静かな静かな明け方の森。
毎日同じように夜が明けて静かに朝が来るはずだったが、今日は趣が違う。
ドゴン! ベキョォ!!
人が1人何処かから飛んで来て木に叩き付けられた。
木を根城にしてまだ眠っていた鳥達が驚いて一斉にその木から飛び立っていく。
「……かはぁ」
人が叩きつけられてから数瞬。
息をする事を思い出しかのように叩きつけられた人が息を吐いた。
その人の上にもう1人が投げ飛ばされる。
「ぐぎょぉ!」
投げ飛ばされた人は既に気絶していてぐうの音も出せない。
下敷きになった人はこの世のものと思えない悲鳴を上げた。
その前に女性が優雅に歩いてくる。
「全くだらしない」
その表情には呆れがありありと浮かんでいる。
気絶している人を押しのけて下敷きになっていた人が立ち上がった。
「昨日、久しぶりに会った護とコンビネーションも何も無いでしょう!」
体に纏わり付いた埃や砂を払いながら浩平は有夏を睨む。
有夏は浩平からの視線を感じないように口を開いた。
「戦場でそんな事がいえるのか?」
「……」
「あぁ、すまないな。お前達の年代は『本当』の戦争は知らないのか」
「そうです! そうですよ! 知りませんよ!」
「よし、それだけの元気があれば上出来だ。これからは1対1だ」
逆切れをした浩平に有夏は無情な宣告をする。
浩平は怒りと気力で何とか立っているのがやっとの状態だった。
それでも構えを取って何とか見返そうとする。
ちらっと伸びきっている住井護を見る浩平。
その余所見をした瞬間、有夏の目の前に迫ってきた。
ひゅぅっという音を耳元に残しながら浩平は何とか有夏の初撃を身を屈めて避ける。
有夏の追撃に蹴りを身を転がすように地面を転がる事で何とか避ける事が出来た。
(反撃の暇なんて無いじゃないか! くっそ〜!)
有夏は転がる浩平を見送り立ち上がるのを待っている。
浩平が立ち上がったのを見届けてから、右手の手のひらを上にして右手を突き出す。
そして、かかって来いと言う感じに指を何回か折り曲げた。
(落ち着け、頭に血を上らせるな)
じりじりと距離を詰めながら息を整えていく。
判るのは有夏の2手先。
判るのではない感じるのだ。
今回も先には仕掛けてはその読みが煩雑になって精度が落ちると浩平は考えている。
それにドールでの戦いをあまり意識していない有夏と常に意識している浩平の考え方に行動は若干違う。
有夏はその場で対処して、浩平はワンテンポ何もかもが早く行動している。
だから、打ち合いの結果として。
「ぐぅ!」
有夏にけちょんけちょんにやられてしまうのだ。
もし、タイミングを合わせて有夏に対峙していたならそれなりの試合が出来るのに関わらず浩平はそのスタンスを崩さない。
感心するような顔そして、呆れたような口調で有夏は話す。
「浩平、貴様は2手先まで読むのは素晴らしい読みをしているな」
「げはぁ、げぇぁ」
浩平は有夏が何を言っているのか解らない。
地面に転がったままに有夏の方に顔だけを向けた。
実際に浩平が2手先を読む技術のお陰で留美達を相手に勝つことは出来るのだ。
それはまだ留美たちが発展途上と言うことも有るので通用する。
しかし、有夏にはそれは通用しない。
なぜなら浩平と同じように2手先以上を予測しているからだ。
2人には決定的な違いが有る。
浩平は才能から2手先までを完璧に読みきる。
有夏は経験と確率から先の行動の膨大な流れの中から一連の流れを予測する。
その違いが有った。
「はぁはぁ、あえ? あの有夏さんが俺を褒めてるか?」
「全ての攻撃がワンテンポ速いのはドールを意識しているからか?」
息を整えながら何とか有夏の質問に答えようと口を動かす。
