〜寒い夜は嫌いだ。心まで凍てつきそうになる〜
相沢祐一、月の下で。


〜……私の居場所は……祐一の隣しかもう無い……〜
川澄舞、祐一に付いて行くと決心して。


〜いやー、この世の中、面白い具合に出来てるわ。その提案面白いで〜
神尾晴子、祐一の電話を聞きニヤリとした笑みを浮かべながら。






  
 
神の居ないこの世界で


→心に、相沢祐一という名の鎧を着込んで。だから、俺は辛くない。











 吐く息さえ、凍りつきそうな夜。

 青白く光る月の下、吐く息がその冷たい空気に溶け込んでいく。

 まるで闇に身を包まれるような黒い服装の祐一がそこに存在していた。



(まるで、要塞のような警備。その病室には一歩も入れないという意思表示か?)



 中規模の病院の特別病棟の近くて、祐一は身を潜めている。

 近くと言っても、距離にして大分ある。

 双眼鏡で、警備の様子を観察していく。



(さすがに、ドールは配置していないが何かがおかしい)



 蟻の子を一匹も通さないような警備に、センサーの類。

 エリアの元首が命を狙われている時よりも高い警備の質に量。

 全く持って不可解だった。

 おかしな位に厳重。



(まるで、入られるのが困るみたいな感じだな)



 調べた限りでは、植物人間状態で目標は入院しているらしい。

 しかし、それにしてはおかしすぎる警備だろう。

 普通なら、こんなに大規模な警備は必要ないだろう。

 植物人間状態の人間に対して敷く警備では無い。



(さて、ここでじっとしていてもしょうがない。行くか)



 音もなく立ち上がって、祐一は闇に紛れるように歩き出した。

 警備の一番外側、暗がりの中で見回りをしている警備員の一人の背後について一撃で気絶をさせる。

 その拍子に倒れドサっという乾いた音がした。

 祐一は自分の手際の悪さに舌打ちをする。

 誰かが音に駆けつけてきた。



「おい、どうした?」

「雪に足をとられただけです。大丈夫ですから」



 祐一は咄嗟に口を軽く押さえて声色が判らなくなる様にして返事をする。

 相手は、返事をしている人間が違っている事に気がつかなかったみたいだった。

 

「そうか、ならすぐに戻れよ」

「わかりました」



 怪しくならないように気絶させ倒れた人を声のしたほうに自分が見えないように動かす。

 立ち上がろうとしているようにゆっくりと緩慢な動きで。



「先に行くぞ」

「申し訳ないです」



 その姿を見てもう一人は元の足取りで歩いていった。



(まったく、運が良かった)



 祐一は素早くその気絶させた人の衣服を剥ぎ取って自分の身に付け始める。

 その際に首にぶら下がっていた警備の身分証明書の写真の部分を上から自分の写真を重ねて貼り付けた。



(年齢が若い……新人か? なら余計ついている)



