐理の方へ振り向いた。
佐祐理はまるで借りてきた猫のように小さくなっている。
「何か用ですか、佐祐理さん」
「まずは、謝らないといけません……DNA検査の結果、私と貴方は赤の他人でした」
「そうですか」
怯えるように、祐一の目を見ながら話す佐祐理。
その目には、どんな感情をも読み取って対応しないと、と言う感じの怯えが入っていた。
佐祐理の目に苦笑する祐一。
「それだけの為に、来たのですか? 何か相談でも?」
「え?」
他に何か考えが有って来た訳ではなかった佐祐理この問いに狼狽の色を見せた。
「あ、あはは〜。祐一さんの顔を見に来ました」
誤魔化しの笑顔を見せて、笑う佐祐理。
「そ、そうですか」
そんな相手にどんな反応をすれば良いか解らない祐一。
はっきり言って困りきってしまった。
「あの迷惑でなければ、祐一さんの事を聞かせてください……」
「そんな事で良いのでしたら」
祐一は有夏に引き取られてからの思い出を話す。
それ以前のことはこの場には相応しくないし、もう一人に後で確認しないといけない事だった。
そう、外で気配を殺して、聞き耳を立てているもう一人に。
佐祐理は祐一の顔を見ながら、その話を興味深そうに聞いている。
話の途中で祐一は、何気なく自分の頬を掻いた。
「あっ……」
「ん? どうしましたか?」
「いえ、その仕草も一弥がしていたものですから……」
無理に笑顔を作って、祐一に顔を向ける。
「……大丈夫ですか?」
「えぇ、大丈夫です」
怪しむ素振りを見せる祐一に、もう一度笑顔を見せて佐祐理は祐一の疑念を払おうとする。
ぽた、ぽた。
何かが滴り落ちる音。
「では、何で泣いているんですか?」
「え?」
今まで、自分が泣いているとは自覚していなかった佐祐理は手を自分の頬に伸ばす。
確かに自分の頬は濡れている。
頬から伝ってあごへ、そして、そこから簡易のテーブルの上へ涙は伝いそして落ちていた。
「ごめんなさい……祐一さんを通して、一弥を見てました……」
佐祐理は泣きながら、自分の感情を抑えながら、搾り出すように何とか言葉を紡ぐ事が出来た。
「それは、俺に対しても、弟さんに対しても、失礼な事だとわかってますか?」
「……分かってます。でも、それでも……」
「分かってるならいいんです。責めるつもりは有りませんから……」
佐祐理は自分の感情を抑えるのに必死で祐一がどんな気持ちをしているのか読み取る事は出来ない。
佐祐理が感情を押さえ込むのに必死になればなるほど、目から涙はあふれてくる。
祐一は佐祐理に対して一瞬、羨望の眼差しを送ってから、表情を元に戻した。
「すいません、すいません」
まるで呪詛のように『スイマセン』を連呼する佐祐理。
祐一はため息をついた。
心の中で、倉田一弥と言う存在に謝る。これから貴方の存在を少し借りますと言いながら。
「おちついてください、姉さん」
「……一弥?」
ぽかんとした目で、祐一を見る佐祐理。
祐一は佐祐理の目をしっかりと見返す。
「…………一弥……一弥!」
祐一の胸を借りて泣きじゃくる佐祐理。
佐祐理は祐一の胸にすっぽりと納まって、祐一はそのままされるがままにさせていた。
「姉さん、何か辛い事があったの?」
泣きじゃくる佐祐理をそのままにさせて、次の言葉を考える。
(さて、踏み行って良い領域じゃないな。これ以上は……)
次の言葉、それに困ってしまう。「相談してよ」とは言えない。
なにせ、まだ知り合ってから少ししか経っていないからだ。
祐一は互いに踏み込めるのは心の表面だけだろうと考えている。
「言いたくないなら言わなくても良いよ……でも、人は一人じゃないから。だからそれを忘れないで」
「……あのね、一弥」
祐一の服に顔を押し付けて、祐一には聞こえないように配慮しながらたまった感情を吐き出していく。
例え誰に聞こえないとしても、口にした言葉が増えれば増えるほど、心が落ち着いていく。
(砕けてしまいそうなの……佐祐理は頑張っているの……認めてとは言わない)
続く言葉は果てしない。
(悪いことだってしっているの……でも、そうしないと心が持たないの……助けて欲しい)
周りに舞達が居るとはいえ、佐祐理を取り巻く環境は寂しすぎる。
(一弥でもお父様でもお母様でも良いの……佐祐理に微笑んでくれれば良いの……それで救われるから)
一度溢れてしまった感情を吐き出しきるまでそれは続いた。
(舞達のお陰で今まで持ってるの……寂しい、会いたい、会って話がしたいの……佐祐理頑張るから)
祐一は佐祐理が気の済むまで体を貸している。
言葉にはなっていない音を聞きながら時折頭を撫でる。
その位しか、祐一に出来る事は無かった。
「すいません、もう大丈夫です。祐一さん」
「良かった……こちらこそ、すいません」
「いえ、お礼を言わせてください。ありがとうございました」
佐祐理の浮かべる笑顔にちょっと赤面をする祐一。
佐祐理も同じように赤面していた。
「あ、あの……洋服は洗濯してお返しします……」
真っ赤になって俯きながら、祐一の服を指差す。
