~雪ちゃん、もう一杯良いかな? ~駄目、時間が既に押してるのよ! ~じゃあこれお持ち帰りで~ 仲の良い2人の会話 ~相沢君のお母さん……あれこそ本物の乙女よ! 目標にしないと!~ 七瀬留美、相沢有夏と出会って ~……さすがAirの技術者、期待の新星、国崎往人の作ったドールですね。無駄がない~ 里村茜、組み上げられたガンショットを見上げて
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神の居ないこの世界で-O編- |
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エリアOの交通網を乗り継いでようやくONEの開発部に到着した浩平たち3人。 みさおには心なしか、少し疲労の色が見える。 他の2人はやはり行動派だけにあまりそんな色が見えない。 開発部入口の警備員に身分を証明して、仮の身分証を発行してもらってから集合場所に向かって歩き始めた。 浩平たちはここに来るのは初めてでは無い。 何度も来ていて、構造も道順も、何処に何があるかも知り尽くしていた。 そんな慣れた通路の中で留美が口を開く。 「あぁ、どこかに相沢君みたいな良い男居ないかしら……」 ポツリと意味ありげに響くこの声。 無言で顔を見合わせる浩平にみさお。 いつもなら、冗談を言っているはずの浩平が神妙な面持ちでそれに答える。 「……祐一はやめた方が良いぞ」 「……うん、そうだよ」 留美もそんなに本気に口にしたわけではないが、折原兄妹の反応が少し気になった。 いや、気になったではない引っかかった。 そのために話題はズバリそれに流れていく。 「相沢君って何か性格に問題でも有るの? それとも特殊な趣味を持ってるとか?」 「い、いや、どちらかと言うと祐一本人には問題がない」 「そ、そうだよ」 祐一とは少ししか会った事の無い留美だがそのときの態度に物腰、全てが留美のストライクゾーンの直球ど真ん中だった。 だからと言って好きになったというわけではない。 そのくらいの人が居ないかと思い口にしたわけだ。 留美は軽く口にした程度だと思ったが2人の反応がどうにもおかしい。 おかしいと言うよりも、怪しい。 そうなると、気になるのが人間である。 留美もその例に漏れなかった。 「もう結婚しているとか? 実は女の子でしたとか?」 「だから、祐一本人には問題は無いんだって」 「じゃあ、何に問題があるって言うのよ」 あーっと言う唸り声を上げて誤魔化そうとする浩平。 うーっと言う唸り声を上げて誤魔化そうとするみさお。 やはり兄妹。仕草は似たような感じだったが留美には関係ない。 「何か理由があるんでしょ?」 「………………………祐一のお母様だな」 長い長い沈黙の後にポツリと浩平が呟いた。 その答えに留美は怪訝な顔をする。 みさおが首を微妙に縦に振ろうとして硬直した。 「相沢君のお母さんが何かあるの?」 「ぶっちゃけるとだな、訓練マニア? 苛めるの大好き? 人間核弾頭? 絶対に癒せないナンバーワン?」 「はぁ?」 「まだあるぞ。戦闘狂、狂戦士、狂犬、サーベルタイガー、むしろハイエナ、激S、誰にも扱えない動く猛毒」 ふと横に居るみさおの調子がおかしいことに気がつく留美。 とある一点に視線が固定されて、微妙に引きつった笑顔でそちらを見ている。 その視線を辿っていくと女の人にたどり着いた。 浩平はそんな調子の2人に気がつかずにむしろ口の周りは絶好調になって有夏に関する事を上げていく。 関する事と言っても浩平が感じた事を浩平の言葉に置き換えているだけだが。 「まぁ、絶対に和み系とかではないね。だ「ほほぉ。私は浩平にそう思われていたんだな」」 堪えきれなくなったのかどうか解らないが、ものすごい綺麗な笑顔をした美人(留美主観)がそこに立っていた。 