〜俺は託されたものを踏みにじって生きていけるほど強くない〜
相沢祐一、名雪に罵られて。


〜どんな形であれ、祐一が帰ってきたら一番にこの気持ち伝えるんだ! その事に私は躊躇わない!〜
水瀬名雪の心に秘めた小さな決心。


〜私の夫が残した設計図。私の機体。ネメシス。私はいつも貴方と居ます。ふふふ〜
牧田美樹、自分の機体を見上げて





  
 
神の居ないこの世界で


→震えるのは自分の体。脆いのは自分の心。心に着込んだ鎧が砕ける時。










 仮設の第1格納庫にその機体は居た。

 美樹が待ちに待った、文字通り牧田の残した機体。

 そして、秋子が想像すら出来なかった機体でもある。



 MP−00−ネメシス

 祐一の設計図を元に今は亡き牧田が設計・改良していたHドール。

 それには、MP(Makita Plan)としか書かれていなく、機体名も何も書かれていなかった。

 唯一、牧田の残したディスクの中に残っていた物の一つだった。

 猿飛をベースにフレームなどの強度強化を機体に加え、フレーム・制御・機械系統の見直し、単純化を施してある。

 その為にネメシスは自身の持つ大出力を持て余す事無く、それに見合う力を存分に発揮できるようになった。

 その代わりに、両腕のワイヤーカッターは外され、装甲が多少厚くなっている。

 外見は殆ど猿飛には似ていないが、明らかに姉妹機だった。




 ネメシスと名づけたのは美樹で、美樹は嬉々としてこの機体に乗るようになる。

 美樹はネメシスをまるで自分の手足のように操れるようになりつつあった。

 ネメシスの癖も特徴も掴みつつある。

 その2つを掴む事はよほど長い期間乗らないと難しいものなのにだ。

 ドールの操縦などした事が無かったのが逆に幸いしたのかもしれない。

 連日訓練に出て行く機体の後姿を見て秋子は溜息をつかざるをえなかった。

 まさか、あのような機体が作られるとは思っていない。

 予算内であれほど扱い辛い機体を仕立てるなんてっと。



(私はメカニックの人たちに嫌われているのかしら)



