〜神に祈るな心が折れる。後ろに下がるな、自分が折れる。倒れるな、誓いが折れる。走りつつけるんだ〜
相沢祐一、ディスプレイに手を叩きつけながら。


〜任務は任務。割り切らないと辛くて、胸が押しつぶされそう〜
水瀬秋子、命令書を無感動的に眺めながら。


〜初陣の気持ちって奴を思い出すね。本当にこんな緊張感は欲しくない〜
北川潤、ブリーティングルームにて。









  
 
神の居ないこの世界で


→不敗の剣『クラウ・ソラス』と世界を手に入れる槍『ロンギヌス』の名を冠した機体。




 埃っぽい臭いと、湿っぽい空気。

 どこか、錆び付いた気持ちにさせる空間の中に祐一と舞は居る。



「……これは?」



 目の前に、大きなカバーらしきものをかけられた姿で並ぶ2つの巨人。

 標準の大きさには違いない。

 外見も良く分からない機体。

 舞はそれを見上げて戸惑っていた。

 見た事が無いっと言った具合で。



「さっきも言っていた、YAタイプ最後の2機だ」

「でも、どうして祐一がこんな事を知っているの?」

「俺が知っていたのは、ここまで連れてこられてこいつらの起動実験をしたから」



 そっけなく言い放つ祐一はその2つの巨人に興味が無いようなそぶりでその横を歩く。

 舞は巨人を見上げつつも、慌てて祐一の後を追った。

 もしここに一人取り残されたら間違いなく途方にくれる自信が舞にはある。

 もちろん、そんな事は口にはしないが。



「良かった。まだ使えそうだな」



 祐一が言う先には仮眠室のような部屋が残っている。

 そこの部屋だけは、今までの空間とは違って清潔感が若干残っていた。

 狭い部屋で、一人が何とか眠れるスペース。

 しかし、一人で寝る分には十分である。



「なれない場所で疲れただろ? 先に休んでくれ」

「え?」

「猿飛の中は疲れただろ?」

「でも、良いの?」



 祐一は舞に、そのスペースを譲った。

 まだやる事が少し有るんだと言って踵を返す。

 顔だけを舞のほうに向けて口を開く。



「あぁ、しっかり休んでくれ。出発は6時間後だ」

「うん、でも祐一は?」

「俺も少ししたら眠れる場所を探して眠るさ」

「……解った。ありがとう」



 その言葉を聞いて祐一は手をひらひらと振って巨人の方へ歩いていった。

 舞は部屋に入って、仮眠に入る。

 祐一は端に設置してあった階段を上り、片方の機体を包んでいる布らしき物を引き剥がした。

 剥してからコクピットにもぐりこむ。

 起動がうまくいくか、祐一は心配ではあった。

 そんな事は杞憂に終わると考えていたが、それでも起動しなければここで、終わってしまう。



【搭乗者確認をお願い】



 やはり、杞憂で終わったがなんとも中途半端な反応に祐一は首をかしげた。

 試した時はこんな反応はしなかったはずだっと。



【あーもう! 確認するの? しないの?】



 首をかしげつつ、トレーサーとアイモニターを装着する。

 祐一は頭の中を切り換えて、起動しただけでも儲けものだと考えて着々と作業を進めた。



【OK! 確認するね】



 祐一の視界一杯に広がる青の光。

 青い光の中に自分の意識を紛れ込ませる。

