聞いてください。 俺には何も、無いのです。 そう、自分を騙していたかった。 俺は何も持ちたくなかった。 なのに何故、持ってしまったのか。 持たなければ、こんなにも苦しくは無かったのに。 知ってください。 俺は何も、知らないのです。 そう、自分を偽っていたかった。 俺は何も知りたくなかった。 なのに何故、知ってしまったのか。 知らなければ、こんなにも悲しくは無かったのに。 観察してください。 俺は何も、見えないのです。 そう、自分を誤魔化していたかった。 俺は何も見たくはなかった。 なのに何故、見えてしまったのか。 見えなければ、こんなにも涙を流す事が無いのに。 教えてください。 俺は何も聞けないのです。 自分は、そうなのだと信じたかった。 俺は何も聞きたくなかった。 なのに何故、聞いてしまったのか。 聞かなければ、こんなにも痛々しく無かったのに。 話してください。 俺は何も話せないのです。 そう、自分を固めてしまいたかった。 俺は何も話したくなかった。 なのに何故、話してしまったのか。 話さなければ、こんなにも心が俺が軋まないのに。 感じてください。 俺は何も感じないのです。 そう、自分に嘘ついていたかった。 俺は何も感じたくなかった。 なのに何故、感じてしまったのか。 感じなければ、こんなにも辛くなる事がないのに。 壊れてください。 俺は何も壊せないのです。 そう、自分は壊れていないと信じたかった。 俺は何も壊したくなかった。 なのに何故、壊してしまったのか。 壊さなければ、悲しくなれるほど自分が自分で居られるのに。 神の部品は壊れながら、周りを壊し、壊れていく運命。 壊れるのは神の部品。 壊されるのは全ての敵。 壊れていくのはその全て。 壊れきったその先に残りうるものはなんだろうか? ……そんなものは知りたくもなかった……
 
神の居ないこの世界で


→壊れ、壊され、壊れていく物(者)達





 揺らめいている。ゆらゆらと。

 ロンギヌスの指先から延びる触手の様な金属。

 まるで意志でも持つように揺らめき、蠢いている。

 久瀬圭吾にはそれがまるで生き物のようだと思った。



『それが奥の手か……失望はさせるなよ』



 呟いた瞬間、ロンギヌスの手から延び、蠢いていたものが糸状になった。

 ものすごい速度で、何かの形になっている。

 その時間は人のまばたきの時間くらいで形が出来ていた。

 だから、久瀬が気が付いたときには、ロンギヌスが手にしたものは槍になっている。



『なるほど、名前の通りの武装か』



 などと、ロンギヌスから一番遠くの主人無しが満足そうな声を呟いた瞬間だった。

 音も無く、かつてのデータ以上の速度でロンギヌスが槍を振るっていた。

 臨戦態勢を解いていたわけではない。

 だから、それに反応は出来た。その槍の軌道上に手を伸ばし何とか受け止める。

 しかし、その一撃を受け止めれはしなかった。


ぎゃシャァ、ゴリィ! ギチっン!


 武器を槍だと特定して対応をした主人無しのロンギヌスに一番近かった1機が崩れ落ちる。

 外面から見れば、腕を叩き斬られただけ。

 その後に何かをされたはずだと他の主人無したちは分析をする。

 久瀬は送られてきているデータを受けてどうやら電撃を受けたものだと判断した。


がしゃん!


