〜全く……なんでこうなるのよ……なんだかかなり腹が立つわ〜
七瀬留美、基地司令室をあとにしながら。


〜まぁ、嵌められたにしては詰めが甘いかな? むかつくけど、どうしようもない〜
折原浩平、基地司令室をあとにしながら。


〜お兄ちゃんの始末書の数が27枚だったから。あれですんでよかったと思うよ〜
折原みさお、基地司令室をあとにしながら。







  
 
神の居ないこの世界で−O編−


→ONE本社に、相沢有夏と祐夏がやってきた日。








 背筋を伸ばして一礼をしてから部屋を退室する。

 その部屋はエリアOの基地司令室だった。

 2人の女性が部屋を出た瞬間、同時にため息を吐く。

 1人は青い髪のツインテールで、名前を七瀬留美。

 もう1人は茶色い髪の短いポニーテールで、名前を折原みさおと言う。

 その2人は先ほどまで話していた内容を思い返して、ため息を吐いた。



『今回の作戦での君達、特に折原中尉の行動が問題になっているのは判っているな』

『自分は、自分が良かれと思った事を行なったまでです』

『……その事は分かっている。だが、だ。行政府のお偉い様が、貴様らを信用できないと言ってきてな』

『あぁ、西議員ですか?』

『そうだ……軍に残るのなら事務方もしくは僻地にとぶ事になる』

『自分は、ここに何の未練もありませんから』

『そう……か』



 周りと言っても、脇の2人にだが気安く声をかけて意見を促す。



『七瀬にみさおはどうするんだ?』

『私も、西隊長の下で働けというのならば、軍を辞めさせていただきます』

『……聞かなくても分かってるよね?』

『そうか、ではここで君ら3人を除隊する。好きな所に行くが良い』



 また2人が同時でため息を吐いた。

 その間でお気楽そうにいしている、茶髪の男は折原浩平という。

 その男が手を真上に上げてから変なポーズを取った。

 見ていた女性2人はため息をまた同時に吐く。



「うっし! 今日から自由だ! あの気の食わない隊長様の下で働かなくて良いなんて、なんて良い日だ!」



 鼻歌を歌いそうな勢いの浩平に呆れたとばかりに呆れた視線をよこす留美にみさお。

 その視線に棘はあったが、嫌な感情は乗っていない。



「折原……あんたねぇ……」

「引き止めなかったのは、絶対お兄ちゃんの出した始末書の数が問題だよね……」



 軍に務めて2年に少し足らない位。浩平の出した始末書の数は27を数えていた。

 これでも正式な物だけを数えただけで、氷山の一角に過ぎない。

 もし、細かい事まで上げて行ったらこの倍以上の始末書が必要になるだろう。

 その殆どが上官の命令無視などのものだった。



「折原さん!」



 3人に気が付いて前から走ってくる男性。

 何処と無く、リスを連想させるような男だ。



「よぉ、小池! 怪我は良いのか?」



 浩平が手を振って小池と呼ばれた男性に答えた。

 小池は浩平の目の前で息を整えてから、声をかける。



「私の怪我は大丈夫です。それよりも! ここをやめるっていうのは本当ですか!?」

「お? 話が早いな。そうだけど……」

「何でですか!?」

「西隊長が西隊長のお父様に俺が気に食わないって告げ口してくれたんだと」



 その言葉に絶句する小池。

 この小池と言う男はHドール乗りである。

 浩平と留美の同僚で、先の作戦でドールが大破し負傷してしまった。

 本来ならそのまま見捨てられるはずが、小池の不在を知った浩平がオペレーターのみさおを介して連れ戻したのだ。

 今回は見捨てられた小池を浩平とみさおが助け、その事を厳しく咎めた隊長に留美が噛み付いた。

 噛み付き、手が出そうになったのを浩平が止めたのだが、その事がこじれにこじれて今に至る。