「そうです、俺は傭兵じゃなくて本職はドール乗りだから」
「フン、それは良い心がけだが心がけるならもっと先まで動きを読んでみろ」
「必要は無いじゃないですか。これまでもこれからもこのままで十分です」
浩平自体、ドール戦では2手先を読めれば問題無いと考えているだけにありがた迷惑だった。
最も2手まではかなり確実に読めるその動きもその先となると精度が落ちすぎる。
だから浩平としては現状に満足しているのだ。
そんな浩平に有夏はため息を吐きつつ今日はお終いだっと言ったあとにこう続けた。
「……そうか、いつか足元を掬われる日が来るぞ」
「…………そんな日は来ませんよ。俺がドールに乗っている限り」
浩平の意識はそうして闇の中に落ちていく。
残っているのは2人の豪快ないびきだった。
時間は本来の訓練の集合時間の朝6時にちょうどなるかならないか。
浩平と護は何故か有夏に夜中つまり日付が変わる頃から拉致られて今まで一夜ずっと有夏相手に暗闇の中にいたのだ。
今の2人を見るのは忍びない。
気絶したように土の上に横たわる2人。
それを遠目に見ていた女性陣4人が有夏に恐る恐る近づいてきた。
昨日までは尊敬の感情を抱いていた留美でさえその顔が微妙に引きつっている。
4人とは留美、繭、佐織そして祐夏の4人。
みさおは今は別の仕事をしていてこの場にはいない。
もっとも、みさおはドール乗りでは無いのでこの場に居てもしょうがないのだが。
有夏が繭と祐夏を見ておもむろに口を開いた。
「繭に祐夏、お前らは似たタイプだから撃ち合え」
「……みゅ」
「え?」
そう言って有夏は近くの木の根元にあったリュックからペイント弾の箱を2つ取り出した。
戸惑っている二人の意向は関係ないとその顔が語っている。
繭と祐夏はその顔を見て覚悟を決める。
それをそれぞれに渡して銃に詰め替えろという。
2人は愛銃の中にそのペイント弾を仕込んでいく。
事前に調べて有ったのか繭のオートマチックの中にすんなりとそのペイント弾は入り込んだ。
「私はちょっと疲れたから2人の動きを見てから追加で指示をする」
渡されたペイント弾の弾数は同じ。
ただ、2人の違いといえばオートマチックかリボルバーかの違いだけだ。
日の差し込み始めた森の中、少し開けた場所に2人は向かい合って立つ。
「貴様はこれで狙撃の練習だ」
有夏が佐織にアサルトライフルを模した何かを渡す。
それは、引き金を引くと銃口辺りに仕込まれたカメラが画像を取るように出来た物だった。
「これは?」
「今の実力を知りたい。ライフルは微妙に圏外なんだ。狙撃手なら私に教えれる事は殆ど無い」
「あぁ、これカメラになっているんですね」
「そうだ、狙撃手としての適正が高いか知りたいのだ。そうなのかそうでないかで教えれる幅が違ってくるのでな」
「わかりました」
佐織はそう言って二人に銃口と言ってもカメラを向けた。
留美はその姿を羨ましそうに見ている。
「おまえは、格闘が得意だったな」
「は、はい!」
いきなり有夏が留美に話を振らったので驚いた目をする留美。
返事が微妙にどもっていた。
「あの2人の戦い方を見て格闘のみで攻略できる方法を考えろ」
「は?」
「その後、私があいつらのどちらかの動きでお前を試す。それを自分の理論と動きで打ち破るんだ」
「はい!」
「祐夏、繭、始めろ」
有夏のその一言で向かい合っていた2人がホルスターから拳銃を抜き放った。
繭と自分の右手の方向に、祐夏は自分の左手の方向に移動する。
つまりは、2人とも同じ方向に向かって走り出したのだ。
互いの片腕、その銃口はしっかりと相手を捕らえている。
ガガガガガガン!
タタタタタン!
