もう俺は頑張った、だからここまでで良いだろ? このまま、もう休んで帰ってもいいじゃないか。

待て、俺は託されたものを果していない。 それに、まだ手はある。

待て、その先を考えるな、帰れなくなる。 何故そこまで考えないといけない。

兄さんや姉さんはなにを願い、俺に殺されたかを思い出せ。 俺はそれを踏みにじって生きていけるほど強くない。

死んだ人間の願いに縛られて、俺は一体なにになるつもりだ。 それに、今このまま死んだ振りをすれば、あいつは見逃してくれる。

そんな甘い幻想、抱いて生きていけない。 遠いあの日に託された思いは果さないといけない。 それが俺の……

自分の命以上のことが大切なんて事は認めたくない! 何故そんな考えになる! そもそも、何故俺の手はこれほど血にまみれている! 何故、こうも苦しい! 何故だ!

それでも俺は、このまま生きていけるほど強くない。 だから俺は……

もっと以前は明るかった! 世界が、生活が、景色が、見えるもの全てが! 何故こんなにも暗く、沈んで見えるのは何故だ!

俺はロンギヌスに乗って、誓いを果たさないといけない。 何故なら、生きたまま、死人にならないように。 それが俺に出来るせめてもの償いだから。 俺を生かしてくれた、あの人たちに出来る最後の償いだから! 戦え、あの人たちの為に。 戦え、あの人たちが安心して眠れるために。 涙を見せるな。まだ、終わってはいない! 例え、俺という存在がなくなろうとも! 恐怖するな! 戦うんだ! あの人たちの為に!
 
