有夏がONEの本社に来てから大分日数がたった。
初めは祐夏しか特訓の最後まで付き合える人が居なかったのだが、その人数が大分増えつつある。
皆が皆、自分の持つ何かが伸び始めていると感じていた。
そんな特訓の中で、社長命令で開発部に有夏を除く全員が集められる事となる。
有夏も流石に、その日付けが変るまで訓練を実行してから、次の日を休息日とし、その日に開発部に全員を行かせた。
久しぶりの休日みたいな物に皆が喜んだのは言うまでも無い。
集められたのは、前々から注文をつけていた各自のドールの製作状況の確認と付けて欲しい機能の再確認だった。
ちなみに秘書3人組とみさおに詩子は別の場所に集まっている。
久しぶりに顔を合わせるクロノスのメンバーの為に開発部の3人は結構張り切っていた。
『先輩、ここの設計が甘いの』
「ごめんね、澪ちゃん。ここはこれで良いんだよ」
『それだと、こっちに悪影響が出るの』
「でもそうすると、機関部に負担かけちゃうもん」
茜はそんな2人を横目で見つつ、浩平を除くメンバーをそれぞれの機体の前に案内して行った。
夫婦喧嘩は犬も喰いませんっと言った感じの表情で、浩平にだけは声をかけない。
瑞佳と澪の口論はどんどんヒートアップしていく。
それは張本人である浩平だって口を出せば何が起こるか解らないくらいに。
『そんなだから、先輩にからかわれるの』
「そ、そんなはず無いもん!」
その態度は認めてしまいましたねってぐらいにうろたえる瑞佳。
瑞佳のそんな調子を見て鼻で笑う澪はさらに攻勢をかける。
『私は先輩を諦めないの』
「だ、だめだよ! 浩平は……」
間を空けずに澪の言葉が表示される。
『小さい子がすきなの』
「浩平はロリコンじゃないもん!」
澪のその言葉もどうかとは思うが、瑞佳の切り返しもどうかと思う。
浩平は身を小さくして口論の行く末を見守っていた。
『じゃあ、シスコンなの』
「それは言い返せ無いんだよ……」
『だから、小さい子の方が好きなの』
決着が付いてくれないかなぁなんて思いながら肩身をどんどん狭くする浩平だった。
「でもこればっかりは譲れないもん」
『じゃあ、先輩に決めてもらえばいいの』
とたん、雲行きが怪しくなって逃げたくなってくる。
何せ、2人の目付きが猛禽のように鋭くなってきたからだ。
浩平でなくとも逃げたくなるような目付き。
その視線が浩平に注ぎ込まれた。
「……じゃあ浩平に決めてもらうんだよ!」
『フフン、後悔しないで欲しいの』
逃げ出さないように浩平の左右に2人は陣取ってそれぞれの設計図を見せて行く。
詳しい話はちんぷんかんぷんな浩平は目を白黒させるしかなかった。
結論だけ掻い摘むとソフトの面で運動性をとって機体の器用さを無くすか。
機体の器用さをとって運動性を多少犠牲にするか。
前者が澪で後者が瑞佳の設計だった。
その選択を迫られたじたじになる浩平。
「浩平はどっちがいいの!?」
『先輩、さくさく吐くの!』
ズいっと2人の顔が浩平に近づく。
その表情は共に鬼気迫るものだった。
「どっち!?」
『なの!?』
「あーっとだな、それはさっきの説明だとソフトの問題なんだよな?」
浩平の煮え切らない態度に何となく納得がいかない2人。
「そうだけど!?」
『それがどうしたの!?』
「スイッチで切り返れないのか?」
「……」
『……』
「あ、あの? おふたりさーん?」
「はぁ……」
『先輩は先輩なの……』
二人は酷く傷つきましたと言う表情でため息を吐く。
浩平は何と言って良いか解らないと言った感じでオロオロとするばかりだった。
■□ ■□ ■□ ■□ ■□
遠目にその痴話喧嘩を眺めていた祐夏は隣に来た茜にその事を確かめた。
「里村さん、あの2人はいつもあんな感じなのかな?」