 頬に手を当てて、場違いな考えで自分をごまかす。

 しかしネメシスは戦力には違いない。だから、溜息を再び吐いてから思考を切り替えた。














▲▽  ▲▽  ▲▽  ▲▽  ▲▽
 夜と朝の境目の時間帯。  まるでこのまま日の光が差し込むのを拒否するような暗さの中。  もっとも、夜の闇の色が深くなる時間帯。  エリアMの山岳地帯に猿飛は居た。  寂れた炭鉱とその加工工場にカモフラージュされた相沢祐治の研究所を目指して。  舞は窮屈な自分のスペースに慣れてきて口数が徐々に増えてきていた。 「あの白い部隊……あの人たちと出会うの?」 「それは解らない。でもまぁ、何とかなると思う。突破するだけだから」  言葉を選ぶような沈黙の後に舞は口を開いた。 「……その人たちは祐一の何なの?」 「俺が最も信頼していた人たちかな。実力は本物だ」  過去形。口から出た言葉に祐一は自分でも驚いている。  あっさりと自分のことが割り切れている事にちょっとした痛みが自分の心に広がった。 「……そう。もし戦う事になったら祐一は戦えるの?」 「……戦えるさ。それに突破するだけだ。入るときも出るときも」  自分は残酷な事を聞いているっと舞は自覚してる。  でも、聞いておきたいことだった。  祐一たちは、たまたま最も暗い時間帯を狙ってエリアMに侵入してきている。  偶然それは、秋子の率いる特殊部隊と新しくなった警備隊の研究所の警備交代の時間帯だった。  祐一が目指している時には香里に北川、あゆ、瑠奈、美樹のHドールは格納庫に帰還していた。  ただし、名雪はまだ帰還していない。  秋子は毎日警備の為に阿修羅に乗っているわけでは無い。  今回は攻撃力の無い宵に阿修羅を操らせている。 (あれ? これは何?)  宵の誇る広域レーダーに何かが引っかかった。  見覚えのある識別票『猿飛』とそこにある。   (祐一!? 何処を目指しているの!?)  混乱。そして戸惑い。行き先はすぐに割り出す事ができる。  そこは、警備を引き渡した相沢祐治の研究所だった。 (どうしよう!?)  名雪は帰還命令を無視して宵と阿修羅を走らせた。  今、祐一に会うことが出来なければ、もう会う事は出来ないといった予感があったからだ。 (止めなきゃ、祐一を。任務の為にも、私の為にも)  名雪は考える。  どうすれば祐一の乗った猿飛をとめられるか。 (猿飛のレーダーの範囲は狭い。ともかく目を潰さないと)  パネルから機能を呼び出す。  障害電波を発信する。  平行して宵の肩から圧力を検知するセンサーが広範囲にばら撒かれた。  これで自分の集中力を落とすであろう通信を潰した。  阿修羅のライフルを全て引っ手繰って阿修羅を操作。  ケーブルがぎりぎりまで延びる位置にて待機させた。 (仕上げは煙幕とチャフ!)  センサーに猿飛が入ったことを確認してから、煙幕とチャフを展開した。  アルミで出来たチャフを当たり一体にばら撒いた。  相手のレーダーは潰したが、自分のレーダーはしっかりと確保している。  濃厚な霧よりも性質の悪い色付きの煙が辺り一体を包み込む。  猿飛びの視界は色の付いた煙一色になり、祐一は歯噛みする。  足先さえも見えない煙幕に猿飛はすっぽりと包み込まれてしまった。   (……名雪か) 「祐ちぃ!!!!!」  祐一は急激に方向転換をして煙から出ようと猿飛を走らせようとする。  ものすごい、横のGと押さえつけられる感覚に祐一と舞は襲われた。 ドゴン、キャァン!  銃声の直後、その目の前辺りに弾丸が着弾した。 (データリンクに、圧力センサか!) (祐一は私に気がついたはず) (い、痛い……)  煙から出られないように名雪は弾丸を吐き出していく。  宵にはその衝撃で機体がきしみ、悲鳴をあげている。  名雪はそれにも気にせず、ライフルが空になるまで弾丸を吐き出しつづける。  無くなれば、ライフルを放り捨てて、残りの2丁の内の一つを手にさせた。 (祐一には多分当たらない。でも誘導できれば問題無いよ) (っち。宵の横には多分、阿修羅か……位置は見えているって言う事か)  名雪は祐一を追い込む為に、ライフルを撃ち続け、祐一は弾が切れるのを待つように避けつづけた。 (もう少しで、阿修羅の弾丸が無くなる筈だ) (後もう一歩。