神の居ないこの世界で


→機械仕掛けの神の為に相沢祐一と言う存在は一度死ぬ。






 祐一が進む通路の先。

 徐々に天井は高くなり、通路も少しずつだが広くなっていく。

 最後の部屋、部屋と定義して良いか解らない空間。

 高い天井に、広い空間。

 四角の空間だが、その場にはゴムの壁で覆われた体育館のようだった。

 ただし、大きさがドールサイズだが。

 人が活動するには大きすぎる空間。

 そこが祐一の目的地で、目的の居ると思われる場所だった。

 窓こそ無いものの、幾重にも自然の光が取り込まれ、暗くは無い。

 むしろ明るい位の空間。

 そこにはひとつの石像がある。

 いや、石像のようなドールといったほうがいいだろう。

 彫刻のように均整の取れた形、大きさのドール。

 大きさはロンギヌスと同じ程度の大きさだ。

 そのドールが祐一を迎え入れてくれた。

 やけに丁寧で、芝居がかったお辞儀をしながら。



『はじめまして、いや、久しぶりのほうが正しいか? GE−13』

「俺としては、はじめましてだ。久瀬圭吾……」



 目の前に居るドールから発せられる言葉。

 高くも無く低くも無く、機械が作りやすい音で構成された声。

 それを聞きながら、祐一は注意深く周りに気を払う。

 祐一自身の気持ちが逸っているのを自覚した。

 早く、こいつを壊してしまいたいと。

 月読も同時にセンサーの解析にかかった。



『あの1機のほかに周辺に7機の機体反応を検出』

「……わかってる」



 祐一たちが何かを感じ取った。その様子すら判っていると言った感じの目の前のドール。

 片手をひらひらさせて、今は戦意が無い事をアピールする。

 動作が先ほどとは違い、おどけた物になっていた。

 しかし、その動作に隙は無く、祐一を馬鹿にした成分は何も無い。

 むしろ、一目置いているように感じられる。

 おどけた動作も全て計算されているものだった。



『さて、話を聞いてもらおうか? あぁ、拒否権はないから、そのつもりで』

「ふん、何か言いたいことでも有るのか?」

『言いたい事? いや、聞いてもらいたい事かな? 最もそっちはすぐに始めたいみたいだが』



 何が面白いのかわからない。

 くつくつと笑う声が聞こえる。

 それも腹の底から笑っているようなやつだ。

 癇に障る。それ祐一が持った第一印象。

 もっとも、第一印象がよくとも相容れない存在なのには間違いが無いのだが。

 どちらにせよ、約束を果たすには久瀬を殺す、もしくは壊すしかない。



『私と貴方の戦力比から、1対1なら確実に負けるだろう』



 別のところから同じ声が聞こえる。

 その声も同じ機会で合成したような声だった。

 祐一はそちらの方を見ずに意識のみをそちらに向ける。



『2対1でも結果は同じ』



 ぶぅんと鈍く重い音が一体のドールの周りでどんどんと鳴っていく。

 それに伴い、アイカメラの光が徐々に増えていく。

 意識を裂く対象を徐々に増やして、それぞれに注意深くそれぞれの異変を確かめる。

 何か変化が有ればすぐに対応できるようにだ。



『では4対1なら?』

『最善は相打ち』



 光が増えていく。

 祐一は何も感じない顔でそれらを見ていた。

 いや、感じないように注意しながらだ。

 感情の高ぶりが動きを鈍らせることを知っているから、自分を必死に押さえ込む。



『では8対1なら?』

『負ける事は無い。今まで見立てた戦力通りなら』

『最善は完勝』

『最悪は相打ち』



 16のアイカメラの光がロンギヌスを捕らえる。

 その内の一機が前に出てきた。

 一番はじめに見た1機だった。



『続いて、昔話をしようか……その位は聞いてくれても良かろう?』

「あぁ、遺言に聞いてやる」

『では、聞いてもらおうか』



 祐一は戦闘の態勢をとりつつ話に意識を裂いた。

 自分の目的はどんな人物だったのかを刻み込むために。

 どんな人達が自分たちを踏み躙っていたのかを知るために。

 そして、今の状況を把握するために。



『祐治は天才だ、一世紀に一人いや、3世紀に一人の人材だった』

『私とて、そのくらい気が付かないわけではない』

『しかし認めることも出来ない』

『簡単に言えば、嫉妬したわけだよ』

『自分が自分であるためにね。そうでもしなければ耐え切れなかった』

『祐治のやつをエリアMで氷漬けにしたのは私だし、この体になったのも私のためだ』

『この体になったのは純粋に祐治に勝つため、ささやかな優越感を得るため』

『だから、祐治の最高傑作に出会えて私はとても嬉しい。とても、とてもね』



 8機のドールが次々と話を開始する。

 それも途切れなく、まるで一人の人間が話すように。

 流暢にそして、綺麗に歌うように話は途切れない。

 祐一は静かにそれらを聴いている。

 何か違和感が無いかと思いながら。



『脳だけになり機械に接続した時は凄まじかった』

『脳が勘違いする痛みは凄まじいものだよ。あれは洗礼だと思ったね』

『体に繋がっている神経という神経が切断されたと認識したのだろうね』