 ちなみに先の作戦と言うのは簡単に言うと戦争である。

 しかし普通の戦争と違うのは、協調された戦争ということだ。

 互いの主張がどうしようもなければ、剣を交えて負けたほうが勝った方の言い分を聞く。

 その戦争には戦力などの事細かなルールがある。

 ルールが破られれば、破った方が要求を飲み込むと言った戦争。

 少数精鋭の部隊対少数精鋭の部隊の戦争。

 戦力を限定して戦争を行なえば、多少の損害は被ってもエリアを傾けるほどの被害は被らないというわけだ。

 しかし、死人が出ないわけでもない。

 よって、大抵の場合、見捨てられる兵が出てきてしまうのだ。

 主に、前線で戦う兵に。



「俺はよほど嫌われたらしいぞ」

「折原……他人事のように言うけど」

「七瀬、考えても見ろ。あのヒステリックに喚き散らすだけの隊長の下で働かなくて良いんだぞ?」

「………………魅力的ね」

「だろ?」

「あの人は、オペレーターにも喚くもんね、耳が悪くなったらきっとあの人のせいだもん」

「ちがいない!」



 ころころと笑う折原妹に豪快に笑う折原兄。

 その横で、少し口の形を微笑みの形にした留美。

 今から職場をやめる人間の表情では無かった。

 諦めの表情で小池はその3人を見ている。



「寂しくなります」

「あぁ、申し訳ないけどこればっかりはな」

「今までありがとうございました!」



 バッと敬礼をして、3人を見送る小池。

 いつの間にか小池の後ろには何人かの兵士が同じように敬礼をして浩平たちを見送っている。

 浩平たちもその人たちに敬礼を返して、その場を後にした。
 









■□  ■□  ■□  ■□  ■□
 浩平たちが軍の基地を後にしたときと同じ時間。  ONE本社には相沢親子が来ていた。  ONE本社はエリアOの中心に位置している。  エリアOで最も大きな企業に数えられる会社だった。 「小坂由紀子に面会を頼めるか?」 「はぁ?」    正面玄関からやってきた何処の馬の骨とも知れない女に受付嬢は困った。  その横にはそんな母を見ておろおろする祐夏の姿がある。  怪しい2人組みであることには間違い無い。 「申し訳ありませんが……」 「相沢有夏が来た、と言ったらどういう意味か分かるか?」  その一言に受付嬢は固まった。  受付のマニュアル、いや、ONEの会社のマニュアルの殆どに相沢有夏を怒らせてはいけないと書いてある。  その後ろにはとある逸話が載っている事を有夏は知らない。  慌てだした受付嬢の反応におかしなものを感じながら有夏はそれを無視する事を決めた。  その文は由紀子が載せたちょっとした悪戯だが、実際に一度起こっているので、洒落ではなかった。 「ちょ、ちょっと、お待ちください! た、たった今、社長秘書室に連絡を入れます!」 「話が早くて助かる」 「社長秘書室ですか!?」  裏返っている受付嬢の声。よほど緊張しているらしい。 「ねぇ……お母さん、本社に乗り込んでよかったの?」  祐夏は体を小さくして不安そうに有夏に言う。  有夏はそんな祐夏を鼻で笑った。 「心配は要らん」 「でも……あの反応見るととても不安になるよ」  有夏はなんとも思わなかったが、受付嬢の反応に対して祐夏は疑問を持っている。 「何だ、そんな事を気にしていたのか?」 「そんな事じゃないと思うよ」 「そんな事だ。気にするな」  受付横のエレベーターから女性が一人降りてきた。  少しウェーブの入った髪を肩の辺りで揃える女性がスーツに身を包んでいる。  その動作にはどこか、優雅さを感じさせる物があった。 「相沢祐夏さんですね?」 「あぁ、久しぶりだな。深山」 「お久しぶりです」  深山雪見は、小坂由紀子の秘書である。  もちろん、有夏とも面識があるし会社に対しての知識もある。  秘書というよりも由紀子の懐刀であるといった方が良いのかも知れない。 