 祐一が着ていたコートを剥ぎ取った人の一番上に着せる。

 そして、装備品を確認してみる。

 伸縮する警棒に、スタンガン。流石に拳銃は装備していなかった。

 警備員の被っていた帽子を目深にかぶって一息入れた。



「う、うわぁ!」



 情けない悲鳴を上げる。



「わぁ! うわぁ!」



 続けてドンと、大きく地面を踏み込んだ。



「おい! どうした! 何か音がしたぞ!」



 先ほど先に行ったであろう誰かが戻ってきた。

 腰が抜けたように座り込み、歯をカチカチと鳴らして、倒れている人に恐怖の視線を送る。

 手には、スタンガンを装備する事も忘れない。



「い、いきなり!」

「侵入者か!?」

「い、いきなり、襲われたんです!」



 さも、襲われましたと言う感じで語尾を震わせる。

 そのために勘違いをしてくれたみたいだ。



「大丈夫か?」

「は、はい」

「いきなり撃たれなくて良かったな」

「そ、そんな怖い事、言わないでくださいよ……」



 あくまで臆病といった演技を続ける。

 駆けつけた人は良く見ると中年でベテランと言った風格を醸し出していた。

 少し安心したという感情を混ぜながらまだ震えは消さないで続ける。



「そ、それで、この人をどうするんですか?」

「お前、そんな事も忘れたのか?」

「す、すいません」

「まぁ、新人ならしょうがないだろうしな。コイツは病院横の保安室に放り込んで翌朝に警察に引渡しだ」



 幾分呆れた顔の警備員。

 無線を取り出して、何処かへと連絡し始めた。

 祐一が襲った人は無線機を持っていないことから、新人か下っ端だと判断される。

 もっとも、そちらの方が都合は良い訳だが。

 連絡が終わるのを待ってから話を切り出す。



「放り込んだ後は、また、僕は外の警備に戻らないといけないんですか?」

「そうだな……頼んで中の警備の奴と交代させてもらえるように頼んでやる。ただし」

「ただし?」

「今回だけだぞ」

「ありがとうございます!」



 深々と礼をして、表情を幾分和らげた。

 警備員が首に下げた身分証明書をじっと見ている。

 

「舟木か。お前、臆病だな」

「す、すいません」

「なに、そのうち慣れるさ」

「余り慣れたくないです……」



 笑いながら、気絶している人を担ぐ警備員。

 慌てて気絶している人の警備員から奪って担ぎ、警備員の言う保安室に急いだ。

 途中、センサーを解除し通り過ぎた後に再設定をする。

 監視カメラに合図を送るなど、それを何度か繰り返した。

 祐一は気絶した人間を背負っているので一切を相手に任せる。



(ここまで乗り込むのは至難だな。まったく、ついている)



 張り巡らされたセンサーの類や監視カメラの類を見てそんな感想を抱いた。
 
 向かう先、特別病棟の横に真新しい建物が建っている。

 それが保安室らしかった。



「お前は外で待ってろ」

「は、はい」

「そんなに怯えるな。別に取って食おうって訳じゃないんだから」

「はい」



 苦笑しながら警備員が中に入っていったのを見て、ドアの隙間から中をのぞき見る。

 どうやら、保安室というのは休憩室みたいだった。

 警備センサー関係のコントロールルームは別にあるんだと理解する。

 先ほど中に入っていった警備員が話をつけたのか外に出てきた。



「良かったな、交代してくれるそうだ。依頼人の近くの警備だから気を抜くなよ」

「あ、あの、自分が警備しても大丈夫なんですか?」

「ん? あぁ、大丈夫だ」



 本当に問題が無いと言った顔をするベテランらしき警備員。

 その一言の後にカードキーを手渡されて、困惑する振りをした。

 わかったらさっさと行けというジェスチャーをされて、特別病棟の中に入っていく。

 特別病棟には病室は一つしかない。

 代わりに幾重にも警備の扉があるが、それもお粗末にもカードキーが本物なら入れるような簡単な物だった。

 

(特別病棟に入るもしくは、近づくまでが大変みたいだな。それとカードキーが手に入ればその他はざるか)



