美術鑑賞

最近見た美術展などの印象や感想です。東京は世界各地の博物館や美術館の展覧会が一年中開催されており、
大変恵まれています。
  

 国立西洋美術館
クラーナハ展
(2016.11.13)
500年後の誘惑と題されたドイツの宮廷画家クラーナハの大回顧展。世界10ヵ国から約120点の作品が集合。これまでは宗教改革者マルチン・ルターの肖像が有名だが、女性が男性を誘惑するエロティシズムを見事に描い出している。宗教改革からちょうど500年に開催され、500年を越えて誘惑を体験できる。女性の冷たい視線が印象的。特にいろいろな物語をテーマにした女性は魅惑いっぱい。特にホロフェルネスの首を持つユディトは不思議な雰囲気を持っている。また、ピカソなど近代画家にに影響を与えているのには改めて驚いた。本館が世界文化遺産に登録されて初めての訪問。また常設展に展示されているフェルメールに由来する作品を初めて見ることが出来たし、ルノアールやモネも堪能できた。
 
 損保ジャパン日本興亜美術館
カリエール展(2016.11.13)
セピア色の想いと題した、没後110年を記念した19世紀フランスの画家の作品展。19世紀の後半のパリで印象派が活動している中、それを乗り越えようとする象徴主義を代表する画家。これまで日本ではほとんど注目されたことはなく、個人所蔵作品を中心にした約80点が展示されている。ほかの色彩がない靄のかかったようなセピア色の世界に圧倒された。母子像にはそこはかない家族愛が感じられ、岸田劉生も彼の影響を受けているのには初めて知った。そういえば何となく雰囲気が似ている。カリエールにはめずらしい風景画など様様な主題の作品も展示されている。また、彫刻家のロダンとも交友があったという。
 
 山種美術館
浮世絵 六代絵師の競演(2016.9.27)
開館50周年を記念した鈴木春信・鳥居清長・喜多川歌麿・東洲斎写楽・葛飾北斎・歌川広重の浮世絵コレクション。平日にもかかわらず多くの観客でにぎわっていた。今回は館所蔵から保存状態の良い作品を厳選し、特に写楽の大首絵、世界に数品しか残されていない春信の優品梅の枝折、広重の初刷り東海道五十三次(全56枚)はほかに類を見ない逸品。最近、浮世絵や錦絵など日本独自の版画の評価が一段と高くなっているようだ。初刷りなど色彩が華やかな貴重ものが観られるのはうれしい。最近、浮世絵も初刷りなどグレードの高い作品が展示されることが多くなってとてもうれしい。
 
 横浜高島屋ギャラリー
ガレとドーム展(2016.9.24)
19世紀末から20世紀初頭に花開いたアールヌーボーのガラス工芸の巨匠、ガレとドーム兄弟の作品展。特にガレはパリ万博に出品した日本の作品に強い影響を受け、日本をこよなく愛した。また、ドーム兄弟もガレを追い求めた。約100点の至高の作品が一堂に会している。会場は女性に人気があるせいか女性の観客が多かった。ガレの作品展は先月サントリー美術館でも鑑賞しており、その素晴らしさに改めて感動した。会場にはガラス工芸の工法の説明もあり、被せガラスや型流し工法などがよくわかった。
 
 国学院大学博物館
折口信夫と「死者の書」(2016.9.23)
国学院大学博物館は、私が高校時代にあこがれた樋口清之博士が収集した考古資料4000点を基に設立。考古資料は旧石器時代から中世までさすがに質が高いものが展示されている。館内は学生らしき若者が何人か見られた。今回は同大の教授だった折口の生誕130年記念した名著「死者の書」関係資料が特集展示されている。貴重な書き込みされた本や原稿などとても興味深かった。もう一度読み返してみよう。
日本に根付いた渡来人ー高麗郷と高麗神社も同時開催しているなど展示が多彩。
 
