伊福部昭 米寿記念演奏会  新交響楽団

                               2002.5.19 紀尾井ホール


【曲目】
   ・伊福部昭/土俗的三連画(1937年)
   ・伊福部先生の米寿を祝う「四つの舞」(2002年)
    1.扇の舞 石井眞木
(舞:加藤みや子)
    2.魂殖ゆの舞 眞鍋理一郎
(指揮:眞鍋理一郎)
    3.皐月の舞 三木 稔
(指揮:榊原 徹)
    4.悠久の舞 今井重幸
(指揮:今井重幸)
   ・伊福部昭/ギリヤーク族の古き吟誦歌
(1946年)(ソプラノ:宇佐美瑠璃)
    [オーケストラ編曲1984年:芥川也寸志・松村禎三・黛敏郎・池野成]
   ・伊福部昭/シンフォニア・タプカーラ(1954年)(1979年改訂版)
   ・
伊福部昭/SF交響ファンタジー第1番より抜粋

    指揮:石井眞木


【感動編】
う〜〜ん、なんて言ったらいいんだろう。
伊福部氏のコンサートは、今まで見たライブとは明らかに異なっていた。
作曲した本人が演奏するのではない。伊福部氏は作曲をしたあとは、指揮者やオーケストラに演奏を委ねなければならない。
今見ている新交響楽団の人とは、何の面識もないし、指揮者の石井眞木氏の顔は、今日始めて拝見した。
純粋に音楽のみを味わう。私にとって、異次元世界だった。

。。。と、いけない。私のレヴューは、どうも前置きが長くなって困る。
率直に感想を述べると、感動したんだと思う。
思うというのは、体が感動した時のように反応したからだ。
シンフォニア・タプカーラの第3楽章、終盤のオーケストラがメインテーマを演奏している中に、攻撃的に力強くピッコロが割り入ってくる部分がある。オーケストラに真っ向からバトルを仕掛けているように。私はCDでもこの部分になると、“すごい!”とうなっていた。
コンサートでその部分に差し掛かったら、全身鳥肌が立ち、目がうるみ、ついには涙がほほをつたい落ちてしまった。
自分でも思いがけないことだった。“ああっ、これは素晴らしい”と思ったわけじゃないのに、ひとりでに涙がこぼれてしまったのだ。
これはどう解釈すればいいんだろう。

私は、クラシックは自分の守備範囲ではないと思っていた。今でもそう思っている。
今日伊福部氏のコンサートを見に行ったのは、リトちゃんがいいと勧めるので、そんなにいいのならこの目で見て確かめようと思ったからだ。音楽の感性が似ていると思っていたmassh2号さんが、伊福部氏の音楽をベタ誉めしたのもある。
もともとROCK好きな私にとってクラシックとは、中高年の人が聴く音楽だと思っていた。まだ私はそれを聴く年代ではない。その年代になるまでは、ずっとROCKを聴いていたいと思っていた。またずっとROCKを聴いていたいんだという意地もあったのかもしれない。
伊福部氏を聴きに行ったのは、まったくの軽い気持ちだった。まず聴いてみる!だった。

それが、体がこのように反応してしまったのだから、自分でもびっくりしている。
頭の中では、伊福部氏ではなく、クラシックに軽い否定があったのに、このようにいざ自分の目の前で壮大で大迫力の演奏を目の当たりにしたので、いくら頭で否定しても、体は素直に感動と反応してしまったのだろう。
今まで、いくら感動して目をうるませても、涙がほほをつたうことはなかった。
最大級に感動したとしか思えないのである。

<裏話>
リトちゃんは、コンサート後は、力が抜けて、へなへなと座り込み、立ち上がることができなかった。
「はぁ〜、もう思い残すことはない。死んでもいい。。」とさえ言った。私は、「それじゃ、死んでくれ〜。その分私が長生きするわぁっ!」と言っても、返す言葉がないほど完全燃焼していて、燃えカス状態だった。
それではと、「よぉ〜し、それじゃ私がケリを入れてあげよう。これで元気を出すんだぁ〜!」と言ってもダメ。目は宙を見つめ、まったく力が入らない。ぐったりしていた。隣にいた、リトちゃんのお知り合いが「おなかに一発入れてあげなよ。」と言うので、素直に従おうとさえ思っちゃいましたぁ。(^^)
彼にとっては、感動しすぎて、どうすることもできなくなったんでしょう!