ぎぎぎっと言った具合で浩平の首がそちらの声のした方向に向いた。 その顔は完璧に引きつった笑顔だったとのちに妹のみさおが話している。 「久しぶりだな、浩平。そんなに激しく私の事を想っていてくれるなんて感激だな」 「あぁ、いぃえぇ、どぉういたしまして」 「感激しすぎてどうかしてしまいそうだよ」 「い、いえ、どうにもしないでください!」 「いやいや、遠慮はいらないみたいだしな。遠慮は」 「あ、あはははは……」 みさおの乾いた笑い声がそこに木霊する。 先ほどまでの綺麗な笑顔はどんどんと妖しい艶の有る笑顔に変っていく。 何と言うか、餓死直前の獣がようやく獲物を見つけたときの顔みたいな感じで。 「浩平さんにみさおさん、それに七瀬さん。時間に遅れてますわよ」 「「由紀子さん!?」」 声を合わせて驚く折原兄妹。 留美も驚きはしたが表情には出さずに理由を説明すべく行動する。 「申し訳ありません、社長。除隊の手続きが長引いてしまって遅れてしまいました」 「それならしょうがありませんね」 ふんわりと微笑む、由紀子を見て安心する折原兄妹(特に兄)。 由紀子はその笑顔のまま、有夏に向かって浩平への死刑宣告を言い渡した。 「有夏、明日の朝から浩平さんを貸し出しますから、みっちりしごいてあげて下さい」 「OK、由紀子の頼みじゃ断れない。泣き叫んで血の汗が出るくらいしごいてあげよう。浩平」 そのやり取りに浩平は顔の色をなくして震えている。 みさおは自分が含まれていない事に少なくとも安心してから、兄の境遇を心配した。 誰だってわが身が可愛いのである。 逃げようとする浩平はその場で簡単に有夏に組み伏せられる。 動きは無駄が無く、見る人が見ればあまりの華麗さにため息の出るものだった。 動揺しきった浩平には逃げる暇も気力も無い。 「浩平……逃げたら解っているな?」 「い、イエス! マム!」 「フフフ……明日の朝が楽しみだ」 有夏の動きを目を輝かせている留美。その表情をみさおは呆れ顔で見ていた。 本性を知らないなんて何て羨ましいのだろうかと。 そして、これ(有夏)を見て何も感じないのかと。 何となくお兄ちゃんの周りに居る人は変っている人が多いなっと思考が回り始める。 それに自分が入っているんじゃないかっと言う思考にいたって慌てて首を振ってその考えを打ち消した。 重ね重ね言うが、誰だってわが身が可愛いのである。 浩平にはギリギリと極められた関節の音が聞こえる。 その狭くなってきた視界の中で留美の嬉しそうな顔が見えた。 浩平は最近、七瀬の追い求めている乙女とは、乙女と書いてバルキリーと読むのでは無いかと考えている。 しかも、有夏は既に乙女という年齢では無いだろうと心の中で突っ込みを入れた。 七瀬だってそうだろうにと思って言うのをやめた。 言わぬが華であるし何より、関節を極められながら頭はしっかりと現実逃避をしていたのだ。 「有夏、それは明日にして今日はちゃんとクロノスの人たちと顔合わせをしてもらいますわ」 「それもそうか」 浩平を解放しつつ、有夏は由紀子の後に続く。 3人も慌ててその後ろに続いた。 声を潜めて、前の2人に聞こえないように会話をする。 「クロノスって確か私達が所属する部門の通称だよね、お兄ちゃん」 「あぁ、ものすごく嫌な予感がする」 「何がそんなに嫌な予感なの?」 「七瀬……お前は有夏さんの訓練を知らんからそんな事を言えるんだ」 疲れ果て、達観した顔で浩平はそう言いきった。 みさおも頷いてその意見に同調している。 「私はオペレーターだからあんまり関係ないんだけどね、でも見てて気の毒になれるんだもん」 「あれはもう思い出したくない。祐一と……」 なんて事を話しながら、集合場所に着いたみたいだ。 