 白根記念渋谷区郷土博物館・文学館
渋谷を流れた川の写真展(2016.9.23)
区議会議員白根全忠氏を記念した渋谷区郷土博物館。渋谷区で発掘されたナウマン象の骨から現代までゆかりの品が展示されている。文学館も併設され区内に住んだ文学者の資料も展示。先生に引率された小学生が見学に来ていて学芸員が説明していたのを脇で聞くことができラッキーでした。今回は特集で昭和30年代まで渋谷を流れていた川、唱歌「春の小川」のモデル河骨川の写真など展示。いまや暗渠化されて見られない川も多く貴重な資料。
 
 芹澤銈介美術館
書物のよそおい(2016.9.10)
登呂遺跡のとなりにあり、偶然見つけた静岡市立の美術館。芹澤より寄贈された作品600点と彼の収集品4500点から一部を展示。以前から大原美術館や日本民芸館などで知っていたので偶然に感謝。芹澤銈介は静岡出身の色彩と模様の天才と言われた染色家。日本民藝協会のメンバー。そのデザインは日本人なら誰でも目にしたことがあるだろうし、外国でもとても人気がある。今回は本の装丁の特別展で多くの日本の有名作家の作品が展示されている。旧石器で有名な考古学者芹澤長介は息子。
 
 サントリー美術館
エミール・ガレ展(2016.8.15)
国内有数のコレクションを誇るサントリー美術館とオルセー美術館からの特別展示。
19世紀後半から20世紀初頭に花開いた新しい芸術アールヌーボーで独特の表現世界を展開したガレのガラス、陶器、家具作品は、見るものを私的な世界に引き込み、我々の生活にとけこむ芸術作品だ。今回は特に植物学や生物学、文学の造詣の深さに改めて感心した。今回は制作過程を示す、貴重なデッサンも展示されている。特に植物を題材とした作品は美しく、詩情豊かな感じがした。
 
 国立新美術館
ヴェネチィア・ルネッサンスの巨匠たち(2016.8.15)
今年は日伊国交樹立150周年で数々のイタリア美術の特別展が開催されており、今回はヴェネチィアにあるアカデミア美術館の名品約60点を展示。15世紀から17世紀にいたるヴェネチィア・ルネッサンスの作品が一堂に会している。いままでヴェネチィア・ルネッサンスにこれほどに注目したことはなかった。イタリアの巨匠ティツィアーノの祭壇画の大作受胎告知は日本初公開。縦4メートル以上の大迫力画面と劇的な瞬間をとらえた画面に圧倒された。
 
 山種美術館
江戸絵画への視線(2016.8.11)
開館50周年記念特別展で秘蔵の江戸絵画が一挙に公開されている。浮世絵の祖といわれる岩佐又兵衛から江戸琳派へという副題で琳派の俵屋宗達、酒井抱一、鈴木其一、奇想の画家伊藤若冲など錚々たる作家の作品が並ぶ。特に琳派の金地に季節の花を描いたものや宗達の絵に本阿弥光悦の書が描かれ四季草花下絵和歌短冊帖にはいつもながら見入ってしまう。また、奇想の画家と言われる若冲の伏見人形図はユーモアたっぷりでした。会場は多くの江戸絵画ファンでいっぱいでした。
 
 日本民芸館
沖縄の工芸(2016.8.11)
長年訪れたかった日本民芸館に行ってきました。柳宗悦が民藝運動の本拠地として作った本館及び西館は1936年に造られ、現在登録有形文化財となっています。中に入ると木の重厚感ある落ち着いた雰囲気で、展示物と実に合っている。今回は創設80周年特別展が開かれており沖縄の工芸と朝鮮、中国そして日本の磁器などが展示されている。特に戦前に収集された沖縄の焼き物、無織物、染め物、漆工は素朴の中に繊細な魅力を感じた。展示にはほとんど説明がなく、直観で見るようにしている。今回は残念ながら柳の生活していた西館は休館中でした。また、次回改めて訪れたいと思います。
 
 国立新美術館
ルノアール展(2016.7.3)
オルセー美術館とオランジュリー美術館から100点を超える印象派の巨匠ルノアールの展覧会。特に最高傑作といわれるムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会や最後の大作いわれる欲女たちは日本初公開。会場は入り口から多くの人でいっぱい。日本人に人気の画家のひとりだ。皆さん最初から一点一点丁寧に見ている。今回は取りあえず、舞踏会、ピアノを弾く少女、浴女たちなどの注目作を重点的に見て来たが、割と余裕をもって鑑賞することができた。余りにも有名な作品なので、以前見たような感覚になる。久しぶりにルノアールをたっぷり堪能できた。
 
