そこは、廃棄場だった。
ありとあらゆる部品が砕かれ、チューブなどが散乱している。
小さな子供が癇癪を起こして、おもちゃを壊して歩いた……
そう取られてもおかしくない。
ただ、その大きさがドールサイズなだけだ。
『応答しろ! 誰か生きているか!?』
藤川の叫びは誰にも届かない。
生死も解らないこの状況で、藤川は歯軋りをするしかなかった。
廃棄場の中央。
そこに寝そべるように、大の字になったドールが一機居る。
こちらに気が付いて動いていないのか、それとも気が付いても居なくても対応が変わらないのか解らない。
それがこの現状を引き起こした犯人だというしかない。
何故なら、この場にはそのドール以外のドールは破壊しつくされている。
それ以外に犯人が居るとは思えなかった。
『高橋、小池、どうしたらいいと思う。意見を聞かせてくれ』
照準の中心にそれを納めながら藤川は小さく迷っている。
その迷いを振り払いたくて、2人に話を振った。
『……正論を言うなら上からの命令に従うのがベストだよね?』
小池の一言葉、3人に沈黙を配った。
だが、それも一瞬だ。高橋がそれに噛み付いた。
『典史! あなたはそれで良いの!?』
『……いい訳が無いよ……僕だって、はらわたが煮えくり返る思いなんだ……』
小池の声は苦汁を嘗め切った声だった。
搾り出すように、辛そうに、声にしている。
『……新しい命令を出す、これより『狂気』を排除する』
『友宏、良いの?』
藤川の息を呑む声が聞こえる。
緊張からか、それとも自分の感情が高まっているのを沈めるためか判らなかった。
『これは我々の正当なる権利だ。仲間を殺されて、納得できる物ではない!』
『……仕掛けます!』
シヴァが仕掛けた。
寝ている黒い獣に向かって、一気に格闘戦を仕掛けるべく走り出す。
黒い獣がばっと起き上がる。
ようやく気が付いたと言った具合に。
『援護を頼みます!』
『幸尋、まかせといて』
『わかっている。小池、攻撃箇所を固定するぞ』
『了解!』
お得意のフォーメーションを組みながら、3機は一気に接近を開始する。
3人に恐怖は無く、いつものように行動を開始する。
「おい、護か稲木! 応答しろ!」
『浩平か? 面目ないな』
「どうなっている?」
『見ての通りだ。俺達とエリアOの混成部隊はあいつにやられた。それよりも俺達を一回陣地に戻してくれないか』
浩平と留美が追いついたのは既に3人が黒い獣に仕掛けた後だ。
既に交戦に入っており、無闇に入って行くと彼らの息を乱すことになる。
「そうもいかないな……」
『いや、怪我人が居るんだ。エリアOのパイロットだと思う。こっちは2人保護して、稲木の方に1人だ』
「なら話が別だ、何とかやってみる」
その通信に留美が割り込んできた。
『折原、どうするわけ?』
「有夏さん、今場所は何処ですか?」
『時間がかかっているが、建物の裏側もう少しでお前たちの言う狂気を拝める位置だ』
「有夏さん、そこで待っていてください。そいつそこまで引っ張っていきます」
『判った、あまりに遅いとこっちから出向くぞ』
浩平は通信機の周波数を変えて、あの3人組に連絡を入れる。
戦闘中にも関わらず、藤川が律儀にも返事をしてきた。
『折原さん、なんのようですか? これでも忙しいんです』
「それは見れば判る。お前の隊の人間がうちのドールの近くで3人保護されているんだ」
『それは本当ですか?』
「こんな事で嘘ついてどうなる」
『……何をして欲しいのですか?』
「話が早くて助かる。その黒いのを建物の裏側に誘導する」
『簡単に言ってくれますが、3機ではキツイです』
「わかっている、俺も手伝う。カウントは25。その後に入る」
『判りました。聞いていたな、小池、高橋』
『了解!』
『きゃぅ! 何とかします!』
浩平はすぐに周波数を切り換えて、留美に通信を入れる。
留美の動きは迅速だった。
手に持っていたチェーンブレイドを浩平に投げ渡す。
『高橋に渡してあげて、荷物にはならないはずよ』
「判った。すぐに援軍に来てくれよな」
『そんな判りきったこと言わなくても判ってるわよ!』
浩平は懐かしい周波数帯域に通信機をセットしながら気合を入れる。
カウントはちょうど25だった。
「高橋! 七瀬からお前に土産だ!」
『お、お姉様から!?』
そう良いながら七瀬から受け取った、チェーンブレイドを黒い獣に投げつける。
黒い獣はそれに反応して、咄嗟にそれを避けようと身を捻った。