開発部には活気がみなぎっていて、端の方にクロノスのメンバーが集まっている。 浩平は話を続けているが、その妹と同僚の2人の興味は他へと移っていた。 働きまわっている開発部の人たちを関心げに見ている。 「……何だか忙しそうね」 「うん、瑞佳お姉ちゃんも大変そう」 「って、俺の話は無視か!?」 浩平が言い始めた事を素敵にスルーした女性2人。 抗議をしようと浩平がアクションを起こそうとした時だ。 「もしかして……浩平か!?」 「そういうおまえは、護!?」 振り向こうとしてぐきりと浩平の首が嫌な音をする。 それも当たり前、みさおと留美の方向に体を向けて、浩平の真後ろにいた護に首を向けようとした。 一瞬だが、浩平の首が180度近く回転した事になる。 現在、浩平は首を抑えてのたうち回っていた。 「やれやれね……」 「お兄ちゃん慌てすぎ……」 「相変わらずだな……」 床にのたうち回る事5分。ようやく浩平は動きを止めた。 そんな事も小さい事だといった感じで2人組みの女性が歩いてくる。 片方は体も小さくどちらかと言ったら女の子と言ったほうが良いのかもしれない。 髪は短く揃えられていて、間違いなく場違いな感じの女の子は椎名繭という。 もう一人は多分長いであろう髪を自分の後頭部辺りでお団子にしている女性。 名前を稲木佐織と言った。共にクロノスのメンバーだ。 「あれ、住井なにしてるの?」 「あー、遅いぜ稲木に椎名」 「私は時間通りに来たけど?」 「みゅー、時間通り」 そんなやり取りを聞いていた由紀子がその会話に入ってきた。 「あら、その言葉。私の前でもいえるのかしら?」 「……社長?」 「みゅ、みゅ!?」 「私の指定した時間は既に過ぎているみたいですわ」 慌てる二人の後ろでさらに新しい人物が歩いてきて会話に参加する。 眺めの髪を後ろで軽く止めた女性は情報部に所属している柚木詩子という。 「遅れてスイマセン! 社長! あまり時間をかけると次の定例会議に遅れますよ」 遅れてきてしれっと先に進むよう遠まわしに催促をする詩子。 それにため息を吐きつつ、由紀子は集まった人を見渡した。 普通、社長いや会社のトップが実働部隊を見に来る事は珍しいはずだがONEでは珍しい事ではなかった。 時として、共に訓練に参加する事も有る。 それが名家の嗜みというものらしいと現場の人間は理解している。 それを迷惑というよりも歓迎している雰囲気があるのは由紀子の魅力が大きな所を占めていた。 「今日は顔合わせですから軽く紹介するだけで良いしょう」 「祐夏。こっちに来い」 「内容は、ドール乗りの方はランクと得意な戦い方もしくは武器そして自分の名前の紹介を。では浩平さんから」 由紀子が段取りを決めている間に有夏は祐夏を呼び寄せておく。 有夏の呼び出しに気がついた祐夏。 祐夏は解体されているガンショットから視線を引き剥がして有夏の隣に走りよった。 それと同時に自己紹介が始まっていく。 「折原浩平。ランクはC、得意な物は無いが苦手な物もない。よろしく」 「折原みさおです。私はオペレーターとして配属されます。よろしくお願いしますね」 「七瀬留美よ。ランクはA-、近接戦闘を得意としているわ。よろしく」 軍から抜けたメンバーが簡潔に自己説明をし終わった後に視線が有夏に集まった。 視線に声をつけるとしたら「何者だ、おまえ」がしっくり来るだろう。 その視線を感じて有夏は不思議そうな声を上げる。 「ん? 私か? 私は由紀子の親友で相沢有夏だ」 「あぁ、良い忘れましたが有夏は明日からクロノスの教官になりますから」 折原兄妹から息を呑む音が聞こえた。 その音に怪訝な顔をするクロノスメンバーに留美。 有夏はそれを無視して祐夏の頭に軽く手を置いた。 そして、乱暴に頭を撫で回す。 祐夏はそれを嫌がりその手から逃げて髪を整え始めた。 