 畠山記念館
光琳とその後継者たち(2016.6.11)
尾形光琳没後300年記念して館蔵作品を公開している。琳派の人気が高いのか、会場は通常より人が多かった。光琳とその後継者たちによる絵画や陶器など多彩な美の世界を紹介している。光琳、弟の乾山、酒井抱一などビックネームの作品が豪華に並ぶ。特に八橋図・秋草図団扇は小さな画面に表に八橋、裏に秋草が鮮やかに描かれており、作品作成時の色彩の華やかさがしのばれる。残念ながら重要文化財の躑躅図は展示替えがあり、今回は観ることができなかったが次回が楽しみだ。
 
 サントリー美術館
広重ビビット展(2016.6.1)
日本火薬の元会長の原安三郎氏の浮世絵コレクションから歌川広重の代表作名所江戸百景及び六十余州名所図会など初摺のなかでも国内に数セットしかない貴重なものを展示。まず驚かされるのはその色の鮮やかさ。特に青と赤のあざやかさと巧みなグラデーション。まさに広重にビビットするわけだ。浮世絵は何回も摺るため色が薄くなったりかすれたりするものが多いが、これは昨日摺ったようなあざやかさだ。また初摺の段階では広重と摺師が一体となって色や摺りを検討したといわれ、広重の表現しようとしたものに近いといわれている。会場ではこのほか葛飾北斎の富嶽三十六景から凱風快晴や神奈川沖浪裏なども展示され多くの人でにぎわっていた。
 
 東京国立近代美術館
安田靫彦展(2016.5.14)
歴史上の人物や場面の名作を残した日本画家の回顧展。100点以上の作品が展示され安田の魅力が堪能できる。重要文化財の木瀬川陣は二嫂の屏風絵で頼朝と義経が対峙しており、その場の緊張感が伝わってくる。また、教科書にも使われる額田王の画は飛鳥時代の雰囲気が画面からうかがえる。そのほかの作品にも歴史の浪漫や日本画の古典美が感じられる一方、斬新な構図と繊細な色使いには改めて驚かされる。
 
 国立新美術館
90回国展
(2016.5.7)
日本最大級の国画会による公募展。絵画、版画、彫刻、工芸、写真部門がある。1918年(大正7年)に文展から自由な製作と発表の場を求めて創立された。京都の画家 小野竹喬、土田麦僊、村上華岳などが創立メンバー。1925年には梅原龍三郎を招く。公募展は日本の文化とうたっている。会場は広い国立新美術館の1階から3階まで使用していて作品数の多さと多様さには驚いた。
 
 池上本門寺霊寶殿
本門寺の狩野派(2016.5.5)
春季恒例の本門寺を菩提寺とする狩野派作品を特別展示。:境内には狩野四家の約90基の関連墓所が残っている。江戸画壇の重鎮狩野探幽、狩野永徳など狩野派を代表する屏風や掛け軸など色鮮やかな作品が展示されている。また、川鍋暁斎作と伝えられている作品や徳川吉宗の作品も展示されている。霊寶殿にはこのほかにも空襲をくぐりぬけた日蓮上人の真筆など貴重な資料も残されている。
 
 東京国立博物館
黒田清輝展(2016.5.3)
日本の近代絵画の巨匠と呼ばれる黒田清輝生誕150年の特別展。黒田といえば教科書にも載っていた湖畔や読書があまり有名すぎて他の作品が見逃し勝ちだが、今回は約200点という作品のなかにも小品ながら優れたものが多く、黒田のすごさを再認識した。トーハクの隣の記念館があるが、常設の作品の少なさにがっかりしたが、これだけの作品を是非の常設展示してほしい。今回は師コランやミレーの作品もオルセー美術館から特別出品されている。
 
