〜私達の勝利とは一人でも欠けたら勝利ではありません。それ以外は敗北。例え無能と言われ様ともそれだけは譲れない〜
藤川友宏、自分が一番だと思うこと。


〜なんなのよぉ! あいつは!〜
稲木佐織、ありえないものを目にして。


〜ありえない、ありえないよ! だって! だって!〜
折原みさお、データを分析して。







  
 
神の居ないこの世界で−O編−


→クロイケモノがその場に居る全てに振舞う宴




 正面。戦場の正面で留美はひたすら苦戦していた。

 間合いが巧く取れない。

 いや、取ろうとしても取らせてくれないというのが本当のところだ。

 それだけで、これほど戦い辛いのか歯噛みしている。

 剣を振りかぶるタイミングさえもつかめない。



「認めてあげるわ……貴女は私並みの格闘戦が出来るとね」

『お姉様は勘違いをしています……高橋は接近戦が最も得意なわけではありません』



 それでも、圧倒されずにどうにか反撃の糸口を探す留美。

 ダメージも馬鹿にならなくなってきている。

 なんとか、機動力を生かして避けて回っているが、クロスレンジで避けれないものもいくつかあった。

 粘着質な攻撃を何とか避けているが限界がある。



「それは、嘘ね」

『残念ながら、お姉さまは高橋を見誤ってます』



 そう言った途端、シヴァがさらに距離を詰めてきた。

 今までも十分近い距離だった。

 それが0距離と言っても過言では無い距離まで詰められる。

 これではまともな攻撃が出来るわけ無い。

 例え攻撃が出来てとしても、殆ど威力が死んでしまう。



『超接近戦、いえ密着戦ってご存知ですか?』



 ごうぅん! っという音と共に下から突き上げられる衝撃に留美は襲われた。

 相手は距離を殆どおかずに、ほぼ0の距離からそれだけの攻撃を加えたのだ。

 機体を引かせる事で何とかダメージを最小限にとどめる留美。

 しかし、機体を引かせても離れた実感が湧かない。

 驚愕していることを知られるのが悔しくて勤めて冷静な声を出そうと留美は努力する。



「……初めて聞く言葉だわ」



 剣の間合いの内側、いや、殆どの近接攻撃の間合いの内側に高橋はいる。

 攻撃力は半減以下になっているはずなのだが、何故か攻撃されていた。

 それもかなりの威力を持って。

 不可解すぎる攻撃だ。

 離れようと機体を動かすが、それを予測したようにシヴァが文字通りくっ付いて来る。



(この距離じゃ、折原にも援護を頼めないじゃない!)