 それだけ、人の入れ替わりが激しいという事なのだろうが、お粗末過ぎる。

 心の中で、祐一は感謝する。

 3枚目の扉をくぐった先に2人組みが扉の両サイドを固めていた。



「交代です」

「あぁ、臆病者の舟木君ね。では俺は休憩に入るよ」

「はい。お疲れ様です」



 カードキーを一歩前に出た警備員に渡して、右側の人が祐一と入れ替わりに扉の外に出て行く。

 居なくなった所に祐一が代わりに立った。



「あ、あの、何で僕が臆病者だって判ったんですか?」

「ん? あぁ、内線で交代を知らされたんだ。臆病者が交代をしたいってな」



 祐一の反対側に居る警備員が眠たそうな目を擦りながら、内線を指差す。

 壁に設置されたそれは、普通の電話機だった。



「そうなんですか?」

「おいおい、臆病者って認めるのか?」

「それについては否定はしないです。だって、本当に臆病ですから」



 その言葉が面白いのか、笑いが堪えられずに少し隣の人から笑いが漏れた。

 しばらくして笑いが収まったのか、声をかけてもらえる。



「そうか、そうか。笑ってすまないな」

「いえ、事実ですから」

「お前、面白い奴だな」



 時間が刻々と過ぎていく。

 その間は無言で、病室の前で立っているだけだった。



「さて、確認の時間か。舟木、中の様子を見てきてくれ」

「はい」



 忍び笑いらしきものを顔に含んで中を確認して来いという。

 その言葉に従って、久瀬圭吾が寝ているであろう病室に入った。

 窓もなく、蛍光灯の人工的な光のみが病室を包み込んでいる。

 その中央にただベットだけが置いてあった。

 医療器具らしき物はそのベット以外にない。



(ここには居ないのか? 何だこれは……人形じゃないか)



 中央のベットに寝ているのは精巧に作られた人形。

 久瀬圭吾本人はここには寝ていない。

 あまり時間をかけては拙いと判断して、一息を吸う。

 顔色の悪い演技をするために心の中を慌てさせた。



「あ、あ、あの……依頼主が居ないんですけど……」



 その声がさも可笑しいと言う感じで忍び笑いをする隣の警備員。

 もう少しで、腹を抱えて笑い出しそうだ。

 

「な、何で笑うんですか?」

「いや、お前の反応が面白くてな……すまない」



 警備員は少しの間、笑いを抑えるのが大変と言った感じで身をよじっている。

 その間にちょっと不機嫌ですと言った表情を作った。



「部屋の中央には何か居なかったか?」

「え? 人形が居ましたけど? あれが依頼主なんですか?」

「人形が依頼主じゃないのは確かだが、本物は別の所に居るって噂だ」



 あくまで噂だぞっと断ってから、警備員は続ける。

 思っても見ない情報に祐一は内心喜んだ。



「何でも身代わりをここに設置して、本物はkanonの工場に移されたという話だ」

「じゃぁ、ここの警備に意味はあまりないじゃないですか」

「いや有るんだな。この事が露見しないようにする為らしい」

「その割には、厳重すぎですよ」

「まぁ、お金持ち様のやる事は平民には理解できないと言ったことだろ」



 よく分からない仕事だがなっと言って苦笑する隣の警備員。

 会話が途切れて、ちょっと話題が続かなくなった時に内線が鳴った。

 隣の警備員がそれを受け取り、何度か頷いている。

 内線の受話器を置いて、こちらを向いた。



「舟木も今夜は上がりだろ? この後どうするんだ?」

「申し訳ないんですが、保安室で仮眠を取ってから帰ろうと思います」



 暗いうちは外を歩きたくないですからっと付け加えて弱く笑う。

 隣の警備員はその表情を見てまたも苦笑した。

 

「もうすぐ、交代が来る。まぁ、何だ。明るくなってからも注意して帰れよ」

「はい、ありがとうございます」



 交代の引継ぎをして、祐一は保安室に向かう。

 引継ぎの時間で今は幸い人はここには居なくなっていた。

 監視カメラの死角になっている所を選んで歩く。

 手早く牢屋みたいになっている所に入って、未だに気絶している人の自分のコートを剥ぎ取る。

 元の服装を着せて身分証明書に貼り付けた自分の写真を剥ぎ取った。

 自分の服装を整え深呼吸。

 そして窓を叩き割って、外に出る。

 警報やらが鳴ったが、特に気にせずに一目散に逃げた。



(収穫有りだな。ここには意味がない)



