〜あなた達、命を軽く見る人たちに! お兄ちゃんや私の気持ちなんか絶対に理解できないんだから!〜
相沢祐夏、祐一を知る研究者の態度に怒って。


〜全く、失望だ〜
相沢有夏、南健二を見て。


〜すごいですわね、良くこんな空間に居られたものです〜
小坂由紀子、南健二のいた空間を見た感想。










  
 
神の居ないこの世界で−O編−


→動き出した小さな歯車。始めの動きは小さくても、やがて大きな歯車を回すでしょう。






 ONEの実動メンバーを全てを乗せた一団がぞろぞろと山間の道に入り込んで行く。

 その場はつい最近までエリアOが保有していた土地であった。

 つい2日ほど前にその土地に有る建物と土地をONEが破格の値段で買い取ったのだ。

 表向きには建物など建っていない山の中の土地一帯。

 表向きなら整備された道など有るはずも無い。

 有るはずも無い整備された道路をONEのロゴをつけたキャリアーが通って行く。



「フフフ、面白いな」

『有夏? 何が面白いのですか?』

「いや、由紀子と初めて出会った時の事を思い出していた」

『あぁ、そういえばこんな感じだったか』

『有夏! そのお話はしないお約束ですわよ!』

「話はしないさ、話はな……くっくっく」



 有夏の忍び笑いがコクピットの中に響き渡る。

 由紀子が顔を真っ赤にしているであろうと想像してさらに笑いが深まっていた。

 有夏と由紀子の出会いはと言うと、人質救出で有夏が人質であった由紀子を助け出したと言う感じだった。



『立場的には逆転しているけどな』

『あ、彰雄さん!! な、な、な、何を言ってるのですか!!』

『いや、なに』

『それ以上言うのでしたら……私にも考えがありますわよ』



 由紀子のかなりどすの効いた声に彰雄は黙り込む。

 流石に何をされるのか解らないのは嫌らしい。

 浩平たちは由紀子達の言葉を静かに聴いていた。

 口を挟めるような物でもないし、浩平と留美、みさおの3人には実働部隊として初仕事でも有る。

 意識を仕事に集中していたと言ったほうが良いだろう。

 ドールに乗れる実働部隊の人間は全てドールのコクピット内にいた。

 その人間の数には祐夏も入っている。



「それにしても、まだ着かないのか?」

『申し訳有りませんが、後もう少し辛抱してください』



 雪見の声がスピーカーを震わせる。

 この声は有夏だけではなく他のドールに乗り込んでいる人にも宛てても言っていた。

 ドールに慣れていない人間など居ないがそれでもあまり長時間じっとしていたいとは思えない。



『あ、後どのくらいなのかな?』

『あと少しですよ。祐夏さん』



 シュンの涼しげな声がそう言っているので間違いは無いかと皆が思った。

 キャリアーは徐々に曲りくねった道を行っている感じがなくなり、振動も徐々に小さくなってきている。

 その振動がなくなって有夏は一息ついた。



『それでは行ってきますわ』

「あぁ、気をつけてな」

『頼りにしていますから』



 軽い笑い声を残して由紀子の声が聞こえなくなる。

 緊張が辺りを包み込んだ。











■□  ■□  ■□  ■□  ■□