「では、こちらへどうぞ」  有夏は祐夏にイクゾと目で合図をする。  それに素直に従う祐夏。  3人は仲良くエレベーターに乗り込んだ。  物音を立てずに静かに閉まる扉。  そして、それは振動を感じさせないで上へと上がっていった。 「それにしても、もう少し愛想が良くても良いんじゃないか?」 「仕事ですから」 「相変わらずだな」 「有夏さんも相変わらずですね」 (うわぁ……お母さん和んでる……)  ちんっという音を立てて扉が静かに開いた。  そのまま真っ直ぐに歩いて、扉を開く。  そこは結構な装飾の施されている社長室だった。  部屋の中心にある豪華なソファーに現ONE社長の小坂由紀子が鎮座している。 「お待ちしておりましたわ。有夏」 「久しぶりだな。由紀子」  有夏はそのまま由紀子の座る豪華なソファーの前の同じ物にどっかりと腰を落とした。  祐夏はそれを見ておろおろする。何て傍若無人なのかと頭を抱えたい気分で一杯だった。  それと同時に雪見は由紀子の斜め後ろに控える。  雪見の横にはひょろりとした男が立っていた。  手には、紅茶のセットを持っていて秘書というよりも執事と言った感じの姿をしている。  しかし、職業は秘書だった。名前を氷上シュンという。 「祐夏ちゃんも座ってください」 「は、はぃい!」  急に声をかけられた祐夏はかなり慌てた声を上げて、戦々恐々と言った感じで有夏の横に座った。 「さて話だが、まだ彰雄のやつが来ていないのか?」 「えぇ、何でもまだ仕事が残っているそうで」 「そうか、では仕掛ける会議はまだ出来ないな」 「そうですわね……」  こぽこぽっとシュンが3人に紅茶を注いだ。  祐夏はそれに頂きますと言って口をつける。 (あ……美味しい) 「まぁ、すぐには仕掛ける事は出来んのだがな」 「あら? どうしてですの?」 「サイレントとガンショットの状態を見てもらえれば分かるんだが、要修理状態だ」 「そうなんですか? なら見に行きましょうか」 「では、その場で例の物を渡そう」 「お願いいたします」  由紀子と有夏は紅茶には手を付けずにそのまま立ち上がり外に出て行こうとする。  祐夏は慌てて立ち上がり、その後を追おう。  2人を先導しているのは雪見だった。  シュンはそのまま残って、紅茶などの後片付けを始めている。 「深山さん、川名さんはどうしたのかしら?」 「え? あ、あの子は下の方へ来るように言っておきました」 「はぁ、あの子の食事時間の長さと量はどうにかならないものかしら?」  困ったようにため息を吐いた後に、由紀子は軽く頭を振る。  ちょうどエレベータの扉が開いてシュンを除く全員が乗り込み、静かに扉が閉まった。 「そう言えば、クロノスの人達も今日は開発部のほうへ集まっていたわね?」 「はい、社長。予定では軍をクビになった3人と隊員との顔合わせです」 「まったく、浩平もこうなるなら初めから私のところに居ればよかったのに……」 「お言葉ですが、クロノスでは体験できない物を体験してきたと考えれば良いのではないでしょうか?」 「フフフ、そう考えときましょうか」  有夏は興味無さげにその話を聞いていて、祐夏はただただ萎縮している。  一階について、やはり音も無く扉が開いた。 「さっきの話だと、浩平は軍をクビになったみたいだな」 「そうですわね。あの子はいつになってもやんちゃですわ」 「今日は顔合わせだけなのか?」  それに答えたのは秘書の雪見だった。 「はい、有夏さん。訓練は明日からとなっています」 「そうか……明日からか。由紀子それに参加しても良いか?」 「有夏も相変わらずですね。でも、願っても無い申し込みです。こちらからお願いしますわ」 「あぁ、楽しみだ」  由紀子の言葉に有夏は苦笑をしている。  少しは自覚があるみたいだった。  その苦笑顔の母親を見て、祐夏はちょっと明日が心配になる。  