『しかし、祐治に勝つためには必要なことだ。だから耐えることが出来た』

『今喋っているのは私であり、私ではありえない』

『私と全く同一な存在が複数同時に存在している』

『今の体はこんな事が可能なのだよ。全てが私であり、私で有り得ない状況は精神的に駄目になる人間のほうが多いそうだ』

『もっとも、私はなんとも思わないが』



 前に出ていたドールがゆっくりと元に戻り始めた。

 残りの7機がゆっくりと展開を開始する。

 取り囲むわけではない。

 何かの法則に従うように綺麗に配置していく。

 素早く頭の中でプランを立てながら、祐一は考える。

 本体はどこに居るのか、そして、こいつらを壊しきるのにはどうすればいいのかと。



『機会の体を動かすために機械語をマスターするのに1年』

『脳の全てを機械に切り替えるのさらに1年』

『このように自分をコピーするのに3ヶ月』

『機械を人間と同じように動かすのにさらに9ヶ月。今では人と同じように動かすことが出来る』

『おっと、自分が自分であるために必要な事はなんだと思う?』

『我思う故に我有り、なるほど、昔の人間は良い事をいったものだ』

『私を私と思うのに必要なものは身を焦がすほどのこの嫉妬の炎だ』

『愚かしいと思うかね? 君の言う、兄と姉の復讐とあまり変わりはしない』



 8機全てのドールからフフフと忍び笑いが聞こえる。

 祐一は無言を返すだけだ。

 今は自分の感情の高ぶりを押さえつけるのに必死になっている。

 最も、憎い存在に挑発されてそれにのってはいけないとも解っている。

 ただ、それをするには難しすぎた。



『永遠の命など考えるやつはこの体を羨むかも知れない。だが私にはそんなことに興味などない』

『求めるものの一つ、私が祐治よりも優れていることを証明すること』

『永遠など、意味のないことだ。それよりも重要な事は数多くある』

『一部の人間は愚かだと私を嗤うだろう』

『私には五十歩百歩だと思う、いやドングリの背比べか?』

『何故なら、本能というプログラムに支配される人間という存在』

『自分の全てをプログラムにした私。違いが有るかね?』

『私には違いが判らない。同じではないかね? GEナンバー全ても、人も、私も』



 声がどのドールから順番に出されているのかさえ、もう判らない。

 確かに8つの機体それぞれが全てが同一人物であり、同一人物でありえないようだ。

 ただし、その考え方や動き、しぐさには同じものを感じさせる。

 もしかすると全ての考えを共有しているのかもしれないと、祐一の冷静な部分は思った。

 だが、意識の大半は自分を押さえつけるので精一杯。

 何かが、切れかけている。



『おっと話がずれた』

『しかも長々話をしてしまっているね』

『勘違いしないでくれよ。私にもこだわりと言う物や大切に思う物は有る』

『私にとってそれは、私が祐治よりも優れていることを証明すること。ただそれが大きいだけだ』

『さてと、ここまで話しを静かに聞いてくれて感謝する。今、私はとても良い気分だ』

『証明が出来ると、とても興奮している。ドールにおいてどちらの考えが優れているか、その一点において』

『祐治の最高傑作をつぶすことで、私は祐治よりも優れていることを証明する事が出来る』

『さぁ、始めようか』



 取り囲むようにロンギヌスを囲む8機のドール。

 ロンギヌスは既に臨戦態勢だ。

 祐一は凶悪な笑みを浮かべる。

 これ以上自分を抑えることが出来ないといった具合で。

 冷静な部分が拙いといっているのがわかる。

 だが、これ以上抑えるのは無理だった。

 感情が爆発するのが祐一には感じ取れた。

 そう、まるで他人事のように。



「あぁ、始めよう。俺も良い気分だ……この手で姉さん、兄さんの敵を取ることが出来るのだから!」

『単機とは勇ましい』

『もっとも、それが効率がいいのかどうかは論ずるに値するが、私を相手にするには少しばかり浅はかだ』



 待ちきれない、堪え切れない。

 そんな感じで、真正面にいうドール<主人無し>に向かって。

 それが間違いだった。突然のタイミングで爆発的に前進するロンギヌス。

 月読が警告を発するよりも早く、祐一が動いていしまった。

 最速であっても、単調な一撃を放とうとする。

 予測していたと思われるタイミングで、主人無しが両サイドからロンギヌスの腕をとった。

 ロンギヌスの突進がその場で勢いがとめられかける。



『連携で何故3機で組むのが多いと思うかね?』

『それ以上の連携は非効率とされるからだ』

『加えて、人と人の意思の相通の限界だろうな』



 嘲笑うように2機でロンギヌスを押さえつけにかかる。

 祐一は振りほどくために方向を転換するが、すでに突進の勢いは弱くなっており片方を振りほどくのがやっとだ。

 片方の主人無しは大きくその場に投げ出された。

 祐一は位置を確認していたので、密集していた場所を狙ったはずだがその場には誰も居ない。
 
 既に周りを冷静に見て回れるほどの余裕は無くなっているのかもしれない。

 

