海図

海図は、広義には海の地図全般(海上保安庁刊行の航海用海図・特殊図・海の基本図、国土地理院刊行の沿岸海域地形図・沿岸海域土地条件図、地質調査所刊行の海洋地質図等)を、狭義には海上保安庁刊行の航海用海図をいいます。
英語の map も chart もいづれも地図のことをいいますが、chart は特に海図や航空図の場合に使われることが多いようです。

海の地図のうち、基本的な情報を平均的に記載した「一般図」としては、海の基本図や沿岸海域地形図があります。一方、特定の主題に重点をおいて描き表した「主題図」としては、航海用海図、潮流図、沿岸海域土地条件図、海洋地質図などがあります。

海上保安庁刊行の海の地図
航海用海図 (nautical chart)
船舶の安全航海に必要なさまざまな情報(水深、浅瀬、灯台等の航路標識、タワーなどの陸上物標等)を記載した地図です。
近海を航行するときに使用するため、船位が陸地の目標物により、決定できるように示した図です。縮尺は、30万分の1〜100万分の1。

海岸図
沿岸域を航行するときに使用するため、海岸付近の地形、水深、目標物など詳しく示した図です。縮尺は、5万分の1〜30万分の1。

港泊図
港湾に入港、出港、停泊するときに使用するため、港湾の水深、地形、施設などの状況を詳しく示した図です。縮尺は、3千分の1〜5万分の1。

特殊図 (miscellaneous chart)
(航海用海図以外の)航海の際に参考にする地図で、潮流図、測地系変換図、大圏図などがあります。

海の基本図 (basic map of the sea)
海洋開発等の基礎となる情報を表示した地図で、海底の地形を等深線で表した海底地形図、海底下の地質構造を表した海底地質構造図のほか、地磁気異常図、重力異常図などがあります。


海上保安庁刊行の海の地図類は、各地の水路図誌販売所で購入することができます。

国土地理院刊行の海の地図
沿岸海域地形図 (topographic map of coastal area)
水深おおむね50mまでの海域の海洋空間の利用、海底資源の開発、沿岸漁業振興等のさまざまな沿岸海域の開発利用、管理、保全、防災などの諸計画の基礎資料として利用されることを目的として作成された地図です。海上保安庁海洋情報部刊行の航海用海図や海の基本図とは異なり、陸・海の地形を同一基準(東京湾平均海面)とする等高線・等深線で表示しています。

沿岸海域土地条件図 (land condition map of coastal area)
沿岸部の陸部及び海部の土地条件を示す地図で、陸・海部の地形分類、底質、海底における音響支持層、沖積層基底までの厚さ、水深、各種施設などが記載されています。

地質調査総合センター(旧地質調査所)刊行の海の地図
海洋地質図 (marine geology map)
日本周辺の海洋地質データの整備を目的として整備されている地図で、縮尺1/20万〜1/200万の海底地質図、表層底質図、表層堆積図、フリー・エア重力異常図、マンガン団塊分布図がある。

環境庁刊行の海の地図
サンゴ礁分布図
日本周辺のサンゴ礁の保全とモニタリングを目的として整備されている地図で、南西諸島小宝島以南のサンゴ礁の礁池・礁縁におけるサンゴの被度・底質・底生生物などの分布状況を縮尺1/10万の地図4図にまとめたものです。(この地図の販売は(財)海中公園センターで扱っています。)

航海用海図

航海用海図はその名のとおり、船舶が航海をするときに使用する海図で、海岸線、低潮線、水深、底質(泥、砂、岩など)、航路標識(灯台、ブイなど)、陸上の著目標(タワー、煙突、橋など)、コンパス図、領海の基線・限界線等が記載されています。
航海用海図の水深値は、船舶の安全のために、海面がこれ以上下がらない面(基本水準面)からの深さで表示されます。 海岸線は、海面がもっとも上った時の陸と海の境界線で、低潮線は、海面がもっとも上った時の陸と海の境界線です。低潮線は領海の幅を測定する際の「通常の基線」にもなります。

