第4話 ああ,楽宮

ああ,楽宮4



スリクルンの近くのバス停でバスを待つ。

中華街のデパートで商売用に鍋をみつくろうつもりだ。

楽しい。

気分がうきうきしている。

さっきは急に降りだした雨でびしょぬれになったばかり。

お目当てのバスは来ないが時間が経つのも気にならない。

隣には恋人が居る。

久しぶりにあったのだ。

ウキウキしたってぴょんぴょんしたって俺の勝手だ。



あれから二ヶ月。

長谷川とは学校が終わったらあまり会うこともなくなっ

た。



時間の無駄遣いを楽しんでる?

大きなお世話さま。

一瞬の若さを犠牲にしてただ流されてる?

余計なお世話。

全く迷いのない25才である。

あれだけひょうひょうとしてたら周りも余計な口出しも

しなくなるのだろうな。



アジアを漂うー日本でバイトするーアジアを漂う

今,日本はすごく景気がいいのだ。

割のいいバイトは腐るほどある。

自信を持って漂ってるんだ,あいつは!!

たくさんいる同類の中ではかなり珍しい。

リピーター達と話すと,みんな不安を感じながら現実か

ら逃避しているのが分かる。

ツケは自分に返って来るって分かっていて何もしない。

おおっと,俺も同じに見られてるわけだよね。



「ねぇ,あの人日本人じゃない?」



・・・・どの人?



バス停の少し離れたところに若い男が膝を抱えてうつむ

いている。どうも日本人のようだ。

病気か?

普段東京にいると一瞥しただけで振り向きもしない冷た

い俺。でもここにいると何故かおせっかいになったりす

る。女の前だからかな。



声をかけようか,と迷いながら近づく。

「あの・・」

ひょっこりあげた顔を見て驚いた。



・・・・ワ,ワタナベ!!!



「ワァー!伊藤さん!」



・・・・ワァーじゃない!

    ヨーロッパはどうしたんだよ!

    餞別代わりに酒までおごったのに。



「ごめん・・カオサンのゲストハウスでまたやられちゃ

った。これから再発行の手続きに行く所なんだ。」



・・・・それで落ち込んでたってわけか。

    おまえ,ヨーロッパには行きそうもないなぁ・・

    ハァァ〜



「そんなぁ」



(一度あることは二度ある。みなさん,気を緩めないで

ね~_~;)

(第4話 終わり)

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