2人の手にした拳銃が息を吸って吐き出す間も与えずに弾丸を吐き出していく。
開けた所から木々が入り組んでいる場所に2人の戦場は移っていった。
ペイントが木の幹にあたり綺麗な花を咲かせる。
祐夏は走りながら器用に片腕の弾丸を吐き出しきった拳銃の弾の薬莢を排莢した。
そして素早く、弾丸を補充する。
対して繭は弾層を入れ替える素振りすら見せていない。
入り組んだ木々の間を行ったり来たりしながら次のタイミングを探して互いに走る。
タタタタタン!
繭が殆ど当たらない距離で祐夏の進路に向けて弾丸を全て吐き出した。
その隙を逃す祐夏ではない。
弾層を交換した素振りも見えなかったために正面から弾をばら撒くために繭の前に出ようとする。
迂闊なその判断は間違いだったわけだが。
(相手は弾丸を入れ替えるために、隙が出来てるはず!)
その祐夏を待ち構えていたように、繭が祐夏の視界に入る。
祐夏に繭が手にした銃の柄の底の部分から、かしゅぅっという音を立てて弾層が滑り落ちるのが見えた。
次の瞬間、弾層を廻し蹴り気味に蹴り飛ばしてそれが狙いを澄ました様に祐夏の右足にヒットする。
いきなりの衝撃に前につんのめる祐夏。
繭は残りの銃の弾層も同じように回転の勢いを載せて祐夏に向けて蹴り飛ばす。
それも祐夏の体、鳩尾に直撃した。
回転を止めずに繭は銃の2つの弾層が底で繋がって、一本になっている弾層を空中に投げ飛ばす。
「っくぅ」
一瞬、祐夏の息がつまり、視界が暗くなる。
しかし、相手を捕らえているのだ。
意識は相手に向けて銃口を合わせていたが、体が付いていかない。
ガチィン!
祐夏が硬直している瞬間に繭が両手に持つ銃の柄と柄の底を空中に投げ飛ばした弾層に叩きつける。
それはすんなりと、銃の元有るべき場所へと収まった。
引き金を引けばすぐに弾丸が飛び出る状態となって繭は銃口を目の前で勢いを止めた相手に向ける。
ガガガガガガン!
タタタタタタタン!
互いの両腕の銃から瞬きすら出来ない勢いで弾丸が吐き出された。
銃の引き金を引くのは殆ど同時、当たった場所も殆ど同じ。
しかし、銃の構造の違いと祐夏の勘違いから祐夏の方が2発多くその身にペイントを体に貼り付けていた。
繭は銃身部分に1発分だけ弾丸を残していたのだ。
だから、弾層を入れ替えた時にもすぐに弾丸が飛び出た。
「よし、そこまで」
次の動作に入ろうとしていた2人に有夏が止めの声をかける。
実際に戦っていた時間は5分も経っていない。
そんな中で2人はお互いの服装を見て笑っていた。
有夏が祐夏たちの元に歩いていく。
「ふむ、今回は祐夏の負けだな」
「うん、そうだね」
ごっという鈍い音が祐夏の頭の辺りからした。
祐夏は頭を押さえてうずくまっている。
「うん、そうだね。じゃない」
「お母さん、育児虐待だよ……」
「全く……もっと効率という物を考えろ」
呆れた顔で祐夏を見る有夏。
繭は心配そうに祐夏を見つめていた。
「みゅー、祐夏、大丈夫?」
「う、うん。大丈夫」
心配そうな目で覗き込まれた祐夏は赤面しつつ、繭に片手を振って答えた。
有夏はそんな2人のじゃれあいを放っておき、佐織の元に歩いていく。
「さて、結果を見せてもらおうか」
そう言ってライフル型のカメラを引ったくりその結果を見ていく。
カメラに残された映像を見て有夏は顔を顰めた。
映った背景はてんでバラバラ。
加えて、映像の中央に捉えた人物像という物は殆どない。
捉えていたというなら映像の端の方が主だった。
「お前、本当に狙撃手か?」
「あの、その場、一箇所に止まるという事はあまり経験した事が無くて……」
「お前なぁ、狙撃手というのは待つのが仕事だ。こんなに銃口を動かしてどうする」
「私のスタイルではなかったんですって!」