航海用海図は、通常、メルカトル図法で作成されます。メルカトル図法は正角円筒図法とも呼ばれるとおり、海図上の出発地点から目的地点までを直線で結んだときに読みとれる経線との交角がそのまま船の針路の方位角として使えます。このため、メルカトル図法は航海者にとって非常に便利な投影法なのです。

海と陸の状況は日時とともに少しずつ変わっていきます。例えば、新しく橋や灯台ができたり、防波堤が沖合まで延長されたり、魚礁が設置されたり様々な変化が生じます。このような場合、海図の内容もそのように修正する必要があります。このために、毎週発行される小冊子の水路通報には、海図の記載内容の修正情報が文章または補正図として載せられます。航海用海図の使用者はこれらの情報をもとに海図を常に最新の状態に維持して使用しています。また最近は、インターネットのホームページにおいても水路通報が提供されています。

我が国の航海用海図は、これまで「日本測地系」に基づく経緯度グリッドを使用して作成されていましたが、2002年4月から、世界測地系の一つでありGPSの測地系でもあるWGS-84に基づく経緯度グリッドを使用した世界測地系海図になりました。海図番号の頭にWが付いています。

航海用海図の中には国際水路機関(IHO)の"国際海図仕様"に則って作製された国際海図(INT chart)もあります。国際海図は各担当国が分担刊行しているもので、縮尺1/1000万シリーズと1/350万シリーズの小縮尺海図シリーズと、より大縮尺で沿岸航行・国際貿易港への入出港に適した中・大縮尺シリーズがあります。国際海図は発行国で付与した海図番号と世界共通の国際番号(マゼンタ:紫色)が印刷されています。我が国は、日本近海の国際海図の作製を担当しています。


・総図(General Chart)
きわめて広大な海域を収めたもので、1/400万よりも小縮尺のものをいいます。
本海図は長途の航海に使用され、主として航海計画立案用に用いられます。
・航洋図(Sailing Chart)
長途の航海に用いられ、沖合の水深、主要灯台の位置等が図示してあり、縮尺1/100万〜1/400万分のものをいいます。
日本近海は1/120万、1/250万で包含しています。
・航海図(General Chart of Coast)
陸地を視界に保って航行する場合に使用され、船位は陸上物標により決定できるように表現されている。
縮尺は1/30万〜1/100万です。日本領土沿岸は、縮尺1/50万の図でカバーされています。
・海岸図(Coast Chart)
沿岸航海に使用するもので、その沿岸の地形が細部にわたって詳しく描かれてあり、縮尺は1/5万〜1/30万の図です。
日本沿岸は、ほとんど1/20万または1/25万の図でカバーされています。
・港泊図(Harbour Plan)
縮尺は1/5万より大縮尺で、港湾、泊地、錨地、漁港、水道そして瀬戸のような小区域を詳細に描いた海図です。


その他、通常の海図のほかには以下のようなロラン海図及び漁業用海図があります。

1) ロラン海図はロランC受信機で船の位置を測りながら航海する場合につかわれるもので、ロランC信号の到着時間差曲線(位置の線)が加刷された海図です。海図番号の頭にLCが付いています。

2) 漁業用海図は、1999年に締結された新しい「日韓漁業協定」及び2000年に締結された「日中漁業協定」の暫定水域の境界線等を加刷したもので、日韓・日中の漁業者に便利な海図です。海図番号の頭にFが付いています。

従来の紙の航海用海図に加えて、近年はディスプレイ上にこれらの情報を表示させることのできる電子海図表示装置(ECDIS)も使用されるようになってきました。この電子海図表示装置に航海用電子海図(ENC)とよばれる海図データを読み込ませ、更に、GPSなどの船位測定装置からの位置情報を付け加えることにより、常に自船の位置を中心とした海図情報がディスプレイに表示できます。航海用電子海図の内容を最新の情報に維持するために電子水路通報も刊行されています。


