魔女の宅急便の部屋にいってない人は、まずそこにいって下さい。「心理療法」の「魔女の宅急便」でいけます。その後、ここで少しまた考えてから「催眠の部屋」へどうぞ。
「サイコ」という映画をご存知でしょうか。ヒッチコックの名作のひとつです。
サイコ(Psycho)とは、心理・精神の意味とともに、精神異常者という意味もあります。
この映画を取り上げるのは、日常生活の中でおこる、催眠状態について考えてみるのに役に立つと思うからです。「サイコ」の映画が催眠の説明にむいている、というのは他からの受け売りですが、解釈のしかたはもちろん私流です。
いろいろ探したのですが、いいのがみつからなくて、もしご存知でしたら教えて下さい。
最近のでは、「シックスセンス」のなかで、ブルース・ウィリスが少年の家に行って、話そうとしない少年に使ったやり方を覚えているでしょうか。あのやり方が、催眠誘導です。
誘導法は、いろいろあるのですが、映画にそって言うと、まず、自分のほうから近づいていかないで、少年との距離を少年に決めさせています。
これが受け入れさせるための準備ですね。まず、相手に同調(尊重といってもいい)する。次に、ゲームをしようとか言って、注意をひきつける。「君の心を読む」と言って、興味をそそり、さらに注意をひきつけています。
それから、「あたれば1歩近づき、外れたら1歩下がる」というルールを受け入れさせる。少年にも、少し譲歩させるわけです。ゲームを受け入れたら、ルールを受け入れさせるのは簡単です。
あとは、少年の様子、環境、言動から、まず間違いないことを言い当てていくわけです。あたるごとに少年は、ひきこまれていくし、物理的にも1歩1歩近づいていく。つまり誘導者の指示に従っていくことになります。
このあと、ブルースは失敗しますが、すでに少年は、ブルースを少し受け入れているのです。次のシーンでは、一緒に並んで歩きながら話しています。
この手のやり方は、子供には強力です。しかし、大人でもよくやられます。体験のある人もいるかもしれません。街頭の占いがそうです。なにかを少しずつ言い当てて、ひきこんでいきますね。「あなたの家のそばで、何か工事をやってますね。」とか、たいていやってますよ、特に東京なんかでは、でも、あたったと思う。そこでもうひき込まれているわけです。さらに、「胃腸が弱いでしょう。」姿形を見れば、大体わかりますよね。でも、また、あたったと思う、さらにひきこまれる。「あなたの家族か親戚、ひょっとすると誰か知り合いが、癌でなくなってますね。」そりゃそのくらいたどれば、1人くらいいるでしょう。このあたりで少し冒険する、占い師が冒険してあたれば、こっちは本当にひきこまれてしまいます。あたってる、そうだそのとうりだと思わされつづけ、かんじんの占いはなんの確証もない、ただの思いつきであっても、そうだ、あたってるとか思ってしまう。
自分で、自然にあたってるところを探して、自分でこじつけてしまうわけです。つまり、ここまでくると、スリッパを犬だといわれて、そうだ犬だ、と信じてしまいかねないわけです。
ただ、1つ言っておくと催眠にかかりやすい人というのは、単純なごまかされやすい人というより、知能指数が高く(学歴が高いというのではなく)集中力がありそれが持続する人です。理性で抵抗するのは難しいですね、嘘や不利益になることが入っているわけではないですからね。理性的で、論理的な人も入りやすい人です。
・ストーリー |
さて、以上の予備知識をもとにして、「サイコ」に取りかかりましょう。
制作=アルフレッド・ヒッチコック/原作(小説)=ロバート・ブロック/脚色=ジョゼフ・ステファー/撮影=ジョン・L・ラッセル/音楽=バーナード・ハーマン/編集=ジョージ・トマシーニ/美術=ジョゼフ・ハーレイ、ロバート・クラトウオーシー、ジョージ・ミロ/衣装=ヘレン・コルヴィグ/特撮監督=クラレンス・シャンバーニュ/タイトル・デザイン=ソウル・バス/108分/白黒/日本公開1960年
俳優 マリオン・クレイン=ジャネット・リー/ノーマン・ベイツ=アンソニー・パーキンズ/ライラ・クレイン=ヴェラ・マイルズ/サム・ルーミス=ジョン・ギャヴィン/中略/マリオンの同僚=パトリシア・ヒッチコック
最初に出てくる女性がマリオン・クレイン(ジャネット・リー)、男性がサム・ルーミス(ジョン・ギャヴィン)、社長がロウリー、客がキャシディという名前です。これに、同僚の女性という登場人物です。ちなみに、マリオンが事務所に駆け込んで来る時、ドアの向こうに見えているのが監督のアルフレッド・ヒッチコックです。