これで弾丸も無くなっちゃう。お願い、阿修羅には気が付かないで!) ドゴン、キャァン!  最後の弾丸が放たれて、祐一はそれを避けた。 がん!  猿飛の左肩の後ろに衝撃が走る。  それは、阿修羅に接触したものだった。 (なぁ! そういう事か!)  気がついて離脱しようとしたが既に遅い。  猿飛に対して阿修羅の手が絡みつく。 が、がしぃ!  阿修羅に大腿部と二の腕、そして胴体をがっちりと抱えられた猿飛。  動こうにも動けない。自由に動かせるとしたら肘から先だけだった。  それでも、力で阿修羅の拘束を解くには至らない。  そんな事をすれば、一気に機体を構成するフレームにがたがくる。 (なるほどね……上手い事やられた)  ちなみに、舞が無言なのは舌を噛んだからだ。  舌をかんだのは『!』マークが5個出ている所で舌をかんでいる。  痛みでそれどころでなく、痛みが引いてからもまた噛むかもと思って話してはいない。  祐一の視界の中で薄くなっていく煙幕の向こう側。  その向こう側で動く物がある。多分名雪の宵だろう。 『祐一……だよね?』  震える名雪の声。  ケーブルにつながれた阿修羅と接触している事で、名雪は猿飛と交信する事が出来る。  普通の通信よりも雑音が入るが出来ないほどではなかった。 『ねぇ、祐一。返事をしてよ。祐一でしょ?』  煙幕が徐々に晴れてくる。  まだ、チャフは空中をいキラキラと舞っているし、障害電波は出し続けている。  なので、通信できるのは名雪しかいなかった。  薄っすらとした煙の向こう側に祐一の設計した宵の機体が見え始める。 『ねぇ、どうして返事してくれないの? 祐一!』 「……久しぶりだな」 『祐一……無事だったんだね』  安堵で涙声になる名雪。祐一の耳にも嗚咽の混じった声が聞こえてきた。  祐一はただ無言でそれを聞いている。  少し間を置いて名雪の声は普通の声に戻った。 『祐一は何をしようとしてるの? 何で、相沢祐治の研究所に向かっているの?』 「俺に必要な事だからだ」 『必要? 何でなの?』 「名雪には名雪の過去が有るみたいに俺には俺の過去が有る。名雪には関係ない」  名雪は感じる。祐一は、私には心を開いてくれないと。  そして、祐一の心は関心は過去に向かっていて、決して今を見ていないのだと。 『何で祐一は後ろを見ているの? 何で私を見てくれないの!?』 「名雪は俺の何がわかる? 俺に託された約束があるだけだ」 『託された?』 「あの人たちはもうこの世には居ないけど、託された思いは果さないといけない」 『なんで!? 私は祐一の事が好きなんだよ!? 愛してるんだよ!?』  名雪には理解できない何かが存在している。  ここまで、相沢祐一という存在に強く思われていること。  その事実と何かに名雪は嫉妬していた。  多分、生きてはいない存在、既に存在すらしていない者達。  多分、その人たちと交わした約束か、誓いか何か。  それが、今生きている自分達とりわけ自分よりも強く思われている事に。  それが、今生きている自分達とりわけ自分よりも大切にされている事に。  羨ましく、妬ましく、そして、悔しかった。  激しい感情が名雪を包み込んで、出す声は掠れていた。 『なんで? そんな事……の為に……』 「……そんな事だと?」  祐一の座っているコクピットの後ろの狭いスペースに居る舞は冷や汗を掻いた。  このまま、祐一を怒らせてはいけないと。 『そんな死んだ人たちのくだらない約束の方が大切なの!? 何で私を見てくれないの!?』 「……くだらないだと?」  通信を盗み聞きするしかない舞はため息を吐きたかった。  今の所、祐一の変化に気がついているのは舞だけだ。 が、がしゃぁん。  ほぼ同時に、それが起こった。  二の腕を固定していた阿修羅の肘から先が地面に落ちたのだ。  煙幕は完全に晴れて、チャフの殆ども地面に落ちている。 が、がシャン。  続いて、胴体を固定していた2本の腕が同じように肘から先が地面に落ちる。 「ありがとう名雪。感謝するよ」 『……祐一』  信じられないほどの安らかな声。  名雪はあまりに理解できない事に固まっている。  信じられないものを見ている。信じられない声を聞いている。そんな表情で。  