特殊図

特殊図

海図の一種としての特殊図は水路特殊図ともいい、航海の「参考用」に使われる地図です。

現在海上保安庁から刊行されている特殊図には、大圏航法図、パイロットチャート、海流図、潮流図、位置記入用図、漁具定置箇所一覧図、磁気図、海図図式、天測位置決定用図、測地系変換図、演習区域一覧図、ろかい船等灯火表示海域一覧図などがあります。それぞれの特殊図の概要は次の通りです。

大圏航法図(Gnomonic Chart for Facilitating Great Circle Sailing)
大圏航路(地球上の2地点間の最短航路)を求めるための地図。心射図法(大圏図法)で描かれている。
この図上で求めた位置を海図上に転記することにより、2地点間の航路上の針路が求められ、次の3図を刊行しています。
第6006号 北太平洋大圏航法図
第6008号 インド洋大圏航法図
第6013号 南太平洋大圏航法図

パイロットチャート
安全な航海に必要な気象・海象情報を網羅した地図で、風・波浪・海流・海氷・等温線・台風の経路・主要港間の大圏航路等が掲載されている。

海流図(Current Chart)
海流の統計的な状況を月別に表示した地図で、海流の流向・速さ・安定度・表面等温線・海氷の限界線等が描かれている。

潮流図(TidalStream Chart)
潮流・潮汐曲線及び潮流の春秋大潮期における平均の流向・流速を時刻別に表示した図集である。
東京湾、大阪湾をはじめ潮流の激しい海峡・瀬戸・水道・灘などの主要海域について13版を刊行しています。
潮流の卓越する海域ごとに、その区域の潮流の状況を矢符で表示した地図。転流時または高・低潮時をもとにして1時間ごとの流向・流速が表示されており、潮汐表と併用して使用される。

位置記入用図
緯線および経線とコンパス図を記載した地図。洋上で自船の位置を求めたり・記入するために使用される。

漁具定置箇所一覧図
沿岸に設置された定置網(定置漁業)、養殖場(区画漁業)および「つきいそ」(共同漁業の一種)の漁具の設置許可区域と時期を表示した地図。

磁気図
地磁気の成分を表示した地図で、磁針編差図、伏角図、全磁力図などがある。

海図図式
航海用海図に使用される記号、略語等を網羅したもの。国際水路機関の技術決議の勧告内容に則った形で編集されている。

天測位置決定用図
船舶が大洋において天測(天体観測)によって自船の位置を求めるときに使用される地図。任意の地点におけるメルカトル図法の経緯度線を容易に作図できる。

測地系変換図
GPS受信機等によって得られる世界測地系に基づいた経緯度値を日本測地系に基づいた経緯度値に変換する量を表示した地図。

演習区域一覧図
自衛隊や米軍による演習区域、時期、演習内容等を表示した地図。

ろかい船等灯火表示海域一覧図
帆船やろかい船が夜間に灯火を表示する義務のある海域を表示したもので、海上交通安全法の適用海域全域(東京湾、伊勢湾および瀬戸内海の一部)である。

海の基本図

海の基本図は、航海以外の海洋における様々な活動(海洋開発、海洋環境保全など)に必要な情報を盛り込んだ地図です。
海上保安庁から刊行されているものでは、沿岸の海の基本図、大陸棚の海の基本図、大洋の海の基本図、大洋水深図、その他の海底地形図があります。

沿岸の海の基本図は海底地形図と海底地質構造図とがあって、縮尺は1/5万が中心になっています。(ごく一部に、縮尺1/1万、1/2万の海底地形図もあります。)海底地形図は海面がこれ以上下がらない面(基本水準面)からの深さを表す等深線で海底地形を表現しています。この点は航海用海図と同じですが、国土地理院から刊行されている沿岸海域地形図などの等深線が東京湾平均海面からの深さで表示されているのとは大きく異なる点です。地質構造図は音波探査によって把握された海底下の地質と地質構造を記載しています。沿岸の海の基本図はランベルト正角円錐図法によって作られています。