祐一は自分の服装を見て、大きく苦笑した。
「確かに……これは俺が洗濯するとちょっと問題ありそうですね」
「あ、あはは〜」
乾いた笑いが響く。
祐一の着ていたシャツは涙とも唾液とも鼻水とも取れる液体でびしょびしょになっていた。
「分かりました、ちょっと待っていてください」
そう言って祐一は仕切りの奥に消える。
佐祐理は居心地の悪そうに椅子に座ってきょろきょろしていた。
少ししてから祐一が紙袋を持って出てきた。もちろん着替えている。
紙袋のロゴには商店街のとある商店のロゴが入っていた。
「じゃあ、お願いします」
「あの、祐一さんはこちらにどのくらい滞在されるのですか?」
佐祐理は紙袋の中身を確認しながら祐一に聞く。
「当分いますよ」
「そうですか……では、お借りします」
安堵の声を上げてから、きゅっと紙袋を抱きしめる。
「すっきりしました。祐一さん、また甘えても良いですか?」
「俺は別に構いません。でも今度甘える時は『俺』に甘えてください」
「そうですね、今日は恥ずかしいので、帰らせてもらいます」
「そうですか……悪いですけど、入り口で見送りだけです」
「では失礼しますね」
そう言って、佐祐理はテントの外に出て行った。
祐一はテントの入り口で佐祐理の後姿が見えなくなるまで見送っている。
途中、一度だけ佐祐理が振り向いて大きく手を振った。
祐一はそれに軽く手を振り返す。
佐祐理が完全に見えなくなってから軽く息を吸い込んだ。
「さてと……」
何かをするわけでもなく、いきなり愛用の回転拳銃を腰のホルスターから取り出す。
狙いを定めるわけでもなく、適当に見える動作でそれを発砲した。
ガン!
その乾いた音が成り終わって少ししてから祐一は静かに殺気を混ぜて声を発する。
「次は当てる。当たりたくなかったら、出てくるんだ」
その言葉に舞は両手を挙げて祐一の前に出てくる。
祐一の放った弾丸は舞のすぐ近くに着弾してたのだ。
舞でなくてもそんな事をされれば、誰だって出てくるだろう。
もっとも命が惜しくなければ、だが。
「やっぱり、舞さんいや、姉さん? それともGE−07と呼んだ方が良いかな?」
「……舞で良い」
「相変わらずだね。気配を消すのがへたくそだ」
「そっちこそ、相変わらず。GE−13? 祐一?」
「……祐一で良い」
祐一は舞の姿を認めるとすぐに拳銃をしまう。
そして、テントの中に入っていった。
舞は何をするわけでもなく、その場に立っている。
「話があるんだろ? 舞。中に入ってきな」
「……分かった」
祐一に言われるがままにテントの中に入る。
「さて、何が聞きたいのかな? 何故ここに居るのか? 他の生き残りは? それ以外?」
「……」
軽薄な笑みを浮かべる祐一に舞は口を閉じた。
そして、慎重に考える。
相手を刺激しない方法を、そして、佐祐理たちに危害が及ばない方法を。
祐一は舞を楽しそうに眺めた後に、考える舞に対して口を開いた。
「安心して良いよ。佐祐理さん達は関係ないから」
「……どういう事?」
「まぁ、軍の関係者だからあまり関係ないといったほうが良いな」
祐一はここで一旦言葉を区切った。
意味ありげに舞を見る。
「何?」
居心地の悪そうに身震いをしてから、祐一を睨み返した。
「まず、動いてるのは俺のみの単独だ。命令をする立場の人間はいない」
「えっ?」
「だから、舞達はあまり関係ない。それで安心だろ?」
そう言い切ってから祐一は舞に対して興味を失ったかのように端末を取り出してそれに何かを始めた。
舞はまるで自分が居ないかのように行動する祐一に恐怖を覚えると共に、何故が知りたくなった。
「何故を知ると舞は苦しむぞ。世の中には聞かなくてもいい事があるんだ」
言いたい事を先に言われてしまった舞は口をつぐむ。
聞いてしまうか、そのまま立ち去るか判断に迷う所だった。
To the next stage
あとがき
なんと言いますか……自分の限界を感じました。自分は書いてて面白いんです。
でも他の人が読んで楽しいかどうかは……ほとほと自己満足な作品ですね……
何だか最近ちょっとした事があってブルーなんです。自己嫌悪中です。こんな不愉快な事を書いてすいません。
ともかくここまで読んでいただいてありがとうございました! 次もよろしくお願いしますね!
管理人の感想
ゆーろさんからSSを頂きました。
同時掲載の2話目ですね。
尽くすなぁ柳さん。
その献身は既に信仰レベル。
久瀬君は彼女の事をどう思っているのか。
佐祐理さんの精神安定剤ですか祐一。
それを足がかりに軍の情報を。(卑怯者
舞と祐一の関係も気になるところですね。
SSは自己満足の発露なんで、それに文句言われても無視するのが吉でしょう。
代案もない否定なんかは痛痒もありません。
ま、聞く価値のある意見もありますけどね。
感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。
感想はBBSメール(yu_ro_clock@hotmail.com)まで。(ウイルス対策につき、@全角)