「なら、次は私とそいつでやる時にお前のスタイルで、私を捉えてみろ」
「わかりました」
ライフル型のカメラを佐織に返しつつ、有夏は息の上がっている祐夏と繭に良く見て休んでいろと指示を出す。
そして、残された留美の元に歩いていった。
「どうだ、考え付いたか?」
「何とか対抗策が一つほど」
「そうか、上出来だ。なら私は繭のスタイルでお前と戦う事にしよう」
有夏がまたもリュックに近づいた時にふと振り返って留美のほうを見た。
「優しい有夏さんは情けをかけてやろう。欲しい近接武器は無いか?」
鎖鎌から鞭まで色々有るぞってそんな事を呟きながら留美の返事を待つ。
留美は考え込むような仕草を少し見せてから、剣をっと返事を返す。
有夏はリュックから木刀を放り出して留美のほうに投げる。
どすん。
そんな鈍い音を立てて木刀は地面に突き刺さった。
「はぁ?」
目の前に有るのは何の変哲も無い普通の木刀。そのはず。
しかし、それはものすごい音を立てて地面に突き刺さってくれている。
「すまないな、それしかないのだが我慢してくれないか?」
「ちょっと待ってください」
木刀の柄を握ってそれを引き抜く。
ずっしりとそれが手の中で重量感のみで自己アピールをしてくる。
その妙な重さの木刀を試しに何度か振ってみる。
(くっ、重たいわね……動きは鈍るでしょうけど、何とかなりそうね)
留美自身には重たい木刀を左手に納めて有夏に対峙する。
「それを使うのか?」
「はい、ありがたく貸していただきます」
有夏の顔は微妙に嬉しそうだった。
最も留美はそんな事に気がつけるほどに余裕が有った訳では無い。
緊張感を高めて相手の動きに全てに対して注意を払い始めていた。
どんな行動にも咄嗟に動けるようにだ。
「では、始めるぞ」
その瞬間、留美が一息で有夏に向かって初太刀を振るっていた。
それを見切っていたように、バックステップをする有夏。
「それが対抗策か?」
「はぁ!」
初太刀から繋がる2撃目が有夏の腹部の服をかする。
有夏は感心しつつ、その剣撃をしばらく避けていた。
剣の軌跡は上々、威力速度も上々。
剣を操るセンスも体捌きも良いものを持っている。
が、慣れていない重たすぎる剣がそれを引きずっていた。
「ではこちらからも行こうか」
有夏の両腕が動いた時点で留美は動きを変化させて回避に移った。
右の方向に一気に走り出して木の陰を目指して一気に走る。
タタタタタ、タン。
殆ど繭と同じ動きで銃を操る有夏。ただしその顔は冴えない。
弾丸を全て打ちつくすのに繭よりもそして祐夏よりも時間がかかっているからだ。
狙ったように留美の行く先々の木々や進路に弾丸は吸い込まれるように撒き散らされていく。
留美はそれを避けるためにランダムに木の間を走り回った。
すぐに弾切れはやってくる。
(ここからが本番!)
有夏の放った弾丸の数を数えていた留美。
弾丸を全て吐き出したと分かった瞬間に不用意に祐夏が繭の前に出たように留美も出てくる。
それを予測していたように有夏が弾層を蹴り飛ばした。
ガキィン!
留美に向かってくる弾層を手にする剣で有夏に向かって弾き返す。
(まだ!)
有夏は咄嗟に弾き返された弾層を残った弾層を蹴り飛ばし命中させる事でやり過ごす。
繭と同じように一本に繋がった弾層を空中に放り出して弾丸の補充を行なう。
留美が狙ったのは弾丸交換時にその場に留まり続ける無駄だ。
自分の突撃力と勢いを持ってすれば被害は少ないと踏んだ上で迷いを一切棄てて捨て身の一撃を放つ覚悟で有夏に向かっている。
「ふぅ!」
自分の体重と勢いと木刀の重量全てを載せた渾身の一撃を有夏の中心線上に放った。
あまりの会心の出来に、有夏も留美自身も驚いている。
それほど、綺麗で澄んだ一撃。
が、がキャぁ!