 その世界に浸りこんでいた祐一の意識が音によってかき乱される。

 機械音声で女の人の声を作った声ようなの音だった。



『やった! GE−13! お久しぶり!』

「何がやったなのか解らないが……GE−13と呼ぶのはやめてくれ。俺は祐一だ」

『祐一? ちょっと待ってね、設定を変えるから』

「それよりも何なんだこれは」



 機械の音声の声色が変る。明らかに不機嫌な調子だった。



『これとは何よ! 失礼ね! 私はYA−11−クラウ・ソラスの戦闘補助AI【天照】よ』

「……そんな機能があったのか?」

『失礼ねー! 祐一が起動実験した後に追加されたんだから!』

「あぁ、すまない。それと操るのは俺じゃない。GE−07、いや舞だ」

『舞? ちょっと待って設定を変える』



 不機嫌な調子はさらに酷くなっているような気がする。

 祐一は本当に戦闘を補助してくれるのか心配になった。

 それが苦笑に代わる。変な心配をしている自分が可笑しくてたまらないといった感じだ。



「起動に支障は?」

『無いわよ! しかも搭乗者はよりにもよって舞なのよ!』

「機体との相性は最高だろう?」

『そうね、否定はしないけど、たぶん私との相性は最悪よ!』

「それに、YA−13は俺にしか操縦できない」

『だから、最悪なんじゃない! 最高のパートナーじゃないんだから!』

「……すまないが、また後にしてくれるか?」

『後って何時間後よ!』

「そうだな、1日後くらいだ」

『ふん! 遅れたら握り潰してやる!』

「機能を落として、待機していてくれ」



 喚く天照を放って置いて、隣の機体に祐一は乗り込む。

 先ほどと同じ手順で、機体を起動させた。



【YA−13・ロンギヌス、起動します】



 先ほどの天照と違って、落ち着いた対応。

 祐一は他も何かが追加されているのだと頭を抱えたかった。

 知らないと言う事はそれだけでも不利に繋がるからだ。



【お待ちしておりました。GE−13】

『再び出会えたことに感謝いたします。初めまして、YA−13−ロンギヌスの戦闘補助AI【月読】です』



 合成された男の声で、そう自分を紹介する。

 どう反応すればいいのか困る祐一だった。



『私の質問に答えてください。良いですか?』



 やはり、思考型のAIなのだと祐一は感心する。

 こんな技術は何処に行っても無いだろう。

 いまさらながらに、相沢祐治の技術の異端さがわかる。

 そんな事をボンヤリと思いながら相手がどう切り出してくるか待っていた。



『何のために私を使用するのですか?』

「託されたものを果たすために」

『誰のために私を使用するのですか?』

「俺に想いを残してくれたもう居ない家族のために」

『主人たるあなたの障害は何ですか?』

「俺の邪魔をする全ての人と物」

『主人たるあなたの敵は何ですか?』

「全世界、あの人たちの居ない世界」

『最後の質問をします。あなたは世界を手に入れますか?』

「世界など、必要は無い。でも、必要ならば手に入れる」

『了解しました。私、月読はあなた・GE−13・祐一の手足になります』



 よどみなく、ほぼ即答で月読の質問に答える祐一。

 その答えに月読は満足したらしい。



(どうやら、俺は判断されていたらしい)