大陸棚の海の基本図は縮尺が1/20万、1/50万及び1/100万のものがあります。縮尺 1/20万の大陸棚の海の基本図は海底地形図、海底地質構造図、フリーエア重力異常図、地磁気全磁力図の4種類の図で構成されています。縮尺 1/50万の大陸棚の海の基本図は海底地形図と、海底地質構造・地磁気全磁力・重力異常を一枚の地図上に表現した図の2種類からなっています。これらの1/20万及び1/50万の基本図の投影には、ランベルト正角円錐図法が使われています。1/100万の大陸棚の海の基本図は、海底地形図、海底地質構造図、地磁気異常図、重力異常図の4種類の図で構成されており、地図投影にはメルカトル図法が使われています。

大洋の海の基本図は、日本近海の小縮尺(縮尺1/300万)の海底地形図と地磁気異常図、重力異常図のシリーズですが、現在、刊行されているのは 6図のみです。

大洋水深図は、国際水路機関の加盟国によって編集された大洋水深総図(GEBCO)の原図(縮尺1/100万)を基として刊行されている海底地形図です。現在は、1/100万の大陸棚の海の基本図の整備に伴って、少しずつ廃版されつつあります。

その他の海底地形図として、縮尺1/800万の浮き彫り式の海底地形図が刊行されています。

航空図(Aeronautical Chart)

海上保安庁では国際民間航空機関(International Civil Aviation Organization: ICAO)の基準に基づいた「1/100万国際航空図」及びICAO基準に準じた「1/100万国内航空図」、「1/50万国内航空図」を刊行しています。
航空図には、設定された航空路、航空施設、航空目標および航法上必要な諸事項が記載されています。

電子海図

従来の航海用海図をコンピュータによって表示するためにデジタル化された海図です。
デジタル化のフォーマットは、国際水路機関 (International Hydrographic Organization:IHO)によって標準化され、そのフォーマット基準が定められています。
デジタル化の方法には海図を画像として作成する「ラスター方式」と、海図の座標(緯度、経度)を数値化して作成する「ベクター方式」があります。
ベクター方式は「航海用電子海図(Electronic Navigational Chart:ENC)」と呼ばれ、日本ではベクター方式によって作成しています。
一方ラスター方式の海図は、「ラスター航海用電子海図(Raster Navigational Charts: RNC)」と呼ばれ、英国、米国等から提供されています。

その他の出版物

災害救助活動用の地図 : 地震等の災害時の救助作業に必要な情報を載せた地図で、次のものがあります。

沿岸防災情報図
地震や津波などの災害が発生した場合に海上からの救難・救助活動を迅速かつ適切に行うために必要な情報を網羅した地図です。この地図は市販されておらず、関連地域の防災関係機関に配付されています。

水路書誌 : 航海用の情報を載せた書籍で、現在、以下のような物が刊行されています。

水路誌
航路、港湾、目標、気象、海象などを文章、図表、写真などで詳しく記述してある海の案内書。
海流や潮流などの海洋の諸現象、航路の状況、沿岸および港の地形、施設、法規などを詳しく記述したもので、航海用海図と併用して使用される書籍である。日本とその周辺海域について記載した国内水路誌と太平洋、インド洋等について記載した国外の水路誌がある。なお、2000年から英語版の刊行が開始された。