その行為を見て苦笑しつつ祐夏の説明を有夏がする。 「こいつは私の娘で祐夏という」 「お母さん、私自己紹介くらい出来るよ。相沢祐夏、ランクはB、得意な物は拳銃かな?」 「おっと、私の紹介を忘れていたな、名前は良いとして、ランクはC-、得物は選ばない」 そう言い切った後にクロノスメンバーがそれに続く。 「住井護、ランクはB-、主にサブマシンガンを使うな」 「椎名繭、ランクはB、得意技、拳銃」 「稲木佐織よ、ランクはB+、得意な物はライフル及びアサルトライフルね」 「はぁ~い、柚木詩子です! 情報屋やってます! よろしくね~」 とりあえず居るだけのメンバーが説明を終える。 間髪を置かずに由紀子は後ろに控えている秘書3人組を手招きをした。 「貴方達も自己紹介しておきなさい」 由紀子のその一言にシュンがさらに一歩前に出た。 そして、華麗に一礼を決めながら口を開く。 「じゃぁ、僕から。氷上シュン、ランクはC、得意なものとかは浩平君と同じだね」 「深山雪見よ、私は秘書だけどオペレーターの真似事もするわ」 「川名みさきだよ。ランクはA+、武器は使えないけど格闘はそれなりかな?」 「さて、最後は私かしら。小坂由紀子、ランクはA-、武器はグレネード辺りが好みですわ」 「社長、もうそろそろ出発しないと定例会議に差し支えます」 雪見が由紀子に時計を見せながら予定を言っていく。 由紀子はそれに頷いて詩子に視線を送り詩子を頷かせた。 そして、隣に居る有夏に声をかける。 「有夏、この後一緒に来てもらえるかしら?」 「あぁ、解った。祐夏、ここに残ってみなの状態を確かめておけ。明日からメニューを組むからな」 「う、うん、解ったよ」 「では皆さん、ごきげんよう」 その言葉を残して由紀子は秘書三人に有夏に詩子をつれて開発部を後にする。 由紀子は有夏に少し申し訳無さそうな顔を向けた。 有夏はその顔を何故向けられているのか解らないと言った感じだ。 「有夏、すみませんわね」 「いや、趣味だ」 「そうでしたわね」 「それに、当分世話になるんだ。その位しても罰は当たるまい」 くすくすと上品に笑う由紀子を有夏は満足げに見る。 その風景はまさに親友として2人は存在している事がありありとわかった。 開発部から外に繋がる通路の入り口には茜が待っていて由紀子たち一行に紛れ込む。 「社長、次世代機の試作機の製作予定表です」 茜は先ほど急いで取りまとめましたっと言いながら紙の束を由紀子に手渡した。 それと同様のものを雪見にも手渡す。 「……設計のやり直し?」 渡された予定表を見て由紀子は眉を顰めた。 まるで予定していなかったといわんばかりの表情だ。 「有夏さんから渡されたディスクがとても参考になるもので……」 「どんな感じなのかしら?」 「一言で言うと極端です」 その一言に由紀子は足を止めて茜に視線を合わせた。 「どういう事ですの?」 「本当にそのままなのですが、設計の盲点を突くような設計ばかりだったのです」 「それは?」 「参考に出来る、いえ、学ぶべき部分が多々あるということです」 茜のその答えに自分の好奇心が刺激された由紀子。 満足半分、好奇心半分で頷いた。 「なるほど、それなら納得できますわ。後でディスクのコピーを私のところに回してくださいな」 「かしこまりました」 由紀子の注文に当たり前のように承るシュン。 そして、再び歩き出しながら予定表に再度目を通した。 「わかりました。それならば、この計画のままで概ね良好ですわ。注文は追々指示します」 「はい、ありがとうございます!」 茜と由紀子の話し合いがひと段落ついたのを見てから有夏が口を開いた。 秘書三人組は車を正面に回すべくみさきを残して別の方向へ向かって歩いていく。 「そういえば、ちょっと聞きたい事があるんだが」 「なんですの?」 