 薄らと曇りがかった空の下。  周りを山に囲まれ、人里から離れた場所に有る要塞のような建物。  その前で雪見を先頭に由紀子とみさきがその門らしき部分に歩いて行く。  キャリアーはこの位置からは見えないように止められていたが、不安感なんて物は浮かんでこなかった。  門は大きく、ドールが余裕で2機通れるような造りになっている。  しかし、ドールが配置されていないのかその門は閉じられていた。  門の横、人用のゲートで警備をしていた人間がこちらに気がついた。 「ここはエリアの所有地である。迷い込んだかどうか知らないが――」 「申し訳ありませんが、ここはONEの所有地です」  雪見の声が警備員の声に被さる様に紡がれる。  なんだか良く分からない展開に警備員はおかしな声を出すしかなかった。 「はぁ?」 「では説明しましょうか」  雪見は涼しそうな顔で説明を開始する。  もちろん警備している人間にそんな事を言っても何かが変る訳では無い。  責任者を引き出すためだ。 「貴方ではお話になりません。責任者を出してください」  警備員は何度か迷った挙句に、中に内線をかけて責任者を出すようにかけあった。  その5分後、中より軍人らしき人間がゆったりと歩いてくる。  雪見はその人間にも丁寧に今の土地の説明をした。 「そんな馬鹿な話が有るか!」 「しかし、法律ではちゃんと認められています」 「まして、この土地は売られるはずがない! そんなに言うなら貴様も責任者を連れてこないか!」 「あら、そんな大見得を切っても宜しいのかしら?」  雪見の後ろで面白そうに話を見ていた由紀子が手に書類を持って男の視界の中に入った。 「あ……アンタは……」 「初めまして、ONE社長の小坂由紀子ですわ」  場違いな雰囲気が辺りを包み込む。  由紀子は優雅に礼をとってから男に用件を切り出した。 「私達、ONEは確かにこの土地を買い取りました。そして正式な手続きを経てこの土地と全ての物を買い上げております」  由紀子は書類に裁判所のお墨付き、役所の契約書、エリアOからの権利書を全てを見せて男に迫る。  簡単に言うと書類があるのだから、さっさと出て行けと。  むしろ勝手に人の土地に建物を作ってくれたあなた方が悪いっと言っているような内容。 「これが偽物だと思うのでしたらば、裁判所にでもご連絡をしてくださって結構ですわ」 「ならば、させてもらおう」 「そのほうがご理解が早くなるでしょうですから」  全く納得の出来ないと言った感じの男はすぐさま連絡をする。  そしてすぐに切って別の場所へ、かけてはまたすぐに切ると言った事を繰り返した。 「馬鹿な……馬鹿な!」 「だから言いましたわ」  呆れた眼差しに呆れたものの言い方。 「そんなはずが有るわけ……」 「事実ですわ。即刻退去していただきたいのですが?」  フラッと、みさきがその男を取り押さえた。  その動きに迷いや戸惑いと言った物は何もない。 「駄目だよ。いきなり銃を抜こうとしちゃ」  取り押さえた先には黒く無骨な物に手が伸びようとしている。  警報が流れた。多分先ほどの警備員が何処からか、監視カメラで見たのであろう。  男の仲間たちが銃を持って慌ててこちらに向かってきているのがわかる。 「それが貴方達の意志ならば、蹴散らして差上げますわ。皆さん」  静かに、そう静かに由紀子は通信機で合図を出す。  その建物を囲むように7機のドールが立ち上がった。 「さて、この場をすぐに立ち去るかそれとも私たちと刺し違えるか……どちらか選ばして差上げましょう」 「……うぅ」 「最も、この装備でドールと戦えるほど貴方達に機材と人材があるとは思えませんわ。かの研究所のようにね」  男は顔面を蒼白にして口をパクパクとさせるしかなかった。  この建物には今はドールもなければ、必要最低限の人員しか配備されていない。  もし、7機のドールを相手にするには分が悪すぎる。  男の後ろに現れた男の仲間たちもあまりに異様な光景に何もいえない。  みさきはドールがこの建物を取り囲んだのを確認してから男を開放する。 「……帰還準備」 「しかし……」  男は仲間の方に向いて悔しげに呟いた。  戸惑いが男の仲間の中に広がる。 「……権利書等は本物だ。西議員が我らを棄てたとしか思えない」  反論しようとする仲間の言葉を封じ込めるように口を開いた。  それは疲れ切った笑みだった。 「それに、今の装備では無駄死にも良いところだ」 「解っていただいて、光栄ですわ。