護と佐織の布陣した場所は、向かう正面がなだらかに上っている。
銃撃には少し向かないところだった。
その中で唯一銃撃が出来うる場所がある、すり鉢状になっている場所があるのだ。
そこを目指して2人は機体を走らせていた。
まだ距離は多分に有る。
警告のあった時刻のきっちり15分後。
みさおの悲鳴と言うか、驚いた声が響き渡った。
『早い! 護さんと佐織さん! 気をつけて、1機が既に近くに来てる!』
「なんだって?」
困惑が隠しきれない護。
わざわざ単機で突撃する理由が見当たらない。
もし逆の立場ならば、迷わず仲間との連携を取るはずだっと護は考えた。
『来たわ!』
「くそ!」
すり鉢状になった連携しやすい場所に着く前に沙織と護の2人は襲撃される。
片腕が盾と融合している異形の形のドールに。
盾を前に掲げ、殆ど一直線に突っ込んでくるそれ。
佐織と護の乗るアベレージはほぼ同時に火を噴いた。
しかし、相手も動きが鋭く狙いを絞らせてはくれない。
飛蝗の様に飛び跳ねるそれは無謀とも思える速度で護との距離を詰めきった。
『はぁぁぁぁ!』
シヴァの左手が護の乗るアベレージの左腕を捉える。
がしょぉんっと言う音を響かせて、護の左腕には杭が突き刺さった。
『後は任せたわ!』
『判った、早く小池と隊長の所へ、いってやれ』
『了解!』
乱暴に杭を引き抜き、佐織と護を無視する形で走り去る異形のドール。
まるで風のような速さだった。
護は振り向いて追撃しようかと考えたが、目の前に居る本来の敵、3機に意識が向いてそれどころでは無くなった。
直後に護に向かって銃弾が打ち込まれた。
盾を前にしてそれをギリギリの所で防ぐ。
本番はこれからだ。っ時を引き締める。
既に左腕は使い物にならない。
幸いだったのが、武器を持っている右腕が無事だった事だろう。
『どじったわね』
「あぁ、あんな奴が居るんだな」
『気を引き締めなさい!』
「判ってる!」
護は銃が中心だった戦い方を切り換えて盾を中心とした物にする。
出来るだけ前衛を務めて、後衛を動きまわる佐織に仕留めてもらうためだ。
苦しい戦いが始まるのは言うまでも無い。
■□ ■□ ■□ ■□ ■□
建物の真正面。ONEのメンバーが通ってきた道路以外に道らしい道は無い。
起伏が激しく、銃撃戦にはうってつけの場所だった。
真正面の浩平と留美の2人が立っている地点の少し先に2機の機体が居る。
浩平は懐かしそうにそれを見つめ、留美も同じような目線でそれを見ている。
先に動いたのは浩平たちではなかった。
前に居た2機が動きを先に見せる。
銃弾を放っては物陰に入ると言う動きを何度も見せた。
「その動きは、藤川か?」
『お久しぶりです、折原さん。今は隊長代理をやっています』
『本当にお久しぶりです、折原さん』
「その声は小池か怪我はもう良いのか?」
『えぇ、じっくりと休ませてもらいましたし』
会話をしながら互いに銃を撃ち合う。
銃弾がかする様な避け方を互いにして、互いに銃弾を放っていく。
相手は2機で浩平1機に狙いを絞って行動している。
「ありゃりゃ、西隊長様は飛ばされたのか?」
『どうやら、行政府に栄転されたようです』
『だから今の実力を維持できているみたいな物ですし』
「偉くなったもんだな」
留美は大きく右に回避しつつ、正面から2機を相手にしている浩平機の援護に回ろうとしている。
しかし、腑に落ちない。
何故、留美を放置みたいな事にするのか解らないと留美は感じる。
右側ががら空きだ。まるで留美が存在しないかのような陣形に堪らず声がでた。
『つれないわねぇ。何で私の事は無視するのかしら?』
『いえ、我々も2機で貴方達2人を相手に出来るほど余裕があるわけでは無いんです』
『そうですよ』
