大砲のいろいろ
- 加農砲 (カノン砲)[Cannon][gun]
加農砲は、同じ砲口径の榴弾砲に比較して、砲口径に対する砲身長が長く、高初速、長射程である。
弾道は低伸弾道で命中精度も優れるため、移動標的や点目標への直接射撃に適している。
高初速から砲弾の運動エネルギーも大きく、弾種にもよるが貫徹能力にも優れるため重コンクリート陣地や装甲目標への攻撃にも適している。
一方、高初速を得るために砲弾の加速度が大きく、砲弾自体が破壊されないために弾殻が厚く、結果として炸薬の量が少なくなり、爆発による有効範囲が小さい傾向がある。
また、射撃時の砲腔内圧が高く、砲身の肉厚を厚くする必要がある。反動も大きいため反動を吸収させるための機構も大掛かりなものとなる。
これらの理由から、重量が重く技術的にも製造が難しく高価である。
一般的に加農砲とは砲身長が30口径[calibers]以上の砲を指している。
ただし加農砲の中でも砲身の短い砲(35口径[calibers]未満)を加農榴弾砲[gun-howitzer]と称することがある。日本での呼称は、加農砲またはカノン砲であるが、海外では、同じものにgunを使うことが一般的である。
点目標の射撃に向いている。
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- 榴弾砲 [howitzer]
榴散弾を使用して面を制圧することから、この名がつけられている。
榴弾砲は同じ砲口直径の加農砲に比較して、砲口直径に対する砲身長が短く、低初速、短射程である。
弾道は曲射弾道で、命中精度は劣る。低初速から砲弾の加速度が小さく、弾殻を薄くできるため、炸薬の量が多く、爆発による有効範囲が大きい。一方、砲弾の運動エネルギーは小さく、貫徹能力は低い。
一方、射撃時の砲腔内圧が低く、砲身の肉厚を薄くでき、反動も小さいため、反動を吸収させるための機構も加農砲と比較すると小規模で済む。
これらの理由から、重量が軽く、技術的にも製造が容易で、安価である。
運用は砲兵部隊が行うのが一般的であるが、歩兵部隊が直接運用する榴弾砲もあり、これを歩兵砲と呼ぶ場合がある。
一般的に榴弾砲とは砲身長が30口径[calibers]未満の砲を指している。
ただし、榴弾砲の中でも砲身の長い砲を(25口径[calibers]以上)を加農榴弾砲[gun-howitzer]と称する場合がある。
一方、近年では、榴弾砲の長口径[calibers]化が進んでおり、加農砲との区別が不明瞭となっている。
榴弾砲の中でも30口径[calibers]以上のものもあり、事実上、砲兵用の砲を表す言葉と考えた方が良い。日本での呼称は、榴弾砲であるが、海外では、同じものにhowitzerを使うことが一般的である。
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- 迫撃砲 [mortar]
迫撃砲は同じ砲口直径の榴弾砲に比較して、低初速、短射程かつ命中精度は低い。
弾道はさらに曲射弾道で、目標には高角度で命中することになる。
このため、山岳地帯や市街地などの起伏に富んだ地形で、有効な兵器である。
一方、炸薬量は充分に大きく、有効範囲が広いため、榴弾砲と同じく、面制圧に適している。
また、射撃時の砲腔内圧はさらに低く、砲身の肉厚を薄くでき、反動も小さいため、反動を吸収させるための機構も非常に単純である。これらの理由から、重量が軽く、技術的にも製造が容易で、さらに安価である。
軽量の割に破壊力が大きいため、歩兵部隊の直協火力として運用されることが多い。
砲腔にライフリングがないものが一般的であるが、ライフリングがあるものも存在する。
ライフリングの無いものは、弾道を安定させるために砲弾に羽根がついている。
砲弾の装填は、砲口から装填するものが一般的だが、通常の砲と同じように後方から装填するタイプもある。また、基本的に直接射撃は行わないものが一般的であるが、近年では直接射撃が可能なタイプも存在する。
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- 臼砲 [mortar]
臼砲とは砲口直径に対し砲身長が非常に短い上、砲身の肉厚が厚く、外見がまるで臼「うす」のように見えることから呼ばれた旧式の砲である。
臼砲は日本独特の呼び方で、海外では、迫撃砲と区別無く[mortar]と呼ぶのが一般的である。
カノン砲や榴弾砲に較べ大口径なものが作られ、破壊力が大きかったが、短射程で命中精度が悪い上、大重量のため、機動戦には対応できず、第2次世界対戦以降、あまり使用されなくなった。
