そうして一年がすぎた。
ぼくはお兄さんに会いに、あの丘にある画廊に行った。
お兄さんの初めての展覧会。お兄さんは絵描きさんになった。
絵描きさんの卵、じゃなくって絵描きさんに。
お兄さんは旅先のぼくに展覧会の案内状を送ってくれたんだ。
画廊のドアを開くと、絵の具のいいにおい。たくさんの絵。
ああ、ぼくの肖像画もかざってある。ぼくはうれしい。
お店の奥からお兄さんが出てきた。
「来てくれたんだね!久しぶり。元気だったかい?」
ぼくとお兄さんは抱き合って再会を喜びあった。
「君はとっても素敵な色になったね」
お兄さんはぼくがこの一年に自分にぬりつけたたくさんの色を見て笑った。
「そうなんです。なりたいものがたくさんあって、その卵の全部の色を
ぬっていたらこうなっちゃった。ぼく、何の卵だろう、何になりたいん
だろうって考えて、やっとそれがわかったんです」
「へえ、何になりたいんだい?」
お兄さんの質問に、ぼくは胸をはって答えた。
「世界で一番素敵な卵になりたいんです。
お兄さんにたくさん肖像画を描いてもらえるような素敵な卵ににね」
お兄さんは笑った。
「君はもう"世界で一番素敵な卵"の卵じゃなくて、"世界で一番素敵な卵"そのものさ!」
そうしてぼくはお兄さんと乾杯した。
丘の上の小さな画廊には、お兄さんとぼくがいる。
ぼくの肖像画もたくさんかざってあるんだよ。