「大抵、長森さんと上月さんがあんな事してますね。2人とも腕の良い技術者なのですが……」
なんだかその後に続こうとした言葉を無理やり音にしなかった感じのする茜。
いつもの事のようなので祐夏は流す事にした。
深く首を突っ込んで惚気られるのも馬鹿馬鹿しい。
そんな事を考えながらガンショットの再生現場に目を向けた。
「元に戻るの?」
「当たり前です」
「里村さん、さっきコクピット周りを覗いたら張っておいたお守りが無くなってたんだけど知らない?」
「……………………何のことですか?」
祐夏に目を合わせない茜。
お守りとは祐一の写真の事である。
コクピットが体に密着するほどの小さな空間しかない。
祐夏は心臓の部分に当たる場所に祐一の写真を張ってお守りとしてたのだがそれが無くなっていた。
解体されたときにはまだ有ったのだが今は無い。
「あの、なんで、私の目を見てくれないのかな?」
「椎名さんはどんな機体が良いですか?」
「みゅ……祐夏と一緒が良い」
いつの間にかに来ていた繭に無理やり話を持って行って誤魔化そうとする茜。
祐夏は一旦会話を引っ込めて次の機会に引っかかるような滑り出しを考えた。
「……ガンショットと同じ物ですか?」
「駄目?」
「解りました。全く同じとはいきませんが努力はします」
「みゅ、ありがと」
繭はその茜の言葉に喜びの色を浮かべる。
祐夏もその顔を見て嬉しくなるが、お守りはどうしても取り戻したかった。
「みゅ、祐夏それは何?」
「あ、これはね。私のお守り」
たまたま持ってきていたバックの中からお守りにしていた写真と似た構図の祐一の写真を取り出す祐夏。
それを繭に見せる。
「……祐一」
「あれ? お兄ちゃんを知ってるの?」
「みゅ、一緒に照り焼きバーガーを食べてくれた」
「へぇ〜、そうなんだ」
さりげなく茜に見えないように、しかし茜が少し体を動かせば見えるように繭に写真を見せる。
祐一の写真と聞いて微妙に見てみたい衝動に駆られる茜は誘惑に負けて祐夏の手元を覘き見た。
「あっ、何であの写真がここに?」
もう言ってしまって遅かった。
祐夏も繭もその言葉をしっかりと聴いている。
「あれ、里村さん。何の事なのかな? 確かにお守りと似た構図の写真だけど」
「え、あの、その」
顔を真っ赤にして慌てる茜に祐夏はねちねちと質問する。
繭は祐夏を面白そうに眺めるだけで口を挟もうとはしなかった。
「何で、この写真に反応したのかなぁ?」
「うぅぅ……それは」
「それは?」
顔を真っ赤にして、それを認めませんと言う表情で祐夏に相対する茜。
その態度は立派だったが、写真を撮った犯人だと言っているような物だった。
口を開いた時には冷静ではなく逆ギレに近いものになってしまう。
「えぇ、あの写真を外したのは私です! それの何が悪いのですか!?」
「あ、え?」
「……茜怖い」
一度勢いが付くともう止まらない。
祐夏は茜の変化に焦っていた。
「むしろあんな写真を放置しておく方が悪いです! 私だって祐一さんの写真の一枚くらい欲しいかったんです!」
「あ、あの」
「それがなんですか!? 写真を撮ろうと思ったら祐一さんは次のエリアに行ってしまって!」
「さ、里村さん?」
「好きな人の写真を常に身に着けておきたいと思いますよね!? そうですよね!?」
茜の勢いに祐夏が首を縦に振る。
と言うか、首を縦に振らなかったら殺されそうだった。
「ですよね!? 私だってそうしたかったんです! でも写真を撮る暇が無かったんです!」
「里村さん、そんなに欲しいならその写真あげるから……」
「本当ですか!?」
がばぁっていう音がなりそうな勢いで茜は祐夏の手を取る。
祐夏はちょっと怖くなってきていた。
あの冷静そうな里村さんがこんな事になる何てと言う感じで。
「う、うん。なんなら、持ってるお兄ちゃんの写真焼き増ししてあげるから……この手を離して」