第1次世界大戦では塹壕戦で、第2次世界大戦では主に要塞攻撃などで使用され、トーチカや深い塹壕などに大威力の砲弾で攻撃した。
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- 無反動砲 [recoilless rifle]
無反動砲とは、砲撃の反動を、後方へ同じ運動量を放出することで、相殺するメカニズムを持った砲である。
近年では、運動量の放出方法には、発射薬の燃焼ガスをノズルによって後方に噴射させるものが一般的だが、出現当初のものは、油脂と鉛の散弾で作られた平衡弾を後方に打ち出すことで行っていた。
この平衡弾は、後方へ飛出し壁などに衝突するとばらばらに砕け散るため、一定の安全地帯を確保しておけば被害は無かった。
無反動砲は、同砲口直径の砲と比較して低初速のため砲腔内圧が低く、砲身の肉厚も薄いため非常に軽量である。反動が無いため軽量のものは歩兵が肩に担いで射撃可能である。
軽量の割に威力も充分に大きく、歩兵の携帯兵器または、直協火力として運用されることが多い。初速が遅いことから、徹甲弾での貫徹能力には全く期待できないが、成形炸薬弾(HEAT弾)の使用によって対装甲戦闘にも使用可能となっている。
なお、近年では、歩兵携帯型の無反動砲に、ロケットアシストと呼ばれる機構持ったものが存在する。
ロケットアシストとは、弾頭が打ち出されたあとに、弾頭自身についたロケットモーターが点火され加速する機構である。射程の増大、命中までの時間の短縮が期待できる。
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- ロケット砲 噴進砲 [rocket launcher]
砲とは定義上、装薬が燃焼する薬室が弾頭側では無く砲側にあるが、ロケット砲は薬室が弾頭側にあり、弾頭は燃焼ガスを後方に吹きだしてその反動で飛んでいく機構である。
このことから定義上は砲ではない。
この機構から、砲身は必ず必要なわけではないが、目標への照準や発射時の安定のために砲身をもったものがあり、これがロケット砲と呼ばれる所以である。
この砲身は、通常の砲とは異なり発射ガスの高圧に耐える必要が無い(ガスで燃えない必要はある)ため非常に軽くできる。なお、砲身の無いものはロケット弾と呼ばれるのが一般的である。
実際のところ、ロケット砲という言葉は、日本だけでしか使われておらず、海外では、[rocket]あるいは[rocket launcher]と呼ばれている。
- 歩兵砲 [infantry gun]
連隊直轄の砲兵部隊が運用する砲のことで、連隊砲とも呼ばれる。
歩兵の直接支援を主目的とするため、一般的に軽量、小口径、低初速、短射程である。近年では、この用途には、迫撃砲が当てられることが一般的である。
- 野砲 [field howitzer]
師団直轄の砲兵部隊が運用する砲のことで、師団砲とも呼ばれる。
第二次世界大戦ごろの野砲は、直接戦闘に対応できるように、後述の重砲より、軽量、小口径であった。
また、運用国の軍事思想にもよるが、比較的初速が速い砲を採用している場合があり、対戦車戦闘で活躍することが多かった。
近年では、大口径化が進み、直接戦闘はほとんど不可能となっている。
また、野砲と重砲の境界があいまいになっている。
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- 重砲
軍および軍団直轄の砲兵部隊が運用する砲のことで、野砲に比較して、大重量かつ大口径である。
単なる大口径の高威力の榴弾砲から、より長射程を狙った加農重砲、大口径、短射程の臼砲まで、運用国の軍事思想によって、いろいろなタイプがある。
- 対戦車砲 [anti tank gun]
対戦車戦闘を目的とした砲で、貫徹能力を高くするために高初速であり、命中弾をいち早く与えるために、発射速度も早い。
また、被発見率を低下させる観点や、射撃の反動に対応するために、低姿勢である。近年では、この用途は、対戦車ミサイルにとって替わられている。
- 高射砲 高射機関砲 高角砲[anti aircraft gun]
対空射撃を目的とした砲で、高空を飛ぶ航空機を攻撃するために、高初速である。比較的小口径で、機関銃に見られるような全自動連続撃発機構が付いているものを、特に高射機関砲と呼ぶ。
第二次世界大戦では、対空攻撃の他、高初速であることから、対戦車攻撃でも活躍する砲もあった。
近年では、大口径の高射砲は、対空ミサイルにとって替わられ、比較的小口径の高射機関砲のみが残っている。
陸軍では高射砲と称するが、海軍では高角砲と呼ぶ。