『最大限のサポートと、最大限の能力を祐一に』



 質問が終わり、次の行動を頭の中で組み立てている横で、月読が何かを言い続けていた。



『世界の全てを敵に回しても、勝てるだけの戦力を祐一に託します』

「そうか……」

『では、以後よろしくお願いします』

「わかった。起動に問題は?」



 今の状態を聞くべく、祐一は月読に質問する。

 状態が把握できなければ行動も起こすことが出来ない。



『システムオールグリーン。起動に問題ありません。燃料はフル稼働で3時間持たすことが可能です』

「解った。クラウ・ソラスはどうなのか解っているか?」

『質問の答えはYESです。クラウ・ソラスは起動には問題なく、燃料はフル稼働で2時間は持たすことが可能だと考えられます』

「ありがとう、機能を落として待っていてくれ」

『解りました。祐一』



 耳障りな音を聞いたので、軽く聞いただけで機能を落とすよう指示をする。

 祐一はそのまま、機体から降りて舞の寝ている仮眠室を覗いた。

 そこでは舞が小さな寝息を立てて寝ている。

 姿勢を回れ右をして、先ほどから五月蝿くブザーのなっている内線の有る所まで歩き、それを取った。



『さて、ようやく通じたわい……』

「これはこれは、堀江司令官殿。わざわざ内線を取るとはご苦労様です」



 老人の声、祐一はこの声を一度聞いたことがあるので判別が出来た。

 エリアMの軍トップの堀江指令だと。

 たまたま情報を自分で集めていた時に聞いた声だったからである。

 炭鉱に備え付けられている内線からかけているので、画像は出なく、もちろん声のみの会話だ。



『ほっほっほ。わしも有名になったもんじゃて。それに部下には任せられん事じゃからの』

「……それで、ご用件はなんですか?」

『御主はその機体をどうするつもりじゃ? 操れるような物ではなかろうて……』

「面白い事を……私はただ、自分の持ち物を取りに来ただけです」



 堀江の息が詰まる。

 意味を吟味して、口を開こうとした所で堀江よりも先に祐一が口を開いた。

 祐一はそのまま会話をしようとして、咄嗟に会話を打ち切る。



「そのまま聞いてなさい。面白い物が聞こえますよ」



 その受話器を横に置いて、音が聞こえるように機材を調整する。

 そして、新たにかかって来ていたものをモニターに映し出した。

 こちらは、行政府のある一角からかけられているものだから、モニターに相手の顔が映る。



『ふむ、ここはまだ生きていたか。まさかここに直接繋がるとはな』

「何の御用でしょうか?」



 その顔に祐一は見覚えがある。

 ただ、名前までは知らない。起動実験の時に確か顔を見ている。

 エリアOとエリアMでGEナンバーの研究を推し進める事に力を入れた議員だった。

 まるでその顔は無くしていた玩具を無邪気に見つけた顔だった。

 対して興味も無さそうに、それを見詰める祐一。



『さて、機能が万全なら私の言う事に従うはずだな。GEナンバーの誰か』

「そんな理由はもう有りません。貴方はお忘れか? 何故あの研究所が破壊されたのか」

『何を言うか! この機能不全の出来損ないが!』



 頭から湯気を出しそうな勢いで怒る議員。

 対する祐一の表情に色は無い。無表情と言うよりも、仮面をかぶせたように平坦だった。

 表情が見る見るうちに嘲笑へと変る。

 その口から紡がれたのは静かな怒りの声だった。

 あくまで、声は平坦、静かだった。



「うるさい、黙れよ。私は貴方達なんかに付き合う理由などない」

『な、何だと!? 逆らうのか貴様!』



 ここに来て様子がおかしいことに気がついたのか、議員の声に怯えが混じり始める。

 表情を変えずに、口すらよく動いているか解らないまま、同じ声色で祐一は続けた。



「ならば予定を変更しましょうか? 先に貴方を殺しに行って差上げましょうか? 貴方達の望んだ兵器が」

『く! ただで済むと思うな!? 貴様なんぞ! む』



 ぶちんと乱暴に回線を切る祐一。

 この後に続くであろう罵詈雑言が簡単に予想できるし、聞く価値などないと感じたからである。

 ため息を吐きつつ、堀江のほうの回線を取った。



「さて、私がどういう存在か解っていただけましたか?」

『噂では聞いておったが、GEナンバーの生き残りとはの……』

「では、ここに私が来た理由もわかっていただけましたね?」

『あぁ、解っておるよ。自分本来の機体が必要になったと言いたいんじゃな?』

「えぇ。その通りです」



 堀江の声にため息が混じる。

 少しの逡巡の後に堀江は毅然とした声で祐一に告げた。

 