 槍の穂先で崩れ落ちた主人無しの胸部が貫かれた。

 機能が完全に停止して、復帰する事はもう無い。



『ただの槍ではないっという訳か?』

『それでも、ただの電撃を放つ槍ではないか?』

『だが、そうではないと』



 改めて陣形を組みなおし、ロンギヌスに相対する。

 その手には銃器が握られ、本気で潰すという意志が現れていた。

 左右からの十字砲火、動いたロンギヌスの動きの先を予測して放たれる弾丸。

 都合、4つの銃が火を噴いている。

 弾丸が、ロンギヌスを捉える音がしている。

 これだけの量を受ければ、多少なりともダメージを受けると久瀬は計算していた。

 YAタイプの異常さを一番身近で知っていた久瀬だから弾丸をいとも簡単に当てる事が出来ている。

 反応速度も、その頑丈さも、機動力もその全ての異常さを知っている。

 身近で作られ、身近で戦慄していたのは彼だ。

 YAタイプの異常さに一番恐怖していたのも彼だ。

 だから、予測が出来、弾丸を当てることが出来た。それも大量に。

 それでも銃撃の手を緩めない。

 ダメージは与えただろうが、それが致命傷とは限らないからだ。

 銃が一斉に弾切れになる。すぐに交換の作業に入った。



『……な、に?』



 ロンギヌスに十字砲火を仕掛けた左側の主人無しが予告も無く崩れ落ちた。

 先ほどと同じく電撃を喰らって。

 確かに、進路上にいただろうが、あれだけの銃撃で全く進行速度が落ちなかったほうが驚きだった。



(何だコイツは……理解不能だ)



 データではもう動けないと思われるほどのダメージを与えているはず。

 そして、盾になるようなものをロンギヌスは持っていないはず。

 現に、先ほど止めを刺した主人無しはそのままの姿で打ち捨てられている。

 加えて、今ロンギヌスが手にしているのは槍だ。

 弾丸を全て打ち落とした……などと言う馬鹿げた妄想に久瀬は行き着いたがそれはありえないとそれを打ちけす。

 一斉にしかも多方向から放たれた銃弾を全て打ち落とせるとしたら、その動きは既に人間の出来る動きではない。

 無事であった。それに行き着く事が、要因が思い至らない。

 恐怖というものを感じた瞬間だった。



―――クス


 初めは小さな音だった。

 忍び笑いともそれに似つかぬ笑い声。

 小さな子供が嘲るような嗤い声。



―――クスクス



 それが断続的に聞こえたような気がする。

 静かに、それは久瀬圭吾を包み込む。絶望と言うものを知らせるために。

 ありえないものが、この目の前に存在すると知らせるように。



―――クスクスクスクスクス



 音響センサーに何の反応もない。

 実際には聞こえていないはずなのだ。

 しかし、聞こえたと感じてしまうこの耳障りな笑い声。

 これは人間の感じる警告。恐怖した時に感じる物だろう。



(何だこの音は! センサーには引っかかっていないのに何故聞こえたと感じる!)



