人と兵器の狭間。それは人にはありえない人格。
GE−13は完璧な兵器として教育され、自身もそうだと判りきった上で育ってきた。
使命も目的も全てが兵器としてあったその頃を知らずに育った者、祐一がそれを拒否している。
兵器として有ることに疑問を抱き、怨嗟の声を上げる。
何故こうも自分の手がここまで血にまみれているのかと。
何故こうも苦しいのだと。何故こうも悲しいのだと。
現在の自分と言う存在さえも捻じ伏せてしまう程強い祐一の自分を責める感情は祐一を不安定にさせた。
(俺は、大丈夫、まだ、まだやれる、やれないといけないんだ)
祐一が唯一、自分を誤魔化せる場所に今はいけない。
何故なら会社であるAirに迷惑をかけるわけにはいかない。
だから、唯一と言っても多少、意識を兵器側に傾ける事によって押さえつけるその感情を押さえつけれる場所には今はいけない。
陸に祐一と舞のドールを揚げ、それを事を起こす前に見つけられたら確実に足が付く。
足が付く事を極力避けないといけないための判断だった。
だから人とドールはそれぞれバラバラに目的地を目指した。
人はAirの会社組と医者と逃亡者組に別れたに過ぎないが。
天照がごねたのはいうまでも無いが、祐一の分解するぞの一言で黙り込んだ。
今はキャリアーの中で機能を落として大人しくしているだろう。
そして祐一たちは今、場所はエリアKの港町のホテルにいる。
時間は深夜、祐一は眠る事が出来ずに何度も寝返りを打っていたがやがて寝る事を諦めた。
そして、窓際の椅子の上に腰掛けて自分で自分の体をきつくきつく抱きしめる。
震えが自分を支配し始めた。
たまたま目が覚めた舞はそんな祐一を見て祐一が哀れで、可哀想でしょうがなかった。
そっと起き上がって震える祐一を後ろから包み込む。
祐一の体がびくぅっと大きく震えた。
「祐一、祐一の背負っている物を分けて」
優しく静かに、泣いている子供をあやすように舞は口を動かす。
舞を突き動かしているのは、何なのか判っていない。
でも、それでも舞は祐一をこれ以上、放っておくことは出来なかった。
例え、突き放されようとも棄てられようとも、どんな風に思われようとも。
「祐一だけが傷つかないで」
「ま、い……」
「私も祐一と傷つきたい」
舞に気が付いたのか祐一の震えは小さくなる。
優しく抱きしめた手を徐々に強くしていく。
祐一が自分の傍から消えてしまわないように。
そして、祐一が潰れてしまわないように。
舞は自分の意思を込めて言葉の続きを紡ぐ。
「私が隣に居てあげる。どんな時でも、どんな事があろうとも。たから、祐一だけが苦しまないで」
「舞……俺は」
「私は弱いけど、その位は出来るから……だから、もっと頼って」
祐一が舞に気が付き目線がしっかりとした事を確認した上でゆっくりと祐一の前に回りこむ舞。
正面で祐一の目を覗き込む。祐一はすっと目を逸らした。
「俺は……そ」
何かを言おうとした時、柔らかい物が祐一の口を優しく塞ぐ。
祐一は目を見開き、驚いた。舞の唇が祐一の唇に覆いかぶさっている。
そして、舌が口の中に入ってくる。柔らかく、祐一の口の中を蹂躙する舞の舌。
祐一は何も出来ずにそのまま舞になされるがままだった。
そして口の中に何かを押し込まれてそれが祐一の喉を下っていく。
何かが喉を通過したのを確認してから舞の唇がすっと離れた。
「軽蔑しても構わない、でも私は祐一の隣に居るから。だから、もっと頼って……」
祐一は徐々に薄れいく意識の中で舞に感謝した。
舞の言葉に。
舞が自分にしてくれた事に。
薬を多分聖に貰ってわざわざ飲ませてくれたのだと。
記憶が戻ってから祐一は薬に拒絶に近い反応を示していただけに今回だけは感謝した。
次はもう頼らないようにと、舞を傷つけないようにと心に誓いながら。
意識は夢さえも見ない暗闇の中へと。
意識すら感じない深みへとするすると静かに堕ちていく。
▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽
エリアMの会議室。そこに堀江は静かに座っていた。
その表情には怒りと疲労の色が浮かんでいる。
「お呼びでしょうか、堀江総司令」
「あぁ、待っておったよ秋子君」
堀江が顔を上げて部屋に入ってきた秋子の顔を見る。
秋子は何故ここに呼ばれたか解らずにひたすら困惑をしていた。
相沢祐治の研究所はもう用無しに近い状態になって、今は捜査員が連日押しかけている。
それはまるで迷宮に挑む冒険者のように秋子の目に映っていた。
特殊部隊は通常任務に戻っており、予定は何もないに近い。
「秋子君、君の部隊に極秘任務を与える」
その言葉に秋子は心を引き締めた。
「内容は……?」
「エリアKの行政府から秘密裏の要請だ」
堀江は静かにそう言い放った。
「とある拠点を攻撃して欲しい。そのタイムスケジュールはこの表の通り、そしてその地図と拠点の概要はこっちだ」
「……これですか?」
秋子は堀江から3枚の紙を受け取りそれを見取っていく。
場所はエリアK、kanonのドールの組立工場。
タイムスケジュールは3日後にエリアMの格納庫を出発となっている。
「何故、私の隊なのですか?」
「純粋に少数精鋭で最強戦力というわけじゃな。加えて、この期間に君らの部隊がおると私に都合が悪い」
「……解りました。その任務引き受けます」
「ではよろしく頼むよ」
「質問があります」
堀江は眉を顰めた。秋子からの質問は予想をしていなかったからだ。
務めて動揺が口、そして顔に出ないように表情をコントロールする。
「これは公になってはならないのですね?」
「そうじゃ」
「もし、戦死者が出てもそれを放っておかないといけない訳ですね?」
「そうじゃ」
「もし、誰かが捕らえられても無視して帰還しないといけない訳ですね?」
「そうじゃ」
「解りました。隊にその意識を徹底させます」
秋子は踵を返して部屋から出て行った。
堀江はその後姿を複雑な面持ちで見送る。
ふぅっと息を吐き出してから視線を上げた。
「三浦君」
「はい、ここに」
会議室の影から三浦が現れた。
その顔には少しの疲労の色が浮かんでいる。
「準備は」
「万全です」
「では後は」
「連絡が来るのを待つだけです」
「世論は少なくとも味方につけねばならんでのぅ」
「相沢祐治の研究所より見つかった本人の遺体を効果的に使えば問題はありません」
「そうか、秋子君達が出発するまで三浦君は、しばし休んでおれ」
そう言って堀江は椅子に深く身を沈めこんだ。
三浦はそれを見て静かにその場を後にする。
「全く、やってくれたものだ」
その呟きはいったい誰に向けられたものだろうか。
▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽
部屋の主が沈黙し、時折乾いた笑い声の聞こえる部屋。
そこに大きな変化が現れる。
「佐祐理! あのニュースはどういう事なのよぅ!!」
真琴がドアを蹴破らんと言った勢いで部屋の中に入ってきた。
その後ろには美汐も居る。
「どういうことなのよぅ!」
「真琴、落ち着きなさい」
「あぅ……」
佐祐理を掴みかからん勢いで詰め寄った真琴に美汐はやんわりと釘を刺した。
そのまま、真琴と美汐は立場を入れ替えて佐祐理に話しかける。
しかし、真琴よりも美汐の方が纏っている雰囲気は厳しい。
「今、ニュースでエリアMにおいて相沢祐治の死体が見つかったと放送されています」
美汐は部屋から一歩も出てきていなく、何も行なってはいないであろう自分の上司に向かって事細かに説明する。
概要はこうだ、エリアOにおいて相沢祐治の死体が発見された。
冷凍保存され、司法解剖の結果、死後7年は経過している。
エリアAに残っていた相沢祐治の歯形にDNAの情報を照合したところ本人だと断定された。
ただ、それだけ。