 密着してしまっているのだ、だから射撃は2機諸共と言っても過言では無いだろう。

 これを分けて射撃しようというなら、精度の高い銃と精度の高い機体を用意しないといけない。

 出来れば単発の強力なものが欲しい。

 しかし、この場にはそれを出来る機体はいない。



『一人、私達の部隊から死者がでた時……私達は泣きました』



 留美は何とか戦いの突破口を開こうと思案している。

 例え威力が無かろうと攻撃するかしないかで迷っていた。

 しかし、下手に攻撃をして手痛い反撃を貰うのはごめんだ。

 決定的な隙ではなくても、ちょっとした隙を探して息を潜めて攻撃を受け流す。



『無様に敗走した時に、殿を務めてくれたんです。敵のグレネードがコクピットに直撃していました』



 高橋が話している間も断続的な衝撃が留美を襲う。

 それでも、ダメージを最小限にするべき行動は忘れていない。

 もしこれが無ければ、既に行動不能になっていても、おかしくない位のダメージだ。

 この行動こそが、留美の真骨頂である。

 前衛のドール乗りとして一番欲しい技能を留美は持っていた。



『泣きながら、悲しみながら、私達は強くなろうと決めました。だから私達はまだここに立ててます!』

「立派な事ね」

『もう、こんな思いをするのはごめんです。だから私なりにお姉様の事を研究しました』



 留美もうすうすそれを感じ取っている。

 高橋の行動のベースは私の動きで有ると。

 しかし、それは既に別物と言って良いものだ。

 模倣から始まったのだろうが、その全てが全て吸収されて違うものへと変質している。



『お姉様にしか出来ない動きを研究して今にたどり着きました』

「立派ね。でも、私も折れるわけにはいかないのよ」

『判っています! 私だって折れる訳にはいかないんです!』

『高橋、指令変更だ』



 いよいよ、留美が動こうとした時。

 藤川の通信が入ってきて、シヴァは左に走り抜ける事で大きく距離を離した。

 留美はその動きに追撃することなく、ゆっくりと視線を追わせるに留める。

 シヴァが何となく落ち着かない挙動が見えたのもそうだが、それよりも藤川の声が気にかかったからだ。










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 エリアOの行政府の一角。  その中で、忌々しげにモニターを睨みつける男が居る。  そこには遅々として進まないONEとエリアOの精鋭達の戦いの縮図が刻一刻と描かれていた。  控えていた男を呼び、苛立たしい声で注文を告げる。 「仕方ない……『狂気』を使え」 「しかし……味方にも被害が出ます」 「かまわん。全滅したら、また隊を新設すれば良いだけの話だ」  その言葉に控えていた男の顔が少し歪む。  感じたままに答えることにしたのか、恐る恐る顔色を窺うように声が紡がれた。 「しかし……良いのですか?」 「何か、不満なのかね?」 「……………………了解しました」  苦虫を噛み潰したような顔で出て行く男。  そして、男は直通のホットラインでとある所に通話を入れる。 「『狂気』をYA−03にセット」  ただ短く、そして苦々しくその声は紡がれている。  簡潔に、その命令を終えたいが為に。  YA−03、ヴァラキアカ  ベルセルクのプロトタイプだが、ベルセルクが出来た時にお払い箱になった。  性能的には殆どベルセルクと変わらないが、LOSが機体自身には搭載されていない。  LOSの試験をする時はケーブルをつないで専用のものを外部から機能だけをねじ込んでいた。  これに乗り込むのはロストナンバーになったGE−04である。  GE−04はLOSに耐え切れず精神崩壊を起こしたナンバーだ。  廃棄処分になった2つの相沢祐二の負の遺産は西議員がこっそりと保存していたために今回使用される運びになった。  以前にも数回は使われているが、その際も西議員が追い詰められた時にしか使われていない。 『……あれは、我々の言う事を聞くとは思えませんが』 「西議員直接の命令だ……」 『……………………了解、鎮静剤投与』  同じような苦々しい声を呟く、受けた先の男もしぶしぶ指示を出し始めた。  