海上権力史論
海上権力史論(The Influence of Sea Power upon History, 1660-1783)
アルフレッド・セイヤー・マハンによって1890年に刊行された海軍戦略の古典的著作。
海軍大学校の講義録を整理して発行された。
続編として、仏国革命時代海上権力史論 (The Influence of Sea Power upon the French Revolution and Empire, 1793-1812) がある。
この論文は、シーパワーが欧米史においてどのような歴史的影響があったのかを論じるものである。
歴史研究ではシーパワーの意義や重要性は明確に認識されてはいない。
マハンはローマ史の研究を参考にしている。ポエニ戦争においてカルタゴに対してローマが勝利し、またナポレオン戦争においてフランスに対してイギリスが勝利したことから考えれば、海上の支配が勝者にあったという一致点が浮き彫りになる。しかし既存の研究で海洋に着目したものであり、海上権益を歴史の因果性の中で位置づけた研究は不十分であり、これを歴史研究を参照しつつ明らかにしようとするものである。
パクス・ブリタニカと呼ばれるイギリス帝国の覇権の時代や、オランダ、スペイン、フランスの失敗などの歴史的事例を参考にしながらシーパワーの重要性を示している。
この研究で特に重要な概念はシーパワーであるが、マハン自身はこれを厳密に定義したわけではない。これは海軍力だけではなく、海洋を経済的に活用する能力まで含む包括的なものである。国家がシーパワーを発展させるためには後述するように構成要素に着目する必要があり、また海上戦闘の在り方が変化を指摘した。さらに海上戦闘の原則について制海権をいかに得るのかという問題を考察しており、集中や大胆さが海上作戦での原則と考えた。
マハンによれば地理的位置、海岸線の形態、領土範囲、人口、国民性、政府の性格がシーパワーに影響を及ぼす要素である。これらから構成されるシーパワーは生産、海運、植民地の連鎖とこれを保護するための海軍のそれぞれのバランスのとれた発展が海洋政策では求められる。
概要
・緒論
戦略への歴史の教訓の適用。
ガレー船、帆船、蒸気船の対比など。
先例は原則とは別である。
先例から有益な教訓を見出すことは必要だが、帆船時代の戦術を、そのまま蒸気船に当てはめることはできない。
が、時代が変わり、条件と武器が変わっても、原則は存在する。
例証1「ナイルの回線、1798年」
帆船時代、錨泊中の、風下の艦隊が、風上の艦隊を救援に行くことは不可能である。
蒸気船の時代、風は関係なくなるが、位置関係による原則は存在する。
例証5「第二次ポエニ戦争、紀元前218-210年」
本当に海洋を管制していたとしても、制海とは、敵のあらゆる行動を完全に封止することはできない。
反対に、劣勢な側も、ある程度の行動は可能である。
・第一章 シーパワーの要素
海洋は偉大な公路
陸路に対する海上輸送の有利
海軍は通商保護のために存在する
通商は安全な海港に依存する
植民地及び植民地の拠点
シーパワーの連鎖の環-生産、海運、植民地
シーパワーに影響を及ぼす一般条件
1 地理的位置
2 自然的形態
3 領土の範囲
4 人口の数
5 国民性
6 政府の性格
関連著書
The Influence of Sea Power Upon History, 1660-1783 (1890)
The Influence of Sea Power upon the French Revolution and Empire, 1793-1812 (1892)
Naval Strategy Compared and Contrasted with the Principles and Practice of Military Operations on Land (1911)
邦訳の関連著作
・The Influence of Sea Power Upon History, 1660-1783 (1890)
「海上権力史論(上・下)」(水交社訳, 東邦協会, 1896年)- 近代デジタルライブラリーにて閲覧可能(全国書誌番号40015155)
「海上権力史論」(北村謙一訳, 原書房, 1982年12月, 2008年6月)ISBN 978-4562013265 ISBN 978-4562041640 - 原著の5・6・9・11・12・13章を割愛の他、各所を抄訳したもの
・The Influence of Sea Power upon the French Revolution and Empire, 1793-1812 (1892)
「仏国革命時代海上権力史論(上・下)」(水交社訳, 東邦協会, 1900年)- 近代デジタルライブラリーにて閲覧可能(全国書誌番号40015156)
・Naval Strategy Compared and Contrasted with the Principles and Practice of Military Operations on Land (1911)
「海軍戦略」(尾崎主税訳, 千倉書房, 1932年)
「海軍戦略――陸軍作戦原則との比較対照」(尾崎主税訳, 原書房, 1978年)
「マハン海軍戦略」(井伊順彦訳, 中央公論新社, 2005年2月)ISBN 978-4120036118
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参考
⇒ アルフレッド・セイヤー・マハン
⇒ 海上権力史論
⇒ 艦艇の種類(時代と変遷)
⇒ 帆船の種類
⇒ 艦隊陣形
⇒ 戦列艦
⇒ 帆船時代の海戦
新規作成日:2009年12月30日/最終更新日:2009年12月30日