だが、それが途轍もなく厄介な事だ。
特に憎悪の対象としている倉田佐祐理という存在には。
美汐は表情の変化などを見逃さないように佐祐理の表情に注視した。
「佐祐理さん、貴女は私の話を聞いて何も思わないのですか?」
しかし予想に反して佐祐理は無言、返事も何も無い。
加えて表所は、美汐たちが入ってきたときに纏った薄ら笑いの顔で変化は無かった。
2人にしてみれば大げさに言えば忠誠を誓っていた人物を信じられなくなりつつある。
真琴はどうか知らないが、美汐は佐祐理の過去に共感して部下として振舞っていたからだ。
しかし、その過去を誰かに改竄されていて、しかも現在は行動を起こそうともしない。
だから、美汐には佐祐理に対する不信感が渦巻いている。
もし佐祐理が自分の過ちを知っていて自分達を体よく使っていたのではないかと。
説明でも自分の身の潔白でも証明して欲しい。そう佐祐理に求めていた。
苛立たしげに美汐は佐祐理に答えを求める。
「何も感じないというのですか?」
「感じてどうするというのですか?」
薄ら笑いの顔のまま佐祐理はしれっと言った。
美汐の眉がぴくんっと跳ねた。そして、顔色が一気に怒り一色に染まった。
そんな事は些細な事だといった感じで佐祐理は続ける。
考える事さえ億劫だ、そんな気持ちで怒鳴り散らしている佐祐理。
「佐祐理にどうしろって言うんですか!」
「……あぅ」
「それがどうしたんです!」
ぱしんっと乾いた音がなる。
発生源は美汐が佐祐理の頬を平手で殴った音だった。
「見損ないました。もう何も言いません。さよならです!」
「み、美汐?」
「……行きますよ真琴。私達が出来る事はまだありますから。佐祐理さんの手を借りなくとも……ね」
「でも今の佐祐理は悪くないよ」
「従えますか?」
「あぅ、可哀想だけど従えないかも……」
「行きますよ。さよならです、最低の人」
振り向き、吐き棄てるように言葉を放つ美汐。
真琴はそんな美汐に困惑の色を示す。
美汐はそのまま部屋を出て行こうとする。
真琴もその後ろをとぼとぼとついて行くが、途中で振り向いて佐祐理に声をかけた。
「佐祐理……真琴達は祐一と舞の事情を知ってるの」
「……」
「祐一と舞に謝れないの? 祐一と舞は悪くないのに……」
「話が本当なら……佐祐理に……そんな資格は……」
「資格なんて関係無いよ……佐祐理はそれで良いの?」
泣きそうな顔で真琴は佐祐理に懇願する。
真琴と美汐が何故祐一と舞の事情を知っているかというと、祐一と舞が2人に宛てて手紙を送ったからだ。
内容は自分達がどんな存在であるか、そして佐祐理にどんな心の傷を負わせたか。
都合の良い話かもしれないと前置きした上で佐祐理に謝罪をして欲しい。
そして、佐祐理を支えて欲しいと書いてあるものだった。
だから、真琴はこの状況ならまた2人は帰ってくると思って佐祐理に懇願する。
「嫌だよ……このまま、バラバラになって、憎み合うなんて出来ないわよぅ……」
「佐祐理には……」
「真琴、行きますよ」
「う、うん」
佐祐理の答えを聞く前に外に出ていた美汐が真琴に外に出てくるように催促する。
真琴は佐祐理に向けていた悲しげな視線を無理やり外して部屋の外に出て行った。
残されたのは頭を抱えて泣いている部屋の主だけだ。
その姿は小さく、今までの面影は全く無い。
歳相応、いやそれ以下の姿だった。
▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽
エリアKの港の中のAir所有の大型倉庫。
その事務所のTVの前で祐一と舞はニュースを見ていた。
祐一は表情の上では平静に、舞は心持ち顔に驚きを表して。
その横に居る晴子はその2人の表情をいつものように楽しげに見ていた。
「母さんに、由紀子さんか……やってくれる」
「晴子は、これを見せたかった?」
「あぁ、そうやで。これを見せたかったんや」
