私の存在している理由はなんだろうか? 祐一に出会う前ならば、佐祐理に拒絶される前ならば、はっきりと即座に言う事は出来た。 佐祐理のためだと、私のお母さんの為だと。 今の私にはそれを迷わずに言う自信がない。 でも、私に暖かな物を感じさせてくれる人がいる。 私をものすごく心配させる人がいる。 私の不安を吹き飛ばしてくれる人がいる。 こんな感情を抱いた事は今まで無かった。 自分の感情を抑える事が出来ない事なんて無かった。 私は壊れてしまったのかもしれない。 今までの自分に戻れないそんな予感が有る。 私をこんなにした人の隣でその人に寄り添う。 それが私の存在意義で良いと今は思える。 祐一は強い。誰にも寄り添う事無く生きて行く事だって出来ると思う。 でもそれは悲しいと思う。 だから、せめて私くらいは隣に居てあげたいと思った。 誰が何と言おうと。 誰がどんなに否定しようとも。 私は祐一を絶対に否定せずに隣に居続け共に歩く。 それが私の存在意義。 それで良いと思える自分をほんの少しだけ好きになれた。
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神の居ないこの世界で |
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夜明け前の静かな森の近く。キャリアーを乗り捨てて目的地のすぐ近く。 乗り捨てたキャリアーからはAirに迷惑がかからないようになっている。 何処の製品かもわからないように細工をして、どのルートで流れてきたかも分からないようにして有るためだ。 例え、かなり大掛かりの調査機関が捜査しても本当の痕跡までは辿れない物。 それが舞と祐一と舞が乗ってきたキャリアーだった。 2人は既に各自のドールに乗り込んでいた。 ロンギヌスの手にはマシンガンが握られている。 そして、クラウ・ソラスには細身なロッドが握られていた。 ともにAirの製品を譲り受けた物である。 武器は、どこにでも採用されている武器を選んで貰ってきていた。 これからも、Airには迷惑がかからないだろう。 『舞、警告しておくけど敵さんがやってきたみたいよ』 「……わかってる」 舞にかけられる言葉。 はっきり言って天照の助言、言葉には棘があった。 なんと言うか、よくも祐一と離してくれたみたいなやっかみが有るのではっと舞は感じてしまう。 そんな事も舞の心境のちょっとした変化で感じてしまうわけだが。 『進行方向に2、左右進行方向ではないところに各3機』 『舞、進むぞ』 月読の落ち着いた声に祐一の落ち着いた声。 何となく羨ましくなるようなコンビだと舞は思う。 それに比べて、私たちの相性ってどうなのかと思いながら祐一のあとに付いていく。 祐一の進み方は本当に無造作。 まるで、私はここに居ます。狙ってくださいといわんばかりの進み方に舞は不安を覚える。 「祐一……」 『舞、もしかして、祐一に意見するの?』 祐一に通信しようとしてその機能を天照にロックされてしまって、舞は混乱した。 なぜ補助AIにそんな事が出来るのかと。 「そうだから、通信をこちらに戻して」 『舞、私達だけで行動しているわけじゃないでしょ。後には?』 「でも……」 『それに祐一が危なくなったら私達でサポートすれば良いじゃない』 その言葉にむっとする舞。そんな事は既に判っている。 舞達の後から来る晴子達の負担を少しでも軽減しようと言う祐一なりの気遣いだと解っていた。 『自信が無いのかな~?』 「……」 天照の声に無言を返す。 祐一が焦っている訳では無いことくらい解っている。 しかし、それでも不安な事には間違いない。 『舞、ボーっとしているとサポートも出来ないよ』 「……解っている!」 苛立たしげな声を返して祐一の動きを目で追う。 既に祐一の操るロンギヌスは進行ルート上に居る敵2機に対して銃弾を放っていた。 