そのくらい祐一の声と、目の前で起こっている事に驚いていた。 「感謝してやる。昔に躊躇い無く戻れる。敵として名雪たちを素直に認識できる。ありがとう」  安らかに、そして、本当に甘い声で。  まるで恋人を相手にしているような声がそこに響いていた。  最後に残った、腕を綺麗に外しながら祐一は続ける。  呆けた、脳が痺れた感じで名雪は祐一の甘い声に聞きほれていた。  ここが戦場であるという事、自分が対峙している者が誰なのか、何なのかすら忘れて。 「詰めが、いや、名雪は機体の事を知らな過ぎた」 『ぇ?』 「機体を操るだけの時代はもう終ったんだ」  気がついたとき、猿飛を拘束していた腕は全て肘から先は地面に落とされていた。  分解されたみたいに綺麗に落ちている。火花を散らさずに、ケーブルすら引き千切らずに。 ガィン!  名雪は、この音は多分、猿飛が阿修羅を踏み台にして宵に飛び掛るための音だとうっすらと理解した。 「それと、最後の忠告だ。宵は視界に入ったら負けなんだよ」  祐一はキレている。舞はそう感じている。  静かにそして、確実に怒っている。 「俺を、邪魔するやつは全部敵だ。見てやるよ名雪。愛してやるよ名雪。敵として障害として」  最後まで、愛しい人に囁くような声。 バクゥン!  名雪が見たの宵のコクピットが無理やりこじ開けられて、その先から覗く猿飛の目・2対のカメラ。  そのカメラは、今の祐一の心情を表しているように真っ赤だ。 「出力を125%で固定」 【警告:機体各部が10分以上の行動に耐えられません】 「かまわない。出力を固定しろ」 【Yes、Master。水素エンジンの出力を125%で固定します】  水素エンジンが、激しく甲高い音を上げる。  スペックどおりに水素エンジンが働いている証拠だ。 (忘れろ。全てを、そう全てを)  その視線が興味無さそうに視線を逸らした。  コクピットの前の部分に人差し指と親指が入り込みコンソールの一部を掴んで外に引きずり出した。  それだけで、簡単に宵は、阿修羅は機能を停止してしまう。 (そして、思い出せ。全てを、そう全てを)  名雪はそれをまるで夢でも見ているような感覚で見ていた。  震えも驚きも無く、祐一ならやるだろうといった顔で。  その事実よりも。祐一の言ってくれたことのほうが衝撃的で驚きだったのだ。 (硬く硬くしてしまおう、身も心も。俺は、苦しくない。大丈夫だ)  そのまま、機能停止となった宵を放置して、猿飛は走り出す。  身を滅ぼす、本来出せる速度で。  左右に展開された警備隊Nドール達の銃撃を紙一重で避けつつ、速度を緩めない。  まるで叫び声のような通信にも心が動揺しなかった。 (大丈夫だ。俺は大丈夫、やっていける)  祐一に見覚えのあるゲートが見えてくる。  慣れ親しみたくない記憶の片隅に登場する建物に壁。  相沢祐治の研究所、表向きの廃れた炭鉱と廃れた火薬工場のゲート。  見た目は火薬工場が爆発しても被害が出ないように厳重すぎる壁と厳重すぎるゲート。  その壁の高さは、約20メートル。  もう廃れているという事でも表現したいのか。  壁の頂上部分は幾らかコンクリートが崩れて鉄骨がむき出しになっている。  絶対に開かないゲートを目前にして、祐一の心が動揺させる通信が入った。 『相沢君! あなた、何をしているのか解っているの!?』  香里が、ゲート前にアテナを展開して待っている。  煙幕が展開された直後に警備隊に要請されて、格納庫に帰ったとたんにすぐに飛び出た結果だ。  既に香里以外の人は、機体から降りていたので今ここにいるのは香里だけだった。  残りの人はたぶん間に合わない予感が香里にはある。 (大丈夫だ。俺は大丈夫、やっていける)  もう一度、心の中で呟く。自分に言い聞かせるように。  祐一の視界にある豆粒のようなアテナがどんどんと大きくなっていく。 『あなたが何であろうとも、もう自由じゃない!』 「俺は既に自由だ」 『嘘よ! 縛られているの!? 何故、私達に刃を向けるの!?』 「何にも縛られていない。俺の邪魔をするのは全て敵だ。そこを退け」  叫びのような通信の言葉が祐一を止めようと、必死になっている。  それでも、猿飛の速度は衰えず、むしろ加速しているような感じさえする。  香里は戸惑っていた。  