灯台表
灯台、ブイ、ロラン局、DGPS局等の要目(名称、位置、灯りの高さ・色・発光間隔などの灯質)を収録した書籍である。

潮汐表
主な港の毎日の高・低潮の時刻とその時の潮高および主要な瀬戸・狭水道の毎日の転流時刻・流速の最強時刻とその時の流速の予報値が掲載されている書籍。

天測暦
大洋における船舶の位置決定に必要な諸天体の位置、港別の日出没時刻、月出没時刻等が掲載されている天文航法用の書籍。

天測略暦
天測による位置決定が容易にできるよう必要な天体の位置等が簡略化して掲載されている書籍。

天体位置表
精密な天文観測作業に必要な天体の位置等の値を高精度で算出した暦であり、天測暦・天測略暦の記載内容の基本となる書籍。

航路誌
船舶が航海する場合の出発地から目的地までの標準的な航路や経験によって選定された航路を記載するとともに、気象・海象・針路法・目標・障害物等を記載した書籍

距離表
特定の2地点(港)間の海上距離が掲載されている書籍。接続地点が多数設けられていて、任意の2地点(港)間の海上距離も容易に計算することができる。

水路図誌目録
海上保安庁が刊行している航海用海図・特殊図・海の基本図・水路誌・灯台表等の全"水路図誌"のリストを掲載した書籍である。更に、航空図、(財)日本水路協会発行の水路参考図誌、水路図誌販売所の住所なども掲載されている。なお、1999年からは英語版も刊行されている。


水路参考図誌 : (財)日本水路協会が発行している航海の参考になる印刷物です。毎年1回最新維持される航海用電子参考図を除いて、最新維持はされません。

ヨットモータボート用参考図
いわゆるヨッティングチャートと呼ばれているもので、ヨットやモーターボートなどの小型の船上でも使いやすいように用紙はサイズを通常の海図の1/4(50cm×35cm)にするとともに耐水加工がなされている航海参考図である。縮尺は1/3万〜1/50万までさまざまで、浅所、5m・10m・20m等深線、主な目標、航路標識、対景図などが掲載されている。

プレジャーボート・小型船用港湾案内
小型船とプレジャーボートを対象とするマリーナやヨットハーバーについて目標、針路、障害物、浅所、5m・10m・20m等深線などをわかりやすく表示した地図を集めた冊子。

海上交通情報図
海上交通のふくそうする海域における船舶の運航に必要な情報を周知するために海上交通安全法等の関係法令、行政指導、その他の情報を掲載した地図。東京湾、伊勢湾、大阪湾、関門海峡等の海域について刊行されている。この内容を英語表記にした英文の Maritime Traffic Information Chart も発行されている。

航海用電子参考図(ERC:Electronic Reference Chart)
航海に必要な主な海図情報をコンパクトにICメモリーカードに収録したもの。専用の表示装置とGPS等の測位装置を組み合わせることによって自船の位置と主な海図情報をディスプレイ上に表示することができる。航海用海図または航海用電子海図の補助として使用される。

PC用航海参考図(PEC)
沿岸海域におけるプレジャーボート等の航海参考用の海図情報とWindows用の表示ソフトをCD-ROMに収録したもの。東京湾、伊勢湾、瀬戸内海について発行されている。

航海用電子海図
航海用電子海図とは、国際的な規則に従って紙の海図に記載された情報を数値化して編集し、CD-ROMに納めたものです。航海用電子海図は世界各国から発行される航海用電子海図とも互換性があります。この航海用電子海図は、船に装備された「電子海図表示システム」により、GPSなどの位置情報やレーダー映像と海図情報を重ね合わせて表示することもできます。これにより、自分の船の位置や他の船の動きを常に確認することができます。また、自分の船が危険な海域に進入しようとしたり、進路上に障害物がある場合は警報を発するなどの危険を避ける装置、必要な情報の選択や表示する画面の拡大、縮小及びスクロールなどができる機能をもっています。


海図の最新維持

海図の内容は船舶の安全確保のために常に最新の状態に維持されています。
海図の最新情報は、毎週発行される水路通報により利用者に提供されています。
水路通報に添付される海図の一部分を補正図といいます。
補正図は利用者が対応する海図に張り込んで海図を最新に維持するためのものです。
また、海上保安庁は、定期的に海図を最新の内容に維持して改版を行っています。

海図の歴史

人間が航海をするようになったのは、はるか紀元前の時代からだとされていますが、海図といって良いような内容を持った地図が出現したのは、中国で発明されたとされる羅針盤が使われるようになった13世紀ころからです。
このころから、ヨーロッパの港湾誌(ポルトラノ)の付図として航海用の地図が添付されるようになりました。このポルトラノ型海図ともよばれる地図には水深は記入されておらず、海岸線・沿岸地名・32方位の線が多数記入されています。
海図に水深が記載されるようになったのはマゼランの世界一周を始めとする「大航海時代」が始まる16世紀頃からです。1504年に発行されたポルトガルのラ・コーサ作製の海図には水深が記入されていたそうです。
そして海図が急速に進歩したのは、1569年にオランダのメルカトルが航海での使用に便利な正角円筒図法(メルカトル図法)による世界図を作ってからだといわれています。