「祐一の奴が一旦、私を追ってエリアOに立ち寄ったのは知っているよな?」 「えぇ、覚えてますわ」 有夏が困った事のように眉をひそめている。 その表情が珍しいのか由紀子が表情に出さずに驚いていた。 「その事なんだが、このエリアの後にエリアMに向かった理由が良くわからなくて困っているんだ」 「どういうことなのですか?」 「私を追っていたのなら、とんぼ返りにエリアAに帰ったはずなのだが、何故かエリアMに向かっている」 「そういえば、最後の日に情報屋から確かな情報を仕入れたって言ってましたわね……」 何かを思い出すように由紀子が顎に手を当てて呟いた。 その仕草を見て冷や汗を流す人物が一人。詩子だ。 「ほぅ……その情報屋は……」 「………てへ」 詩子は慌てて愛想笑いで誤魔化す。 まさかこんな所でこんな話が出てくるとは思っていなかった詩子。 本人から文句をつけられるかなぁっと思っていたがその母親から文句が出てくるとは予想外だった。 茜にアイコンタクトで助けを求めるが呆れた視線が帰ってくるだけだ。 「全く……詩子ときたら」 「話が全く繋がらないな。何故祐一はエリアMへ行った?」 じりじりと壁の方に追い詰められる詩子。 心なしか茜も興味津々と言った感じだ。 「だって、エリアAに帰ったって教えたら準備に時間がかかってエリアOに2、3日居座るじゃないですか~」 「それで、準備もあまり必要の無いエリアMへ?」 「詩子さんだって女の子ですから、寂しいと死んじゃうんですよ」 「詩子……何がしたかったの?」 茜が言った一言に詩子はポロリと本音を漏らした。 「だって、茜が祐一さんと良い雰囲気だったからつい……てへ」 「テヘじゃ有りません!」 「茜は良いよね、祐一さんとべったりだったから……私なんて……はぁ」 「し、詩子!」 「ウサギって寂しいと死んじゃうんだよ……」 演技をしているといわれてもしょうがない詩子に茜が食って掛かる。 茜が顔を真っ赤にしているのでなんとも微笑ましい光景にしか見えないのだが。 呆れてものが言えない有夏。 そんな感じでじゃれ合う詩子と茜を放って置いて由紀子は有夏に話しかける。 「有夏、そういえばあのディスクは祐一さんが作成したのですよね?」 その言葉に、茜の動きの一切が止まった。 急に止まった茜に詩子が目の前で手を振りながら何故止まってしまったか困惑している。 二人の行動にさして興味が無かった有夏は頷いて返事を返す。 「あぁ、そうだが何か問題でもあるのか?」 「そう、どんな設計なのか大変興味がありますわ」 「私は詳しい事が分からんから、どれだけ価値が有るのか解らないからな」 「フフフ、有夏らしいですわ」 その会話から2人は談笑を始める。 茜が再起動して詩子に掴みかかった。 そして、小声で詩子を問い詰める。 「詩子、社長と対等に話しているあの人はなんのですか? それと祐一さんとの関係は!?」 「あ、茜……目、目が怖い」 「良いから答えてください」 「わ、わかったよ」 あまりの茜の見幕に詩子は驚きながらも説明するために声色を抑えて説明をした。 みさきは仕事を雪見とシュンの2人がしてくれるために社長の後ろを歩きながら茜と詩子の会話に聞き耳を立てていた。 「あの人は相沢有夏さん。社長が押しかけていったとされるサイレンスのまとめ役で」 「先へ」 「祐一君のお母さん」 「ほ、本当ですか!?」 ちょっと大きな声を出して詩子を掴む手に力を入れる。 詩子がちょっと苦しそうだった。 「ほ、本当だから手を緩めて……」 「あ、ごめんなさい」 「有夏さんって祐一君のお母さんなんだ」 みさきが2人の会話に入り込んでくる。 いきなりの乱入者に2人は目をぱちくりとさせ呆気に取られた。 みさきが会話に参加するとは思っていなかったからだ。 「似てないよね。