藤川のその落ち着いた声が聞こえた時、浩平機の装甲の一部が削れた。
敵2人の狙いが的確かつ鋭くなってきている。
小池も藤川も今までとは違う行動パターンを持っているっと浩平は気を引き締めた。
今までのまま相手にすると痛い目に会うっと。
『おねぇさまぁぁ!!』
耳を劈く通信の音。
それは留美の後方、右腕が大きな異形のドールから発せられている。
『あの馬鹿……奇襲に声をかける馬鹿がどこに居る』
『あはは……幸尋〜……』
藤川は舌打ちして仲間の行動の不手際を悔やみ、小池は多分苦笑しているであろう。
一方、浩平は誰だか必死に思い出していた。
留美は呆然としている。
「……誰だ?」
『もしかして……高橋かしら?』
「嘘だろ!? あの静かな奴がこんなはっちゃけた奴になるのか?」
『でもあの声は……折原こそ認めなさいよ! そこで否定するのは見苦しいわよ!』
『おねぇさま! 高橋は高橋は! ずっと! お慕い申してましたぁ!』
そんな言葉を発しながら右腕をインドラに叩きつける幸尋。
残されたシヴァの左腕がインドラのコクピットを狙っている。
留美は機体を捻らせる事で何とかそれを回避できた。
動きに迷いが無く、鋭すぎる。
これが後衛で銃撃を中心にしていた奴の動きなのかっと留美は歯噛みした。
『……折原、悪いけどそっちに行けないかも』
『お姉さま! 進化した高橋を見てください!』
浩平にそう通信を入れて、留美は迎撃に専念する。
意識を少しでも割けば押し切られる勢いだった。
右腕を中心に攻撃をして、前にじりじりと出る事で留美にプレッシャーを与える。
「むぅ、わかった。何とか持ちこたえる」
『心遣い感謝です。まんまと望む形に入ってくれてありがとうございます』
「藤川、何となく嫌なやつになったな」
『いえいえ、西隊長の下で酷い目に会いましたから。折原さんには何にも恨みなんて無いですよ』
『ですよね、一回目は本当に酷かったから。半分は自分達のせいで、ですけど』
「苦労してるんだな、お前達」
そんな事を言いながら浩平は機体のモードを高機動型に切り換えて一気に詰め寄ろうとする。
絶妙と言うタイミングでその進路に銃弾が飛んできた。
弾丸が飛んでくる地点に行く直前で方向転換をする浩平。
しょうがなく浩平はモードを切り換えてその場に留まり回避に行動を移す。
『あれは本当に悲惨でした。だから、今の私達があるんです』
『折原さん達には感謝しても仕切れません。悪い事は言いませんから、ここで降伏してください』
「残念だが、それは出来ない」
『……そうですか、残念です』
浩平は持久戦になるしかないと判断する。
それほど2人のコンビネーションは相手に対する対処の方法がうまい。
見事に小池が獲物の退路を、藤川が進路を防いでいた。
これに高橋が加わってこの3人が完璧になると浩平は考える。
付け入る隙はそれなのだが、なかなかそう巧く行かないのが現実だった。
(どうする? 七瀬を置いて一旦、距離を置くか?)
それは出来ないと浩平は即座に判断を下した。
浩平が戦線を離脱すれば、2機はすぐに七瀬機を落とそうとするだろう。
それは避けなければならない。
先を読めても、それは1人だけに過ぎない。もう1人を放置すれば必ず痛い目にある。
(進むも駄目、退くのも駄目。とりあえず現状維持か)
浩平は留美がすぐに勝負をつけてくれる事を望みつつ、現状維持をするために行動を開始する。
一方、留美は留美で高橋相手に苦戦をしているというよりも戸惑っていた。
(なんなの? この戦い方。気持ち悪いわね)
留美の戦い方に似ているといえば似ている。
しかし、その似ているのだが、その差異が留美には異質に感じられた。
前へ出ようとするのはわかる。相手に対して詰め寄ろうとするのものだから。
しかし、何故下がらない?