日本近海の海図で水深が記入されるようになったのは、慶安3年(1650年)に当時唯一日本と交易が認められていたオランダで発行されたシェンク(Sahenk)作製の海図だとされています。この海図には、伊豆諸島から本州東方、北海道から樺太東方にかけて一列に約50点の水深が記入されています。

フランスは1720年に世界で最も早く水路部を設置し、現在のような航海用海図を計画的に整備しはじめました。その後、デンマークが1784年に、英国が1795年に、スペインが1800年に、ポルトガルが1849年それぞれ水路部を設立していきました。日本が水路部を設立したのは1871年ですから、世界的に見るとかなり遅い方かもしれません。オランダでは1874年に水路部が発足しました。

1921年には、各国が作製している海図等の表現方法を改良・統一し、全世界の航海の安全を促進することを目的として、国際水路機関(IHO)が設立されました。現在IHOには63ヶ国が加盟しており、水路図誌や水路測量に関する多様な活動が行われています。

1995年に日本水路部は、世界で初めて、IHOの定めた国際基準(DX-90)に基づいた航海用電子海図(ENC:Electronic Navigational Chart)をCD-ROMの形で発行しました。そして1998年からは同じ基準による電子水路通報も発行しています。その後、シンガポールも国際基準に基づいた航海用電子海図を発行しており、近い内にさらに多数の国から航海用電子海図が発行される予定になっています。(すでに英国や米国でも電子海図を多数発行していますが、これらはIHOの定めた国際規格に基づいたものではありません。)


国際水路機関(IHO)

国際水路機関(IHO:International Hydrographic Organization)は、「各国の海図等の水路図誌を改良することによって、全世界の航海の安全を促進すること」を目的として、1921年に設立されました。そして1967年には、"国際水路機関条約"が採択されて、政府間の条約機関として明確に位置づけられました。国際水路機関の事務局は地中海に面したモナコ公国にあり、1999年現在、63ヶ国が正式な加盟国として登録されています。
5年に一回、加盟国の代表によって構成される"国際水路会議"が開催され、水路図誌の改良に関するさまざまな意見・情報の交換と決議の採択がおこなわれます。また、専門家からなる各種委員会が組織されており、海図の編集に関する仕様、電子海図の技術的な仕様、国際海図に関する仕様等を採択して、これらの国際的な統一を図っています。また、毎月1回International Hydrographic Bulletin(国際水路要報)を発行して水路図誌および水路測量に関する各国のニュースや国際的な動きを速報しています。さらに、毎年2回International Hydrographic Review(国際水路評論)を発行し、水路図誌および水路測量に関する各種の論文を紹介しています。

国際水路機関が運営している多数の委員会の中には地域委員会も組織されており、日本の水路部は、東アジア水路委員会(EAHC:East Asia Hydrographic Commission) (参加国:中国、インドネシア、日本、韓国、マレイシア、フィリピン、シンガポール及びタイの8ヶ国)の常設事務局を担当するとともに、東アジア域内の水路図誌と水路測量に関するニュースを掲載した"EAHCニュースレター"を毎年2回発行しています。

ユネスコ・政府間海洋学委員会(IOC )
ユネスコ・政府間海洋学委員会(UNESCO/IOC:Intergovernmental Oceanographic Commission)は、「加盟国の共同活動を通じて海洋の性質および資源に関する知識を増進するために科学的調査を促進すること」を目的として、1960年に設置されました。
IOCが推進している主なプロエクトとしては、世界海洋データセンターや各国の海洋データセンターを通して行われている海洋データの国際的な交換システム(IODEシステム)や、西太平洋海域の共同海洋調査(WESTPAC)等があります。また、IHOとの共同プロジェクトである大洋水深総図(GEBCO)も推進しています。