 そんな事を考えながら、森の中を走り抜けていく。

 どうやら追っ手を撒いたみたいだった。













▲▽  ▲▽  ▲▽  ▲▽  ▲▽
 祐一の拠点であるテントに戻ってくる。  祐一は、テントが視界に入った時点で眉を顰めた。  行きは灯りを消してきたはずなのに、その灯りが何故かついている。 (誰か居るのか? って考える事でもない)  慎重に、テントの中に居る人間を観察する。  相手が気がつかないように、そしていつ襲われても良いように姿勢を整えた。 (ん? あれは舞か?)  テントの中から、影絵のように特徴のあるシルエットが写っている。  間違えようもないシルエットだが、祐一は慎重にテントの入り口を開けた。  中に居たのはやはり舞だった。 「さて、何で舞がここに居るんだ?」 「……私も仇を討ちたいから」 「舞は関係ないだろ? それに守らなくちゃいけないものだってあるだろ?」  祐一は何を考えてるんだか。っと言った顔で大きなため息を吐いた。  しかし、舞は一歩もひるまない。 「……今の佐祐理に私は必要ない。だから私も行く」 「どうした、何かあったのか?」  舞はこれまでにあった事を詳しく説明した。  祐一は黙ってそれを聞いている。聞き終わってから祐一は口を開いた。 「舞はそれで満足なのか?」 「満足じゃない。でも……グシュグシュ……私は佐祐理に捨てられちゃった……ここにはもう居場所が無い……グシュ」  ようやく、いや、今になって舞の目に涙があふれてきた。  思い出したとか、そんなものではなく、今まで涙が出てこなかっただけだ。  佐祐理を苦しめないように。傷つけないように。  佐祐理の責任じゃないからっという舞の性格から出なかった涙が。 「グシュ、祐一、私を、グシュ、助けて、グシュ  佐祐理に、グシュ、捨てられた、グシュ、私は、グシュ  弱いから、グシュ、私に、グシュ」 「もう言わなくて良い。好きにしろ」  祐一のその一言に、舞は何も答えずに泣き続けた。  ありったけの悲しみを涙に。  ありったけの喜びを涙にして。  そこに鳴子の音が鳴り響く。  誰かが、テントに入ってきた。  誰かは佐祐理で、その顔は困惑に彩られている。  佐祐理の目は赤くはれ上がっていて、目も赤い。  泣きあかしていた事が良く分かった。 「何で……」  佐祐理は祐一の暮らすテントに押しかけて、その光景を見て固まった。  舞が、何故ここに居るのかと。  よりにもよって、祐一の隣に居るのかと。 「……佐祐理?」  固まっていたのは、舞も同じだった。  そんな二人を痛々しい顔で見る祐一。  先に口を開いたのは、佐祐理だった。 「何故、ここに居るの!?」 「……」 「相沢祐治に作られた兵器の癖に!!」  切りつける様な、厳しい声色。  祐一はその言葉に静かに反応する。  その内容を、言いたい事を痛いくらい分かっていてなお、静かに反応した。 「佐祐理さん、それはどういう事だ?」 「祐一さん……」  佐祐理は、思案したような顔になってから、舞が存在しないという雰囲気で祐一の方に振り向いた。  その佐祐理の纏った雰囲気が祐一には痛い。 「祐一さんはGEナンバーというのは知っていますか?」 「佐祐理さんそれはどこで?」 「佐祐理はちょっと頭の悪い女の子ですから」 「GEナンバーのことを知っているんだな?」 「……え?」  勢いだけで話していた佐祐理の勢いが殺される。  念を押すようにもう一度繰り返された後に、祐一はため息を吐いた。  困惑した佐祐理はただただ、それを見るしかない。  そして祐一は真剣な顔をして佐祐理に言った。 「俺も……GEナンバーだったんだ」 「嘘です……」 「佐祐理さんが、何を嫌がっているのかわからないが、これは事実だ」 「そんな冗談、言っても笑えませんよ?」  佐祐理の顔に浮かんだのは、怯えだった。  祐一の表情は変らない。  舞を問い詰めた時に見えた全く同じ表情。  それが何よりも証拠で、頭が混乱する。 「嘘です! 何で!?」  祐一に詰め寄る前に、体を反転させる。  事実だと感じ取った佐祐理はそのままテントから飛び出す。  