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カメラはアリゾナ州フェニックスの町並みをパンしていく。12月11日金曜日の文字が出て、午後2時43分の文字が出る。カメラは、1つの建物、その窓、ブラインドと写して、その隙間から部屋の中へ入っていく。
上半身裸の男(サム)が、ベッドの脇で体を拭いている。ベッドには下着姿の女(マリオン)が寝転んでそれを見ている。
PSYCHO | |
サム | 昼食は抜きかい |
マリオン | 早く会社に戻らなきゃ、社長がうるさいのよ |
サム | 今日は早退するって電話しろよ、金曜日だし暑いよ |
━━━━ | キスをする |
マリオン | で、何をするの?あなたを空港へ送るの? |
━━━━ | 抱き合う |
サム | ここでねばろうよ |
マリオン | チェックアウトは3時よ、こういうホテルは時間になるとがめついの こんな逢引はもう嫌!! |
サム | 夫婦者だって時にはくるそうだよ |
マリオン | 結婚すれば何でもできるわよ |
サム | 経験者みたいだね |
マリオン | これで最後よ、サム |
サム | 何が? |
マリオン | こういう場所で、こっそり会うのがよ 貴方の出張を待って、お昼休みにあわただしくなんて |
サム | やめてどうする?ラブレターを書くか? |
マリオン | もういかなきゃ |
━━━━ | マリオンはサムの手を振りほどいておきあがり、服を着る |
サム | 来週もくるよ |
マリオン | ダメよ |
サム | 会って食事をするだけさ、レストランで |
マリオン | じゃ、会って夕食を食べましょ、世間並みに・・・ 私の家の母の写真の前で、妹にステーキを焼かせてね |
サム | 終わったら妹さんを追い出して、写真は裏返しかい? |
━━━━ | 間がある |
サム | わかった |
━━━━ | サムは手を広げ、マリオンは振り返る |
サム | 君に会えるだけで満足だよ、マリオン、世間並みでいい |
マリオン | 嫌ないいかたね、誠意がないわ |
サム | いや、まじめだよ、それには忍耐と節度が必要で・・・ 正直言ってつらい、でも、君に会って触れるだけで満足さ 親父の残した借金を払うのでもう疲れ果てたよ その上、別れた女房の扶養料もだ |
マリオン | 私もよ、ホテル代を払ってるわ |
サム | 借金を返済して、扶養料も払う必要がなくなった時は・・・ |
マリオン | 私は、結婚もまだよ! |
サム | してみろよ、幻滅さ |
マリオン | 結婚しましょう! |
サム | 金物屋の倉庫で暮らすのか? 楽しい結婚生活をおくれるよ! 扶養料を送る時は、切手を貼らせてやるさ |
マリオン | それでもいいわ |
━━━━ | サムは離れる |
サム | こんな事やめて、いい相手を探せよ |
マリオン | 考慮中よ |
サム | よくそんな事言えるな |
マリオン | ごゆっくり |
サム | 一緒に出ようよ |
マリオン | そんな格好で出られるの? |
━━━━ | サムは下を見て、マリオンはドアから出ていく 場面は変わって、事務所の中から、ドアを開けて入ってくるマリオンを写す。 デスクにいる女性に |
マリオン | 社長は、まだ戻らない? |
同僚の女性 | お客と一緒なの、ハリス通りの物件を買う人よ |
━━━━ | マリオンは頭をおさえる |
同僚の女性 | 頭痛? |
マリオン | すぐ治るわ、治ったら嘘みたいに忘れちゃうのよ |
同僚の女性 | 薬あるの? 私、結婚式の日にもらった薬持ってるわ 鎮痛剤よ、初夜に飲めって |
マリオン | 電話は? |
同僚の女性 | 主人から私に、母から電話がきたって そうだ、妹さんからきたわ、ツーソンへいくって・・・ |
━━━━ | と 、言ってるところへ男が2人入ってくる 帽子をかぶった男(客のキャシディ) |
キャシディ | こりゃひどい、蒸し風呂だ、クーラーつけてもらうんだな 金は今日できたから |
━━━━ | もう一人の男(社長)、マリオンに |
社長 | キャシディさんの契約書のコピーを |
キャシディ | いよいよ明日だ(マリオンを見ながら)かわいいね いや、あんたじゃなくて娘の話、明日結婚して一人前に親元を離れる これが娘だ、見てくれ、18才なんだが幸せな子でな、不幸のかけらも知らんよ |
社長 | どうぞ、こっちは涼しいよ |
キャシディ | 不幸なんてもんは、金で追っ払っちまうのさ あんたは不幸かい? |
マリオン | まあまあですわ |
キャシディ | 結婚プレゼントに家を買うのさ、現金で4万ドルだ 幸せを買うんじゃなくて、不幸を追っ払うのさ これぐらいなくしてもこたえんね、数えな |
━━━━ | マリオンの机に、札束をドンと置く |