 久瀬圭吾は混乱する。未知の物体に。

 久瀬圭吾は恐怖した。相沢祐治に。

 体を失ってなお、相沢祐治は久瀬圭吾を縛り続ける。

 しかし、その警告に素直に従うわけが無い。

 無視し、ロンギヌスに相対する。










▲▽  ▲▽  ▲▽  ▲▽  ▲▽
――――武装選択、槍  ロンギヌスはゆっくりと、そして、ゆったりと槍を構える。  相手の恐怖を煽る様に。  相手を値踏みするように。 ――――敵戦力確認開始 敵残存勢力6 敵武装、通常弾を装填されたマシンガン・アサルトライフル 加えて近接接近用に格闘武器を用意している模様 敵の陣形より迎え撃つ準備が有ると判断  感情を失った目で静かに敵を見定める。  感情を失った目は、写される情報のみを処理していく。  高速に、正確に、皮肉にも、人間の理論で。  ここに、機械と人間との違いがある。  ランダム要素やひらめきが無い機械とそれらのある人間との違いが。  ただ、ロンギヌスのカメラの目だけが感情を失っていないというように赤く紅く光っていた。  槍の穂先を大きく動かし、敵を選ぶような仕草をする。  全てが計算され尽くされた、敵に恐怖を与えるためだけの動きだった。  相手が久瀬圭吾では無ければ、蛇に睨まれた蛙の様に感じてしまうであろう。  しかし、プレッシャーを与えていることには間違いない。 ――――自戦略検討 第1案、現装備にて突撃     却下、装備の変更を要求する 第2案、遠距離からの銃撃戦後、各個撃破 保留、虚を突ける可能性あり ただし、自戦力露見の可能性大 第3案、撃破した敵機を盾に突撃 却下、機動力が大幅に低下、接近不能 第4案、装備変更後、突撃 保留、自戦力露見の可能性大 現状況から、第2案を選択。 ――――行動開始  ロンギヌスはいきなり、先ほど撃破した機体の影に隠れた。  と言っても完全に隠れられるわけではない。  機体を腹ばいにさせて何とか隠れられる程度だ。  隠れたロンギヌスに呼応するように、主人無し達の銃撃が始まる。 ――――武装選択、レールキャノン  ロンギヌスの手に持っていた槍の形が変わった。  槍から筒状の何かになった、それの中には撃破した機体の親指の付け根辺りまでの物が入っている。  それは通常の弾丸の質量の軽く6倍はある。  コォォン、という音が続々と筒から鳴り始めた。  鳴り止まない銃撃と銃撃の数瞬の合間にそれが相手の胸部へと向けられる。  強力な磁力で親指と親指の付け根は浮き上がる。 キャショォォォン!  機体の指が、筒の中で加速され大きな質量ともなった弾丸へと代わる。  弾丸よりも重く、驚異的な速度を持つそれはもちろん、恐ろしい破壊力を持っていた。  この距離である、弾丸の形状がどうこう言われる前に相手にぶつかってしまうだろう。  現に目標とされる主人無しは動く事も出来ずに胸部を貫かれる。  動く事が出来なかったのでは無い。正確には動く時間が無かったのだ。  それほどの速度で打ち出されたそれは、主人無しの胸部にバックリと大きな大きな風穴を開けた。  腕は辛うじてくっ付いており、何とか人型を保ってはいるが機能は完全に停止している。 ――――残存敵勢力、5 ――――武装選択、盾、レールガン  一旦、筒が解かれ、右手の前では楯状に包帯のようなものが組み合わさる。  左手はもう一度、筒の状態に変化したが、それは先ほどよりも細くなり長さも短くなっていた。  右手には盾のようなものが出来上がっている。  武装ロンギヌスとは、それの正体は形を変えられる武器。  機体全体の装甲であった包帯状の金属。  それは、電磁的、電気的、励磁的に金属としての形、特性を変化させることが可能な金属だ。  形状を変化させることで十数種類の武器に変化させることが出来る。  元は手から伸びる包帯のような金属の束。  それを電磁的、電気的、励磁的に変化させて、武器と化す。  これが武装ロンギヌスの正体。  その事実に久瀬はまだ気が付いていない。 ――――標的確認  ロンギヌスは次の相手を見つけていた。  いや、次の獲物を選び終えていた。  左回りに獲物を狩るように選択したようだ。  抜け目無く砕かれた装甲などを弾丸としてレールガンに装填する。  そして、相手が放つ銃弾を右手の盾で器用に避けて回り、そして左手のレールガンで弾丸をばら撒く。  