もし職に迷う事がおありでしたら、ONEの小坂由紀子まで来てください」 「あぁ、その言葉しかと受け止めた。それは全員に宛てた言葉だろうな」 「もちろんですわ」  由紀子がふんわりと微笑んだ。  男は苦笑を返して、仲間たちを取りまとめて行く。 「後は煮るなり焼くなり好きにしろ。中のアンタの探している人間は置いて行く」 「あら、良いのでしょうか?」  男は紙にすらすらと番号を書いて、カードと共に由紀子にそれを渡す。  由紀子はそれを受け取って困った顔をする。 「いい加減、あの男に付き合うのが嫌になってきただけだ。良い区切りさ」 「いいのですの?」 「クビになったときに、部下を優遇してもらえれば問題は無い」 「では好きなようにさせていただきますわ。ありがとうございます」  丁寧に頭を下げる由紀子。  男の仲間たちの顔も幾分か戸惑いが有るものの、男に同意見だと言う感じが占めていた。  不平不満は誰も口にはしていない。  男が最後の車に乗り込む前に由紀子に一言かけた。 「これでお終いだと思うなよ、ドールの部隊が飛んでくると思ったほうが良い」 「そんな事分かっていますわ。だから精鋭を集めてきたのです」 「そうか、要らぬ心配だったな」 「では、貴方達の方こそお気をつけて」  由紀子は微笑んで男を乗せた最後の車を見送って一息ついた。  そして、雪見を初めとした人に指示を飛ばす。 「雪見さん、すぐにシステムの掌握を開始してください」 「はい、分かっています」  雪見はその言葉にすぐに反応してすぐに建物の中に入って行く。  由紀子は通信機に口を近づけた。 「長森さん、上月さん、里村さん。すぐに中に入って設備のチェックを。その後すぐに陣地の設営をお願いしますわ」 『『はい』』  すぐに建物のドールの格納庫らしき場所にキャリアーの一台が入って行く。 「彰雄さん柚木さん、撮影の準備と打ち合わせを各局と始めてください」 『あぁ、了解』 『はぁ〜い! 詩子さん頑張ります!』 「クロノスメンバーは2人ずつで周囲を警戒。残りは陣地の設営を手伝い、設営後は交代で休息を取ってください」 『では指示を出す。一番手は住井と稲木だ。周囲を周回して警戒に当たれ』  各自のドールが慌しく動き始めてから、由紀子はふぅっと一番大きなため息を吐いた。 「有夏、行きますわよ」 『あぁ。みさおに氷上、後を任せた』 『はい、かしこまりました』 『まかせてください』  みさおがふるっと息を吐き出してから、指示に移った。 『祐夏さんに繭ちゃんは機体を降りて社長の護衛に。判断に迷ったときは、みさきさんの指示に従ってください』 『うん、判ったよ』 『みゅ』  みさお達の返事を聞いてから有夏は門の隣でドールを跪かせて、機体から降りてきた。  続いて繭と祐夏が機械からあわてて降りる。  そして、買い物を行くように由紀子と有夏そしてみさきは建物の中に入って行った。  遅れて繭と祐夏は付いて行く。  中は明るく、電源は自己発電をしているようだった。  風景は殺風景と言ったほうが良い。  コンクリートがむき出しで、色気も何もない。 「こいつは嫌な物を思い出させるな」 「えぇ、あの研究所と似た感じの造りですわね」 「それで、場所は判っているのか?」  建物の構造は違っても建築方法は殆ど相沢祐治の研究所と同じだった。  有夏が嫌な印象を持つのもしょうがない。  由紀子は曲がった所に有った扉にゲートキーらしき物を差し込んでから、番号を打ち込んだ。 「分かっていますわ。大船に乗ったつもりで付いてきてください」 「わかった。頼りにしている」  幾重にも扉を潜り抜ける。  それは侵入者を退けるために作られたのではなく、内側の人間を逃がさないように作られていた。  結果として、内側からは出にくく外側からは入りにくい構造になってしまっている。  