『貴殿に謝罪はする事は出来ない。それに、素直に投降して貰えるように勧告する事しか出来ないのが残念じゃ』

「交渉は決裂で良いですか? 話すことがなければ、私もそれ相応の準備がありますので」

『お互い嫌な立場に居るの。では最後に聞きたい。貴殿は何を恨んでいるのだ?』

「相沢祐治とそれに加担した研究員。それ以外に恨みは抱いていない」



 そして、堀江のほうの回線も乱暴に切った。

 もう気分的に何も話したくなかったのだ。

 何も考えたくない一心でここに残っている機材を調べ始める。

 少しでも気が紛れるように。










▲▽  ▲▽  ▲▽  ▲▽  ▲▽
 一方、回線を一方的に打ち切られた堀江は再びため息をついていた。 (悲しいのぅ……あんなに若い者があんな声を紡ぐとは……)  内線の受話器を丁寧に戻してから、堀江は横に控えた三浦に声をかける。 「行政府から連絡が有りそうじゃの」 「はい、先ほど司令が会話している最中に連絡が有りました」 「中に入った者を捉えろ、あわよくば動く機体も捕らえてしまえとな?」 「……はい、内容は殆どその通りです。しかし、何故解ったのですか?」  堀江は歩きながら、苦笑してその答えを濁した。  そして、車の助手席に乗り込んで三浦が運転席につく。  そのまま、作戦本部に向けて車は走り出した。 「さて、ここの中なら良いじゃろう」 「捕獲作戦の決行は?」 「捕獲は出来まい。殲滅するつもりで望むように各隊に伝えろ」 「はっ」  三浦は表面上表情の変化は無いが内心驚いていた。  何故一人の犯人にそこまでする必要があるのかと。 「さて、行政府からの要請は不思議なものではなかったか?」 「不思議?」 「あの研究施設にあるのはYAタイプのみ。おいそれと動かせるものではない。動かせるのはGEナンバーだけじゃ」  三浦は片手をハンドルから離してかけている眼鏡を押し上げた。  先ほどの対応はあながち間違いではないと考え直す。  噂に聞くGEナンバーは特異な存在だと知識では知っているからだ。  それが噂ではなかったと、後々思い知る事になるのだが。 「……………なのに動く機体を捕らえろと言う命令ですか……中に居る人間を知っているようですね」 「まったく、YAタイプが動いたのは偶然じゃと思いたいのに……ベルセルクの件でお終いではなかったのか」 「ベルセルクは操縦者が意識不明でまだ意識を取り戻していないはずでしたね」 「その件も含めて行政府の連中を調べて欲しい。GE、ひいては相沢祐治とエリアOの過去とのつながりじゃな」 「わかりました。行政府の人間を徹底的に洗ってみます」  堀江の元々厳しかった表情がもっと厳しくなる。 「いいか、相手に気取られてはならん。証拠と言う証拠を押さえてからこちらは攻勢にかける」 「解りました。私の信頼できる者のみで事に当たります」 「あぁ、頼んだ。それにしても歳かの……疲れるわい」 「しかし、これからなのは」 「解っておる。だから、大丈夫じゃ」  堀江は深く椅子に腰掛けて目を瞑る。  三浦は何も言わずにそのまま作戦本部まで車を運転していた。  到着後すぐに、対策が立てられたのは言うまでもない。  
▲▽  ▲▽  ▲▽  ▲▽  ▲▽
 秋子は溜息がつきそうになるのを何度も何度も堪えていた。  ブリーティングルームに自分の小隊メンバーが全員揃った席。  ただ、名雪の席にはぽっかりと空きがあった。  名雪を除く全員が揃った事を秋子が確認して、声を発する。 「皆さんに集まってもらったのは他でもありません。先ほど命令が出ました」  集まった皆の顔を確認しつつ秋子は続けた。 「皆さん、良いですか? 警備を引継ぎ後に起こった事件の犯人をテロリストと判断し、殲滅します」 「殲滅とはどういう事ですか?」  北川が手を上げて発言をする。  秋子は務めて声を平静に保って返事をした。 「敵戦力の殲滅の過程で犯人の殺傷も止む無しという事です」  皆の顔色が変るのが良く解った。 「質問があります。隊長」 「どうぞ、美坂少尉」 「何故、犯人をドールに搭乗させる前に逮捕しないのですか?」 