第3話 ああ,楽宮

ああ,楽宮3



あつい。

とんでもなくあついぞ! どうしたらいいんだ〜



もう3時をまわってる。

さっきから何回水を浴びただろうか。

ぐたっとベッドに寝てるとシーツが汗で体にまとわりつ

く。ここはシーツなんか替えてくれないんだろうな。



外ではココナッツ入りの南京袋やら建築資材をボロボロ

のトラックに積み込んでる。

このあついのに・・彼らの日給は70バーツ程度といって

たな。



長谷川のラジカセからラジオのニュースが本日の外気温

を告げる。バンコクで41度???

てことは,アスファルトの輻射熱を浴びたときの体感温

度は・・うう,考えたくない。

外に出たくない。

だけどココも蒸し風呂だし・・ううう〜・・ジタバタ。



「伊藤さん,生きてる?」



長谷川がドアからひょっこり顔を出す。

近くの屋台でカオマンガイを食ってきたって? 元気な

やつ!



「おれ,ちょっと茶室にいくよ。一緒に行く?」



・・・・茶室?勘弁してよ。そんな元気ないよ。



「たぶん夕方になったら友達が来るからそしたら外で飯

にしようよ。この部屋に来るから,来たら適当に相手し

といて。」



・・・・適当で良いんだな? オーケー



そういうのは得意さ。

もっとも誰が相手だって今はテキトーになっちゃうよ。



長谷川はココに住み着いて2ヶ月ほどになる。

ソーソートーの教室で知り合ったのだ。

40人も生徒がいて,35人が駐在員の妻たち。

例外の5人の男とは?



日本から流れてきた俺。



フィリピンから流れてきた長谷川。



タイ〜インド〜ネパール〜そしてまたタイに流れてきた

イワさん。



高校を卒業後2年間世界を放浪して,タイにたどり着いた

ときには一文無しだったタカ。



大学を卒業して勤め人になっては見たものの一年で辞め,

そのままタイに流れてきたユウイチ。



俺達の存在は教室では思いっきり浮いていた・・

だって共通するものがほとんどないもの。

学校の外にブッカケご飯の屋台があるんだけど,そこで

食べてたら同じ教室の人達がホホホ・・と口を押さえな

がら笑っていきやんの。屋台で食べたこと,ないのだろ

うか。

だいたいほとんどスクンビットから出ないで生活してる

みたい。



しょうがないよね。

望んでタイに来た人もいれば,旦那がタイに来るんでし

ょうがなくてタイに来た人もいるわけだ。

でもどうせ暮らすんなら積極的に色んなことしたほうが

いんでないかい?



コンコン・・



・・・・はーい。



もう来たか。ドアが1メートルも開いてるのにノックする

とは面白いヤツだね。

ひょこっと突き出した顔を見て驚いた!



「あれー,伊藤さん? なんでなんで? えっえ〜」



・・・・それはこっちのセリフだよ!!

    なんでタイに居るんだよ!!



ワタナベだった。

もう何年も前に俺が東北と北海道をバイクで3ヶ月間ツー

リングしたときに知り合った男。

陸上自衛隊出身。除隊して何をやって良いのか分からず

にバイトで金を貯めてからとりあえずヨーロッパに行っ

てみるといってた男。ヨーロッパで何かできないか,探

してみたいと言ってた男。

こんなとこに沈没してたのか。



・・・・ヨーロッパには行ったの?



「駄目。最初フィリピンにいってみたんだ。

そこで二日目に泥棒にやられた。」



・・・・いくらやられたの?



「ドルで200。 それからトラベラーズチェック120万円

分全額。」



・・・・チェックだったら再発行したんだろ?



「うん。 でもなんだかストレスたまっちゃってさ。女

の子も可愛いし。結局2ヶ月居た。 長谷川さんとは同宿

でさ。」



あほー!!



(バブル全盛の1989年のお話です。)



(第3話 終わり)

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