「は、はい!」
何となくこんな感じのテンションで祐夏達の会話は続いてくのだった。
ちなみにさりげなく繭も祐一の写真をゲットしていた。
■□ ■□ ■□ ■□ ■□
その頃、留美は自分の機体の前で熊のようにウロウロしながら見上げていた。
瑞佳の説明を待っているのだが、なかなか来ない。
来ない理由がわかっているだけに、なんともいえない気分であった。
「おまたせ」
「あら、思ったよりも早かったのね?」
そんな軽口を叩きあいながら留美は瑞佳の説明を受けていく。
今度は見るものが機体本体ではなく、設計図が中心となっていた。
留美が気になったものを設計図の一部に手を当てて口にする。
「あれ? これはパイルバンカーではないの?」
「あ、それは、違うよ」
「どういう事?」
「まぁ、構造はパイルバンカーと殆ど同じなんだけどね。杭じゃなくて棒なだけだよ」
まだ設計図の仕様なだけになんともいえない。
でも留美には疑問だった。
これで威力が有るのかっと。
「これって効果あるの?」
「その棒に使われている素材が特殊で、かなりの衝撃を生み出せるようになってるんだよ」
「使い方も、その感覚も殆ど同じで、殺傷能力が少ないのね?」
「うん、そうだよ。でも機体に与えるダメージはこっちの方が大きいかもね」
どういう事が頭の中で吟味しながら留美は口を開いた。
「攻撃をヒットさせる場所が何処でも良いって事?」
「そう! パイルバンカーよりも相手の機体にヒット出来る箇所が大きいから総合的に攻撃力が高くなるんだよ」
パイルバンカーは直接パイロットを殺すために作られたと言っても過言では無い兵器だ。
その気がないのに、下手をすると人殺しになってしまう恐ろしさを持っている。
しかし、この兵器は違うと瑞佳は嬉しそうに頷く。
ようやく解ってくれる人がいたと言った感じの表情だ。
留美は以前注文していた事を思い出して瑞佳に聞く事にした。
「そういえば、私の注文はどうなったの?」
「あ、それは大丈夫だよ。しっかり組み込んだから」
「でも条件があるでしょう?」
留美が注文した物とは肘打ちをしても壊れない関節の機構である。
瑞佳は腕を折り曲げてポーズを取る。
肘をしっかりと曲げているその格好は勇ましいと言うにはちょっと迫力が足りない。
どちらかと言えば微笑ましいと言ったほうが良いのかもしれなかった。
「うん、しっかり肘を固定すれば並大抵な事では壊れないようにしてあるんだよ」
「固定してないと、どうなるの?」
「最悪、肘が反対側に曲がるね。だから注意してね」
「ありがとう、判ったわ」
「他に注文は有る?」
「えっと、剣が欲しいわね。切れ味の良い奴」
こんな感じで留美の機体は説明が続いていった。
■□ ■□ ■□ ■□ ■□
佐織と護は共に試作機のスペックを見て唸っていた。
再び同じ機体を見上げる。
顔にはちょっとした不満の色が2人に浮かんでいた。
「なんと言うか……」
「ちょっとね……」
「なんか納得が」
「出来ないわよね?」
スペック表から顔を引き剥がして既に完成しつつある機体を二人は見上げる。
何となく納得できないのは次世代機の試作機と銘打つ割にはスペックが物足りない感じがするのだ。
何か有るわけでも無さそうな外見。
「この平凡なスペックの裏に何か無いと納得できないわね」
「あぁ、折原七瀬ペヤが羨ましいぜ」
「本当ね……」
クロノスの古参メンバーとして色々な機体に乗ってきた。
平凡な機体が回されるのは初めてのことで戸惑いが隠せない。
確かに折原七瀬ペアに比べられると多少劣ることは自覚している。
それでもこれはちょっと納得が出来ないと2人とも思っていた。
『お待たせなの』
「澪ちゃん、早速だけどこの機体の説明をお願い」
『わかったの』