先ほどから前にしか出てきていないシヴァに、戸惑いしか浮かばない。
一歩も引かないその動き、常に前にしか出ないその動き。
疑問符ばかりが留美の頭の中に浮かんでは消えていった。
高橋の鋭い打突に、留美はインドラを下がらせた。
当然とばかりに、高橋は追撃をしてくる。
苦し紛れに剣を相手に向かって振る、それは盾と一体になった右腕に阻まれた。
『まだ、まだぁ!』
受け止めた剣ごと盾で体当たりをかますシヴァ。
留美はぶつかる直前にバックステップをさせて何とかダメージを最小限にとどめる。
(私でもこんな戦い方は出来ない……自分を棄てて、そこから何かを拾おうって言うの?)
バックステップで距離を取ったはずなのに、シヴァは目の前にいた。
息もつかせてくれないほど、しつこい、粘着質の攻撃だった。
『高橋……私の性格知っているわよね? このまま押し切られるのは私の趣味じゃないわ!』
『知っています。知っていますから、私に出来る事を精一杯しているんです!』
剣と盾がぶつかり合う。
シヴァは盾の上の剣を滑らせるようにして、肘うちの体勢に入った。
留美はそれを予測していたので、機体が流されないように注意してそれを避ける。
『いま!』
『はいはい!』
タンタンという軽い音がする。
小池からの銃撃が留美のインドラを襲った。
片手に持っているライフルは浩平に向けたまま、もう片方に握った拳銃をコクピットの装甲部分に固定して留美を狙っていた。
銃弾がインドラの肩の部分の装甲に当たって、装甲をへこませる。
狙いをつけるという次元の話ではない。
その位置に敵が居ることが分かっていて、味方も、敵さえも見ていない行動だった。
何度も繰り返し、練習を繰り返し動きを覚えこませた結果だ。
高橋は高橋で浩平からの援護射撃をあざ笑うように、留美を盾にする事で撃たせない様に牽制している。
浩平は一瞬銃を構えていつでも放てる状態にしたが、弾丸を放てなかった。
(忘れてた……高橋は視界が異常に広いんだった……だから、俺の射線の上に七瀬を誘導したという訳か)
『ちょっと! 折原どうなっているわけ!』
「こっちだって2機相手に大変なんだよ!」
『全く! 八方塞じゃない!』
「とにかく、現状維持だ!」
『あーもう! 私はこういうのが一番苦手なの!』
喚き合う2人。どうしようもなく、八方塞だった。
2人は3機を挟み込むように布陣して持久戦にもつれ込んだ。
浩平は藤川機と小池機を相手にし、留美は高橋機を相手にしての持久戦だった。
■□ ■□ ■□ ■□ ■□
みさきは機体の表面から風を、空気の流れを感じていた。
本来ならそんな物を感じることの出来ない物だが、シックスセンスにはそれが出来る。
ただ、それだって生身に勝る物ではない。
「うん、調子が悪い時みたいな感じだね」
『みさき、どうする?』
「有夏さんはどうするのかな?」
『正面左側2人が心配だ。さっさとけりを付けて、フォローに回るぞ』
「わかったよ。じゃあ、先に行くね」
柔軟の動きをするシックスセンス。
機械の体が柔軟をするのはかなり奇妙な光景だった。
『……私が先に行きたいのだが?』
「え? でも、フォローに回るのなら有夏さんのほうが向いてると思うんだけど」
実際にこの場にいる2機のうち、銃器で遠距離からの支援が出来るのは有夏の機体だけだ。
それに、みさきにはその性質上、銃器を巧く運用が出来ない。
『判った。前衛を任せるぞ』
「うん、任せてよ」
ゆっくりと慎重にシックスセンスを前進させるみさき。
有夏は距離を置いて、それに付いて行った。
周り、右側片方が断崖になっており、上に登る事は殆ど不可能だろう。
逆に反対の左側は森も無く開けている。
みさきは壁のような断崖に沿ってゆっくりと前進する。
そして、ある所で左側に機体の正面を向けた。
「何か……いる」
みさきの感じる雰囲気に何かが引っかかる。