【状況編】

コンサートの前に、ロビーを見回すと、木部さんを発見!!
「タプカーラの彼方へ」と「音楽家の誕生」を販売するテーブルを設け、ボイジャーの萩野氏が売るその横に立っていた。
「タプカーラの彼方へ」は、ものすごい人気だ。それを求める人の列のとだえることがなく、私が見ている前でみるみる在庫がなくなり、すぐに売り切ってしまった!
「音楽家の誕生」も売れ行きは良かった。私も1冊購入させてもらった。
リトちゃんは、いろんな人とお知り合いだった。いろんな人とごあいさつをしていた。でも木部さんはそれ以上にお知り合いが多かった!!さすがだぁ〜〜。私はそれをまぶしい思いで見ていた。
でも、ご紹介してもらうと、持ち前のずーずーしさでお話もさせてもらった。○氏、ありがとうございました。

コンサートが始まるので、席に着くと、両隣はオジさまならぬ、オジイさまだった。
この日は、まさに老男若女を地でいくような客層だった。普段ライブではお目にかからない高年のマダムまで、実にさまざまだったのだぁ。

最初の曲は、土俗的三連画だった。これは、各パートがひとりずつという小編成だった。指揮者のまわりにこじんまりと集まった。小編成でも演奏はピカイチだった。
1937にできた初期の作品のせいか、日本的なメロディを散りばめてあった。スローな曲が多かった。

次は、“舞”をテーマとしたお弟子さん4人の作品だった。お弟子さんの曲はカット!(あとで書きます)
でも、最後の曲は打楽器が6人もいて、リズム重視だし、指揮者も踊るようにアクションをつけていたので、なかなかおもしろかった。

その次が、「ギリヤーク族の古き吟誦歌」だ。
オリジナルは、ピアノにソプラノの独唱らしいのだが、ここではお弟子さん達がオーケストラアレンジをしたのを演奏していた。ギリヤーク族の子守唄を題材にして創り上げたこの歌は、リズムのある曲、リズムのあまりない曲など、4種類あって、それぞれが優美で幽玄で、サントラのように景色が見えてくるけれど控えめな演奏によくマッチしていた。
私はリズムのある、“♪アイ アイ ゴムテイラ。。。”が気に入った。印象的なフレーズだ。

ここで休憩。

休憩のあとは、いよいよシンフォニア・タプカーラだ。
私は、伊福部氏の作品の中で、これが一番好きだ。
曲が始まった。低音のチェロが響き、ついでヴァイオリンへと移る。ノスタルジアの場面だ。物語の最初の部分のように、静かな導入だ。重厚でもの悲しい。
そして、メインテーマに移る。この第1楽章はソネット形式になっていて、このメインテーマが後半でも聴けるのがうれしい。そのゴキゲンなメロディに私はいつしか頭を振ってリズムと取っていた!
第2楽章はハープとフルートが美しい音色で始まる。CDでは地味なぱっとしない曲だと思っていたが、静の展開というか、ひとつひとつの音を追ってみたら、なんともうっとりするメロディの集まりであることに気が付いた。音が広がるし、繊細だと思った。
第3楽章はそれこそ大好きなのだぁぁ〜〜!!
始まりの低音の短い音は、ビオラが弓で弦を叩いて音を出していた。
スピード感と潔さ!勢いとノリの良さ!!
それが、動と静が交互に登場してはそれぞれを生かしていた!!
テーマとなる曲が、いろいろとアレンジされて現れる。しかもそれを引っ張らない。
いろんなメロディが惜しげもなく投入される。
そのような中間部があっても、後半の圧倒的な攻撃力と破壊力にはかなわない。オーケストラの力強いサウンドに孤軍で立ち向かうピッコロの鋭い高音の連続!!不協和音のようでいてこれ以上ない協和音のように思える。これがリトちゃんの言う“野蛮さ”なんだなと思うとゾクゾクして、訳もなく涙が出てきた。
私は感動しているのだろうか?そのうちおさまると思っても、最後まで涙が出続けてしまった。なんか恥ずかしいなぁ〜。

最後はSF交響ファンタジー第1番より抜粋(ゴジラのテーマ)だった。
シンフォニア・タプカーラに酔いしれてしまったために、曲が頭の中に入らない。一番ノレるリズムなのだが、頭の中でシンフォニア・タプカーラが回っていたのだ!


コンサートが終わると、な、なんと伊福部氏が紹介された。
観客席の真ん中に座っていたのだ。彼は立ち上がり、みなさんにご挨拶をした。
さらにステージに上がり、花束を贈呈され、また深々と頭を下げてご挨拶をした。
ああっ、こんなところで伊福部氏の姿を見ることができるなんて!私はラッキーです。
会場内でフラッシュをたかないでくださいと注意されながら、会場係のおねぇさんがいなくなると、ちゃっかり撮影してしまった。あはは〜。
その満足そうな笑顔がとっても印象的だった。



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