その先にはシヴァがいる。
シヴァはそれを左手で掴み取って、黒い獣に向かってダイレクトに薙ぎ払った。
黒い獣は、体制を崩しつつその刃の圏内から外にバックステップを踏む。
シヴァは逃がさずにそのまま黒い獣に引っ付き密着戦を継続する。
「おいおい、あれを掴み取れるのか……普通は無理だろ?」
『お姉様からのお土産ですよ!? 取り逃すなんてもったいない! そんな失礼な事、出来るわけないです!』
心持、興奮する高橋。
浩平は呆れて良いやら、感心して良いのか迷った。
しかし、気を引き締めてその2つのどちらも選択をしない。
『高橋、そのまま敵を押し込め』
『はい! お姉様の武器と行きますよ!』
高橋の本領、密着戦を継続する。
黒い獣を抑えるのにはこれほど効果的なものは無かった。
そのスペックとは大分差があるものの、戦い方が特殊すぎて黒い獣はどうして良いのか判らないといった感じだ。
嫌がり離れようとするが、それを許さない高橋の戦い方。
『小池、俺達は援護だ。退路の選定は任せた』
『了解!』
後退しようとする黒い獣を誘導するべく小池の銃弾が相手の後退進路に打ち込まれる。
黒い獣は誘導されるようにその場を動いてく。
しかし、そのうち動きに変化が見られ始めた。
『前に出るようなら俺が阻止する。自分の役割をしっかりと果たせ!』
「ところで、俺は?」
密着され、なかなか思うように前に出れない黒い獣。
しかし、後退することに何か感じるのか前に出ようとする。
前に出ようとした一瞬手前のタイミングで藤川の手にする銃が火を吹く。
それに阻まれて徐々に徐々に後退するしかない黒い獣。
『高橋の攻撃が途切れた時に攻撃してください』
「はいはい、了解しました。藤ちゃん隊長代理」
浩平の朗らかな声にぴしりと藤川側の空気が固まった。
しっかり仕事を果たすべく、浩平は高橋の攻撃が途切れた一瞬を見逃さずに銃撃をする。
銃弾は黒い獣の表面の装甲を多少削り、弾丸は跳ねて何処かへと飛んで行く。
『……殴って良いですか? 折原さんに言われるとすごく腹が立つのですが』
「いやだわー藤ちゃん、なぐらないでくださいねー」
浩平の猫撫で声に藤川が反撃を試みた。
もちろん、その間に黒い獣が前に出ようとしたら銃撃を加えてそれを阻止している。
『っぐ! 殴りたい! ………………シスコンの癖に!』
「うぐぅ!」
浩平は何処かの少女が口にするような言葉を口にしていた。
戦闘中になにをやっているんだかと言った感じで有夏はその通信を傍受している。
口を出すのも馬鹿馬鹿しいと有夏はため息を吐いた。
この状況が続くのは相手が高橋の戦闘方法になれるまでの短い時間だけ通用する。
もし、それに慣れられてしまったらあっけなくこのバランスは崩壊するだろう。
『浩平、この位置に相手を誘き寄せろ。最大の一撃と言うやつを見せてやる』
今の位置からそう遠くない場所に有夏は場所を指定してきた。
しかし、そこが限界だろうと誰もが理解していた。
その場所で仕留められなければ、このバランスはあっけなく崩壊すると。
『それと、藤川とやら。浩平はシスコンでは無く、ロリコンだ。あまり話しているとうつるぞ』
『……それは、わざわざありがとうございます』
有夏は防弾マントの下から機材を取り出して組み立てて行く。
3つの部品からなるそれは大きな大きなレールキャノンだった。
長さが、有夏の機体の1.5倍ほど、つまり12mほど有る。
「うわぁ、なんか人を病原菌みたいに」
『自覚が無いのは、重病人の証拠だ。わざわざ言わせるな』
「有夏さんてば、て、れ、や――――」
有夏のとげのある声が、浩平の言葉をさえぎる。
『浩平、お前後でどうなるか解って言ってるだろうな?』
「――ちょ、調子に乗ってました! す、すいませんでした! マム!」
浩平はかなりの冷や汗をかいて、お詫びを口にするしかなかった。
一方、有夏は組み上げきったそれを腹ばいになって構える。
そして、敵がその場に来るのを静かに待った。
『きゃぅっち! 隊長! もうそろそろ抑えきれないです!』
『最後の一押しをしろ!』
『り、了解です!』
高橋が留美の刀を黒い獣の腹部に密着させて、思いっきり真横に振り払う。
斬れはしない。しかし、黒い獣はそのまま真後ろに流されていく。
た、たん! っとステップを踏んだところだった。有夏が指定した場所は。
キゃャォォォォォォォォォォォォォン!