その奥の地下3階分位降りた先にその部屋はあった。  まるで牢獄、真っ白のな部屋の中に独り人がぽつんといる。 「……貴女方はなんでしょうか?」  全てに諦めて疲れ切った表情の男がそこに存在した。    入ってきた5人に何も感慨も感想も抱かずにただ、それを見るだけの男。 「貴様が相沢祐治研究所、主任補佐の南健二か?」 「そうですが、それが何か?」 「そうか……何故、冬葵を助けようとした?」  有夏の言葉にピクリと反応する南。  しかし、一度は反応した物の何事もなかったように元の表情に戻ってしまった。 「何も言う事がないのか?」 「既に、私には関係ないことです」 「関係が無いだと!?」  南の胸倉を掴み、もの凄い表情で詰め寄る有夏。  その目には怒りの色がありありと読み取れた。  由紀子は有夏の好きにさせていて、みさきはそれを聞くだけに留めていた。  祐夏はムスッとそれを聞いており、繭は何となくその男を見ている。 「ここに居るのは何も出来なかった私のせめてもの償い」 「何が言いたい」 「私には何も出来る事はありません。川澄主任を助ける事も、あの子達を助ける事も」  ギリギリと、有夏が南を締め上げる。  しかし、南はそれをなんとも思わないような感じで有夏を見ていた。  苦しいはずなのに、その表情には何も浮かんでいない。 「私は何も出来ない。だから、ここにいるのですよ」 「……失望だな」  掴んでいた手を離して、乱暴に南を突き放した。  有夏の目には侮蔑と失望の色がありありと浮かんでいる。  南は地面を見つめてポツリと呟いた。 「だから、私に何か用ですか?」 「貴方は、本当に相沢祐治の研究所で働いていたの?」  突然の祐夏の発言。誰もそれを止めようとはしなかった。  祐夏の言葉に南がどうでも良いという感じに頷いた。  頷いた瞬間、がつっという音がする。  祐夏が南を殴りつけていた。  そして、殺気さえ籠めた表情で南に詰め寄る。 「貴方は、お兄ちゃんがどんな気持ちで生きているか知らないくせに! 何でそんなのなのよ!」 「……どういう事ですか?」 「ふざけないで! お兄ちゃんのナンバーはGE−13! 知らないはず無いわよね!」 「な?」 「お兄ちゃん記憶を取り戻してから、苦しんでるんだから! それもこれも貴方達が何もしなかったせいでしょ!」  驚いた顔をする南に勢いだけで詰め寄る祐夏。  今にも、銃を抜き放ちそうな殺気をまだ放ちながら祐夏の口は止まらない。 「なんで! 何でそんなに無責任なのよ! 何も出来ない!? 何もしようとしないの間違いじゃないの!?」 「祐夏、静まれ」 「お兄ちゃんの苦しみも何も知らないくせに! お兄ちゃん寝れてないんだから! 毎日、魘されているんだから!」 「祐夏」 「なのに、貴方は何!? 苦しみもしないで、そんな態度を取るの!? ふざけないで!」 「静まれと言っている!」  有夏が詰め寄ったままの祐夏の肩を掴んで南から無理やり引き剥がした。  祐夏はまだ納得していないのか、何も言わないものの未だに南を睨み続けいている。 「……貴様の知っている情報は何処までだ?」 「私が監禁されていると言う事はまだ研究所が残っているはずですね」  俯いていた南の目にはしっかりとした意志の力が戻っていた。  有夏はそれを見て嬉しそうな顔をしたかったが、それ以前に呆れた表情が先行してしまう。  それは由紀子も同じだったらしく、同じような表情を浮かべていた。  みさきだけが中途半端に半笑いだった。  祐夏はまだ南を睨みつけており、繭はなんとも言えない表情で祐夏を見ていた。  その表情を見比べて南もなんとも言えないと言った表情になる。 「川澄冬葵、私の親友は最後の最後にGEの調整を行なったらしい」 「そんなはずは……」 「無いと言い切れるか?」 「……言い切れないですね」 「私達サイレンスがそこに辿り着いたときは既に火の海だったよ。