祐一君と有夏さんって」 「確かに似てませんけど……」 「私は姿形を言ってるわけじゃなくて雰囲気、うーん、みたいなものの事を言ってるんだ」 その言葉にまたも呆気に取られる2人。 みさきはその様子に気がつきつつ、そのままに続ける。 「祐一君は必ずどんな人にも距離を置いて付き合いを始めるよね。それが縮まる事は殆ど無かったけど」 「……え?」 詩子がみさきにそうなのって言う顔を向ける。 みさきは詩子と茜の困惑した雰囲気を感じ取ったが先ほどと同じようにそのまま話を続けた。 茜と詩子はそのまま話を聞く体勢に入るが、いつでも反応できるようにはなっていた。 「有夏さんは距離を置いてくれないよね。その人に才能とか血縁がないと距離を置いてもらえない」 「詩子さん的には、それはそれで意味がわからないんだけど」 「有夏さんに距離を置いてもらえないって事は見てもらえないって事」 みさきはそう言って一度言葉を区切った。 「有夏さんは自分の気に入った人にしかそれを置かないんだよ」 「つまり、距離を置いてもらえないということは居ないと同意義という事ですか?」 「極端に言えばね」 そう言って苦笑気味に微笑むみさき。 「じゃあ、祐夏ちゃんはどうなんですか?」 「祐夏ちゃんは多分、関係の出来た人にしかそれを置かないね。でも、これは普通の人と同じだと思うよ」 「祐一さんとはどこが違うのですか?」 「祐一君は全員と等しく同じだけ距離を置こうとしてたんだよ。関係有る無しに関わらず」 「でも、みさきさんはどうしてそんな事が判るのかなぁ。詩子さん不思議に思っちゃうよ」 かなり不思議そうな顔をする詩子。 みさきはその表情こそ見えていないが、その不可解に思うその雰囲気は理解した。 それが、茜からも同じように発されている事にも。 「私は目が見えないけど、見えなくて初めて見えることも有るんだよ」 そう言って穏やかに微笑むみさき。 その穏やかな笑顔に気に取られる2人だった。 「みさきさん、助手席に入ってください」 「あ、もう玄関まで来たんだ」 気を取られていたが会話にシュンの一言で自分を取り戻した。 「うん、シュン君。ありがとう」 そう礼を言って、自分の指定席に入り込むみさき。 談笑していたために、いつの間にかに玄関まで歩いていた事に気が付かなかったみたいだ。 詩子は慌てて玄関に回されている車に乗り込む。 本社に戻る全員、つまり茜を除いたメンバーが車に乗り込んだ事を確認してからシュンは運転席に乗り込んだ。 乾いたエンジン音がしてから車はゆっくりと加速を始めてどんどんと小さくなる。 茜はどんどんと小さくなる車を眺めてから、自分の職場へと戻った。 To the next stage
あとがき 無難な滑り出し……でしょうか? とりあえずちょっとした心残りは茜さんと有夏さんの絡みが少なかった事です。 まぁ、もともと不可解であったけどそんなに気にしていないといった感じだと思ったので今回みたいに落ち着いたのですが。 後は口調ですね。結構うろ覚えな上に、雰囲気掴めていないんです。 自分ではこんな感じだったはずで書いているので違和感があるかもしれません。 これからも頑張りますのでよろしくお願いしますね。ゆーろでした。
管理人の感想
本編と同時掲載の外伝2話です。 七瀬、その人は手本にしちゃダメだー、の話。(違
茜良いですねぇ。 私も拙作で祐一とくっ付けてますが。 クロスだとこのカップリングはデフォっぽいですよね。 祐一と彼女が会う日が楽しみです。(あるのかな?
次回は地獄のシゴキで死ぬ浩平のお話で決まりしょう。(笑
感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。
感想はBBSメール(yu_ro_clock@hotmail.com)まで。(ウイルス対策につき、@全角)