「一つに犯人が今あの炭鉱内のどこに居るのか分かっていません。生き埋めにする事は可能かもしれませんが」  顔色を曇らせて、先を続ける。 「二つ目に、行政府の横槍です。あの機体を手に入れろ、あわよくば、パイロットもと言った感じでしょうか?」 「……行政府はいつからそんなに偉くなったんですか?」 「全くです。背広組は現場を知りませんから……」  嫌悪の表情を浮かべる栞の横槍に、同じく顔に嫌悪を浮かべながら秋子はため息を吐いた。 「行政府からは捕獲といわれましたが、捕獲するつもりでこちらが出て行くと逆に殲滅されかねません」  猿飛が乗り捨てられているのはみなの周知の事実。  祐一が、そこに乗り込んだのだと解っている。  解ってないとしたら、警備隊の人たちだけだろう。 (堀江司令は多分知っている相手だから、私をぶつけようとしているんですね……)  秋子は陰鬱な気持ちでため息をかみ殺した。  犯人つまり、祐一を殺すつもりで捕らえなくてはいけない。  もしくは殺さないといけないという事実に殆どのメンバーが困惑を示している。  あゆと、美樹を除いて。  美樹は平然な顔をしてそれを聞いていた。  あゆは視線がいろんな所を泳いで彷徨っている。 「殲滅の結果、破壊したならそう報告、運良く捕獲できればそう報告する予定です」  がたん! と椅子の倒れる音がした。  あゆが、ものすごい形相で立ち上がっている。  その表情に浮かんでいるのは恐慌だった。 「秋子さんは、皆は知らないんだよ! 祐一君がどれだけ怖いか! どれだけ危険だか!」  あゆは、その小さな体を異常なほど震わせて叫んだ。  歯はカチカチ鳴り、目の焦点はどこに合っているか分らない。  椅子を蹴飛ばし、しゃがみこんで自分を抱きしめるように両肩に手を回した。  それでも、震えは収まらずにカタカタと音が鳴っている。 「僕は、僕は! 僕は!! 見たんだ! 祐一君がYAタイプで戦っているところを!」  まるでこの世の終わりの様な声で、捻り出すように叫ぶ。  目をぎぅゅっと硬く、堅く、固く、瞑った。  知りたくも無かった見たくも無かったそんな感じで今度は耳をふさぐ。 「異常だよ! 勝てないよ! あんなのに! 怖いんだよ! 祐一君が!」  立たせようと、落ち着かせようと、する人は居るが躊躇われた。  それほど今のあゆは怯えている。  いや、錯乱を通り越して、異常だ。異常なほど震えている。 「嫌だ! 行きたくない! 絶対に!」 (戦力が一人居なくなるのは困りますが……でも、この状態で戦場に出ても迷惑なだけですね……)  ここまで恐れる何かを見たというのか? そんな顔で皆があゆを見る。  秋子は堪える事ができなくて何十回目になる大きな、ため息を吐いた。 「栞ちゃん、あゆちゃんをお願いします」 「え? 私ですか?」 「栞ちゃんは病み上がりでしょ? あゆちゃんを見てあげてください。お願いします」 「……わかりました」  少し納得がいかないと言った表情をする栞。  しかし、栞は手馴れた手つきで錯乱するあゆを連れてブリーティングルームを出て行く。  それを完全に見送った後に話は再開された。 「相手はYAタイプ1機です。今、持ちうる最大戦力を相手にぶつけます」 「もしかして、あれを出すんですか?」 「えぇ、北川少尉。用意はしておいてください」 「……了解」 「必ずしも、使うとは限りませんから。安心してください」  複雑な表情を浮かべる秋子に、皆が怪訝な顔をする。 「隊長、それはどういう事でしょうか?」 「美坂少尉、それは今から説明します」  部屋の電気を消して、プロジェクターを作動させる。 「炭鉱には2箇所大きな搬入口があります。海に面した規模の大きいもの、そして、隣のエリアの最短コース上にあるもの」  最短コースは、侵入を許したルートでもある。  そして、海に面したルートは崖、その先は海しかない。  入り江もあるが、そこに船舶が泊まれないよう手配はしてあった。  もし、他のエリアへ戻るのならば、最短コースを通った方が効率的だ。 「私たちは海側の方に布陣します。もし、犯人が最短コースを選んだ場合は私たちはお役目ごめんです」 「私達がその搬入口から攻め込むことは出来ないのですか?」  