心配になるのは自分の体力が持つかどうかについてだった。 「あの、そのクロノスって言うのは何ですか?」 「試作機のテストパイロット兼、Hドール実働部隊ですわ。祐夏ちゃん」  玄関の前には既に車が回されている。  由紀子、有夏、祐夏の3人はそのまま後部座席に乗り込む。  雪見はそのまま助手席に乗ろうとして、諦めて後部座席に回った。  そこには長い黒髪の女性が既に座っている。川名みさきだった。 「雪ちゃん。遅いよ」 「あのねぇ……みさきの方が遅いのよ」 「では出発しますよ」  運転席にはシュンが座っている。 「あ? あれ? あの人って双子?」  驚いた表情の祐夏がシュンを指差して声を上げた。  その間に、車はスピードを上げて走り出しいる。 「あぁ、気にしないほうが良いよ。しゅん君、神出鬼没だから」  みさきがあっけらかんと言ったが、祐夏は納得が出来ない。  どうすればエレベータよりも先回りして降りてこられるのか解らない。 「お、おかしいよね? お母さん!?」 「いや、あいつはあれが普通だ」 「氷上君にはいつも助けられていますわ」 「そうですね。社長」 「しゅん君、神出鬼没だからね」 「……ムー」  これがシュンの普通らしいと納得できないけど納得するしかなかった。 「そういえば、ガンショットはここで修理できるのか?」 「馬鹿にしないでください。ここを何処だと思っていらっしゃるのですか?」  有夏のちょっとした疑問に、由紀子はむっと顔色を変えて返事を返す。 「分解して、構造がわかれば修理など赤ちゃんを泣き止ませるのよりも簡単ですわ」 「そうか、なら解体でもしてくれて良い」 「助かります。その指示は既に出していたのもで。あとAir側には内緒でお願いします」  由紀子の説明に、有夏が納得し、雪見が答える。  祐夏はその間小さく縮こまっていて、みさきはまだ何かを食べていた。
■□  ■□  ■□  ■□  ■□
 ONEHドール開発部。通称開発部。  その場には、新しく作り直したほうが早いのでは無いかと思われる機体とONEの色ではない機体が仲良く並べられていた。  作り直したほうが早そうなサイレントは分解されて、解析に回されている。  どの部品の損耗率が高いのか、どの部位から壊れていったのかなど。  生きたデータである事には違いない。これほど、実戦にさらされた機体がここに入ってくるのは珍しい。  栗色の髪を後ろで纏めた女性・長森瑞佳がその指示を出して奔走している。  その横で、ONEとは毛色の違った機体を見上げる女性、里村茜。  完全に右腕を駄目にしたガンショットを見上げる茜は三つ編みをいじりつつそれを飽きることなく見上げていた。  右腕は外されて、床に直接置かれている。  見上げているガンショットには当然のことながら右腕がついていはいなかった。 「さて、分解を開始しましょうか」 『はい、なの』  茜の横で同じようにガンショットを見上げていた女の子。  ショートカットで手にはスケッチブックを持っている上月澪がスケッチブックの上にペンを走らせた。  スケッチブックの上に彼女の文字がすらすらと書き込まれていく。  茜はそれを見て余裕げに返事をした。 『でも、大丈夫なの?』 「社長の許可はありますから。流星のごとく現れたAirの天才開発者、国崎往人の機体……分解します」 『なら、容赦いらないの』 「えぇ、容赦無用です」  少し興奮した面持ちで妖しげな笑みを浮かべる。  その表情に嬉しそうな表情を返して、澪は頷いた。  この後、2人の手によって有夏一行が到着するまでの間に完膚無きまでに分解されるガンショット。  その一行を満足そうな微笑を浮かべて2人は迎えることになった。 「あー!! 祐夏のガンショットがぁ!!」  2人の後ろで完膚にまでバラバラにされたガンショット見て叫び声を上げる祐夏。  澪と茜は顔を見合わせてにんまりした。 