今の私に、相沢君を止める事は出来るのだろうか? っと。 『私は力になれないの? なんで、なんでなの?』 「関係ないし、足手纏いだ」 『そんな……』 「最後だ。そこを退け」  徐々に互いの距離が近くなっていく。 『嫌よ』 「邪魔だ」 『……尚更ここを退くわけにはいかなわ』 「なら、最後に役に立ってもらおう」  アテナは向かって来る猿飛に対して、右足で踏み込みトンファーを持つ右手を繰り出す。  避けられうるの承知のうえ。猿飛は姿勢を低くする。  ひゅぅんっと空を切る音がした。  姿勢を低くした猿飛は紙一重でそれを避けて、アテナの懐に入ってくる。  アテナと猿飛の距離が0になった。  トンファーを手放して、猿飛を捕まえようと右手を猿飛に向けて延ばす。  同時に残った左腕を、猿飛のコクピットに向けて繰り出した。 がきぃん、がこぉ。  猿飛は止まらずに、勢いをも殺さずに右足の膝に足をかける。  猿飛の動きは殆どを単純化、補強・強化されたネメシスには出来ないしなやか動きだった。  その直後にアテナの頭部を足蹴にして跳躍。  アテナは前につんのめりそうになる。  ここに猿飛とネメシスの決定的な違いがある。  しなやかで細やかな動きの為に機体の防御力と、最大限発揮できる力を犠牲にした猿飛。  出力に見合うだけの力とそれに耐えうる機体構成の為に、しなやかで細やかな動きを犠牲にしたネメシスの違いが。  しかし、今の香里にはそんな事はどうでも良かった。 『くぅ! このぉ!』  香里は前につんのめりそうになるのを必死で堪えるアテナを操った。  諦めずに身を翻して、手を伸ばすが猿飛を掴む事さえ叶わない。  アテナの手は虚しく空を掴むだけ。  一方、猿飛は三角跳びの要領で壁を蹴る。  アテナを足蹴にしたもの事を含めると2段目の跳躍直後、右腕のワイヤーを射出した。  剥き出しになっている鉄骨に意思でも持つようにワイヤーが絡みつく。 「さよなら」  香里に送られた最後の相沢祐一の声は離別の言葉だった。  猿飛はそのまま器用ワイヤーを使って、勢いすら殺さずに壁の向こう側に消えていく。  香里はそれを呆然と見送るしか出来なかった。  直後に、あゆ、北川、美樹、瑠奈の4人が到着する  その4人も祐一を見送るしかなかった。 ビィン、ブチ! ガリガリがりがり!  壁の反対側に入り込めた祐一は、ワイヤーを伸ばせるまで伸ばし壁を降りる。  ワイヤーが伸びきった時点で、壁に両手をついてワイヤーを切断。  その後、機体を自由落下させた。  壁に接している両手に機体の至る所から、火花が出ている。  指は殆どが千切れ飛び、機体が接している所は酷い所は断線したり、フレームが見えたりしている所もあった。 がっしゃぁぁん!  地面に着地と言いがたい音が鳴り響く。  衝撃で足首、膝、腿の付け根が砕けたり外れたり、在らぬ方向へ折れ曲がったりしている。  コクピットの中身と頭部だけが無事だった。 「舞、頼んだ」 「わかってる」  コクピットを開いて祐一と舞が降りる。  舞はそのままゲートの方へ行って備え付けのパネルをいじりはじめた。  外からゲートを開くのに時間をかけさせるためだ。  祐一はボロボロになり見るも無残な猿飛を見上げている。 (牧田さん、今までありがとう。そして、おやすみなさい)  舞が戻ってきた事を確認してから一緒になって廃炭鉱の中に入っていく。  祐一は一度も振りかえらなかった。  炭鉱の中は暗く、湿っぽい。  曲がりくねった道なき道を祐一は覚えているように歩き、何度も道らしき道を逸れる。  ある意味、迷宮と言っても過言では無い作り。  舞は何度も同じような場所を回っているような気がしてならなかった。  途中には、白骨の何かがあったりする。  廃炭鉱の突き当たりにある部屋。  小1時間ほど歩いてたどり着いた、何も無い部屋にぽつんとパネルが一つある。 「さて、舞はここを覚えているか?」 「……うん」 「やっぱりか……何ともいえない気分だな」 「あまり長くは居たくない」 「それは解るよ」  側面に埋め込まれているパネルをいじる祐一。  その後ろでその作業を見ている舞。 「なにやっているの?」 「うん? あぁ、これか?」 「そう、それ」 「秘密の番号を打ち込んでいるのさ」  舞は顔を顰めた。  