唸りを上げたのは有夏のレールキャノン。
有夏は躊躇い無く、相手のコクピットを狙っている。
しかし、黒い獣は身に危険を感じたのか、それともただ単にステップを踏み損ねたのか解らない。
身が不自然に捻れ、コクピットには命中しなかった。
ただし、無事ではない。
弾丸の甲高い加速音が落ち着いた時には、黒い獣の右肩から先は綺麗になくなっていた。
『あは、あはははは! 壊れた……壊れちゃった!』
今まで無言だった黒い獣が今になって初めて声を上げた。
その声は喜び。その声は歓喜。そして、憎悪を含んでいた
向きを変えて一直線で有夏に向かって機体を走らせる。
1番、危険な物を破壊するために。
『ちぃ!』
舌打ちをし、レールキャノンを残して、有夏はその場を離れる。
手にショットガンを持ちレールガンの破壊に向かった黒い獣の銃撃をするのも忘れないが、効果はあまり無さそうに見える。
黒い獣はその勢いのまま、レールキャノンを踏み潰しばらばらにしていった。
『あはははははは! 壊れないよ! 壊してあげる!』
都合5機が黒い獣を取り囲んだ。
シヴァを除いた4機が一斉に銃撃をする。
片腕を失い、バランスがおかしくなった黒い獣はその何発かをもろに貰った。
それでも、動きは止らない。
藤川たちは、高橋を前として新たに陣形を作り直して黒い獣に対抗する。
浩平と有夏は向かってくる黒い獣の勢いに応じて前衛と後衛を入れ替わりつつ黒い獣を翻弄していた。
黒い獣は一撃で倒せないと知ると直ぐにターゲットを変更する癖を持っていた。
高橋に近づこうとして、援護2人に進路を阻まれたり。
有夏を攻撃しているはずなのに真横から浩平の攻撃を受けて退いたり。
黒い獣の声も、互いの声も何も無い。
高橋の攻撃は既に慣れられており、余裕と言うものがもう無く言葉を発すれば隙が出来ると言う強迫観念が出来そうだった。
そう、浩平以外は。
自分の技術に自機の状態。そして相手の技量と相手の機体の状態を正しく把握していた。
浩平には、2手先まで読めると言う余裕みたいなものがまだ心に張り付いている。
『折原! 今から行くわ!』
「七瀬? 今、陣地か?」
浩平は黒い獣を見てまだ攻撃できないと判断した。
まだ、あの3人組を攻撃しているっと。
『えぇ、そうよ』
「じゃあ、強力なのを持ってきてくれ」
『そんなの百も承知よ』
それが、全ての間違いだった。神業と言っても良いほどの読み。
しかし、それは2手先まで。
『あはははははははは! みぃーんっな! 壊す!』
黒い獣の咆哮。黒い獣の速度が一変した。
今の黒い獣の速度で2手と言うのは、普通のドールの1にも満たない。
高橋を撃破するのを諦めて、無理やり方向転換。
片手を地面に付き、3足、全ての足で地面をける。その姿はまさに獣。
「え?」
浩平の読みが出来ると言う余裕は、油断を呼び、驕りを招いた。
有り得ない行動で有り得ない速度。
それを持って浩平は2手先、自機が破壊されると読んでしまう。
ギャギャァアン!
酷い音共に浩平の機体は真横に押し出された。
元いた場所には、有夏のサイレントUが居る。
防弾マントは綺麗に引き裂かれて、片腕が見事にコクピットを貫いていた。
マントにつけられていた武器が散乱する。
『全ての攻撃がワンテンポ速いのはドールを意識しているからか?』
『そうです、俺は傭兵じゃなくて本職はドール乗りだから』
何故ここで、反発心が芽生えたのだろう?
そのときは何故こう言って意固地になってしまったのだろうか?
そんな事を浩平は思う。
『フン、それは良い心がけだが心がけるならもっと先まで動きを読んでみろ』
『必要は無いじゃないですか。これまでもこれからもこのままで十分です』
何故、ここでこう言ったのか解らない。
この時の忠告は今回の事を予見してたんじゃないのか?