ショットガンのように弾丸が出て行くときもあれば、マシンガンのように弾丸が出て行くときもある。  ばら撒かれた弾丸は先ほどのような威力こそ無いものの主人無しに圧倒的なダメージを与えた。  一見、無造作にばら撒かれたように見えるが狙いは正確で、外れる弾丸は見受けられない。 ――――武装選択、双剣  弾丸を吐き出しつくしたレールガンと、接近し終わり必要の無くなった盾が短めの剣へとそれぞれ変わる。  他の主人無し達がロンギヌスを狙う射線に目の前に居る主人無しを入れながら近接戦闘の準備に入った。  目の前に居る主人無しは銃を廃棄し、何かロッドのようなものに武器を変更している。  しかし、ロンギヌスに相対するには時間をかけすぎた。 シャァア!  ロッドのようなものを持っていた手の手首が綺麗に切り落とされる。  ロンギヌスはそのまま体当たりをしながらどんどんと前へと進んでいく。  主人無しは残された腕を振り上げて反撃を試みる。 ジュギャん!  振り上げられた腕と胸部に出来た少しの隙間。  そこに双剣の一本が突く刺さった。いや、捻じ込まれた。  振り上げた腕を下ろすことも出来ずに、そして残された主人無し達は銃撃をすることも出来ずにその様子を見ることしか出来ない。  例え、今銃撃をしたところで目の前に居る主人無しでその全てを受け止められてしまうだろう。  既に使えないものだとしても、弾の無駄な消費は避けたいといった所であろうか。 ギョり、ゴリ、ごり。  その剣がうごめき、胸部の装甲をはがしている。  剥がれた装甲の下に手を捻じ込み、中から機体を行動不能へと追い込む。    ロンギヌスの目の前に居る主人無しは完全に破壊尽くされた。  痙攣もしないで、崩れ落ちる。 ――――武装選択、槍  再び手には槍が納まる。  と言っても、ここまでやられてようやく相手はその秘密に気がついたと言うところであろう。  もちろん、他の主人無したちが何もしなかったわけではない。  しかし、近接戦闘になってからは銃撃は味方すら巻き込むと諦めたのだ。  正確には、その主人無しのせいで効果が挙げられないと諦めたのが正確か。 ――――残存敵勢力、4  代わりに陣形を整えて、ロンギヌスに対抗しようとしていた。  それでも、対策を立てる前に全体の数が4機に減っている。  久瀬の言葉を借りるのならば、「最善は相打ち」しか出来ない戦力比になっていた。  しかし、祐一本人に限界が来つつある。ロンギヌス本体は問題が無い。  血を流しすぎているのだ。先ほど、武具を展開した時から血は止ってはいない。  いまだに乾く事無く流れ続けている。 ――――警告、体温低下 ――――警告、血液量低下 ――――警告、反応速度低下  いくつもの警告が、月読を通して祐一に語りかける。  だが、戦いをやめる訳にはいかないと言わんばかりで何の手も打たない祐一。  敵の殲滅が第一目的で、生き残ることが第一目的では無いからだ。  だから、ロンギヌスは止らない。 ――――敵戦力分析 胸部と肩関節を繋ぐ部分に構造的欠陥 機関部は胸部にあり コクピット及びそれに類する物の確認は出来ず ――――敵戦術確認 左後右前よりの挟撃 右前方に2機 左後方に2機 その武器の形状より、2機が近接戦闘を担当するものと予測  主人無しはロンギヌスの右前方に2機、一方は近接戦闘用に何かを引き抜いている。  もう一方の主人無しは銃を両腕に持っていた。  左後方の主人無し達も同じである。   ――――機体状況解析 生体ユニットの性能低下 自戦力の露見 以外に異常なし ――――自戦略再検討 第一案、この場にて迎撃 保留、装備変更後、迎撃に変更 保留、集中的に攻撃を受ける為、効率悪 第二案、右前方もしくは左後方に突撃 保留、敵戦力分散により、効率悪 第三案、この場にて同士討ちを誘発 採用、戦略の中で効率良 ――――行動開始  ロンギヌスはこの場で待っていた。敵が挟撃してく瞬間を。  接近組みの敵は挟み込むように直線的にロンギヌスに向かって襲ってくる。  残った遠距離組みは、円を書くように一定の距離を保ちながら弾丸を放っていた。  ロンギヌスはその場でステップを踏む様にして弾丸を避ける。  その避ける動作をしたのは少しの時間だけだった。  