流されているニュースは主に2種類。
一つはエリアOが過去に行なっていた研究の告発。
それは相沢祐治の研究が非人道的だったと言うものをありありと放送している。
加えて、そのときのエリアOの議員と世界政府高官の対応を糾弾していた。
過去、その研究所に所属していた南主任補佐がそこには出演している。
そして、もう一つがエリアMで冷蔵保存された相沢祐治の死体が見つかったと言うものだった。
「どや?」
悪戯を成功させたような表情で晴子は祐一たちを見る。
祐一の顔には驚きがないが、口元が微妙に緩んでいる事を見て晴子は満足していた。
事務所の外では既に機体の準備が出来ている。
先発として出て行くのは舞と祐一。
囮として、そして切り込み役としての役割が当たっている。
後発として晴子に往人、観鈴そして美凪。
この4人はこれから襲撃する場所の情報網を外と断絶させるためのメンバーだ。
居残りメンバーとして聖と佳乃にみちる。
と言っても、送られてくる情報の解析等の役割を担っている。
みちるはAir製のドールが取得する敵や周りの情報を解析する役を。
佳乃と聖はAirの4人組の心拍数、発汗数などの医療データの取りまとめ解析する役を担っていた。
新型のパイロットスーツを開発するためにそれぞれが試作型のパイロットスーツを着ている。
それのテストの為もあり、データの編纂に居残りメンバーになっているのだ。
「……晴子、先に行く」
「あぁ、祐一の目付けは任せたで」
既に祐一は2機を載せたキャリアーに乗り込みそのエンジンを温めている。
舞は晴子にそう言ってからその助手席に乗り込んだ。
キャリアーが、ゆるゆるとした速度で出発をする。
晴子はそれを目を細めて見送った。
「居候!」
「なんだ?」
「観鈴!」
「はい!」
「美凪!」
「……ぐっ」
晴子の呼び声にそれぞれの反応を示す3人。
美凪は解り辛いが親指を立てて晴子に反応している。
それぞれが自分が乗るべき機体の前で最終チェックをしていた。
開発コードネーム・赤いモンスター
搭乗者は晴子、ランクはB−。標準サイズの機動力重視のドール。
Airのドールの特性を殺さずにONE並みの重装備を可能する事を目標に開発されている。
新機構の関節を使用しており、標準サイズのドールにもかかわらず、ある程度の重装備をしても能力低下が少ない。
加えて、かなり高い所から飛び降りる等をしても関節を破壊することなく行動が可能となっている。
ただし燃費が悪く、活動時間が短いのが玉に傷だ。
装甲には高精度の流曲線が採用されており、余程当たりが良くない限り実弾攻撃はある程度流される。
手から肩にかけて完全絶縁構造になっている。これは武装に関係する仕様。
武装は大型ショットガンを腰の後ろに一つセットされ、スタンスティックを両手首に1本ずつ収納。
使用時には射出、オートで掴む仕様になっているそしてスペア弾倉を腰の左右に2個ずつ格納している。
そして、装甲が全て深紅に塗装されている(これは晴子の趣味)
開発コードネーム・烏
搭乗者は往人、ランクはC+。標準サイズの超機動力重視のドール。
この機体にも赤いモンスターとは違う新機構の関節を使用している。
従来のAirの方針を走りまくった機体でもある。
機動力、それを制御する機械系にのみに注意を払われており何処まで細かで素早い動きが出来るかを目的として作られている。
当然、発揮できる力は小さく、装甲だって少ない。
しかし、装甲には赤いモンスターと同じ高精度の流曲線で構成されていてある程度の防御力は確保されている。
ただ、高精度の流曲線の装甲は整備が大変なので今回の実験で採用が見送られる可能性がある。
武装は粘着火薬とその発火装置のセットを幾つかに、スタンレイピアが1本。
装甲の塗装は保護色を考えてくすんだ白を選択している。
開発コードネーム・恐竜さん
搭乗者は観鈴、ランクはB−。標準サイズの多目的行動型のドール。