GE−13、私の息子の手によってな」  絶句をしている南に有夏は丁寧にそして簡潔に事実を教えた。  呆然と南はそれを聞くだけ。  川澄冬葵が事故で死んだ事も。今の状況も。  そして、GEシリーズが祐一の他にも、少なくとも一人は生きていると言う事も。  全てを聞き終わってから、南はぽつりと言う。 「私に何かできる事が有るのですか?」  その言葉に、由紀子と有夏が嬉しそうな素振りを一瞬見せるが、表情には出さなかった。  祐夏は幾分、視線に込める力を弱めて南を睨み、繭は祐夏の様子を見て少し胸を撫で下ろしたようだ。  みさきは隅のほうに行って通信機をいじっている。 「お前はあの研究所の唯一の生き残りで、正式な研究員だ」 「その記録はちゃんと世界政府で保持されていますから、その立場を利用して欲しいのですわ」 「つまらない事を聞きますが、私は既に死亡扱いされているのでは?」 「あぁ、安心して良い。まだ行方不明扱いだ」 「なので大丈夫ですわ」  由紀子達は南が何かアクションを起こそうと言う姿勢になったのを見計らって今立てた計画を説明する。  つまりは生きた証人がここにいるのだから、あなたに告発して欲しいと言う事を。   「告発ですか……それがあの子達のために、川澄主任の為になるなら……ちょっと待ってください」  南は部屋の中、その奥に有った白い棚から古い機種の情報端末を取り出して来た。  その情報端末を由紀子に手渡す。 「これはなんですの?」 「私が研究所に居た時に管理していたデータです。もちろん研究所にいた頃のデータも入っています」 「これに……ですか?」  南の言葉に困惑の色を隠せない由紀子。  ずっしりと重たい情報端末、でもそれは手のひらよりも少し大きい程度だ。  それに管理していたデータが入っているとは思えない。 「外面は情報端末ですが、それを外すと記憶媒介が出て来ます。もし、それを悪用するなら、私は貴方達を許しません」 「そんな事、分かっていますわ。では、貴方もここから出て一緒に来てください」 「わかりました」  その言葉に頷き、一緒になってそな場を離れる南。  長い間、狭い場所に居たのに、その足取りはしっかりとしたものだった。
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 建物の内部の一部に急遽できた、撮影のスタジオ。  そこにはONEのスタッフでは無い人間が急いでスタジオを作っていた。 「しかし、兄者も水臭い。こんな面白いイベントを隠していたなんて」 「おいおい、そんなに世界政府とエリアOに喧嘩を売りたいのか?」 「そうですよ、それ相応のペナルティーが有るんじゃないですか?」  彰雄と詩子のその言葉に眼鏡をかけた男、石橋正敏は不敵な笑みを浮かべてその言葉を受け流した。  正敏は彰雄の弟でそして、マスコミの有名プロデューサーの1人だ。  スクープ、特に世界政府や各エリアの過去の過ちを主に報道する事で有名なプロデューサーだった。 「スクープもスクープ。こんな物は滅多に無い。それに一度火がつけば収まりもしないだろう」 「ふむ……そういえばお前そんな奴だったな」 「すごい兄弟……」 「それに、告発を演出した俺に何かがあれば何か見えない力がかかった事になる」 「相変わらず、命知らずだな」  呆れ顔で自分の弟を見る彰雄。 「現に何度か命は狙われてるからね。でもこのスタンスを崩すわけにはいかないんだ」 「全く、長生き出来ないぞ」 「はっは! 意地でもしてやるさ」  そんな会話をしていた時に彰雄の手の中に有る通信機が震えた。  由紀子からの通信だった。 『説得を終えましたわ。その前に彰雄さん達に解析してもらいたい物が有りますの』 「なんだか判らんが、とりあえずそれを持ってきてもらえないか? 話はその後で良いな?」 『判りました。