『コクピット回りの事が聞きたいの』 「分かっています」 「あー……完膚にまでバラバラ……」  かなりの勢いで落ち込む祐夏に茜は声をかけた。  うつろの目をした祐夏に茜はあまり感想を抱かなかったが澪はちょっと引いた。 「ガンショットのパイロット、相沢祐夏さんですね?」 「……はい」  落ち込んだままの声で祐夏は返事をする。  まるで魂が抜けたような感じだった。  澪は初対面の女の子の第一印象を決めかねて首をかしげている。 「これはドールというよりもちょっと大きめなハワードスーツと言ったほうが良いですね。完全な人型では有りませんし」 「あの、お姉さんにはわかるの?」  そう、機体の大きさから完全な人型にする事が出来ずにガンショットは微妙に人型から外れているのだ。  その事を知っているのは直接、往人から説明を受けていた祐夏だけだと思っていた。  だが違ったので祐夏は驚いた顔を作る。 「そのことでちょっと質問に答えてもらえませんか? その後に組みなおしますから」 「え!? ガンショットは治るの!?」 「当たり前です」 『当たり前なの』  驚愕の目、驚愕の顔で見る祐夏に、それに冷たい目線を返す2人。  どうやら2人のプライドを痛く傷つけたみたいだ。  そんな事にも気がつかずに(これは有夏の遺伝だと考えられる)祐夏は2人に質問の内容を聞いた。 「質問って何かな?」 「あの、コクピット周りの事ですが……」 「もしかしてコンソールの事?」 「そうです」  祐夏はガンショットのコンソールの事を説明し始めた。  とは言っても専門的なことまで解るわけではない。  だから、往人が言っていた事の覚えている事を断片的に交えながら使い方を説明していく。  それはガンショットの大きさで、コクピット内にあまり空洞を作る事は好ましくない。  その末考えられたのは、目線と音声で全てを処理しようという考え方だった。  入力に必要な事は目線による選択と音声で全てが行なわれていると祐夏は説明した。  そのことに酷く感心する2人。  他にもこまごまとした事を質問して質疑応答が終わる。  祐夏は心配そうな顔で2人を見た。 「本当にガンショットは治るの?」 「任せてください」 『任せるの』  2人の技術者は胸を張ってそう言いきった。  祐夏はまだ名前も良く分からない2人のの技術者を心配げに見詰めるしかない。  困った笑顔を浮かべて2人の作業を見届ける事にするしかなった。  そんなに心配しなくてもガンショットは元に戻るのだが、祐夏は気が気ではない。
■□  ■□  ■□  ■□  ■□
 さて、そのときの有夏はというとこちらもまたバラバラにされたサイレントの前に立っていた。  腕を組み感慨深げに分解されていく作業を見上げる。 「長森、データは巧く取れているのか?」 「あ、はい。有夏さん」  堪えられなくなったのかどうかは有夏にしか解らない。  有夏にしては珍しい行動パターンだ。  瑞佳はいきなり声をかけられてびっくりしたものの有夏の元に駆け寄って状況の説明を始める。  有夏はそれに静かに耳を貸していた。  その横では由紀子が有夏の様子を観察している。  失礼な話かもしれないがこんなに真剣な有夏は初めてだと言った感じで。 「結論からいいますと、サイレントは作り直したほうが早いです」 「そうか……」 「残念ながらそうです。コクピット周りにもかなり酷いダメージが蓄積していますから……」 「瑞佳さん、データをフィードバックした機体をすぐに用意できるかしら?」  有夏の観察をしていた由紀子が瑞佳に向けて声を発した。  瑞佳は忙しくそちらの方向を向いて泣きそうな顔を作りながら答える。  その顔は本当に情けなかった。 「完全にだと4週間くらいかかります……解析を他のスタッフに任せても短縮できて3週間です」 「そう、なら3週間で用意してくれますか?」 