この機体はkanonの機体を意識して作られており、色々な目的を果たせるようにカスタマイズ出来るよう開発された。
拠点破壊、味方機援護、弾丸補給、燃料補給等、色々な行動で他の機体を支援、援護する機体だ。
今回は、拠点の破壊の為の破壊力に、赤いモンスターの燃料補給を目的に武装を選択。
装甲も通常の物、機動力も標準位。ただし、その機体の中には格納できる空間をいたる所に作られている。
他には背中にバックパックを背負っており、そこに荷物を格納できる。
ただし、背中のバックパックは取り外しが利かずに、一度外すと戦場では再度、取り付けることができない。
機体の容積の3分の1近くは格納スペースにされ、今回は水素燃料のカプセルを全てにつぎ込んでいる。
武装は水素を燃料とした爆弾。時と場合によっては味方機に燃料を補給する。
開発コードネーム・星の砂
搭乗者は美凪、ランクはA。小型サイズの情報撹乱を目的としたドール。
開発コード・恐竜さんと同じく、kanonを意識した機体である。
この機体は味方機を支援、援護する事を目的としておらず、施設を襲撃した際の敵情報の混乱を旨として設計された。
ゲートなどに備え付けられている情報端末からその拠点や施設のホストコンピューターに侵入できるような仕様である。
手先が異常に器用で、手のひらの内側にもう一つ小型の腕(人の大きさ位)がしまわれている。
例え情報端末が人サイズでも機体を降りることなくそれを操作する事が可能。
装備できる武装は乏しいものの敵を翻弄できるであろう機動力は確保されている。ただし防御力は無い。
今回の武装は小型ハンドガン2丁に、コンピューター浸入用の通信ケーブル。
チェックを終え次第、2台のキャリアーに2機ずつ乗せていった。
「さぁって、いくで〜!」
「はぁ、居候に愛の手を……」
往人の呟きを無視するように晴子はやる気になっている。
晴子と観鈴、美凪と往人に分かれてそれぞれのキャリアーに搭乗した。
「みちる。情報の解析、頼みました」
「うん! 解ってる!」
キャリアーに乗る直前に美凪か振り向いてみちるに微笑みかけた。
美凪の言葉に元気よく頷くみちる。
そんな、みちるを見て佳乃がみんなに届くように大きな声を上げて手を振った。
「みんな無事に帰ってきてね!」
「解ってるよ。佳乃ちゃん」
その言葉に観鈴がくすぐったそうに返事をする。
観鈴を見て呆れ顔の聖は往人に声をかけた。
「怪我人は要らないからな。頼んだぞ」
「あぁ、とりあえず行ってくる」
「ぴこ〜」
「よっしゃ、出発するで!」
そう言って晴子の号令の下、居残り組み3人と1匹が見送る中、2台のキャリアーは出発する。
ポテトが器用に手を振りながら見送っていた。
▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽
kanonの工場、久瀬圭一はいつか来た像の有る場所に1人で立ち尽くしていた。
その像に向かっていきなり礼をとり話し掛ける。
これだけ見れば、久瀬は間違いなく精神的な病気だろうと思われるがそうではない。
何故ならその像が返事をしたからだ。
「お父様、どうやら行政府の首脳陣は私たちを切り捨てるようです」
『やはりそうか。それでも遅いくらいか』
「……私には判断しかねます」
『よい。今の戦力を報告せよ』
像は動くことなく声のみを、機械的な声だけを言い放つ。
久瀬もそれを当たり前のように聞いて対応している。
その表情にいつも浮かべている表情は無く、まるで人形のようだった。
「黒曜が1機、マリオネットC型が6機、マリオネットB型が85機、主人無が35機。以上です」
『武器は?』
「それぞれにサブマシンガン、マシンガンもしくは近接武器が行き渡ります」
『そうか、エリアKの軍勢を退けた後に他の地域に移動を開始する』
「判りました。お父様」
『下がって、エリアKを退ける準備を開始しろ』