相手も気が付いて銃撃を返し始めている。 祐一の声が唐突に聞こえた。 通信が返されていたみたいだった。 もし、天照を睨む事が出来るのだったら思いっきりの悪意を込めて睨んでやるのにっと舞は思う。 『舞、速度を落とすな。一気に行くぞ』 「うん」 一気に速度を上げる2機。 あまりの動きの速さと変化の大きさに、敵が祐一たちを見失ったようだ。 元々オートドール自体の敵認識も余り優れたものでもない。 敵の銃弾に迷いの色が現れた隙を付いて敵に接近する。 舞はロッドで敵を腹部を真横になぎ払い、祐一はゼロ距離で腹部に銃弾を浴びせる。 なぎ払われたドールはくの字になって真横に吹き飛び、銃弾を受けた方は腹部から黒い煙を吐き出し始めていた。 しかし、敵機の機能を止めるにはいたってはいない。 ショックからの回復の方法によっては最後の力を振り絞って、襲ってくるかもしれなかった。 『雑魚には構うな、このまま突破するぞ』 『だってさ、舞』 天照の軽口の直後、ほぼ同じタイミングで祐一と舞は目的地に向かって走り始めた。 途中邪魔をするドール達は殆ど同じ道を辿らせていく。 舞は近づいてくるものをなぎ倒し、祐一が銃弾を当てて動きを鈍らせる。 祐一のロンギヌスが持っているのは銃なだけに途中、目に付く敵にちょっかいを出していた。 敵にしてみれば歩いていて、銃を通り魔的に乱射されたような感じだ。 弾丸はまるで導かれるように狙われた相手のどこかに命中している。 (雑魚にかまうなって言って、雑魚に構っているのは祐一のほう……) そんな事を舞は考えていた。 徐々に目標の侵入口に近づいて行く。 侵入する頃にはロンギヌスの手にしたマシンガンの弾丸は無くなっていた。 舞がロッドで無理やり扉を打ち破り、2機は揃って中に入っていった。▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽ 工場の中央制御室。 そこにいた久瀬達に対して、緊急を知らせる切り裂くような警報が鳴り響いた。 今まで何も無かっただけに皆が浮き足立つ感じを受ける。 唐突に予定外の事が起きてしまったというのが統一の意見だろう。 エリアKの軍勢が計画を起こすにはまだ早すぎるっと久瀬は感じる。 斉藤が確認の為に、画面の近くに居た柳に駆け寄った。 「何が起こっている」 「所属不明2機が起動中のマリオネットB型を振り切って工場内部に侵入しました」 『圭一、その2機はお前だけで相手をしろ。その後、私のところへ来るように仕向けるんだ』 柳の報告途中にあの機械のような声が聞こえてくる。 ここに居る誰もが知っている声、久瀬圭吾の声だ。 その声には誰も反抗はしない。ただ項垂れるようにその声に従うだけ。 内容は久瀬がすでに負ける事が決定しているといわんばかりの内容だった。 久瀬はそのまま何事も無かったように機械のような声に返事をする。 「解りました。マリオネットB型のターゲットからあの2機を一時的に外してください」 「しかし……」 「以後の指揮を壱次に委譲します。頼みました」 「あぁ、解ったがお前は必ず帰って来るんだぞ」 久瀬は斉藤の後ろで心配そうな目付きの柳を視界に捕らえてから、皆に視線を向ける。 そして、斉藤に対して当たり前ですっと返した。 「分かった、後は任されたが早めに帰ってきてくれ」 「あぁ、では行ってくる」 「久瀬大尉……」 「大丈夫です」 柳の頭をくシャリと撫でてから扉を出て行く久瀬。 それを見送った後に残された者は慌しく持ち場を指示されてその場に移動して行った。 「全く、父上も無茶な事を……人形が兵器に……ね」 その呟きは諦めを孕んだものか。 それとも、自信を孕んだものか解らない。 自らの機体・黒曜に向かって歩き始める久瀬の表情は誰にも解らなかった。 久瀬の後ろからは斉藤の忙しそうな声が聞こえる。 その声を聞いて、苦笑しながら久瀬は自機に乗る覚悟を固めていった。 