封印を解くような、忌々しい物を扱うようなやりきれない様な雰囲気である。 「地図はこちらから転送する。その後にその場に『狂気』を運んでもらいたい」 『カタパルトで射出します。それでよろしいですか?』 「あぁ、構わない」  淡々と事務作業をするように進んで行く会話。  それが唐突に途切れた。 「すまない、射出をしばらく待ってくれ。あの部隊を失いのはあまりに痛い」 『わかりました。5分は延ばしましょう。それ以上は無理です』 「助かるが、どうした?」 『西議員が直接こちらに通話を入れてくれまして……』 「すまないが、ごまかしてくれ」  男はそういうと、一旦通話を切って、軍のそれも特務第1小隊の直属の上司にかけた。  そして、急いで事情を説明する。 『……それが本当なら部隊を撤退させる』 「助かる」 『しかし、軍を私用で使われた挙句、この仕打ちかね? 後で正式に抗議させてもらう』 「今は、部隊を撤退させる事が先でしょう」 『……判った』  そう言って通話が終わった殆ど直後に、とあるコンテナが問題の地点に打ち出された。  それが悪夢の始まりであることに間違いが無い。
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 浩平はいきなりやんだ銃撃に戸惑っていた。  何故このタイミングでやめるのかと。 『折原さん、一度休戦です。用が出来ました』 「用……だと? 何の冗談だ、藤川」 『まぁ、聞いてください』  まだ戦闘の態勢のままでいつでも行動できるように姿勢を整えたまま浩平は耳を傾けた。  小池機も藤川機も先ほど入った物陰から出てくるということをしていない。 『全部隊に告げる、『狂気』が発動した、速やかに撤退に移れ』 「狂気……だとぉ?」 『えぇ、そう言う訳です。ですから、ここでの戦闘はもういたしません』  浩平は狂気といわれてもぴんとは来ない。  いや、その名前は知っている。  しかし実際には姿形を見た事はないのだ。  噂では漆黒のドールといわれている。  怪談のような噂で、それが戦場に出たときに他に立っているドールは居ないと言う話だった。  浩平はそのときは聞き流していたに過ぎない、他愛も無い話しだった。 『た、隊長! た、助けてください!』  先ほどの藤川の命令を送った直後といって良いタイミングで悲鳴が入ってきた。  背後から破壊音も聞こえてくる。  藤川の歯軋りをする音が聞こえてきた。 『……分かったこれより向かう。無理そうなら早めに機体を廃棄しろ!』 『りょ、了解!』 『高橋、指令変更だ』  機体を物陰からだし護と佐織のほうへ向けて走らせる小池機と藤川機。  浩平は銃をおろして、それを見ていた。 『これより、仲間の救出活動に移る、小池、高橋の両名は俺に続け』 『了解しているよ』 『判りました……お姉様また後で』  それを呆然と見送る七瀬機。  浩平は、みさおに通信を入れていた。 「みさお、いったい何が起こってるんだ?」 『え、あ、うん。全機、聞いてください!』  切羽詰まった声でみさおが声を上げる。 『所属不明のドールが一機、コンテナ状の何かで飛ばされてきました!』 『こちら、有夏だ。敵が撤退して行くが放っておくぞ』 『お、お母さん!』 『何、情けない声を上げているのだ祐夏。すぐに繭の機体を陣地に運べ。慌てるのはその後だ』 『う、うん!』  途中に祐夏と有夏の声が混じってみさおの声が途切れる。  何かに震えるように、みさおの声が紡がれた。 『嘘……そんなわけ無いでしょ?』 「おい、みさお。何が起こってるのかちゃんと報告しろ」 『特務第1小隊の3機とアベレージ2機が完全に沈黙……』 「まじか?」 『嘘だよ……そんなわけ……』 『指揮官たる者ならば、ちゃんと責務を全うしないか!』  有夏の怒号がスピーカーを振るわせる。  みさおはスピーカ越しにその声に身をびくりとさせた。  浩平は思案しつつ、留美に話を振る。 「行くしかないな」 『あら、判りきった事じゃない』 「これより、俺と七瀬は行動を開始する。みさお……無理をしなくて良いからな」  そう言って、2機は藤川達の3機を追うように駆け出す。  戦う相手がYAタイプだとも知らずに。