ふらりと機体を右に流す。
みさきが居た場所に銃弾が飛んできていた。
「うん、動いてくれるとこっちも判りやすいよね。有夏さん、先に始めるよ」
『わかっている。援護は任せろ』
盾を前に持って接近を開始する。
敵は3機。展開をして残りの2機が有夏の方に向かったのを肌で感じた。
残りの1機は多分近接戦闘が得意なのだろうと、みさきは見当をつける。
現に敵は何か棒状の物を引き抜いているのが何となく判った。
「なら、こっちも棍で相手をしようかな」
棍を素早く盾から取り外して、何となくで有夏に向かったであろう2機のほうに盾を投げつける。
盾に何かがぶつかる音がした後に、派手な爆発音が続いた。
「有夏さん……何やったの?」
『なに、新型のグレネードの試射だ』
先ほどの音はみさきが投げつけた盾に片方の敵機の足に当たり、バランスを崩した。
それを見逃さなかった有夏に、弾速の遅いグレネードの弾丸を叩き込まれた音だった。
相手は左肩の辺りに直撃して根元から腕を引きちぎったような形になっている。
「一機潰しちゃったでしょ……」
『いや、まだ生きている。……ふむ、これの欠点は排莢に時間がかかる』
そんな通信をしながら、目の前まで来ていた機体の棒状の何かに棍をあわせて打ち返す。
軽い振動がラバースーツを通して体に振動を感じさせる。
「うん、良い一撃だね」
もし、相手のパイロットが相手をしている人間が目が見えないという事を知ったら驚くであろう。
それほど自然で、滑らかな動きをシックスセンスはしていた。
敵の察知能力は驚異的というほか無い。
「うん、うん。なんとなく、掴めて来たよ」
相手はみさき機の動きに何となく戸惑っていた。
何かを測っている様に動くその仕草に。
「なるほどね。標準サイズだね。相手は」
またも叩きつけられた棒状の何か。
そこから、鍔迫り合いになりそうになる。
みさきはふっと機体を横にずらして、鍔迫り合いの状態を回避した。
「うん、持ってるのは多分ロッドだね。長さは私の棍と同じ位。なら、負けないよ」
探るような動きが一変した瞬間だった。
今までは積極的には前に出なかった機体の動き。
それが、あいての打突の隙を突いて前へと出るようになる。
何度も何度も、棍とロッドがぶつかり合い、火花を散らす。
今度は、鍔迫り合いの形になった。みさきは引かない。
「有夏さん、45秒後に援護して」
『わかった』
両手で支えていた棍。
それを左手のみで支えようとする。
もちろん、そんな事をすれば構造的に押し込まれてしまう。
みさきにはそんな事、百も承知だった。
相手は、ここを好機と見たのか、ここぞとばかりにみさき機を押さえ込む。
「うん、やっぱりそう思うよね。押さえ込めるって」
相手の機体に力が入った瞬間、みさきは棍を手放した。
すぐに止まれるわけも無く、相手は前へと出て行く機体を止められない。
みさきはすぐに相手の右側に回る。
機体が伸びきり、前につんのめる瞬間にみさきは相手のロッドを握る手首を押さえた。
そして、残った腕を捕らえて拘束する。
無理やり、有夏の居る方向に相手の機体の正面を向けた。
「援護、お願いします」
『きっちり45秒だ』
有夏が先ほど放ったものと同じグレネードをみさきの方向に発射した。
このまま、押さえていたら、みさき機にもダメージが行く。
それもみさきは理解しているし、そもそも一緒になってダメージを受ける気は無い。
でも、タイミング的にシビアなのも間違いない。
少しでも早く拘束を解けば相手には逃げられる。
遅ければ巻き込まれる。
みさきは、タイミング的には遅いタイミングで拘束を解いた。
そして、相手の機体の背中を蹴って距離を稼ぎ、速やかにその場を退避する。
有夏の放ったグレネードは相手の頭部を吹き飛ばした。
『藤川隊長……申し訳有りません、戦力低下が激しいので撤退します』