父親の言葉の意味を噛み締めながら。▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽ 搬入口と言ってもさまざまな大きさが有る。 今回祐一たちが侵入したそれは平均サイズと言った感じの大きさだ。 高さは大型のドールが余裕で通れる位の高さ。横幅は同じく大型3機のドールが手を繋いで仲良く歩ける位の幅が有る。 扉をこじ開けた再に舞のクラウ・ソラスが持っていたロッドは使い物にならなくなっている。 工場内に入った時点で使い物にならないと舞が判断して入り口付近に放棄していた。 『敵が居なくなったわね』 「……うん」 工場に入ってから、敵の攻撃が一切無くなってしまって舞は首をかしげた。 天照も同じような感じで首をかしげているかもしれない。 もっとも、声だけの天照にはそんなしぐさのし様が無いのだが。 『機体反応、この先の通路、500mの地点に1機』 『うぅ……月読みたいにレーダーの類は強くないの……』 舞に何かを言われる前に咄嗟に天照が言い訳をする。 舞は舞で月読から情報が入れば良いと思っていたのでそんなに気にしなかった。 気にしないというよりも、天照のレーダーでも驚異的なのを知っているだけに何も言わない。 だから、天照が恥じる理由は無いのだ。 『質問します。貴方達は何者ですか?』 『GEの生き残りと言えば満足か?』 相手がぽつんと見えるようになってから、いきなり通信が入ってきた。 声の主は久瀬圭一、黒曜からの通信だ。 それに答える祐一の声は相変わらず冷たかった。 舞にかける声とは全く違い、その冷たさは計り知れない。 その声が向けられない事に安心はする自分がいると舞は感じていた。 カメラで画像を補正しないと確認できない距離だが、少しずつ、少しずつその距離が近づいて行く。 kanon売れ筋の機体、黒曜の機体が確認できるような距離になってきた。 くすんだ灰色の機体、肩やつま先など体の先や角が角ばったフォルムの機体がカメラで画像を補正しなくても確認できる。 その右手にはマシンガンが握られていた。 油断無く構えたその姿のまま、確認の言葉が送られてくる。 『父上に何か御用ですか?』 『あぁ、そうだ』 『何の為に?』 『お前なら何か判るだろう。似てはいないが同じような道を歩かされたお前なら。復讐だよ』 舞には祐一の言っている事が判らない。 ただ戸惑いだけが、その場を包み込んで行く。 知らない事実がぽんぽん出てきていた。 舞は彰雄の資料のkanonに居るであろう人物のプロフィールは知っていると思って読まなかったせいだと思い至る。 (どういう事? 久瀬が祐一と同じ道? もしかして、見逃しが……ある) 『いえいえ、私は人形。兵器の貴方とは違います』 『そうか……人形か。なら邪魔をするな』 その言葉が始まりだった。 ロンギヌスが身を低くしたと思ったら一気に加速して黒曜に接近を始めたのだ。 舞は戦闘に参加するタイミングを見事に逃してしまい、祐一の邪魔にならないように一歩身をひいた。 『いい判断ね、舞。タイミングを逃したのは大きな減点だけど』 天照の声が舞の苛立つポイントを刺激していた。 ザラっとした物が舞の体の中を走っていくような錯覚に陥る。 (今は、祐一の足手纏いにならないようにしないと) 祐一にしてみればこの空間の上下左右は祐一の領域である。 壁であろうが天井であろうが、この狭い空間の中では祐一に利用できない壁に天井は無いと言っても過言ではなかった。 久瀬は銃口を祐一に向けるが、狭い通路の中でさえ的を絞らせるような事は無い。 だららぁらぁらぁぁららぁ! フルオートで銃を躍らせる久瀬の黒曜に祐一のロンギヌスは横の壁を蹴った後に天井に手を付いて方向転換する。 舞は弾丸に当たらないようにさらに身を引く。 ランダムな動きをロンギヌスにさせながら黒曜の右手に装備されたマシンガンに向けて何かを投げつける。 