大洋水深総図(GEBCO)
上記のIHOとIOCの共同プロジェクトである大洋水深総図(GEBCO)は、ゲブコまたはジェブコと呼ばれており、全世界を縮尺1/1000万の海底地形図18枚で整備しているものです。
GEBCOの歴史は古く、その第1版は1903年に完成しています。現在は、1983年に完成した第5版が最新のものです。GEBCO第5版では海底地形が50m、100m、200m、500m、1000m、1000m以深は500m毎の等深線で表現されており、世界規模の海底地形図としては最も詳しいものといわれています。
1994年からは、英国海洋データセンター(BODC)からこれらの等深線のディジタルデータを収録した「GEBCOディジタルアトラス(GDA)」がCD-ROMの形で発行され、現在は、その第2版に相当するGEBCO-97が発行されています。

外国の海図
英国の海図
英国は、約200年前の1795年に水路部を設立しました。現在、全世界をカバーする約3,300版の航海用海図を発行しており、一機関の海図発行版数としては世界最多を誇っています。また、約50図の歴史的な古海図をAdmiralty Collectionとして頒布しています。


米国の海図
米国では、現在2つの海図作製機関が海域を分担して海図を発行しています。
海洋大気庁(NOAA)の海洋業務局(NOS)に属する沿岸測量部(OCS)はそのルートを1807年遡る海図作製機関で、米国の管轄海域(五大湖と航海可能な河川を含む)の航海用海図約980版を発行しています。
一方、国防省の画像地図庁(NIMA・・・1996年以前は国防地図庁(DMA))はそのルートを1830年遡る海図作製機関で、米国の管轄海域以外の全世界の海図約3,600版を発行しています。(なお、DMAはGPSで使用されている世界測地系(WGS-84)を維持していた機関でもあります。)

カナダの海図
カナダ水路部は1904年に設立されましたが、五大湖の水路測量はこれより早い1883年に初めてカナダ独自で実施しました。それ以前は英国海軍(British Admiralty)が水路測量と海図作製を行っていました。現在、約1,000版の海図が発行されています。

フランスの海図
フランスは、約280年前の1720年に世界で最も早く水路部を設立し、海図を発行しはじめた国です。現在、約1,300版の航海用海図を刊行しています。

ドイツの海図
ドイツ水路部は約140年前の1861年に設立されました。現在約700版の航海用海図を発行しています。

オーストラリアの海図
オーストラリア水路部は約80年前の1920年に設立されました。現在約370版の航海用海図を発行しています。(現在、全体で724版の航海用海図の整備計画を立てており、毎年着々と実行中です。)サンゴ礁等の多い浅海域では、航空機を使用したレーザー測深を活用している点に特徴があります。

ロシアの海図
ロシア航海海洋部は、約130年前の1827年に海軍水路隊として設立されました。ロシアの海図カタログには全世界で約6,000版の航海用海図が掲載されています。

中国の海図
中国では、航海用海図は交通部の海上安全監督局と海軍司令部の航海保証部の2機関から発行されていますが、国際水路機関への対応機関は海上安全監督局になっています。現在のような航海用海図の作製が始まったのは1949年に中華人民共和国なってからのようです。現在、航海用海図は約240版発行されています。

韓国の海図
韓国では、航海用海図は海洋水産省の国立海洋調査院で発行していますが、その前身である水路局は1949年に海軍の一組織として発足しました。航海用海図は約330版発行されており、2000年7月からは国際仕様に則った航海用電子海図も発行しています。

日本の海図(参考)
日本水路部は約130年前の1871年に設立されました。現在約880版の航海用海図(内、航海用電子海図は12版)を発行しています。また、航海用海図ではありませんが、海の基本図を約860版発行しています。

海図の使い方
水路部の歴史と業務
マゼランとビクトリア号
GPS


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新規作成日:2002年5月14日/最終更新日:2004年12月5日