有夏がまたも咄嗟に拳銃と拳銃を重ね、手の先をクロスさせて避けきれないその一撃を受け止めた。
殺しきれない衝撃が有夏を襲う。
手が痺れてしまうがそれすらも心地良いと言った表情で、有夏は次の行動に移った。
受け止めた剣撃をずらして、木刀の勢いを流す。
(あっ)
留美がそう思ったときには既に木刀は地面を捉えていた。
慌てて、有夏の動きを追って木刀を振るう。
有夏は左にサイドステップをすると見せかけて右に行くというフェイントを交えて銃で留美を捉えた。
フェイントの動きは慌てた留美には致命的だった。
フォン、タタタタタ、タン!
木刀は何も捉えることができない。
結局、結局12個のペイントを体のそこら彼処につける結果になる。
ただペイントは綺麗に付かずに的がバラバラになっていた。
それは有夏の手が痺れていたせいである。
精度は見事に落ちきっていた。
有夏はそのままお終いだという感じで手で留美の動きを制した。
「ふむ、判った。これで終了だ」
「はぁ、ありがとうございました」
留美は心持ち肩を落として有夏に礼を言った。
その表情があんな所で慌てるなんてっと言った感じだ。
有夏はそれを見て苦笑する。
「最後の一撃は私だから受け止められたが繭か祐夏では避けきれないだろう」
「え?」
「判断としては繭が弾を入れ替える時に見せたあの動きの時に押し切ってしまえという感じか?」
「はい、出来れは初太刀で、無理なら足の止まった時に仕留めるつもりでした」
有夏はそれに満足げに頷いて妖しげな笑みを浮かべた。
嬉しそうだった留美の笑顔が次の言葉で完全に引きつる。
「しごき甲斐があるというものだ」
「……お母さん、これからどうするの?」
「ちょっと待ってろ」
祐夏が有夏にそう問いかけた。
有夏は半ば、祐夏を無視する形で少し周りを見回す。
そして、佐織を見つけた。
そのまま佐織の方に歩いていき、無理やりライフル型のカメラを引っ手繰る。
佐織は気が気でないと言った感じで有夏を見ていた。
「……ふむ、悪くは無い」
「ほっ」
有夏の表情とその言葉に安心した表情を佐織は浮かべる事ができた。
「狙撃手ではなく、射程距離の長い遊撃手か。面白い奴だ」
「えぁ? そうなんですか?」
「精密射撃もそれなりに出来ると言った感じか、タイプ的には由紀子の奴に似ている」
佐織は微妙に顔を引きつらせた。
由紀子の戦い方は派手かつ威力の高い武器を好む傾向に有る。
顔を引きつらせたのはそれとタイプ的に似ているといわれたからだ。
佐織自身が描いている理想像とかけ離れている。
「ふむ、これは面白い奴らが揃っているな。よし」
集まるようにと言った仕草で有夏は皆を引き寄せる。
そのまま、死んだように眠っている2人の男の下へ歩いていった。
リュックをひっくり返して水の入ったペットボトルを取り出す有夏。
おもむろにそれを護と浩平の顔にぶちまける。
「うぉ!」
護はすぐに気が付いて、飛び起きた。
目を白黒させているが、どうやらすぐに状況を飲み込んだようで有夏を見つけると身構えた。
有夏が苦笑して、今から話が有ると言ったのでようやく構えを解く。
一方、浩平は水をかけられても起きる気配さえ見せない。
「ふむ……良い根性だ」
「寝起きが悪いというか」
「ここまで来ると尊敬ものね」
佐織と留美の呟きは結局浩平を起こすという選択肢を放棄しているように見える。
「そういえば昔から、寝起きは悪いからなぁ。浩平の奴は」
「みゅ……浩平ネボスケ」
「お、お母さん早まらないでね」
昔を思い出しなんだか懐かしいように佐織と留美の話に頷く護に繭。
祐夏は有夏の蛮行を怖れていた。
有夏はそのまま浩平の耳元に口を持って行ってぼそぼそと何かを呟く。
場所が場所だけに色気も何もないのだが、もし場所に雰囲気が整えば恋人達のそれに見えただろう。