澪はスケッチブックに既に用意してあったページに手をかけてめくり始める。
佐織と護の二人はそれを静かに見守った。
『この機体は性能は平凡なの。でもこれには理由が有るの』
ぺらりとページがめくられる。
『部品が壊れた時の換装作業の時間を短縮するため、こんなスペックになってしまったの』
「すまないがどういうわけだ?」
『この機体は壊れる事が前提で、部品を交換する事も前提なの』
「つまり、整備時間が極端に短いのね?」
もし質問がなければ紙の擦れる音しかしないだろう。
澪は2人の言う事をあらかじめ予測していたのかページをめくるだけで対応していた。
『通常の整備時間の10分の1以下が目標なの。戦闘時は簡単な換装作業だけで乗り切れるようにしてるの』
「なるほど、コアユニットが壊れなければすぐに直せるわけか」
「そうね、最悪コクピットを死守すればすぐに戦場復帰が出来ると考えれるわけね」
『でも、修理できる場所まで戻れないと意味がないの。だから注意して欲しいの』
先ほどまでの唸るような納得できない声はもう無い。
性能は物足りないがでもこの程度なら難なく操ることができるのだ。
だったら、この特殊な構造は帰って嬉しいかもしれないと2人は考えた。
『何か注文は無いの?』
「そうだな……」
「そうね……」
こんな感じで説明は続いていった。
なかなかに満足の行く感じの会話が続いて行く。
ユーザーとメイカーの縮図がそこにはあった。
■□ ■□ ■□ ■□ ■□
同日、違う場所での事。
ONE本社の会議室での出来事だった。
「みさおちゃん、そこはこうした方が良いよ」
「は、はい」
みさおはみさき相手に戦略と言うものを学んでいる最中だった。
由紀子の懐刀で有る3人組のうちの女性2人にみっちり戦略とはと言う事を叩き込まれている。
今日はみさきの番だったので雪見はいない。
最も、雪見は仕事で席を外していて、この場にいないだけなのだが。
そこへ、由紀子と有夏が入ってきた。
「詩子さんはまだかしら?」
「先ほど連絡を取りましたら、あと少しで到着するそうです」
何処からともなく現れたシュン。
シュンは紅茶の用意を始めながら、疑問に受け答え、由紀子はそれにそう返す。
紅茶のポットとお茶請けのお菓子から良い匂いが部屋に充満する。
「みさおちゃんのお勉強会はそのくらいにあげてください」
「え? でも今日のノルマはまだこなして無いですよ」
みさきが驚いた顔をして由紀子の声のしたほうへと顔を向ける。
その後、お菓子の匂いがする方向に顔を向けて何度か頷いた。
かちゃっと由紀子、有夏の順に紅茶の入ったカップが置かれていく。
ありがとうっと由紀子はシュンを労う。
「さて、彰雄が到着するのはもう少しか」
「えぇ、私たちの行動のキーマンがようやく到着しますわ」
「まったくだ」
有夏の意味ありげな苦笑いに由紀子は面白そうに頷く。
優雅に紅茶を飲む由紀子にみさおは不思議顔だった。
知らない名前の人がぽんと出てきたからだ。
「あ、あの、彰雄さんって誰なんでしょうか?」
「はいはーい! その質問は詩子さんが答えるよー!」
遅れてきた詩子がみさおの飛ばした質問に飛びついた。
いつの間にかに来たのか解らないが誰もその存在に突っ込みを入れない。
暗黙の了解みたいな感じになっていた。
「本名、石橋彰雄。サイレンスの唯一の黒一点で、情報戦、情報収集のプロフェッショナル。そしてぇ!」
「そして?」
「私の目標の人にして、情報の世界では神様と言われるくらい有名なハッカーでもあるの!」
「俺は神様になったつもりも何も無いんだけどな……」
雪見に案内されて微妙に引きつった笑みを浮かべた彰雄が同じ会議室に入ってきた。
「雪見さん、お疲れ様」
「ありがとうございます。でも、仕事ですから」
「さて、全員が揃った所でこれからの予定を発表します」