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- 機関砲 [automatic gun] [machine gun]
機関銃に見られるような全自動連続撃発機構がついている砲のことで、比較的小口径である。
用途は多岐に渡り、あらゆる兵器に搭載される。
銃と砲の区別は、日本の場合、20mm以上を砲と呼ぶことが一般的である。
- 戦車砲 [tank gun]
戦車に搭載される砲で、貫徹能力を高くするために高初速であり、命中弾をいち早く与えるために、発射速度も早い。
第二次世界対戦では、歩兵の直接支援を主目的としている戦車砲もあった。
近年では、主要弾種である2弾種(装弾筒付翼安定徹甲弾[APFSDS:Armor Piercing Fin Stabilized Discarding Sabot]および翼安定対戦車榴弾[HEAT-FS:High Explosive Anti Tank - Fin Stabilized])がどちらも翼安定弾であるため、腔内が平滑な滑腔砲身が一般的となっている。
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- 艦載砲 [ship gun]
艦艇に搭載される砲で、一般的にはカノン砲である。
貫徹能力を高くするために高初速であり、命中弾をいち早く与えるために、発射速度も早い。
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- 要塞砲
城塞などに固定設置されるもの。
戦艦などから移設されたものもある。
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- 攻城砲
城塞攻撃、破壊用の砲。
砲の構造による分類
- 自動砲
弾の装填や、旋回俯仰機構、射撃指揮などが機械化自動化され、人力を介さない砲。
その程度により、半自動砲、完全自動砲などと言う場合もある。
砲の移動手段による分類
- 自走砲
陸上砲の場合で、移動手段に、砲自身に移動能力を持つもの。
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- 牽引砲
陸上砲の場合で、移動手段に、車両による牽引を行なうもの。
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砲身内の構造による分類
- 滑腔砲
砲腔内が平滑な砲身のこと。
- 旋条砲 ライフル
砲腔内に旋条砲(ライフル)が付されている砲身のこと。
命中精度が良い。
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装填方法による分類
- 前装砲
砲身の前方から、弾を装填する砲。
構造が簡単。
- 後装砲
砲身の後方から、弾を装填する砲。
構造が複雑。
現在の砲は、基本的に後装砲である。
弾道による分類
- 平射砲 曲射砲
加農砲、榴弾砲、迫撃砲、臼砲の順に、平射砲〜曲射砲 となる。
高射砲、高角砲は、高い角度で射撃することから、命中、爆発しない場合、曲射砲のような弾道となるが、射撃目標が異なるため、曲射砲には分類されない。
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これとは別に、砲戦距離によっても、弾道が異なり、近接戦では平射でも、遠距離においては大落角となる。
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製造法による分類
- 鋳造砲
- 削り出し砲
初期のものは砲身の前後から削り込み、砲尾を埋めなおす方法がとられた。
後に、技術が向上し、深く掘れるようになると、前方のみから削る方式となる。
材質による分類
- 青銅砲
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- 鋼製砲
- 木砲
鋳造砲に比べて、工程が簡単で急造できるため、田原坂の戦いあたりまで実戦で使用されていたらしい。
丸太を半分に割って、砲身部を削り、合わせて鉄線などで巻くという。
射程も短く、なんと言っても2,3回の射撃が寿命らしいのだが、軽く、急造できる点は魅力らしい。
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参考
⇒銃のいろいろ
⇒弾火薬のいろいろ
⇒ 帆船時代の艦載兵器
⇒ 対空戦
新規作成日:2003年7月8日/最終更新日:2006年11月29日