近接組みの敵、2機がロッドのような物をほぼ同時に振り上げて、ロンギヌス目掛けて振り下ろそうとしてた。 じゅきゅ!  ロンギヌスはその場で垂直に飛び、槍を天井に突き刺す。  主人無しの振り下ろしたロッドのような物は互いにぶち当たり、嫌な音を立てた。  もしその場に垂直跳びをしただけなら、ロンギヌスは巻き込まれていただろう。  カシュッという軽い音と同時にロンギヌスは自由落下。  手にしていた槍は一方の肩と胸部を繋ぐ部分から主人無しの胸部に浸入していた。 『ば、馬鹿な』  そんな声が聞こえたような気がする。  しかし、そんな音にロンギヌスが惑わされるはずが無い。  ロンギヌスはそのまま、槍を真横になぎ払って、突き刺さった主人無しごと接近してきた主人無しにぶつける。  ぶつけられた方は機能停止に追い込まれた主人無しの下敷きとなった。 ――――標的確認  ぶつかった2機を蹴って、遠距離攻撃をしようとしている2機のうちの1機に標的を絞った。  狙われた主人無しも、近接戦闘の組が殲滅されると予想していたのか動きが一瞬だが鈍る。  そんな間にも距離は確実に詰められ、もう銃撃だけではどうしようの無い場所まで相手の接近を許してしまっていた。 『っく!』  銃の引き金を絞ってどうにかしようとした瞬間。  槍の穂先が銃口を跳ね上げた。 ――――武装選択、刀、盾  片方は天井に向かって銃弾を吐きもう片方はロンギヌスに銃口を向けて何とか銃弾を吐いていた。  その弾丸は全て盾の中に吸い込まれ、火花を散らす。  片手の刀で、主人無しは袈裟斬りで綺麗に切断された。  その後、軽く爆発を起こし、部屋の中に閃光が奔る。 ――――残存敵勢力2  既に残っているのは、先ほど接近してきた主人無しが1機。  遠距離攻撃を仕掛けてきていたもう1機だけだ。  しかも、無傷なのは残る所1機だけ。  近接戦闘を仕掛けていたのはようやく今になって、下敷きの状況から抜け出せた。  既に右腕は動かなくなっており、無事とはお世辞にも言いがたい。 『馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な!』  まるで壊れた呪詛のように続ける、久瀬。  しかし、そんなこともお構い無しでロンギヌスは止らない。  いや、むしろ止ってしまったほうが恐ろしい。  久瀬が予想した予想はあくまで予想で、単機で殲滅されかける予定ではなかったのは確かだろう。  だが、あくまで予想は予想。  速度や、武器の前提が違えば結果はおのずと違ってくる。  久瀬の大きな間違いは、祐一を怒らせた事であろうか?  それとも、戻りたくないものに戻らせるほどの決心をさせたことであろうか?  それとも、LOSの存在を忘れていたせいだろうか?  いや、それら全てかもしれない。  残された時間で久瀬は何を思うのかわからない。  視界、それぞれの機体にいる久瀬は後悔していること間違いないだろう。  何故、こいつを見誤ってしまったのだろうかと。 『あの武器は何だ、あの反応速度は何だ! あの動きは何だ!』  喚いている。この世の全てを呪う様に。  銃を乱射させて、もう狙いも何も無い。  ただ単に引き金を絞り続け、弾丸を吐き出し続ける。  いたずらに弾丸を吐き出されても、ロンギヌスに掠りすらしない。  狙いが無い、子供の癇癪のような出鱈目な銃撃。  情けないにもほどがあった。 ――――武装選択、戦斧  ロンギヌスの武器が両刃の斧に変わる。  久瀬は混乱をしているわけではないだろう。  ただ、この場を正しく認識できていないだけだ。  弾が切れても、銃の引き金を絞り続ける。 『あの機体はなんだ! そもそも―――――』  かちん、カチンと音が鳴っているにもかかわらず、弾の交換さえしない。  回避すら考えられないのか、銃口を向けて空の銃の引き金を引き絞り続ける。  ふぉん、多量の空気を巻き込んでそれは振りかぶられた。  ぎしゃぁっと言う音共に頭から叩き潰される、遠距離戦闘を仕掛けていた主人無し。  バックリとそれは装甲を突き破り、股関節の辺りまで食い込んでいる。 ――――武装選択、槌  武装を変更しながら振り向きざまにそれを振り回した。  しっかりとした手ごたえが、ロンギヌスに伝わる。  