『……了解した。もし追撃に遭い、逃げ切れないようなら機体を破棄しろ』
『申し訳ありません……第3隊、撤退する』
有夏を相手にしていた無事な1機が、マシンガンを乱射させながら後退を開始する。
片腕の無くなった機体が、頭部の無くなった機体に肩を貸しながら後退し始めた。
どの機体も我武者羅に、弾丸をばら撒き後退をして行く。
「放って置いた方が良いよね?」
『あぁ、他の部隊のフォローに回るぞ。……みさお、指示をよこせ』
追撃をするような事をせずに、有夏はみさおに通信を入れた。
撤退を始めた3機は追撃しないという事を確認したとたん、全速でその場を離脱する。
みさおの声が通信機のスピーカーを振るわせる。
『あ、退けたんですね!? 有夏さんはガンショットU、2機の援護に行ってください!』
『落ち着け、要請については了解したから』
慌てるみさおに有夏が落ち着くように言う。
深呼吸をする音が聞こえ、その後に、落ち着きを取り戻したみさおの声が続いた。
『みさきさんは一旦、陣地を戻ってください。機体に異常が出てると、開発部から連絡が有りました』
「うん、わかったよ。陣地に戻れば良いんだね?」
『はい、お願いします』
通信が切れて、みさきはそのまま陣地に向かって歩き始める。
みさきには異常と言う異常は感じられないが、開発者が言うのだという感じでしぶしぶ引き揚げている勘は否めない。
有夏は心持ち、急いでガンショットU、2機が踏ん張っている場所へと向かった。
■□ ■□ ■□ ■□ ■□
鬱蒼と茂る森の中。
森の木々は高く、4m近くしかないガンショットUはその中に隠れこんでしまう。
布陣する以前に隠れこんでしまった感じがする。
『みゅ。みさお、指揮を執って』
『え?』
「うん、そうだね。私たちは言われた通りに動くよ」
繭に祐夏の機体にはとりあえず、レーダーはついている。
しかし、これだけ鬱蒼とした森の中では見間違える危険が有った。
だから、正確な情報を持てるみさおを頼りにしたのだ。
『……判りました。名前を呼ばずに繭さんから交互に指示します。それに従ってください』
『みゅ』
「了解」
『では、予定の場所に布陣』
繭と祐夏はそのまま分かれて指定された場所に移動する。
森の両端ギリギリに2機を伏兵としたような感じだ。
『左前方に敵あり、全弾射撃して身を潜めてから弾込め』
繭はその声にあわせて、左前方に機体を踊りださせる。
敵は3機、陣形を組んで森をなぎ倒すように進撃している。
突然現れたガンショットUに慌てていた。
ガンショットUの利点と言えば、狙いにくい小さな機体と小回りの利く足回りである。
くるくると飛び跳ねながら、繭の手にする2丁のオートマチックが火を噴いた。
ガガガガガガン!
機体が小さい事は利点にもなるが、欠点にもなる。
火力が一様に小さくなってしまうという点だ。
有夏のグレネードのような威力を求めるのは無理な上に、浩平や護の持つマシンガン等にも威力は及ばない。
しかし、繭の乗せている弾丸の内容が違っていた。
特殊弾頭だ。
当たった装甲を多少へこませた弾丸は、はじけて中から粘着質の液体を流れ出している。
繭は全弾、吐き出すとすぐに身を翻して森の中へと紛れていった。
森の中では、小さく小回りの利く機体の方が逃げやすい。
敵は繭の機体を見失い、仕方が無く進軍を始める。
繭機に気を取られたせいか、機体の異常に気を払ってはいなかった。
特殊弾頭を経験した事がない彼らに弾丸の違いに気がつけと言うのは酷な事だろう。
『次、右前方に敵。全段射撃後、身を潜め、弾込め』
祐夏が声に従って、右前方に機体を踊り出させた。
今度は有る程度警戒をしていたのか、先ほどのように慌てるような事をしない。
落ち着いて迎撃をしている。
ただ、その機体を見て驚いた印象を受けているなっと祐夏は感じていた。
ががががががん!