 国立新美術館
はじまり、美の饗宴展(2016.3.20)
日本で最初に西洋美術を紹介した倉敷にある大原美術館の中から選りすぐりの作品の展覧会。学生時代に旅行の帰りに観て以来、実に40年ぶりにエル・グレコの受胎告知を観て来ました。はじめてみた時の感動が甦りました。休日にもかかわらず会場はそんなに混んでいなく、名作の前でじっくり作品を鑑賞することができ、大変満足しました。100年前にこれだけの作品を収集した大原孫三郎と児島寅次朗の先見の明に感謝したい。
 
 静嘉堂美術館
茶の湯の美・煎茶の美(2016.3.21)
中国から伝えられたお抹茶と煎茶の美の世界を収蔵品の中の名品からたどる。中でも国宝の曜変天目(稲葉天目)は、世界に3点しかない貴重なもので、星紋のもっとも華やかなものといわれる中国陶器の至宝。今回で2度目の対面で、その美しさを再認識した。その他油滴天目や井戸茶碗など貴重な茶碗も展示。その他の静嘉堂の代表的な茶道具や煎茶器コレクションは圧巻。異国情緒あふれる染織ははじめて知るお茶の世界でした。
 
 畠山記念館
春に想う(2016.3.13)
平成27年度の最後の企画で春を象徴する花を題材とする美術工芸品作品の展示。前期は梅と椿、後期は桜と桃を中心に紹介している。江戸時代の夜桜蒔絵四半硯箱は、図柄に和歌を暗示することばが意匠されている知的な遊び要素が盛り込まれた作品。そのほか、尾形乾山や小堀遠州などの作品も目を楽しませる。どの作品も日本人の繊細な美意識を感じさせる。
 
 山種美術館
ゆかいな若冲・めでたい大観(2016.3.6)
伊藤若冲生誕300年記念特別展。若冲人気からか会場は最終日ということもあり、多くの人でにぎわっていた。新春にふさわしい吉祥の絵画の大集合で特に伊藤若冲の大胆かつ精細な筆使いはすばらしく、遠くからでも一目でわかるほどだ。特に押絵貼屏風の郡鶏図は墨絵にもかかわらず迫力十分だ。また、美術館所蔵の横山大観などの日本画家たちの作品も洗練された美しさを感じる。まさにHAPPYな日本美術だ。
生誕300年の今年は4月にも上野で若冲展があり、これも楽しみだ。
 
 東京都美術館
ボッティチェリ展(2016.2.23)
ルネッサンスの至宝といわれるサンドロ・ボッティチェリの日本初の大回顧展。日伊国交樹立150周年記念。人気の画家のため会場は熱心な観客でいっぱい。弟子や工房の作品を含め約75点の展示。初期の作品から晩年の作品まで作風の変化がよく理解できた。後半は重ぐるしい暗い作風になるが、やはり前半の可憐で甘美な作品が好きだ。今回は書物の聖母が日本初公開で多くの聖母像の中でも秀逸。また、美しきシモネッタの肖像も繊細かつ華麗な作品で、好きな作品のひとつだ。
 
 日本橋高島屋
ピカソ展(2016.2.21)
ドイツケルン市のルートヴィヒ美術館所蔵のピカソの初期から晩年までの絵画、版画、ブロンズ、陶器作品約60点を展示。この美術館はピカソ美術館に次いで世界有数のピカソコレクション。今回は絵画以外の作品が多かったが、それでも銃士とアモールなどの大作もあり多くの人が訪れていた。作品のほかマンレイなど著名な写真家によるピカソの肖像写真40点も展示されている。
 
 そごう美術館
日本画の革新者たち(2016.2.13)
日本各地の美術館の名品紹介シリーズの第一弾として、福井県立美術館を紹介。特別出品として、菱田春草の落葉が展示されている。以前見たことがあるはずだが、何度みても落葉の表現の繊細さと落葉の雰囲気には驚かされる。その他、横山大観、狩野芳崖、速水御舟など著名な日本画家の作品も見ごたえがある。また、江戸時代の奇想の画家岩田又兵衛の三十六歌仙や和漢故事説話集など精細な表現の作品には圧倒された。
 


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