右腕をだらしなく垂らしたままになっていた最後の主人無しがロンギヌスの背後を取っていたのだ。  しかし、それに気が付かないわけではない。  最速で突っ込んできていても、ロンギヌスには十分対処できると知っているからわざと背後を取らせていた。  現に、ロッドのような物で殴りつけようとしていた主人無しは不自然な格好で真横に飛ばされている。 『そもそも――――』  打撃は脇腹を直撃したらしく胸部の側面と太ももの側面がぴったりとくっついている。  機関部が胸部にあるので辛うじて機能は失われていないが、動くのは残された左腕のみ。   ――――武装選択、槍  殴られた衝撃でロッドのような物は他の場所に飛んでいた。  反撃すら、最後の悪あがきすら殆ど出来ない。 『私は――――なんて怪物を―――――』  ノイズが混じり始めた主人無しのスピーカー。  ロンギヌスはそれでも止らない。   『祐治は――――なんて怪物を―――――作ったのだ――――』  ぐしゃりと主人無しの左腕と胸部を繋ぐ関節部分つまり肩が破壊された。  既に達磨のような状態になっている。 『面白い―――――そう思わないかね! GE−13!』  ぐしゃりと、頭部が潰される。  槍の穂先で人の眉間と同じ位置が貫かれた。 『あは―――はは! 私は――――なんて素敵な物――――の一部を作った―――のだ!』  穂先は貫通しており、反対側から穂先が出ている。  ぐひょぅうっと槍を引き抜く。 『ま――さか――lo―――se o――ne’s sanity―――が使われ―――ている―なんて――』  久瀬の笑い声は止らない。  スピーカーにはノイズが入り、聞き取り辛くなっている。 『なんて、喜劇――――』  久瀬がそう言った時にロンギヌスが振るう槍は最後の主人無しの胸を貫き、機能を停止させた。  ばちんっと、主人無しが火花を散らす。 ――――敵全勢力殲滅  目標を達成したと同時に、ロンギヌスは膝をついた。  ロンギヌスに限界が来たわけではない。  祐一に限界が来たのだ。 『【Longinus Operating System】緊急解除します』  今まで祐一に視界のみでデータを渡していた月読が空気を震わせる。  ロンギヌスはその場に座り込むようにゆっくりと機能を元に戻していく。 『CROSS、再起動』  CROSSを再起動したところで祐一が動けなければ意味が無い。  機体は動くのだが、操縦者が動かないと言う状況になった。 『意識レベル最低…………祐一起きてください』  月読の声は祐一には届かない。  祐一は死んだように動かなかった。 『休眠を決断。全機能、休眠開始』  何度か祐一が起きるように月読は声をかけた。  しかし、それは無駄な努力に終わる。  月読はロンギヌスを休眠状態に移行させながら自身も電源を落として祐一が目をさますのを待った。  いや、祐一が目を覚ますのを待つしかなかった。 To the next stage
 あとがき  ワンサイドゲームでした。もっと苦戦させたほうが良いかななんて思いましたが、結局この形にしてしまいました。  なんとも、迷ったんですけどね。一方的過ぎると、ちょっとあれなんですけど……  まぁ、本当に描きたいのはこの先にあるので、ここでの表現はちょっと軽くさせていただきました。  ではここまで読んでいただいてありがとうございます。ゆーろでした。

管理人の感想


 ゆーろさんからのSSです。
 決着、ですね。  あくまでも久瀬は科学者だった、という事でしょうか?  戦闘するものとしてはまだまだでしたね。(特に終盤  祐一は目的の一部を果たしましたが、この状態だと後がキツイ。  彼は生き残る事が出来るか。
 ロンギヌスの武装ですが、銃器はEMLのモノだけし無理そうですね。  性質上変更できるモノは単純構造のものだけでしょうから。  そこらにあるもの何でも弾丸に使えるみたいなので、反則過ぎる兵器ですよね。  投擲武器にはさすがにならないでしょうけど。

 今回の話を見て、名雪は絶対勝てないだろうなーと確信。(苦笑


 感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。

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