雪見の苦労を労った後に由紀子が手をパンパンと鳴らして皆に着席を促した。
誰もが逆らわなかったが、みさおだけが居心地が悪そうである。
「みさおちゃん、緊張してたらこの先持たないよ」
「え?」
みさきのその言葉にみさおは引っかかるものを感じたが今はそれどころでは無いと意識を由紀子に集中した。
「これからONEは試作機の実験も兼ねて、エリアO、特に西議員の一派に喧嘩を吹っかけますわ」
「それは、私の目的に入っているのか?」
「もちろんですわ。その為に彰雄さんも呼んだのですから」
有夏のその問に由紀子は自信有りげに答える。
追いついていないのは、みさおと詩子くらいだった。
詩子はそんな事よりも教わりたい事の為にそわそわしている。
由紀子は視線で雪見にプロジェクターの用意をさせる。
プロジェクターにはとある場所の地図が映し出された。
「具体的にはこの地図のこの地点を買い取ります」
「なるほどなぁ」
その言葉に反応できたのは秘書3人組を除くと彰雄だけだった。
地図には何も書かれていなく、何も無い。
有夏が理解できないと言った感じで彰雄を睨む。
「あぁ、説明がないとわからないな。そこはだな、相沢祐治の研究所員を監禁している場所で、実際には要塞みたいな物がある」
「この前に言っていた生き残りか?」
「そう、川澄冬葵はエリアKで事故に遭い死亡しているが、もう1人、だけが生き残っている」
「もったいぶるな、早く先を話せ」
心持ちイライラしている有夏に苦笑をする由紀子。
彰雄には由紀子ほどの余裕は無く、焦った感じで先に言葉を進める。
「南主任補佐、川澄冬葵を逃がすためにわざわざエリアOの人間に捕まったんだよ」
「そして、その人を私たちで確保して世界に向けて大々的にこのエリアの犯罪を暴露してあげるんですわ」
「ほぉ……」
「如何にその時の世界政府が無能であったか、エリアOで未だに利権をむさぼる政治家達に罰を与えるためです」
由紀子がそう締めくくってようやく有夏が納得をした。
その顔に獰猛な笑みが浮かんでいる。
「なるほど、確かにあの時結んだ契約書には捕獲した時の判断はこちらに任されていたな」
「あぁ、契約もまだ切れていない」
「そうなると、世界政府の無能な官僚は軒並み首になるな。後はエリアOの癌は消えて無くなる」
「どうです有夏、面白いしょう?」
「あぁ、確かに面白い」
取り残されつつあるみさおは何となく何故ここに居るのか解らなかった。
みさきの方へとその瞳を移すと、みさきが何かを感じ取って口を開いてくれる。
「やっぱり不安?」
「不安と言うよりも、何でここに居るのか解んないです」
「うーん、クロノスの人達を誘導できる人が欲しいんだよね。戦略面でも、精神面でも」
「それなら、私じゃなくても……」
「みさおちゃんじゃないと駄目なんだよ。特に浩平君がね」
「へ?」
いきなり出てきた兄の名前に戸惑うみさお。
何故ここに兄の名前が出てくるのか理解が出来なくて困っていた。
「浩平君は実質的なリーダーになりつつあるけど、癖が強いでしょ?」
「私の言う事なら言う事を聞いてくれる?」
「それも有るけど、今回みたいに常に社長が一緒と言う場面は少ないからね」
みさおは考え込む。
今は由紀子が指示を出しているからちゃんと従っているが、もし専務とかのレベルで話が回ってきたらどうだろうと。
多分、理不尽な命令だったら兄は反発するのは目に見えていた。
「ここは会社だから有る程度の上下関係が出て来ちゃう。だから……ね」
「私がお兄ちゃん達を巧くマネージメントをすれば良いということですか?」
「うん、そういう事だよ。その経験を積むために今回はここに居ると思って良いよ」
「解りました。頑張ります!」
そんな会話をしている間に、由紀子の言葉はどんどんと具体性を帯びてくる。