それは祐一の持っていた空のマシンガンの本体だった。 ぐわぁん! っという大きな音を立てて黒曜の右手からマシンガンが落ちてしまう。 決定的な、致命的なミスを久瀬が犯した。それを契機に、勝負は一方的になっていく。 避けながら接近すると言う時間のかかる動きから瞬時に、直線的で最短の動きに取って代わった。 ぐしゃぁ! 接近を赦せば、祐一の操るロンギヌスには1対1では敵わない。 すでにマシンガンが手元に無い時点で接近を許すしかなかった。 接近戦のスペシャリストである舞がクラウ・ソラスに乗れば勝負は判らないが、久瀬では話にならない。 元々、久瀬は戦闘には向いていないのだ。 それは、久瀬が黒曜に乗る前に覚悟を決めていたことにも関係が有る。 本来は戦闘には性格も才能も向いていないそれは久瀬自身がよく知っている事。 そんな間にもロンギヌスの右手の手首くらいまでが黒曜の肩にのめり込んだ。 ぺキャぁ! ぶちぶちぶちぃ! ぐわっシャン! 黒曜が一つの行動を起こす間にロンギヌスは2つも、3つも行動をこなしてしまう。 もともとの戦闘の、機体の技術の差が大きく出ていた。 手首までのめり込んだままの状態で、ロンギヌスが身を屈めて残った腕で腕を引き、背負うようにして黒曜を投げ飛ばす。 その際、腕は引きちぎられ腕を繋いでいたケーブルやフレームが惨めに引きちぎられる。 そして、背中から黒曜は地面に叩きつけられた。 後は一方的かつ、虐殺的といえばいいのだろうか。 久瀬の操るマリオネットはコクピット部分を残して見事に破壊されつくされてしまった。 『人形が、兵器に敵うとでも思っていたのか』 その声には怒りも侮蔑等の成分は何も含まれていない。 まさに、ポツリと事実のみを語られた言葉だった。 頭部前面が壁にのめり込み、左右の腕は見事に引きちぎられ細かな部品となってあたりに散乱している。 脚具は本来曲がるはずも無い方向に折れ曲がり折れ曲がった部分から引きちぎられて黒い煙を吐き出してた。 引きちぎられた部分からフレームやケーブル、冷却液が撒き散らされている。 そして、チリチリと何かが焦げる音が黒曜から発せられていた。 まだしぶとく生き残らされていたコクピットから久瀬の声が聞こえる。 『……父上はこの先の2つの通路が合流した広場の先にいます』 『そうか』 その言葉にロンギヌスは興味を無くしたかのような動きを見せた。 黒曜が居ないような動きで通路の先に進んでいく。 久瀬が戸惑った声を上げた。 『……何故止めを刺さないのですか?』 『本当に何もないのなら自害しろ』 久瀬のその声には戸惑いの成分しか入っていない。 何故そんな事をするのか解らないと言った感じの声だった。 その判らないまま、声が続いていく。 既に殺される覚悟は付いていた。なのに、殺してくれない。 いや、ここで殺される予定なのだ。圭吾の予定では。だから殺されないと久瀬が困る。 それでは、圭吾に言われた事を果たす事が出来ないと言った不安。 それを感じた久瀬が、口にしたのは負け惜しみにも似た感情だった。 『……………後で後悔するかもしれませんが?』 『人形なら、自害できるはずだ』 冷たい声色のままその言葉を残して、祐一を乗せたロンギヌスはそのまま久瀬を棄てたようにそのまま歩いて行く。 それに続くように舞も歩こうとして、迷う。 このまま、先に進んで良いのかと。 迷ったまま、声をかけると言う選択肢を選んだ舞。 声をかけたが為に後で、酷く精神的に不安定になるとは知らずに。 「久瀬……」 『……川澄さんですか、これはこれは』 困った所を見られた、そんな感じの声で久瀬は舞に答えることが出来た。 それは久瀬に出来る精一杯の強がりである。 何か声をかけようとした舞の言葉は形に出来ずに、思いはサラサラと落ちて行く。 「……」 『私を哀れみますか? もしそうなら物凄く不快です。