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 時は少しさかのぼる、第2隊つまり護と佐織の2人が相手している部隊の事だ。  藤川から通信を貰った小隊長機は指示に従い撤退の合図を出したとそれが起こったのは同時だった。  空から何かが降ってくる。  カプセルのような、大きな弾丸のようなそれが近くに酷い音を立てて落ちた。 「えっ?」  着弾いや、着地と同時としか思えない動きを見せる漆黒のドール。  カプセルは着地の衝撃で壊れており中から、ドールが出てきていた。  いや、出てきていたのではない。既にそこに居たのだ。  そう錯覚させるほどに素早い動きだった。  まるで野生の獣を思わせる鋭角的で自然なフォルム。  それが、何かを持ってそこに佇んでいた。 「何を持っている?」  その完璧に、調和を取られたものに混じる無粋な塊。  その根元の方は青白い光がちりちりと燻っている。 「何だあれ?」  見覚えのある形、そして、見覚えのある色。  その形は、腕そのもの。  肩から綺麗にではなく無理やりちぎり取られたもの。 「誰の腕だ? もしかして……俺の?」  驚きで、一気に確認をする。  確認する間も無く引きちぎられたのだと。 「無い! 俺の腕が無い!!」 『空が青い……』  かすれたような、声。  声の特徴といえば、青年のような声でよく通る感じの声だろう。  それが外部スピーカーを通して、あたりの空気を振動させる。  黒い獣は腕を興味を無くしたかのように地面に落とした。  ゴトリとそれが地面に落下する。    それを踏み潰しながら。そして、改めて護達も含めた5機に向かって機体を方向転換させる。 『あはははは! 空が青い!? あはははは!!』  異様な嗤い声。その声が恐怖を駆り立てる。  5機それぞれが、一匹の黒い獣のようなドールに飲み込まれていた。 『姉さん! 空が青いんだよ!? 姉さん?』  両腕を広げた黒い獣。  そして、そのアイカメラが第2隊の片腕のドールを捉える。  威圧感だけが増大していくのがわかる。  隊のまとめ役だった小隊長がはっと声を出す。 『姉さん?』 「即座に撤退開始! 攻撃された場合は応戦!」 『『りょ、了解』』 『お前たち誰だヨォ! 姉さんをどこにやったぁ!』  スイッチが入ったようにいきなり挙動が変わる。  緩慢だったそれが、鋭く速く激しいものに変わった。  黒い獣の動きは速い。  まず、撤退先の進路を潰すように、3機の退路に布陣してしまう。  3機一斉に手にしていた銃器が火を噴いた。  彼らとて、精鋭中の精鋭である。銃器の狙いは正確だった。 『敵? 敵なの? 敵なのかなぁ? あはははははははははは!』  嘲笑いながら、黒い獣はひらひらと弾丸を避ける。  正確な狙い、精密な射撃それでも掠る事無く、黒い獣は距離を詰めてきた。    3機は距離を取るために散開する。 『ゆぅるさない。だって、姉さんを殺したんだよね!? あははははは!』  意味不明な事を叫びつつ、黒い獣は一気に突進してきた。  そして、1機の腕が掴まれかける。片腕の機体だった。  身を捻り、何としてでも距離を稼ごうとする片腕の機体。   「このぉ!」 『協力しないとこちらがやられそうだ!』 『まずは、あの黒いのを落してからね!』 『とりあえず、休戦、共同戦線だ!』 『すまない!』  今まで行動を起こしてなかったアベレージ2機が銃撃を加える。  それに気が付いたのか黒い獣は身を捻って掴むために繰り出した手を引っ込めた。  タイミング的には絶妙な銃撃すらも避けられてしまっている。  片腕の機体は銃を乱射させて、距離を取った。 『壊すよぉ! あはははははは!』 『なんなんだ! あれは!』 『そんなの考えるのは、後よ! まずはコイツをどうにかしないと!』  今まで敵と味方だったものが繰り出す、絶え間ない銃撃。  しかし掠る事さえなく、距離を確実に詰めようとする。  それをさせない為に距離を開けて攻撃をしていた。 「た、隊長! た、助けてください!」 『うわぁ!』  散開していた第2隊の損傷の無かった1機が捕まってしまう。  ギョリぉっという音共に、左太股の付け根部分に黒い獣の指先入り込んだ。  その後、その部分から機体の左足が両断される。  金属の千切れる音、その後に派手な転倒音が聞こえてくる。  