目の前に有るサイレントUを見て浩平は思う。
『……そうか、いつか足元を掬われる日が来るぞ』
『…………そんな日は来ませんよ。俺がドールに乗っている限り』
浩平は後悔していた。
何故あの時、有夏の言葉を素直に聞いていかなかったのかと。
何故、自分ではなく有夏が代わりになっているのかと。
声が巧く出せない。
「あ、あ、あ、有夏さん?」
自分の喉のはずなのに、働く事を拒否した喉が音をどもらせた。
コクピットの上部を貫かれ、頭部が引きちぎられていた。
敵は林檎でも潰すようにその頭部を片手で握り潰す。
中に居たら、絶対にパイロットは即死だろう。
「何で……有夏さんが?」
『折原! 動きなさい! やられたいの!?』
留美の声にはっと気が付いて機体を回避させる。
黒い獣の手はサイレントUの腹部を貫いて、寸での所で浩平のスイッチを取り逃している。
留美はようやく戦場に参加できる位置まで来ていた。留美が武器を拾って射撃をする。
狙いは適当でも、弾丸を当たるのを嫌がってか黒い獣は進路を変更した。
『あはははははははは! まずぅ、ひとぉつ』
「嘘だろ……」
『しっかりしなさいよ! 折原アンタ男でしょ!』
こういう時の留美の罵声を浩平は心地よく感じていた。
今は悩むときでは無いと意識を切り換える。
まだ、終わったわけじゃない。
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その光景は建物のシステムを掌握していた由紀子達の所にもたまたま映っていた。
監視カメラの一角に映っていたのだ。
有夏の機体がやられるところを。
機体のコクピットが見事に貫かれる瞬間を。
それを見た瞬間は誰も、音を発することが出来なかった。
何か悪い冗談でも見たかなのように。
しかし、状況を認識すると弾かれた様に音が帰ってくる。
「有夏! 応答しなさい! 有夏、ありか! アリカ!!」
慌てて有夏に向けて通信をするが、返事は何も無い。
いや、ここで返事が返ってくることはありえないと由紀子ははわかっている。
何故なら、完膚なきまでに機体が破壊されてしまっているからだ。
ぎりぃっと歯を食いしばる音がする。
それほど由紀子は怒っていた。
「……レプリカを、モビー・ディック・レプリカを用意しなさい!!」
「お言葉ですが」
ものすごい剣幕。
由紀子の秘書をしていた雪見でさえこんな顔を見た事は無かった。
その顔を見て、怯む雪見。
カメラに映像が映ったことを幸とみるか不幸とみるか。判断に分かれるだろう。
もし写っていなければ、由紀子は出撃しなかったかもしれない。
「雪見さん、用意をしなさい!!」
「……しかし、社長自ら打って出るおつもりですか?」
「盟友を、喧嘩相手を! 親友を!! 命の恩人を!! 殺されて落ち着いていられるほど私は人間が出来ていませんの!!」
雪見はためらう。
確かに、何が起こっても不思議じゃないと冗談めかして用意していた機体だ。
しかし、これはONEにとっても忌々しい機体に違いないはずなのだ。
それを使って良いのか判らない。判断力を失っていないか、今打って出て勝てる勝因があるのか静かに判断する。
出したところで、勝率は5割を切ると思われる。
ならば今居る機体全てを仕留めるためではなく、相手のエネルギー切れを狙うためすれば良いのではないかと考えるのだ。
いつ切れるか解らないが、持久戦ならばこちらに利がある。
「社長、落ち着いてください」
「私は、かつて無いほど冷静ですわ」
引きつった笑みを浮かべる由紀子。
それを見て雪見は溜息をつきたかったが、それを気力で飲み込んだ。
溜息をついて、さらに冷静さを失わせるわけにはいかないのだ。
「社長は出ずに、あの機体のエネルギー切れを待つべきです」
「無理ですわ。あれはYA初期型に分類されるYAタイプ。この意味は知っているでしょう?」
YAタイプは戦場にて活躍した事実がある。
台数が限りなく少ないが、そのスペックと異常さは軍に携わるものの大抵は知っている。
その出現した時期を持って、初期型、中期型、後期型と分類される。
詳しい話は割愛するが、YAの初期型は、中期型に比べて性能が悪い。
しかし、活動時間は15時間は軽く見積もらなくてはならない。
事実、一番初めに認識されたYAタイプが今の黒い獣と同じ形をしていたのだ。
しかも、それの撃破は確認されていない。
もしかすると、同じものかもしれなかった。
確認されたのは別の特徴を持った初期型2機、中期型と後期型を合わせて6機だ。
雪見は静かに思案してから、しょうがなく頷いた。
「確かに……」
確かにどこかで、何かの資料で見たことのある形をしている。