一時も同じ所に居たくない。心というよりも体が、2人を拒否していた。 「後から……事実を告げて嫌われるよりも、今嫌われた方が良いよな?」  祐一は頭を掻きつつ、舞に話し掛けるのだった。  舞はそのまま祐一に抱きつき泣き続ける。  心の中で、巻き込んでごめんなさいと悔いる言葉を何度も繰り返しながら。  一方、佐祐理は泣きながら走っていた。  どんな顔になっているか自分が良く分かっていないだろう。  祐一と舞が、被害者なのは自分の理性で分かっている。  彼らが、いや、誰だって好きで理由無く、実験体にされている訳が無い。  でも、心のどこかで彼らを拒絶してしまっている。  心の何処かが、彼らを受け入れてはいけないと叫んでいる。 (もう遅いのに! 舞は私の家族だったのに!)  佐祐理の理性がそう叫んでいる。  でも、心の何処かで受け入れれない自分が居た。 (何で、舞に祐一さんなの!?)  疑問。何故なのか解らない。  でも、相容れない。相容れてはいけないって叫ぶ自分が居る。 (憎い……なんで祐一さんはこんなにも簡単に私の心の中に入り込んできたんです?)  憎かった。相沢祐治が。 (何で! 何で!? 何でなの!?)  憎かった。簡単に心の中に入り込んだ祐一という青年が。 (佐祐理が! 悪いというのですか!?)  憎かった。こんなにも心に入り込んでしまった人を拒絶しなくてはいけない自分が。  もう既に心の中は支離滅裂で、何を考えているのか本人である佐祐理にもわからない。  佐祐理は今は何も考えたくないと言った感じで走る。  ただただ、佐祐理は大きなものを失ってしまったのだっと、実感していた。  さて、テントに残された2人はテントを撤収する準備に入った。  舞は祐一に指示に従い器用にテントやらを畳んでいく。  その間、2人は無言だった。 「……終った」 「あぁ、そうだな」 「これからどうするの?」  不思議そうに祐一を見る舞。  祐一は舞の話が聞きたいといった風に向き合った。 「なぁ、舞はkanonの内情には詳しいのか?」 「そんなに詳しいわけじゃない」 「さすがに、理事長の体が何処の工場に運ばれたって言うのは解らないか……」 「久瀬?」  何故そんな事を聞くのか解らないといった感じの舞に祐一は敵が誰であるかを説明した。  その説明を聞かされていくうちに舞の顔色は悪くなっていく。  祐一は苦笑しながら、舞の緊張のようなものをほぐそうとしながら説明を続ける。 「ともかく、佐祐理さんがどんな行動を起こすにせよ、ここから離れないといけないな」 「……それはいえてる」  一通り説明を終えた祐一が舞に同意を求めた。  舞もそれを認めたが、疑問顔で荷物と祐一を見る。  祐一はなんでもないように雪の地面に手を突き入れた。  とたん甲高い水素エンジンの音が一面に響く。 「な、何?」 「あぁ、俺のドールを埋めてあるんだ」 「へ?」 「もしかして、俺が徒歩で来たと思ってたのか?」 「……ちょっと覚悟してた」 「そんなはず無いだろ」  コクピット回りの雪が溶けたのを見て、呆れ顔の祐一が猿飛に乗り込んだ。  舞は立ち上がる猿飛を見てあっと声を出す。  舞が見覚えのある、あの機体だったからだ。 「この機体……」  猿飛は片膝をついて、乗りやすいように降り易いようにしゃがみ込んだ。  そこから祐一が降りてくる。 「祐一がこの機体の搭乗者?」 「あぁ、それがどうした?」 「だから……」    祐一は良く解らないが、荷物を猿飛の足に縛り付けて固定させた。  その後、舞の頭を軽く小突いてコクピットの下の方のスペースを指す。 「え゛、もしかして私があそこに乗るの?」 「……嫌なら、別に手で運ぶって言う手も有るけどな」  Hドールのコクピットが狭い事は舞も良く知っている。  大型のガーディアンでも狭いのだから百も承知だった。  しかし、この真冬にドールの手で自分をバトンのようにして走られるのはもっと嫌である事には間違いない。  舞はしぶしぶ、猿飛のコクピットの中に入っていった。 「狭くて申し訳ないが、我慢してくれ」 「ん、判ってる」 「ところで、舞の機体は無いのか?」 