藤川の歯軋りをするとが聞こえてきた。 『……分かったこれより向かう。無理そうなら早めに機体を廃棄しろ!』 「りょ、了解!」 『壊すよぉ、壊れるよぉ、壊れちゃうよぉ! あははははははははははは!』  左足を両断された機体はまだ手に持つ銃で反撃を試みるがそれさえも無駄になっている。  ぐちゃりと武器を持っていない腕を潰された。  ごぅん! 武器を持つ左腕が切断された為に、乗っていたパイロットは非常脱出装置を作動させざるおえない。  背中の一部が割れコクピットが強制的に射出される。  黒い獣は動かないドールにも容赦なく攻撃を加えていた。  それも、残り4機の銃撃を全て避けながらだ。 『壊れちゃえ! 全部ぜんぶゼンブ!! あはははははは!!』  見るも無残な形になっている。  主の居なくなったコクピットは潰され、足は踏み砕かれ、腕は引きちぎられる。  頭は叩き割られ、首はへし折られていた。  折れ曲がった首を基点にぼろぼろになったドールの胴体を持つ上げる。  壊しきったドールを見て満足したのか、黒い獣の視線が他のドールに移った。 『的? 敵! てき!? テキ!! あはははははははははははは!』  この世の全てを呪う様な意味不明な呪詛を唱えながら黒い獣の勢いは止まらない。  壊れたド−ルの胴体を盾にして、今度は片腕のアベレージに襲い掛かる。 『くぅ! こんのぉ!』 『あは、あはははははははははははははははははははははははははははははは!』  器用に盾にしていたドールの胴体を活用して護の近くまで接近。  その後、そのドールの胴体をを投擲。 ぐわしぃ!  脚部に直撃したそれは、すぐにどうこうできる物では無い。  足がそれの下敷きになり、自由に動かせるのは上半身だけだ。  護はそれでも黒い獣を近づけないように銃撃を繰り返す。  もちろん、佐織も第2隊の生き残っている2機もだ。 『ミィーンなぁ、壊れちゃえ! あははははははははははははははははははははははははは!』 『この、化け物が!』  乱射はしている。  弾丸もちらほらだが、当たっている。  それは近距離に居る護の銃撃が。  しかし、黒い獣は止まらない。止められない。 『壊れろって言ってるんだよぉ? あははははははははははははははは!』  嗤いながら、振り上げられた両腕の一撃に護はこのまま受けると死ぬという感覚に襲われた。  その感覚に従うように、機体の上半身を捻る。  加えて、銃を手放して腕さえも犠牲にしてコクピットの防御に回す。 ぎちゃぁ!  ただ、素早く振り上げた二つの腕を振り下ろしただけの一撃のはず。  しかし、防御に回したドールの腕は関節が2つほど増えてしまった。  もちろん、腕は大破している。  それでもその一撃は止まらずに、頭部の一部を引っ掛けて首の部分から頭部をもいだ。  振りきった部分でようやくそれが止まってくれた。  護はこの強度の違いはなんだと相手の機体に恐怖した。  両腕を無くし、下半身はドールの胴体の下。  動かそうにも所々に故障が出ている上に乗っかっている物をどかさない限り動けない。 『なんなんだよ……あんなドール、何に必要なんだよ!?』  明らかに人の耐えられる速度を無視した設計、動き。  それはドールに乗っている人間なら有る程度判る。  そのドールを操っても何も感じない人が居ること事態が信じられない。 『住井!?』 『大丈夫じゃないが、俺は無事だ……』  歯がカチカチ鳴るのを何とか捻じ伏せて護は返事をする。  状況は既にそんな物を聞いていられるほど、のんびり出来るものではない。 『あはははははは、あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!』  次に獲物を定めた黒い獣は次の行動に移っている。  べりぃっと、アベレージの胸の装甲を剥ぎ取って、それを盾に2機で纏まって行動していたデットエンドに向かっていた。  あわてて散開しようとしたが遅い。 「さ、散開!」  手前に居た片腕のデットエンドは装甲を持っていないほうの腕の指先が腹部の突き刺さった。  黒い獣はその勢いで腕を振りぬく。 じゃくり!  当然、バックリと大きな致命傷が出来上がった。  辛うじて指の入って振りぬかれた腕の反対側の腹部が繋がっているだけで、動けないほどのダメージだ。 