同僚の女性 | 驚いた! |
キャシディ | これぐらい、いつも持っとるさ |
社長 | 全額をキャッシュなんて珍しいですよ |
キャシディ | いいじゃないか、わしの金だ もう違うかな? |
社長 | 一応金庫に入れておいて、月曜の朝にでも・・・ |
キャシディ | それより、酒はどこなんだ?隠してあるんだろ? (口に手をやって)オ、ホホホ、ホホホ、わしはおしゃべりで失敗するんだ のどが乾いて死にそうだ |
━━━━ | 言いながら社長室へ、社長、マリオンに |
社長 | こんな大金はおいとけん、銀行に預けて、月曜日に小切手にしてもらおう |
━━━━ | マリオンうなずく、社長はキャシディと部屋に入る 同僚の女性がやってきて、札束を手に取る |
同僚の女性 | あなたに気があるのよ、独身だから |
━━━━ | マリオンは女性から金を取ってバッグに入れ、社長室のドアをノックする |
社長 | どうぞ |
━━━━ | マリオン部屋に入る |
マリオン | コピーです 頭痛がするので、早退を・・・ |
キャシディ | かまわんよ これから社長は、わしと飲みにいくんだ |
社長 | いいよ、具合でも・・・? |
マリオン | 頭痛です |
キャシディ | ラスベガスへ行けば治るさ、どうだね? |
マリオン | 寝てたほうがいいですわ |
━━━━ | マリオン、社長に会釈して戻る |
同僚の女性 | 薬を飲めばいいのに |
マリオン | 薬で不幸を追っ払える? これを銀行に預けて、かえって寝るわ |
━━━━ | マリオン、金の入ったハンドバッグを持って、ドアを出ていく |
マリオンの部屋、ベッドにさっきの金が乗っている。脇にスーツケースに詰まった服がある。マリオンは、服を着替えて、スーツケースに物を詰め、鏡を見て身支度をし、金を見て、ハンドバッグに財布を入れ、スーツケースを閉じ、金を見て、ベッドに座って、一呼吸して、金をハンドバッグに詰め込んで、コートを持って外へ出る。
次の場面では、マリオンは車を運転している。頭の中の声、
「マリオン、何しに来たんだ?」
「君に会えるのは、もちろんうれしいけど・・・」
信号待ちで、偶然、社長と会い微笑み返す。社長は首を傾げ、マリオンははっとする。
以下略
苦値人からの質問 |
■質問は、彼女(マリオン)は、何故お金を盗んだか?
お金が欲しかったから、なんで言わないでください。お金が欲しいのは、彼女だけでなく、私もそうです。でも、それだけで盗んだりしません。それに、彼女の場合、なんの計画もなく突然そうしてしまいます。そのへんの謎を解き明かしてみて下さい。
また、催眠のところでこれを取り上げたのには理由があります。つまり、いったいどこに催眠誘導や催眠状態があるのでしょうか。
興味を持ったら、そんな事を考えながら、映画を1度みて下さい。
注 意 |
■最後に、この映画の題名は「サイコ」、ようするに精神異常の人というわけですが、日本でも、事件が起きて犯人が精神病を患っていると、その事が報道されます。そのために、精神病=犯罪者のように取られてしまう所があって、これには注意が必要です。
たしかに、まわりを騒がせる言動をする事が多く目立つのですが、大きな犯罪を犯す人は少ないのです。なぜって、精神的に不安定で、まとまりのない状態なのに、ある意図を持って何かをするというのは出来ないですよね。
したがって、突発的になにかのはずみで、あるいは不安がつのってどうしていいかわからなくなった時に、故意ではなく事故のようなかたちで起こる事が多いものです。殺人や強盗など、正常といわれる人によることの方が断然多いのです。
正常な人が犯罪を犯す?・・・では、その人は本当は異常なのでは・・・。正常な人が異常なら、精神病の人が正常?・・・あるいはね。一般的に、人間は、異常だと思う行動を自分からなるべく遠ざけておきたいために、そういう行動を取る人を異常者として自分とは別世界に置きたいわけです。だから、異常者=犯罪者と思いたいわけです。だって、隣にいる正常な人が、急に犯罪者になってしまったら、あるいは正常だと思ってる自分が犯罪者になるかもしれないなんて、考えたくもないというわけです。異常者=犯罪者が落ち着けるわけです。
でも、かつて、私が目が悪い事を嘆いていたら、「この狭い都会で、目がいい方が異常だ。」となぐさめられました。だとしたら、「この暮らしにくい社会で、おかしくならないほうが異常だ」といえるのでしょうか。
ある精神病院で、一日中窓から棒にくくりつけた糸をたらしている患者がいた。そばを通りかかった医者が、それをみつけて聞いた。
「釣れるかね?」
すると患者は、振り向きもしないで答えた。
「ああ、今日はあんたで5人目だ。」