「はい」
もう一度礼をとって久瀬はその空間を後にする。
その空間に残されたのは幾つものドールと中央に立つ像だけだった。
久瀬はそのままの足で中央制御室に歩き始める。
「圭一」
「なんですか、壱次」
「えらく、不機嫌な顔だな」
その途中で斉藤が久瀬を待っていた。
久瀬の顔の表情に普段の色が戻る。
「不機嫌にもなります、エリアKの軍勢が本気でここを攻めるのをここでしのげと言う話ですから」
「それで、圭一の考えは」
「……ここで敵勢力をしのぎます。未完成とはいえマリオネットは起動でき、戦力的にも申し分ありませんから」
少し考えるように斉藤が久瀬の目をみる。
久瀬はその目をそらすことなく、見返す。
「そうか、なら文句は無い」
「力を貸してください」
「わかっている、俺に命令できるのは圭一だけだ、力を貸すのもな」
「……ありがとう」
「っ久瀬大尉!」
息を切らして、柳が斉藤の横に走りこんできた。
肩で息をして、いかにも全速で走りこんできたという感じだ。
「全員は揃っていますか?」
「っはい! 全員が中央制御室に揃っています」
「そうか、柳、壱次、付いてきてください」
「はい!」
「あぁ」
道を再び歩き始める久瀬にその横を嬉しそうに歩く柳。
そして、その少し後ろを追って歩く斉藤。
久瀬達が中央制御室には彼ら3人の他にもう3人の人間が居る。
3人は柳と同じ町の出身で、その町は既に地図には載っていない。
何故は判らない。ただ、エリアとエリアの諍いに巻き込まれた。
ただそのために、町は無くなり人たちの殆ど息絶えた。
彼ら3人と柳はその町の生き残り。
「待たせてすみません」
部屋に入って開口一番久瀬が口を開いた。
談笑していた3人にはすぐに口をつぐんで、久瀬の話を聞く体制になる。
その町の生き残りを救ったのは久瀬と斉藤だった。
だから、久瀬は彼らに今回は命令しない。
「これから先の話は命令ではありません、要請です。それを心してください」
それぞれの息を呑む声が聞こえる。
「これよりエリアKの軍と交戦します。それをしのぐために力を貸してください」
「もし、力を貸せないというならすぐにここをでて自分の人生を探してくれ」
久瀬の言葉を斉藤が引き継いだ。
皆が水を打ったように静かになる。
3人全員が久瀬の方を向いて頷いた。
久瀬は申し訳無さそうな、嬉しそうな笑みを浮かべてありがとうという。
そして、迎撃のための案を練り始めた。
To the next stage
あとがき
ちなみにO編のお話はここに繋がってきます。ニュースと言う形で祐一君達は有夏さんの行動を知るわけです。
もちろん晴子さんはそれを知っていて祐一君の襲撃を遅らせていたのですね。
ずいぶん久しぶりに本編を書いたような気がします。遅れて、すいませんでした。
でも、この話に繋がると思っていたので書けなかったんですね。ではこれからもよろしくお願いします。ゆーろでした。
管理人の感想
ゆーろさんからのSSです。
今回は、うーん少し微妙な感が……。
祐一と舞の会話や、佐祐理と美汐の会話がちょっと理解できませんでした。
あまりにも展開が早すぎるというか、読者への情報が少なくありませんでした?
登場キャラだけで通じ合っているようで、少し置いてけぼりな感じがね。
単純に私の読解力が足りない可能性もありますけど……う〜ん。
次回は戦争ですね。
久々の大規模戦闘ですか、燃えるなぁ。(笑
乱戦だと祐一がやばそうですけどね。
烏と聞くと、どうもあれを思い出しますね。
某漫画、クロウ(九郎)のマイナーダウンバージョン。(ネタがマイナー過ぎ
分かった人は是非私の友人に。(核爆
感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。
感想はBBSメール(yu_ro_clock@hotmail.com)まで。(ウイルス対策につき、@全角)