「出来る限りそうしますけど……そうなると浩平と留美ちゃんの機体の設計が……」  本当に泣きそうな情けない顔で由紀子の顔を見る瑞佳。  由紀子はその事を分かっていたと言った感じで有夏を見た。  空の手を有夏に向かって差し出す。  由紀子の空の手を見て荷物をごそごそとあさりだした。  そして、有夏は祐一から預かった、かなり分厚い本とディスク9枚組を由紀子に手渡す。  由紀子はそのままそれを瑞佳に手渡した。  瑞佳はそれを困惑した面持ちで見詰める。  これに何が入っているのか解らないのにと言った面持ちで。 「開発部の子達でこれを見て、それをベースに浩平さんと七瀬さん……後は試作機を何台か作ってくれます?」 「……中身を見てないことには即答できません。この後、開発部の子達を集めて相談協議してから報告で良いですか?」 「えぇ、人員の増員、物資の補給が必要だったら遠慮なく言ってください。期待してますわ」  由紀子はふんわりと微笑んで瑞佳の肩を叩く。  瑞佳はちょっと微笑み返してから頑張りますっと返事を返した。  作業に戻る瑞佳の後姿を有夏が見送っている。  その表情は複雑そのものだった。  有夏のその表情はレアだっと由紀子は考えていた。  こんな表情は滅多に見られないからだ。 「有夏……」 「あぁ、大丈夫だよ由紀子。心配ない」 「それなら良いのですが……」 「私の身を守ってくれたんだ、感慨深くもなるさ。愛着というものが湧いてもしょうがない」 「あら、有夏にも愛着というものが存在したのですね?」 「当たり前だ」  ふんっと不機嫌そうに鼻を鳴らしたが、表情は苦笑している。  やはり、少し恥ずかしいのだと由紀子は長い付き合いから感じ取っていた。  ぱんっと自分の頬を自分の手ではたいて有夏が自分に発破をかける。 「さぁ、辛気臭いのはここでお終いだ! 浩平たちはまだか!」 「ふふふ、焦らずとも良いですわ」 「しかし、あいつとの訓練は久しぶりだからなぁ!」  よい意味で切り換えの早い有夏を見て微笑む由紀子。  2人の信頼関係はやはり厚かった。  残念な事に、折原兄妹はあの相沢母がエリアOに来ている事を知らない。  知っていたからどうにかなるではないが、その衝撃度はかなり違っただろうと想像出来る。  もっとも、浩平たちが到着するのを待ちきれずに有夏は飛び出て行ってしまうのだが。  それを見送る由紀子の顔は苦笑だった。  その苦笑もとても楽しそうな苦笑だった。 To the next stage
 あとがき  O編、つまりエリアO、ONEメンバーを中心にしたお話の始まりです。初めに断っておくと祐一君達は出てきません。  でも、お話は微妙に本編とリンクしています。中心人物はやはり有夏さんになってしまうかもって感じです。  21話から祐一と別れた有夏さん達の行動はって言う感じでの分岐だと思っていただければ幸いです。  ちなみに全体で9話か10話で完結……出来ると良いなぁって思ってます。  では頑張りますので、こちらの方もよろしくお願いしますね。ゆーろでした。

管理人の感想


 ゆーろさんから頂いた外伝の1話です。
 相沢母が主役のお話。  初っ端から首になってる浩平ですが、まぁ彼は模範的な軍人には絶対なれませんしね。  行動的には人間として正しいみたいですけど。  隊長は親の威光を笠に着た嫌なやつなんでしょう。 
 ONEキャラが多数登場しましたが、この話で彼女らがどう動いていくか。  祐一は彼らとも面識がありますし、本人がいないところでの彼の話も見たいですね。  暗躍が中心になるのかな?

 果たして浩平は有夏の魔手から逃れる事が出来るのか?(爆


 感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。

 感想はBBSメール(yu_ro_clock@hotmail.com)まで。(ウイルス対策につき、@全角)