高張力鋼
- 高張力鋼とは
引張にも圧縮にも強い、強度の高い鋼であり、変形がしにくいものである。
引張強さ50kg以上を高張力鋼と呼ぶ(それ以下は軟鋼)。
水圧に対しても、もちろん強くなる。
この強さは、鋼の結晶にマンガンやシリコン等の元素を入れることなどによって生じる。
高張力鋼のメリット
使用する鋼材の量が少なくて済むということ。より高い強度を得たければ鋼材の厚みを増すというのも一つの方法だが、それでは重くなる一方で、高張力鋼を使えば軽量でそれだけの強度が得られるということ。具体的には、少しでも自重を軽くしたい橋梁とか、環境保護の観点から、低燃費化を進める自動車用の鋼板などに、魅力的な材料となっている。高張力鋼を使えば、軽量化が可能となるわけだ。
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潜水艦の場合、圧縮の水圧に対して、その構造を確保する必要があり、そのため圧縮に対する強度が重要となる。強さが足りないと、水圧で座屈してしまう。座屈に対しては、板厚を厚くすればよいが、そうすると重量が増えてしまう。そこで、高張力鋼使われることになる。
- 性能表示に用いる単位
平方ミリメートル
1平方当り80Kg耐える材料というのは、現在では一般に780N/mm2級高張力鋼と呼ばれる物で、1平方ミリメートル辺り780N(約80Kg)の引張強さに耐えるもの。
アメリカの場合、HY100で、1平方ミリメートル辺り約70Kgに耐えうる。
- 高張力鋼の製法
鉄の強度を増す手段(製法)には次の2通があり、一般には併用される。
@鉄にマンガンやシリコン、ニッケル、モリブデンなどの合金元素を添加する。
A焼入れをする(焼入れをすると、鋼が脆くなるので、焼き戻しを併用する)。
製法としては合金元素の添加と焼き入れ、焼き戻しと言う熱処理で組織を制御して強度および靱性(欠陥からの破壊に対する抵抗力を表す)を高める。
単に、強度を高めることは、それほど難しくはない(いろいろな手段がある)が、溶接をしたり、溶接をしても靱性を確保するために元素の添加法、熱処理の仕方等にいろいろな工夫がされている。
一般に、引っ張りに対する強さと圧縮に対する強さはほぼ等しい。
軟鋼との違いは主に成分に有る。通常の軟鋼に対して高張力鋼はその金属の化学成分内にNi、Cr、Mo等が含まれることにより引張強度が上げられている。
- 溶接の難易度
高張力鋼の場合、合金元素の添加が必要になる。合金元素の高い鋼材を溶接すると、一般に割れの欠陥が出やすくなる。それを解消するために溶接する前に、あらかじめ予熱をする必要があるなど、十分に管理した溶接が必要となる。
- 溶接作業に関して
溶接したところの周辺(熱影響部)が急熱、急冷されるため、硬くなり、割れることがある為、場合によっては予熱が必要になる。(溶接棒や鋼材種類、溶接方法によって変わり、一口にはいえない)
Ni、Cr、Moなどが含まれていることにより強度(引張強さ)が上がった反面、それらの含有により溶接が若干困難になっている。
ただこれは通常の軟鋼の溶接などに比べ、その必要とする溶接金属の機械的性能(特にじん性、0.2%耐力)が必要なため、その溶接性が悪いだけで逆に言えば、その材料と同等の性能が必要ないのならそれほど困難ではない。
しかし現実として780N/mm2級の高張力鋼を必要とする場合は、その溶接部分もそれと同等以上の強度を要求されるため、それなりの技術が必要な事は確か。
高張力鋼の溶接の主な注意点
1.溶接時に発生する水素により遅れ割れ等が発生するため適切な余熱が必要。
2.過大な入熱や、過大な溶接電流により、機械的性質が劣化することがある。
3.溶接後の熱処理によっては溶接金属の性能が劣化することがある。
4.1回辺りの溶着金属量が多いと衝撃値などが低下。
5.溶接方法の指定(被覆アーク溶接時では交流電源の指定。直流不可)
従ってこれらの注意事項を守ったうえでの溶接作業となるので、一般的な材料より若干困難といってよい。
- 溶接材料の参考資料
通常の軟鋼を用いる造船、建築、機械などの重要構造物に使用される溶接棒
神戸製鋼製 B-17 (JIS: Z3211 D4301 AWS: A5.1 E6019)
溶着金属の化学成分の一例(%)
C:0.09 Si:0.08 Mn:0.60 P:0.012 S:0.006
溶着金属の機械的性質の一例
引張強さ:470N/mm2 伸び:31%
780N/mm2級高張力鋼用溶接棒
神戸製鋼製 LB-116 (JIS: Z3212 D8016 AWS: A5.5 E11016-G)
溶着金属の化学成分の一例(%)
C:0.08 Si:0.63 Mn:1.50 P:0.010 S:0.006 Ni:1.83 Cr:0.28 Mo:0.43
溶着金属の機械的性質の一例
引張強さ:830N/mm2 伸び:24%
- 主な鉄鋼メーカー
新日本製鐵
NKK(日本鋼管)
川崎製鉄
住友金属工業
神戸製鋼所
- 海上自衛隊の潜水艦に使用されている「NS80」は新日本製鉄のブランド名である
- JSW 鞄本製鋼所 の鉄鋼関係で主な製品の分野は、発電機器に使われるもののみである。
協力
- ツチヤ商事 http://www.ts-gas.com/
- 物質・材料研究機構(旧 金属材料研究所, 旧 無機材質研究所) http://www.nims.go.jp/nims/
- 川崎製鉄株式会社 千葉製鉄所
- 日鐵溶接工業株式会社 http://www.nswelding.co.jp/
- JSW 鞄本製鋼所
高張力鋼
鉄と鋼
新規作成日:2001年7月11日/最終更新日:2001年8月6日