私と似た存在の癖に私を哀れまないでください』 久瀬は明らかな非難の声を舞に叩きつけた。 心底、不快だ。理解が出来ないという感情を込めて。 「えっ?」 『置いていかれますよ。行かなくて良いのですか?』 「え、あ……」 舞は久瀬の言葉に動揺しつつも慌ててその前を通り過ぎて祐一の後を追った。 そんな2人を見送りつつ久瀬は一人呟く。 『まさか、私がGEナンバーの最高傑作に人形じゃないと否定されるなんて』 笑い声が、まさに腹の底から純粋な笑い声がでていた。 自嘲の、そして歓喜の嗤いだった。 『私は人間だと思って良いのですか? 父上の人形では無いと思って良いのですか?』 まるで懺悔を請うように何度も何度も同じ言葉を口にする。 自分の意味を確かめるように、祐一の言葉を呪う様に。 『棄てられた人形を何故、壊してくれなかったのですか! 私にどうしろと言うのですか!』 祐一の言葉を信じれば信じるほどに、今までの自分が圧し掛かって来る。 圭吾の言葉のみを実行し、それ以外に何も無い。そして棄てられた久瀬。 祐一の言葉はまさに久瀬にとって呪いの言葉だった。 今までの久瀬には自由がない。ぽんっと自由を渡されても何も出来ない。 『兵器の癖に、何故そんな事を言うのですかぁ!』 そして吹っ切れるような泣き笑い声がその場に響くのだった。 自身を嘲り、認めれないと言った具合に。 言葉が魅力的であれば、あるほどそれは久瀬を苦しめる。 ここで終わるはずだった物に先が有ったなんて知りたくなかったと、久瀬を苦しめる。 一方、舞は久瀬の言葉に戸惑っていた。 (何故、私は久瀬と同じだと言われないといけないの?) 嫌な考えが舞を包み込む。 祐一は言った、久瀬が祐一に似た存在だと。 (久瀬が何であろうと私には関係ない) 舞は自分が自分の意志でちゃんと行動してきたと思っていた。 その中で依存してしまった事が有るが、でも最終的な判断は自分でしているそう思っている。 (私は、人形じゃない。兵器でもない) しかし、それが本当に自分で判断して自分の信念の元に行動してきたのかわからない。 舞は自分で自分が信じれなくなってきていた。 何処から何処までが自分の意志で、何処から何処までが他人の思惑なのか。 判らなくなって苛立ちのみが降り積もっていく。 (私は……誰の言い成りにもなっていない!) ギリッと、歯が鳴ってしまっているのが分かる。 何か訳が判らないものが目の前にいて、苛立ちが体の中にしみこんできてしまっていた。 苛立ちが苛立ちを呼び込み、自分の心がうまく制御できない。 『舞、落ち着きなさいよ。なんだか、精神状態が良くないわよ』 「……判っている」 『何、もしかしてさっきの事を気にしてるの? 意味無いじゃない。他人と自分を比べるなんて』 天照の突き放したような口調に救われるものを舞は、感じてなんともいえない気分になる。 (悩むのはすべてが終わってからにしよう) 舞はそう結論付けて、苛立ちを心から吐き出すことにした。 それが難儀なのは言うまでも無い。 まるで体の隅々まで染み付いたそれを考えないようにすることは大変なことだった。 棄てられた子犬のような足取りで祐一の後を追いながら、その作業を続ける。 舞には気の重たい作業だった。▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽ ▲▽ 今まで、続いていた通路に新たな通路が加わり、場所が開けた場所に着いた。 その先に一つの通路が有る。 それが、祐一に託された物を果たすための道に繋がっている。 (俺は隣に舞の居る状態であいつと対峙できるのか?) 祐一はとたんに混乱を始めた。 今まで考えていなかったと言ったら嘘になるが、それでも先延ばしにしてきた考えだった。 (舞には見られたくない。あんな俺を) もし、自分が抑えきれなくなったらどうなるか。 無理やりにでも、兵器側に、昔に戻ろうとする。 