『くそぉぉ!』 『生意気! 壊れないよー! あははははははははははははははははは!』  ここまで慌てていると精密な射撃を放てても、もう関係ない。  銃を乱射させて、弾幕を張っているがそれも殆ど効果が無かった。  その勢いのまま、銃を持っている手の反対側を走り抜ける黒い獣。  交差する瞬間に、機体を回転。 ざすぅ!  持っていたアベレージの装甲が背後から襲い掛かている。  デットエンドのパイロットが感じるよりも早く、胴体を綺麗に両断された。  確認するデータがコクピットのコンソールに出る前に全ての電源が落ちいる。  黒い獣は振り返りつつ、首を傾げたようなしぐさをする。  何故、こうなったのか分からないといった感じで。  そして、残ったアベレージに向かいながら上半身と下半身が別れているデットエンドの頭部を踏み抜いた。 『ミぃーンなァ、みぃーンナぁ、壊れろ! あはははははははははははははははははははははははは!』  残されたのアベレージ1機。  まだ、完全な状態とはいえ心もとないなんてものじゃない。  時間もかかっていないのに、すでに4機が行動不能。 『なんなのよぉ……あいつは……』  佐織は自身が震えていることが判っていない。  圧倒的な恐怖が身を支配していた。  その震えが自身を通して、機体さえも震えさせる。 『稲木! 逃げろ!』  いまだに歯の震える護の声にはっと機体を動かそうとするがもう遅い。  普通のドールならば逃げて回れるであろう時間しかなかったはずだ。  獲物を定めた黒い獣はすでに佐織のアベレージに近づきつつある。 『いやぁ! こないで! こっちに来ないで!』  身に宿っていた恐怖が恐慌へと変わった瞬間だ。  いつもの冷静な時ならば。自身の持ち味である移動しながらの精密な射撃が出来るはずだった。  しかし、それさえも出来なくなるくらいにガチガチに体が固まっている。 『いや、いやぁ! こないで! こないでぇ!!』  恥も外見も無く叫ぶ佐織。  それで止る様な相手ではないのも確か。  壊れてしまった相手は止らずに、アベレージの横に立っている。  手にしていた銃をぱしんっと奪い取られた。  その奪い取った銃はそのまま興味が無いように放り投げる。  咄嗟に機体を下がらせるがガチガチに固まった体は機体の動きさえも鈍らせていた。 『あはははははははははははははははははは!』  耳に残る壊れた嗤い声。  佐織はその後、身を丸めて、コクピットを守ることを選択した。  いや、選択したではない。それしか出来なかった。  そのおかげで、コクピットは無傷だが、他は悲惨なほど破壊された。  嵐のような衝撃を受けている間の沙織は、身を丸めてがたがた震えているしか出来なかった。  早くこれが終わって欲しい、怖いそれしか心に思い浮かばない。  聞こえてくるのは破壊音と壊れた嗤い声だけ。  佐織は早く終わることを祈ってぎゅっと目を閉じた。 To the next stage
 あとがき  話はこれにあまり関係ないのですが、ヘイルダムと本編の晴子さんの赤いモンスターはアイディアをいただきました。  本来なら、ちゃんと登場させた時にそれぞれ書かなくてはいけないと思うのですが、うっかり忘れてしまいました。  夜兎さん、本当にありがとうございます。そして、本当に申し訳ないです。  お話のほうは、あと2、3回で収まらないかもっとおびえ始めました。立てた計画通りには話は進んでいます。  ともかく、ここまで付き合っていただいてありがとうございます。ゆーろでした。

管理人の感想


 ゆーろさんから外伝を頂きました。
 いや、ね……。  また壊れたキャラが出てきましたねぇ。  実はゆーろさんってダーク系の人間好きですか?(爆  壊れ方はZ以降の強化人間がぽかったです。  祐一と舞以外のGEナンバーですが、正直勝てるんでしょうか?  パイロットスペックが異常な上、乗機はYAだし。  有夏さんの奮戦に期待でしょうかねぇ。

 感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。

 感想はBBSメール(yu_ro_clock@hotmail.com)まで。(ウイルス対策につき、@全角)