記憶と照らし合わせれば確かに同じかもしれないと雪見は曖昧に思う。
もし、あの機体が撃破の確認されていないYAタイプであったとするならば持久戦は危険だ。
アベレージ2機に、ガンショットU2機、それにシックスセンス。
それに今出ている5機に、レプリカ、そしてバックパックを排除したヘイルダム。
計12機でローテーションを組んでもこちらが全滅する危険があった。
なにより、既にダメージを受けてどうしようもない機体が何体か居るのがさらに計画に破綻をもたらす。
「何より、あのパイロットがGEナンバーなら持久戦は相手に絶好の機会を与えるだけですわ」
疲れを知らないあのパイロットとこちらの人を比べるのは間違いだと考えざる終えない。
いや、疲れを感じれないGEナンバーを由紀子は知っているだけにその口調は厳しい。
あれは脅威と言うよりも体力が限界を突破しても、反射だけで攻撃をしてくるだろう。
寝ていても平気で反撃してくるかもしれない。
かつての戦場でそう感じた。相手はもちろん、今の祐一である。
実際に戦った時間は短かったが、部品を解析してたら驚くべきデータが出てきたのだ。
ドールに乗っての活動時間が13時間と。
データを解析していくとその一挙一動までみることが出来るが動きはずっと動きっぱなしであった。
回収されたブラックボックスから、鋭く、激しいあの動きをしていたと解析できたのだ。
それを解析できたのも、つい最近ではある。
当時の通常の作戦時間が2時間を少し超えるくらいだからその6倍は活動していたことになる。
体力よりも、精神力が削られるその空間に通常の6倍いるのは異常と言える。
ドールで戦うことに拒否を起こす精神病だって流行ったのはその頃だ。
今だって、その精神病は撲滅してはいない。
雪見はシュンに目を合わせて、シュンが頷いた。
そんな真剣な顔をする由紀子を見て雪見はしょうがなく溜息を吐きながら言う。
「判りました。すぐに用意を開始します」
「助かりますわ」
その答えにふんわりと微笑む由紀子。
雪見の顔はしょうがありませんっといった表情だ。
「では、社長こちらへ」
シュンが社長を戦場へとエスコートするべく、手を招いて先を歩く。
由紀子とシュンはそのまま部屋を出て行った。
雪見はすぐに直属のメカニックに機体の起こしを頼んだのは言うまでも無い。
―――正式名称、モビー・ディック・レプリカ
かつて祐一の乗っていたYAタイプの残骸と研究所に残っていた物を拾い集めて繋ぎ合せた物。
ONEのコードナンバー0に位置する機体でもある。機体自体は自爆した物を修復した物である。
そのため特にコクピット部分の修復は不可能なほど破壊されており、コクピットのコアユニットは別物。
別物と言っても初期型のCROSSしか機体を認識できなかった為、危険があると分かりつつそれで構成されている。
本人にどんな影響が有るかわかっていない初期型を使っているために動作が不安定。
戦闘能力はYAタイプとほぼ同じだが、活動時間はONEの機体の中で一番短い。
搭乗者はもちろん由紀子本人。この機体の存在は由紀子と秘書部の人間と現場の一部しか知らない。
実際に表に出せる様な機体ではない。
出力は不安定。つい最近になってようやく動くようになった次第。
ただしスペックは驚異的なのには違いない。
そのスペックがパイロットには刃となって襲い掛かる欠陥機。
それらの3重の欠陥を抱えている。
欠陥機でも性能が有るのだから、由紀子は使おうとする。
それほど由紀子怒っていた。
To the next stage
あとがき
次回でO編ラストです。多少長くなってしまうかもしれませんが、お付き合いください。
隠し玉発覚です。えぇ、ここまでは本当に予定通りだと思います。ただ、放送の部分はカットしています。
それを、第2部に当たる部分のプロローグに持って行っているので、それも待ってください。
ここまで付き合っていただいてありがとうございます。ゆーろでした。
管理人の感想
ゆーろさんから外伝を頂きました。
サイレントU沈黙しましたね。
まぁ、パイロットは殺しても死なない女性ですし、きっと大丈夫でしょう。(爆
それより問題は浩平ですね。
立ち直って戦えるのか。
由紀子は虎の子を出す様子。
かなり危険度の高そうな代物ですね。
高レベルのパイロットとは言え、普通の人間が果たしてYAタイプに耐え切れるか。
コアが相沢祐治作じゃないだけマシでしょうけど。
感想は次の作品への原動力なので、送っていただけると作者の方も喜ばれると思いますよー。
感想はBBSメール(yu_ro_clock@hotmail.com)まで。(ウイルス対策につき、@全角)