私がそちらに本人と行きますから、情報を解析する準備をしておいて下さい』 「了解」  通信が終わった時に正敏と詩子が彰雄を見ていた。  その目は何が有ったのか説明が欲しいという事をありありと物語っている。 「いま、社長さんから連絡が有って本人が出てくる」 「それは良かった。目玉がしっかりと確保されたわけだ」 「でも、それだけじゃありませんよね?」  詩子の言葉に頷く彰雄。  正敏は何となく顔が嬉しそうだった。 「多分だが、研究データでも残っていたのだろう」 「それを解析するのですか?」 「あぁ、そこから議員の繋がりとか世界政府の繋がりを見つけれれば御の字だろうな」 「中で放送できるのなら、それに回して欲しいが……」 「それに耐えるのがあったらな」  苦笑する彰雄に正敏は期待する眼差しを渡してから、現場の指揮に戻った。  詩子に準備をするぞっと言った視線を送った。  慌ただしく準備に入る詩子。  準備が大まかに終わった所で、由紀子がみさきと南を連れて急造スタジオに到着した。 「彰雄さん、これを解析してもらいたいのです」 「彼は……信頼できるのですか?」 「彼も、有夏の仲間つまりはサイレンスのメンバーですわ。それも古参の」  南の戸惑う言葉に由紀子は自信を持って答える。  彰雄は苦笑いを浮かべて、南に会釈をした。 「石橋彰雄だ。俺には専門的な知識は良く分からない。でもまぁ、資金の流れとかには鋭いけどな」 「……わかりました。ではこれをお願いします」 「それにしてもこんな古い手でよく、これを守りきれたな」 「西議員の一派はよほど相沢祐治の研究に執着しているみたいです」  彰雄は由紀子から例の記憶媒介を受け取りながら、状態をチェックする。  詩子に席に座らせて、自分がそれを端末に接続を始めた。  正敏が由紀子の存在に気が付いて南を見る。  そして、かなり嬉しそうな顔をした。  南に握手をしながら口を開く。 「はじめまして、南健二さん。石橋正敏です。これからよろしくお願いします」 「こちらこそ」  あらかじめ由紀子からそれなりの事を来る途中に聞いていたので南に驚きは無かった。  正敏は南を引き連れてスタジオの衣装室みたいな所に移動して行く。  由紀子と彰雄はそんな2人を見送ってから互いに顔を見合わせた。 「彰雄さん、こちらは任せましたわ。詩子さん、しっかりと勉強するのですよ」 「はい! 任せてください!」 「そろそろ、第2波が来ると言うわけか?」 「えぇ、もうそろそろ時間でしょうね」  解析を始めた彰雄と詩子を残して、由紀子とみさきはスタジオを後にする。  足を向けた先は、雪見がシステムを掌握しているであろう管理室。  これから来る、ドールの部隊を相手にするための準備を進めるためだった。 To the next stage
 あとがき  はい、行動開始です。なんとも強引な話の進め方だと自覚しています。  話はついに佳境にって言ってもまだ戦闘パートが残っていますしどうしましょうか。  今回はあまり浩平さん達は出てきませんでした。次回は頑張ってもらいます。    とりあえず、筋は決まっているので頑張ります。ゆーろでした。

管理人の感想


 ゆーろさんから頂いた、2話連続アップの2つ目です。
 公的には存在しない場所を警備していた割に、警備員があっさり引きましたね。  まぁ裏切られたからなんでしょうけど、本人たちも嫌々だったんでしょうか?  西なる議員に力がなかった所為でしょうね。  見た感じ小心者の三流役人っぽいですし。(笑

 次回はその三流役人の呼ぶ部隊との戦闘でしょう。  犠牲が出ない事を祈ります。

 感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。

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