買い取った後の手筈を彰雄と有夏の二人に相談し始めて既に纏まりつつあった。
「詩子さん、彰雄さんに付いて学べる物を学んでおきなさい」
「はい! がんばります!」
今まで黙っていた詩子に振られた言葉は詩子の待ち望んだ物であった。
それだけにそのテンションは見事に上がる。
「えーっと、では俺についてくる前に聞いておきたい。情報を?」
「制する者は世界を制す! ですか?」
「そうだ。じゃあ、柚木さんの情報とは?」
「慎重に取り扱うべき物です。武器にもなり、防具にもなり、そして、自らの首を絞めるかもしれないから」
「ならついてきて良いぞ。ギリギリ及第点だ」
そのまま部屋を出て行く彰雄に詩子は付いていった。
出て行ってからドアを少し開けて、顔を少しのぞかせて会議室の中の由紀子に声をかける。
「あぁ、仕事なら3時間後には完全に完了させるから。その後を頼んだぞっと」
「はい、解りましたわ。雪見さん、シュン君、よろしく頼みましたわ」
「「はい」」
由紀子はそれだけ指示を出たっきり。
しかし、2人はどうすれば良いかが解っているので追加で指示を貰うような事は無かった。
「では、私たちは開発部の方に行きましょうか」
「まぁ、な。しかしそんなに余裕が有るのか?」
「表向き、あの土地自体はエリアの保有地ですから申請をすれば1週間くらいの余裕が出来ますわ」
「彰雄の奴がデータを書き換えて、本当の保有地にしてしまうと言うわけか」
みさおとみさきは元の授業を再開すべく元の位置に戻っている。
既に雪見とシュンの2人は部屋から出て行っていた。
「見事な縦割り社会ですからね。気が付いた時にはわが社の建物の所有物になっているわけすわ」
「なるほどな、起きた騒ぎに乗じて有耶無耶の内に自分の会社の土地になると言うわけだ」
「あら、ちゃんとお金は支払って買いますわよ。でもあの土地は良い土地ですからね」
「一石二鳥って所か?」
「一石三鳥を狙いたいですわね。みさきさんにみさおちゃん、一緒に開発部に参りますわよ」
そう言って、外に出る用意をさせる由紀子。
2人は慌てて外に出る用意をして由紀子と有夏の後についていった。
「しかし、エリアMの事件を聞いたか?」
「えぇ、聞きましたわ。祐一さんも大胆な事をしますわね」
「全く、困ったもんだ」
「こちらはこちらで集中をしないといけませんわね」
この時から計画が始まっていたと言っても過言ではない。
世界中を驚かせるニュースの元が今ここで出来始めていた。
To the next stage
あとがき
このお話は本編の29話の直後辺りのお話と連動しています。
まだ、機体名とかは出ていないです。本格的に出てくるのは戦闘直前辺りになるかと。
登場していない機体とかも有りますしね。それまでのお楽しみと言うか捻りの無い名前になってしまうかもしれません。
ともかく、頑張りますので次もよろしくお願いしますね。ゆーろでした。
管理人の感想
ゆーろさんから頂いた、2話連続アップの1つ目です。
冒頭の瑞佳の台詞に、「うわ身も蓋もねぇ」と思わず笑ってしまったのは秘密。
瑞佳と澪の口論は、どう考えても夫婦喧嘩じゃないですよね。(苦笑
痴話喧嘩でもないですが、言うなれば恋の鞘当。
見た瞬間2人は結婚!? 同性婚すげぇとか思ってしまった……。
浩平は公私身動きが取れなくなってますね。(笑
知らないとこで人生決められそうで、気の毒です。
まぁ本人が知らなければ問題はないですけど。
そう言えば、肘が逆に曲がる人っていますよね。
感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。
感想はBBSメール(yu_ro_clock@hotmail.com)まで。(ウイルス対策につき、@全角)