そんな番号など知らないっと言った感じで。 ポーン。  パネルから音がして、その横の壁だった所が動き通路ができる。 「歩きながら話す。早く来ないと閉まるぞ」  祐一は迷わずにその先に出来た通路に向う。  舞はその後を慌てて追った。  今まで炭鉱だった通路が、研究室のようなしっかりとしたつくりの物になっている。 「エリアMの人たちは、相沢祐治の機体を封印しているんじゃなくて、見つけられないんだ」 「どういう事?」 「今までの道も、ある決められた道を踏んでいかないとあの部屋までこれない。それに」 「それに?」  舞のその声にはかなりの戸惑いの色を浮かべている。  手の込んだ道に、手の込んだ研究施設。  材料を搬入するのすら大変だろうと、場違いな事を考えて可笑しくなる舞。  祐一はその表情すら見ずに前へと歩いていた。 「目的があって相沢祐治は最後の機体を隠したんだ。2体な」 「それは……」 「たぶん、保険だろうな」 「保険?」 「あぁ、身の保険だろう。祐治を殺せば機体の場所がわからなくなる。そんなところだろ」  行き止まりになり、扉になっている。  横にはやはりパネルがあった。  祐一はまたもパネルをいじり始める。 【手をこちらに入れてください】  祐一は迷いもせずにパネルの横に出来た穴に手を入れる。  ピーっと言う音がなった。 『あーっと、これでいいのかな?』 「なっ!?」  舞はいきなり写った映像に驚いた。  祐一は当たり前のことのようにパネルの上にあるモニターを見ている。 『あぁ、良いみたい。では、まずおめでとうと言おうかな? うん。多分僕はもう死んでいるだろうから一方的に話すよ  まずはおめでとう。ここに立つのは誰か知らないけどね。GEシリーズの子を手なずけたかした泥棒さん。  それとも、GEシリーズの子供かな? まぁ、どっちか知らない。面倒だからそれも省略ね。うん。  鍵は解っている通りに、GEの子供だけ。そうじゃないと開かないようになっているのは知っているよね?  ここら辺は岩盤が弱いからね。無理やり破壊する事はしてないとは思うけど大丈夫かな?  まぁ、それも良いかな。面倒だし』  途中に何度も笑い声を混ぜながらニコニコの笑顔で相沢祐治が一方的に話しつづけている。  舞は驚きの表情のまま、祐一はさも当然のように無表情のまま聞いている。 『さて、ここからは僕の自慢話になるかな? データも残っていると思うけど、YA−11とYA−13の説明になるね。  まずはYA−11、接近戦の僕の集大成かな。と言っても操縦できるのはGEシリーズしか操縦できないけどね。  あとは、YA−13。僕の最高傑作と言っても過言ではないね。あ! 詳しくは機体のOSに入ってるから。  そんなに気にしなくていいよ。おっとこれで時間かな? じゃあねぇ』  意味ありげな浮かべたニヤケ面は、ブツンと言って画面は切れる。  そして、それを呼応して目の前の扉が耳障りな錆付いた音を立てて開いた。  扉の向こう側は広い空間になっていて、2機の機体が鎮座している。 To the next stage
 あとがき  このあとがきを書くのは2度目です。どうもゆーろです。  原因は今回の下書きをしていたフロッピーを割ってしまったんですね。  幸いバックアップは取ってあったのですが、それが9日前のもので……  結構細部が違っている気がします。展開の大本は覚えているというか決まっているので問題ないのですが、細部が……  ともかく頑張りますので、これからもよろしくお願いします。

管理人の感想


 ゆーろさんからSSを頂きました。  祐一、かつての仲間と決別するの巻。
 今まで比較的まともだった名雪が今回は爆発。  なんと言うかエゴ丸出し。  彼女は正しく子供だったって事でしょうね。  あんな簡単に愛してるなんて言えるのがいい例でしょうか。  言葉に重みも意思も感じられませんでしたし。
 しかし相変わらず牧田夫人はやばげですよね。  機体の名前もそうですが。


 感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。

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