『人が多くなればなるほど連携は難しくなる。そのくらい解らないわけではないだろう?』

『普通の人間なら、多くても4機が限界だろうな。このスペースでは』

『しかし、私は違う。他人に頼る必要も無く手にとるように自分がすることがわかる』



 隙間無く布陣した8機の主人無し。

 ロンギヌスは振りほどいて空いた腕で、もう一つの主人無しを振りほどきにかかる。

 相手の頭部をめがけて繰り出した手。

 しかし、その手が再び絡めとられた。

 それも小さい、振りかぶりの動作中にだ。

 本来なら、最速で凶悪な一撃が繰り出されるはずの一撃が放てない。

 腕は鎖で縛られたように少ししか動かなくなっていた。



『警告、一旦この場を離れてください。可能ならば』



 月読の警告もむなしく響くだけ。

 がっしりと固定されてしまっては、もうどうしようもない。

 残った足で何とか相手のバランスを崩そうとするがそうもうまくいかなかった。

 何故なら、遠巻きに居た主人無し達が集まってきているからだ。

 

『私には練習というものは殆ど必要が無いのだよ』

『この意味が解るかね? そして、人数が増えようとも、連携に破綻が来るはずが無い』

『何せ、全てが私であり、考えていることが手に取るようにわかるのだから』

『その意味、しっかりと噛締めて貰おう』



 祐一が足を動かそうと思ったときには既に固定されていた。

 フフフという忍び笑いが聞こえる。

 祐一を愚弄するかのように。

 

『おいおい、お前達を教育したのは誰だと思ってるんだ?』

『忘れないでいただきたい。私いや、私達。おっと既に他のメンバーは居ないのだから私でいいのか』

『ともかく、私だということを』

『回路の封鎖を始めます』



 月読が咄嗟にダメージを減らすために回路という回路を閉じ始める。

 主人無しが始めたのは、集団リンチを思わせるような乱打だった。

 がっちりと固定され手も足も出ない。

 回路を閉じるのは何とか間に合っていた。

 ある程度、乱打を加えた後に主人無し達はロンギヌスを壁にたたきつけた。

 がしゃんと叩きつけられたロンギヌスは壊れた人形のように壁にもたれかかる。

 回路という回路を封じて、ダメージを軽減しているのだから仕方が無い事だ。



『ふむ、ここまで予定通りだと拍子抜けだな』

『所詮、この程度か……』



 もし、月読に表情を表すことが出来れば顰めているだろう。

 そんな感じの声で祐一に文句をつける。

 

『警告、いつのも祐一らしくありません』

(怖れるな、ただ昔に戻るだけだ)



 月読の声は祐一を責めるような感じの声だった。

 一方、それを聞き流す祐一は恐れていた。

 自分を、そして、これからしなくてはいけない事に。

 戦力差は、1機ではどうしようもないくらいなのはわかっている。

 先ほどの動きは連携には全く隙が無かった。

 それを見誤る事は出来ない。

 しかし、祐一にはそれをひっくり返すシステムの存在を知っている。



(嫌だ……、怖い……)



 祐一を祐一として認識させてくれた日々が頭の中に駆け巡る。

 それが美しく、綺麗なほど、祐一の心は申し訳なさで一杯になる。

 いまだに託されたものを果たしていないのだから。

 その言葉とそれまでの記憶が葛藤を起こしている。



『もしかすると、それはロンギヌスではないと?』

(俺は十分幸せだった。だから、恐れるな……頼むから、恐れさせないでくれ……)



 自分の過去を知らずにすごしたその日々は幸せなものだった。

 だから、その日々を経験してきたもう1人の祐一が怨嗟の声を上げてそれを押しとどめようとする。

 最後の、最悪の手を使わせないために。

 相手を全滅させるために、自分を捨てさせる決断を鈍らせるために。



『それとも、祐治のシステムが怖いのか?』

(何を、何を懼れるって言うんだ……)



 体の震えが止まらない。

 何故、こんな事をしなければならないと祐一を祐一と足らしめる者が拒否をする。

 機械仕掛けの神の部品に戻る事を、兵器として完全に存在する事を。

 拒絶し、拒否している。

 しかし、手はこれしかないのだと言うことも理解している。



『滑稽だ……祐治の作ったものはこんなにもくだらないものだったのか?』

(ねじ伏せろ、弱い心を。ねじ伏せろ!)