香里の質問に秋子は難しい顔をする。 「出来ます。ただし、狭い場所でYAタイプの機体と1対1で勝てる自信は有りますか?」 「やろうと思えば……」  その問に答えたのは美樹だった。  秋子はそちらに向きつつ表情を曇らせた。 「そう、運がよければ交戦は出来ます。牧田少尉、貴方は炭鉱の内部に詳しいのですか?」  静かな沈黙が、皆を包み込む。  その沈黙を破ったのは秋子だった。  先ほどの香里の質問と美樹の名乗りがなかったかのように続ける。 「さて、反対側は警備隊の新指令が受け持ってくれます。私達の援護に6機のNドールを回してくれるという話です。  この作戦には水瀬名雪、月宮あゆ、美坂栞の少尉3人は今回は参加させません。  美坂栞少尉は元々非戦闘員。月宮あゆ少尉は……見ての通り今回は出撃させるだけ無駄でしょう。  水瀬名雪少尉は命令無視で、今回の出撃は見合わせます。また勝手に行動されると困りますから。  加えて先に破壊された、宵の修理は間に合いませんし、阿修羅も腕2本の状態での出撃になります。  何か問題は有りますか? 問題が無ければ、次の説明に移ります」  秋子は隊員達を見回しながら、無言で同意を得る。  誰も異を唱える事は無かった。 「では、布陣ですが前衛にアテナ、美坂少尉お願いします」  「了解しました」 「貴方の役割は犯人の足止めです。その場に貼り付ける以上の働きは求めません」  先ほどよりも厳しい声で、先ほどよりも張り詰めた顔でその事を言い渡す。  香里はそれを静かに聞いていた。 「次に中距離にボイス・レス、七瀬少尉とネメシス、牧田少尉」 「はい」 「わかりました」 「貴方達の役割は美坂少尉の援護です。加えて、前衛と交代する可能性も有るのでその覚悟はしておいてください」  静かに頷く瑠奈に美樹。  秋子はそれを認めると、北川に顔を向けた。 「そして、後衛にアルテミス、北川少尉」 「……」 「貴方の役目は敵機の破壊です」 「了解」 「対装甲弾ライフルで相手機関部、もしくはコクピットを狙撃してください。判断は一任します」  対装甲弾ライフルとは前回ボイス・レスの使っていたガドリングガンが暴発した弾丸の残りを使ったライフルである。  通常のライフルを改造してドールサイズの対装甲弾を使用できるようにしたものだ。  ただ、問題があるとしたら、それが北川のアルテミスにしか使用できなかったと言う事。  秋子の阿修羅ではその反動に耐え切れない。アルテミスでも反動を殺しきる事は出来ないのだから。  ガドリングガンが暴発した原因はその反動を受け止める機構が簡単に破損してしまったせいもある。  それほど、対装甲弾の扱いは難しい。  その後、綿密な打ち合わせを秋子は続けていく。  打ち合わせは升目を次々と埋めていくような物だった。 To the next stage
 あとがき  YAタイプ奪還戦の始まりです。始まりと言ってもすでに始まっているんですけどね。どうもゆーろです。  祐一と舞の機体の詳しい説明は次の話で行います。あまり期待しないで待っていてください。  ここまで読んでいただいてありがとうございます。これからもよろしくお願いしますね。ゆーろでした。

管理人の感想


 ゆーろさんからのSSです。
 ついに最強の人間が最強の機体を得ましたか。  ぶっちゃけ相手にならないのではないかなぁ。(苦笑  秋子さん達は祐一1人と仮定してますが、前提から違ってますし。  YAタイプがもう一機出てきた時どう反応するやら。
 新キャラ(?)の天照と月読。  中々いい感じのAIみたいですね。  色々な勢力に喧嘩売ってる彼らですし、事実上唯一の味方でしょうか?  機体名が諸外国の伝説武器なのに、制御AIが日本の神ってアンバランスさが気になりますけど。  ファ○ィマみたいに、自分の体とかあったら面白そうですが。


 感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。

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