森をこえた小高い丘にはめがねをかけた人間のお兄さん。
ぼくはつぶされないように気をつけながらお兄さんにたずねた。
「こんにちは。ぼくはあなたの卵ですか?」
お兄さんはぼくを見てにっこりわらった。
「さあ、どうだろう。君は何になりたいの?何の卵だったらいいなって思う?」
「ぼくは何の卵かわからないから、それを知りたいんです」
「そうかい。ぼくはね、絵描きの卵なんだ」
「絵描きさんの卵って、お兄さんみたいなカタチなんですか?
じゃあ、ぼくは絵描きさんの卵じゃない」
また違う。ぼくは少しつかれてため息をついた。
そうしたらお兄さんが、そうじゃないよって首をふった。
「どんなカタチだって、どんな色だって、どこにいたってかまわない。
ぼくが絵描きになりたいと思いさえすれば、ぼくはもう絵描きの卵なんだ。
絵描きになるために絵を描くんだよ。
そうしたら、いつか卵じゃなくって、本当の絵描きになれる。
だから君。君が何の卵なのかを知る旅をするんじゃなくて、
何になりたいのかを見つける旅をしてごらん。
そうして見つけられたら、もうその瞬間から君は"なりたい何か"の卵だよ」
「それ、本当?」
「本当だとも」
ぼくはうれしくなってきた。
ぼくは何になりたいんだろう。探しに行こう。
おにいさんは記念にぼくの肖像画を描いてくれた。りっぱな卵。
絵の具セットもくれた。なりたい卵の色を自分で自分にぬりかさねていけるように。
ぼくは旅に出る。
↑次のページへ