 震える体の箇所と言う箇所を自分の精神力で押さえる。

 震えは完全には収まらない。

 ただ少し弱くなっただけであった。



『もう少し歯ごたえがあると持っていたのに、これでは祐治も私も浮かばれはしない……』

(悔しい……あの時のように、俺には力が足りないのか……)



 精神力という精神力の全てを体の震えを止めることに費やしていく。

 それでも震えが止まることは無い。
 
 少しでも気を抜けば、震えが元の大きさに戻ってしまう。



『君の言う復讐とはその程度だったのか? 全く持って理解し辛い』

(あの時を繰り返すのか? 嫌だ……それだけは絶対に!)

『君が殺したのだろう? 全てのナンバーを。君が壊したのだろう? あの研究所を』 



 今まで震えていた体が、意志が、祐一を構成する全てが止まった。

 今までに無い位の平坦な声で祐一は言う。

 怒りに震え、憎しみに塗れた成分を含めて。



「……………LOS起動!」



 月読の動きが活発になる。

 目の前のモニターに文字が躍り出し、音いう音が鳴り響く。

 その言葉に歓喜する様に。



「貴様にだけは、それは言われたくない! 兄さん姉さん達がどんな気持ちで居たかも知らない癖に!」

『そうでなければな!』



 これほど感情に塗れた声は舞でさえ聞いていないだろう。

 平坦だった感情に火がつき自分を抑えきれなくなっている。

 俗にいう、自棄になったというものだ。

 しかし、先ほどまで感じていた恐怖は既に怒りに塗りつぶされている。

 体の震えも、もう無い。



「覚悟は決まった! 月読、早く展開を開始しろ!」

『YES、祐一。その覚悟確認しました。【Longinus Operating System】を起動させます』

【LOS展開、開始。戦闘に不要な感情を排除開始……CROSS、適正Mで再起動開始】



 まるでこの瞬間を待っていたかのような歓喜の音だった。

 その音と文字が祐一を機械の核へと変換させる。

 機械的に動くわけではない音と文字。

 祐一に見える全てが有機的な動きを見せていた。



―――― 俺という存在を喰らいつくして構わない……それで奴が殺せるのならば!