繭と全く同じ特殊弾頭の弾丸を全弾はなって、身を隠しに森の中に紛れ込んだ。
動きが鈍くなってきていると敵の3機が一旦動きを止めた。
粘着質の液体が固まり始め、関節に付いた物が固まり始めていた。
それが、機体の動きを鈍くさせる。
(気が付くのが早い……もう少し気が付かないでくれると助かったんだけど)
『次、敵右後方。全弾発射……』
嫌な予感が祐夏を包み込んだ。
今、敵に近づいてはいけない。
そんな予感が祐夏を包み込む。
それは、有夏を相手にしている時に感じる嫌な予感に似ていた。
「だめ! 繭ちゃん仕掛けないで!」
通信による位置の特定も怖れずに祐夏は声を大にして叫んだ。
その声の後、数瞬も置かずに3機のうちの2機が全方位に向けて銃撃を開始する。
バラらららっという無機質な音が回りの木々をなぎ倒し、砕いて行く。
祐夏は直前に身を伏せてそれを避けたが、繭はしかようとした直前だったため、右腕に直撃を受けてしまった。
それでも、直前に回避運動に変更したお陰でそれだけで済んだと言う考え方も有る。
『みゅぅ!』
右腕は綺麗に吹き飛ばされており、どうにもする事が出来ない。
修理するには陣地に戻らないといけないが、それを許してくれる相手では無いだろう。
なぎ倒した木々の間から繭機が敵に発見された。
銃撃を仕掛けるような事をせずに、一直線に繭に向かう。
なぎ倒された木々のせいで逃げそこなった繭は残った左手を掴み取られて放り投げられた。
ここでも機体の大きさが突かれている。
普通の機体なら投げるなんて事は出来ないだろうが、これだけ体格差が有れば問題は無い。
緩やかな放物線を描いたそれは、がしゃんっと小さな音を立てて地面に叩きつけられる。
受身も何も取れるはずも無かった。
ぐったりと、動かなくなったそれに近づいて銃を向ける敵機。
「やらせはしないんだよ!」
その敵機に後ろから飛びかかる祐夏機。
関節を中心に弾を放って、飛び回る。
流石に、単機で3機を相手に立ち回るのは初めての経験だ。
(でも、このくらい! お兄ちゃんは6機を相手に相手を撤退させたんだから!)
繭が動けるようになるまで、それを続ける気の祐夏。
少なくとも、特殊弾頭の溶剤が固まり始めるまで時間を稼げれば祐夏の勝ちも見えてくる。
だが、敵は一枚上手のようだった。
3機のうちの1機がぶしゅっと冷却液を噴出させる。
それが機体の表面を流れて行き、溶剤を凍らせた。
凍った溶剤は簡単に砕けてしまう。
祐夏は絶望的な気分でそれを見ていた。
To the next stage
あとがき
はい、戦闘開始です。結構あっさり目だったような……そんな感じがします。ゆーろです。
これからの展開はほぼ決まっているので、あとは細かいところを煮詰めていくだけです。
最もそれが一番時間がかかるんですけどね。ともかく頑張りますのでよろしくお願いしますね。ゆーろでした。
管理人の感想
ゆーろさんから外伝を頂きました。
祐夏大ピンチ。
援護に向かった母親は間に合うのでしょうか?
それにしても、比較対象祐一ってのは拙すぎるって。(苦笑
彼を引き合いに出すには、人間の階梯2つか3つ上っとかないと。
とは言え、今回1番美味しかったのは高橋さんですよね。
冒頭から一味違います。
以前とはまるで違う様子ですが……実はクスリでもキめた?
喋りからは女性かと思うんですが、名前の読み方書いた方がいいと思いますよ?
特に初登場のキャラは。(漢字表記の弊害ですね
感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。
感想はBBSメール(yu_ro_clock@hotmail.com)まで。(ウイルス対策につき、@全角)