それが判るだけに、隣には誰も居て欲しくなかった。 もしかすると周りを全て敵と認識してしまうかもしれない。 巻き込んでしまうかもしれない。 それが恐ろしいと祐一は感じる。 (自信がない。自分があいつと対峙した時に自分を保つ事ができるか) 特に、舞には。舞だけには隣に居て欲しくなかった。 それは祐一の我侭。何故、川澄主任が舞をつれて逃げたのかを知っているから。 だから、昔に戻ってしまった自分を見て欲しくなかった。 壊れた自分の姿を見て欲しくない、そう強く思う自分に戸惑う祐一。 (だから、困ってしまう) 苦し紛れに、思いついた事を口にして舞をこの場に残ってもらう為に思いを形にする。 本来なら、舞が後続の敵を抑えてその間に祐一が圭吾とのけりをつけるつもりだった。 それが工場の中に入って敵が居なくなると言う、予定外のアクシデントに見舞われてしまう。 元の軌道に戻す、ただそれだけなのだがそれを言葉にするのに、祐一にはかなりの勇気を必要とした。 「舞、これから先に行く奴をここから先にいかせないようにしてくれるか?」 『それは、祐一の命令?』 「いや、俺からの頼みごとだ」 『……』 今まで殆ど命令口調だった祐一だが、今回は懇願の色合いが混じっていた。 舞は舞で祐一の言葉を吟味しているのか口を開かずにじっと次の言葉を待っている。 「自分を保つ自信がない、それを舞にそして、他の誰かに見て欲しくない」 『どうして?』 「舞だから……だ。特に、舞には見てもらいたくない」 搾り出すような苦悩の声。 それが痛いほどわかった舞は身を引くことにした。 でも、必ず帰ってきて欲しい。 今の不安な気持ちをどうにかして欲しい。 そんな気持ちを抱いて、次の言葉を紡ぐ。 舞自身の欲求の為に。 『……解った。誰もここから先に行かせない』 「ありがとう」 『でも、絶対に帰ってきて。さよならじゃないと約束をして』 「解っている。帰ってくる。絶対に」 力強く頷く祐一に不安を覚える舞。 本当なら、自分に素直になるのならば一緒についていきたかった。っという感情が見え隠れしている。 声が震えながら、言葉を形にする。 『さよならだけは絶対に言わないで。私は……』 「解ってる。だから行って来る」 そう言って祐一のロンギヌスは歩き出す。 舞に最後まで言わせずに、そのまま振り返りもせずに。 その姿がドントンと小さくなっていった。 舞の言葉は最後まで聞かれる事は無く、舞はロンギヌスの後姿が見えなくなるまでその姿を見送っていた。 To the next stage
あとがき えーっと切り出しが変りました。あと3回はこんな切り出しになる予定です。あくまでも予定ですが…… それにしても、今回も不親切だったかもしれません……何処まで書いて良いか判らなくなってきているんですね。 今回は特に久瀬圭一君の周りですね。これで良いような気もしますし、駄目なような気もします。 前回指摘された美汐さんは次に補強します。その予定です。でもどうなるでしょう……自信が無いです。 ともかく頑張るので次回もよろしくお願いしますね。ゆーろでした。
管理人の感想
ゆーろさんからのSSです。
仰る通り、久瀬のあたりが些か唐突な感じがしました。 彼の側で物事が出なかったからこそなんでしょうけど……。 これはこれで良いのかもしれません。 後で、何故久瀬と祐一がこのようなやり取り出来たのか、という事をフォローする必要があるかとも思いますが。
最近はシリアスな話なので心理描写が中心ですね。 単純な構図の大規模戦闘も見てみたいですが。 まぁ人間対人間である以上心は切り離せないですけど。
次回は兵器対黒幕(あるいは機械人間?)ですか。
感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。
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