『あなたは機械仕掛けの神の部品です』

【一部失敗、機能続行……CROSS再起動完了】



 今まで落ち着くことの無かった祐一の感情が急に静かになる。

 その熱を失わずに、むしろもっと灼熱させながら。

 刀剣を作る前の焼けた鉄のように、一つに収束していく。

 静かに、そして、熱く。



―――― 俺は機械仕掛けの神の生体ユニットとなる

『敵を屠りなさい。今は居ないあなたの家族のために』

【平行して、武具『ロンギヌス』展開、開始……】



 ぴんぴんぴん、と乾いた音が機体のいたる所でなり始める。

 それと同時に祐一の体のいたる所から血が滲み始めた。

 パラリパラリと、包帯のような装甲がほどけていく。

 それは、まるで人の表皮を剥いで行くようなものだった。

 当然、それは祐一の身に降り注ぐ。

 傷となって、痛みとなって、祐一に襲い掛かる。

 しかし、祐一は身じろぎ一つしない。



―――― 敵、戦力解析開始……

『敵はあなたを邪魔をするすべての存在』

【武具『ロンギヌス』展開率35%を突破、LOS展開率75%を突破……】



 アイカメラの赤が、紅へと。

 より一層禍々しくなっていく。

 ギラギラとした光が宿っている。

 包帯のような装甲の下にある、普通の装甲が見えて来ていた。

 装甲の下にはゴム状の何かが蠢いている。

 人が呼吸するように、有機的な動きで。



―――― 機体状況解析……自武装パターン解析開始……

『それを実行しなさい。託されたものを果たすために』

【LOS展開完了。システム、戦闘モードに移行開始……】



 実際にロンギヌスに致命的なダメージは殆ど無い。

 先ほどまで、回路を閉じてダメージを最低限に絞ったためだ。

 動きには全く問題は無いくらい。

 ただ、祐一にダメージが無いわけではない。

 何度も殴られた衝撃と、CROSSからのフィードバックが祐一の体に現れている。

 しかし、祐一にはその苦痛すら感じる余裕が無い。

 いや、痛みという感覚に対して感じないように意識を振り分けるという事をしていない。

 全ての意識を目の前に居る敵に裂いている。

 自分に裂くための意識など、一ミリも無かった。



―――― 解析完了

『そして、あなたは世界に君臨する』

【武具『ロンギヌス』展開完了、モード移行完了……】



 ビシリ、と皹が入っていなかった仮面が口の辺りからまっすぐに割れる。

 まるで凄まじい笑みのように口が出来たと思えるほどの割れ方。

 無表情だったロンギヌスに表情というものが出来たと錯覚できるほどのものだ。

 ただし、歪んだ、見ているものを圧倒する笑みに違いない。

 相手が普通の人間ならば。

 久瀬はそれを楽しそうに、そして、嬉しそうに眺めるだけだった。



―――― 目標設定、この場に居る全戦力の殲滅

『君臨するあなたに敵は居ない』

【神殺しの刃、神をも貫く槍……】



 祐一自身が笑っているのかわからない。

 すでに『祐一』では無いのかもしれない。

 祐一に自意識があるのかどうかすらもわからない。

 兵器としてなら確実に意識は有るだろう。

 少しの間で、人間性というものを捨て去った姿の祐一が居る。

 『祐一』だったものは、体中から血をにじませ、嗤っているのであろう。

 それほどに、ロンギヌスの表情は異常だ。



―――― 戦略選択……

『システムオールグリーン、【Longinus Operating System】起動完了』

【神槍『ロンギヌス』展開完了……システムオールグリーン】

―――― システム、オールグリーン。作戦開始

『今ここに、機械仕掛けの神が君臨する』



 そこには包帯のようだった装甲が解けたドールが一機存在している。

 解けた包帯のようなものはかなりの長さになり両手から垂れ下がっていた。

 5本の全ての指から伸びるそれは、まるで意思でも持つように波打つそれはまだ方向性を見せてはいない。

 ロンギヌスがゆっくりと立ち上げリ、8機のドールと相対する。

 まるで、その8機をあざ笑うかのような表情を浮かべていた。

 相対する8機は嬉しそうな笑い声を上げるだけだった。





To the next stage







 話の流れ的に変かもしれないです。あとは書いてて、祐一君がやけに弱く感じました。  でもしょうがないんです。今は許してあげてください。あとは祐一君の過去決着編(勝手に命名)の黒幕の登場です。  傭兵様も予測しておられたとおり捻りも何にも無く登場です。久瀬父親。  書いてて、案外普通だなぁと感じた私の感性はもう駄目かもしれない……  では、ここまで付き合っていただきましてありがとうございます。ゆーろでした。

管理人の感想


 ゆーろさんからのSSです。
 久瀬は普通っぽかったですね。  でも普通が1番性質悪いのも確か。  実際何時の時代も取り返しのつかない事をするのは普通の人間です。  天才的な何かが無くても物事は動かせるものでしょう。  憎悪や執念で時代さえ動かしたりしますし。
 久瀬父の元ネタはやっぱあれですかね?  某ガンダムの某総統。  同じ人間が分裂してるのはあれくらいだったような気もしますから。  脳だけの科学者ってのは……Dr.ウィロー?(核爆


 感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。

 感想は
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