「持ち出せそうに無い」 「そうか」  元々テントなどが積めてあったスペースに舞が入り込み、祐一が猿飛を操縦する。  まだ、狭いにしても入れるスペースがあることに舞は驚いていた。 「さて、工場を虱潰しに探していくのは効率的じゃない。何か心当たりは無いか?」 「無くは無い。久瀬圭吾の息子の圭一がよく行く工場がある」 「第一候補がそこか。そこは何処だ?」  舞がその近くの地名を口にすると猿飛は方向を修正した。 「さて、敵情視察をするとしますか?」 「あ……この機体だけだったら絶対にそこは落とせない」 「……もしかしてオートドールが居るのか?」 「うん、マリオネットプロジェクト、これは久瀬息子が進めているやつ、だけどそれの本拠地だから……」 「さて、どうしたものか……まずはどちらにしろ情報と舞の機体か……」  猿飛の足を止めて祐一は考え込んだ。  舞が、解っている限りの情報を言っていく。  朝日が昇る前に猿飛を隠さないといけない事も有った。 「しょうがない……エリアMの俺の機体を出すか」 「え? そんなコネがあるの?」 「相沢祐治の残した機体さ」  そう言って、猿飛をエリアMに向けて走らせた。  しかし、時間がかかるのが分かっていたので、ある程度走らせてから近くの町の近くの森の中で猿飛を止めた。  朝日が昇る前に、猿飛を雪の下に隠してその町の宿にチェックインをした。  隠す際に元々あったテントなどの装備を取っておく。  チェックインをした後に二束三文の値段でそれらを売り払う。  この凍てつく季節、2人で一晩を越すだけの装備が無かったのだ。  宿の部屋の中で祐一は舞に声をかけた。 「さて、舞。疲れただろ。寝てて良いぞ」 「……う、うん。でも祐一はどうするの?」 「あぁ、ちょっと電話をしてくるだけだ」 「判った……寝てる」  舞がベットの上で横になったのを確認してから祐一は部屋を出た。  そして、部屋から見える範囲にある公衆電話であるボタンをプッシュする。  何回かのコールの後に向こうが電話を取った。 「さて、有夏?」 「残念、その息子の祐一です。晴子さん」 「おぉ〜、祐一か。ところで私に何のようなん?」  無闇に明るい声が向こう側からする。  祐一はその声にほっとした。 「あの、おっさん、石橋彰雄さんに伝言頼めますか?」 「あぁ、かまへん。ちょうど私も用が有ったんや」  祐一はお願いしますと先に断ってから、用件を切り出した。  彰雄に伝える内容を晴子に言っていく。  内容を全てを伝えてから、晴子は面白そうに笑った。 「よう判った。それで、それだけなん? まだありそうな感じやけど」  晴子がにやりと言った感じの表情をしているだろうことは何となく想像出来る。  祐一が苦笑をしつつ切り出した。  取引をしませんかっと。 To the next stage
 あとがき  はい、結構中途半端な所できってしまいました。こんばんわ、ゆーろです。  でもこれ以上書くと、結構だらだらと続いてしまいそうなのでこんな所で区切ってしまいました。  あとは、無闇矢鱈と同じ表現を繰り返すのは私の好みなのだと、判ったくらいでしょうか。  あまり読みやすいとは思えないんですけど好きなんですよね……なんて幼稚なのでしょうか……私は。  とりあえず、ここまで読んでいただいてありがとうございます。これからもよろしくお願いしますね。ゆーろでした。

管理人の感想


 ゆーろさんからSSを頂きました。  佐祐理さん前の話に続いて無惨。
 当面の敵はやはり久瀬ですか。  色々裏でやってるみたいですが、祐一がどう突破するのか。  舞も味方につきましたし、楽にはなったんでしょう。 
 それはさて置き、佐祐理さんがどう出るか心配ですね。  憎しみに身を焦がす事になりそうでちょっと怖いですが。  久瀬と舞が敵対したら、彼女までダメージ行きそうです。


 感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。

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