もっとも、場所に雰囲気が整うなんて事はここにいるメンバー全員がありえないと思っているが。
ありえないというか想像が出来ないと言ったほうが良いだろう。
そんな色気を振り撒いて愛を語る有夏が居たら多分気味が悪いとすら皆が思っている。
敏感にその雰囲気を感じ取って有夏は顔を顰めながら浩平の耳元で呟き続ける。
「選ばせてやる。このまま眠り続けるて祐一に行なった特訓をするか、起きてお前用のメニューをするか」
「お、起きます!」
「ならさっさと起きろ」
「イ、イエス! マム!」
飛び起きた浩平に驚く留美と護。
佐織と繭は何故こんなに簡単に起きたか首をかしげている。
祐夏は有夏の言った事が聞こえてしまっただけに、微妙に体を震わせていた。
祐一に行なった特訓とは有夏が不定期に一週間奇襲をかけるといった物。
祐夏も実際に参加した事は有るが2日目でギブアップした。
文字の通り本当の奇襲。
夜中の眠りの付いた頃でも、気が緩んだ瞬間でも良い。
その瞬間に有夏が突発的に攻撃を仕掛けてくるのだ。
日に日に何処から攻撃されても対応できるように神経をすり減らして行く祐一の姿が忘れられない祐夏だった。
なので、この時だけは浩平に同情したりした。
「さて、大体の特性がわかったのでこれより個別にメニューを渡す」
またもリュックをごそごそと漁りながらペンと紙を取り出す。
「あぁ、言い忘れたがメニューには2人での合同練習が含まれる」
ペンを走らせ、皆を見ないままに有夏は話し始める。
「まずは浩平と七瀬組、メニューは基本的に七瀬は自分の特性を伸ばす。浩平は柔軟性を伸ばす感じで組んで有る」
留美と浩平に紙をそれぞれ渡しつつ、次っと有夏が顔を上げた。
「住井、稲木組、お前らは射撃の精密さと距離のとり方を中心に組んで有る」
護と佐織の2人に紙を渡して、紙のほうに意識を向ける有夏。
残された祐夏と繭は微妙に怯えていた。
「最後、祐夏と繭。お前達は効率と隙を出さないように組んで有る。何か質問は?」
皆がそれぞれの紙を見回して、げっそりしている顔をしていた。
適切な物だと判っているしその中身は丁寧だ。
しかし、それは半端が無い位に厳しい。
「連携の仕方はメニューの進み具合で個別に私がつける。とりあえずの目標は2対1で私に勝つ事だ」
その言葉に皆の想いが一緒になる。
それって無理なんじゃないのか? っていう感じで。
ともかく、特訓が始まり有夏は面白く、他のメンバーは必死で訓練を始めたのだ。
To the next stage
あとがき
はい、浩平君いじめられるの回でした。なんと言いますか、一緒に居たばかりに巻き込まれた住井君が哀れです。
こんな感じの訓練風景が続くと思ってください。これは有夏さんの趣味ですから。
次回は、どうしましょうか。話の展開を後半にして、前半は機体の説明みたいなものをしたいかと思います。
では次も頑張りますのでよろしくお願いしますね。ゆーろでした。
管理人の感想
ゆーろさんから外伝3話を頂きましたです。
浩平芸人ですからねぇ、これからも虐められるでしょう。
1番以外だったのは繭。
非常にアグレッシブでびっくりですよ。
やってる事は殺伐としてますけど、やってる人が彼女ですからほのぼのでしたね。
祐夏は微妙に良いとこないなぁ。(苦笑
しかし、1番変なのは有夏とサシでイケる祐一ですか……。
今回、地の文で句読点の少なさが少し気になりました。
適度に切れる文にした方が、見た目にもよろしいのではないかと。
感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。
感想はBBSメール(yu_ro_clock@hotmail.com)まで。(ウイルス対策につき、@全角)