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絵のない絵本式乗馬教室 ( 第25鞍 )

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焚き火ですか?」

「ついでに焼き芋を焼いています。一本いかがですか?」

「いえ、太るので結構です。」

「そんなことはありません。サツマイモはバランスのとれた、健康に良い食品です。」

「え、そうなんですか?」

「まず、食物繊維を豊富に含みます。前回言ったように食物繊維は腸内を酸性にして、悪玉の腸内細菌の増殖を押さえて、腸内をきれいにします。腸の老化防止効果があります。それから、血液中のコレステロールを減らす効果もあります。」

「それから、カルシウムを豊富に含みます。ただし、カルシウムは皮のところに多いので、焼き芋では皮が焦げてしまっているので、カルシウムの補給にはあまりならないと思いますが。」

「カリウムも豊富に含んでいるので、血圧を低下させる作用も期待できます。」

「ビタミンなんかはどうですか?」

「まず、ビタミンAでしょう。芋にはプレビタミンAとも言われるカロチンが豊富に含まれています。ビタミンAは肌荒れを防ぎます。視力を維持するにも必要です。免疫力を強める働きもあるので、ガン予防効果も期待できます。しかし、ビタミンAはDとともに脂溶性ビタミンです。摂りすぎると、肝臓を障害します。」

「ビタミンAは体内で代謝されるとレチノイン酸になります。」

「ところで、レチノイン酸を含んでいるしわ取り軟膏とも言われるレチンAを知っていますか?」

「知りません。本当にしわが取れるんですか?

取れます。レチンAを目のまわりなどに塗ると、しわが取れます。また、発毛促進作用もあります。ただし、これを塗って紫外線にあたると、皮膚ガンになる確率が非常に高くなります。紫外線によって、ガン抑制遺伝子p53の突然変異が誘発されますが、レチノイン酸があると、更に突然変異が起こりやすくなります。また、妊娠中に使うと、奇形を誘発する恐れもあります。そのために日本では認可されていません。ネット上では、並行輸入物が売られているようですが。」

「レチンAってこわいですね。そのほかにどんなビタミンが多いんですか?」

ビタミンB1もその一つです。ビタミンB1は糖質をエネルギーに変える時に必要です。従って、体をたくさん使う運動選手や肉体労働者は多くとる必要があります。また、アルコールを代謝するにも必要なので、大酒飲みもたくさん取らなければなりません。芋以外では、豚肉に豊富です。」

「不足するとどうなるんですか?」

脚気や神経症状が出ることがあります。脚気は白米を多食するようになった江戸で見られるようになりました。参勤交代で田舎へ帰ると、玄米を食べるので脚気がなおります。そこで、江戸病(えどやまい)と言われました。」

「明治にはいっても脚気の原因はまだ不明でした。ところで、陸軍軍医総監森 林太郎(もり りんたろう)と言う人を知っていますか?」

「知りません。」

森鴎外です。」

「鴎外と脚気とどういう関係があるんですか?」

「説明しましょう。」

「当時、陸海軍とも白米を多食していました。こんな話が残っています。多食していたので、残飯が出ます。大量に出た陸軍の残飯が、芝の貧民窟で売られていました。当然、人間が食べるためです。現在でも、残飯市場はバングラデッシュにはあるそうですが。」

「貧民窟って何ですか?」

「最下層の無宿者が住んだ所です。明治中期くらいまでは四ッ谷鮫河橋、下谷万年町、芝新網町が東京の三大貧民窟といわれていました。ここでは、1人1畳の入れ込み形式で泊める宿や、ボロボロの長屋が軒を連ねていました。」

「話を戻します。1885年のことです。当時は東大医学部講師だった緒方正規が”脚気菌”を発見したと発表しました。当時はコッホが炭疽病の原因が細菌にあることを発見した後だったので、細菌学が盛んでした。そこで、脚気の原因も細菌感染によるという見方がありました。」

「当時、陸軍軍医であった森林太郎は脚気病原菌説を支持しました。」

「一方、海軍の軍医であった高木兼寛は海軍全体の約30%が脚気を患っているのを知り、驚きました。イギリス留学中には、脚気などという病気がイギリスにはないことを知っていました。そこで、もし脚気が感染症ならば、イギリスにないことは変だと思っていました。」

「そのうち、軍艦が外国の港に寄港すると、脚気の患者が激減することに気づきました。そこで、脚気は感染症ではなく、食品中に何か不明な栄養分があって、海軍の食事にこれが不足しているのではないかと考えました。」

「根拠はないが白米に原因があるのではないかと考えて、パン食に切り替えたところ、脚気がなくなりました。一方、陸軍は鴎外が脚気菌の存在を信じ続けたので、それ以降も鈴木梅太郎が米糠の中から脚気予防に効果のある「オリザニン(ビタミンB1)」を抽出するまでは、死者が相次いだのでした。」

「へエー、そんな事情があったのですね。」

「サツマイモにはその他に、どんなビタミンがたくさん含まれているんですか?」

「ビタミンCです。ところで、この焼き芋食べませんか?」

「いただきます。」

「ところで、ライナス・ポーリング博士(1901−1994)を知っていますか?」

「知りません。」

「ライナス・ポーリングは1954年に化学結合論で、1963年に原水爆反対運動でノーベル賞を受賞した、偉い学者です。このポーリングがどうしたことか、1970年頃ビタミンCが風邪に効くという説を発表しました。根拠はありませんが。」

「私も風邪をひいたとき、1gほど飲んでみましたが、効果のほどはわかりませんでした。しかし、その後、2000年にビタミンCには血圧を下げる効果があることがライナス・ポーリング研究所によって明らかにされました。しかし、この件についてもなぜ効果があるかはわかっていません。」

「ビタミンCって、なぜ体に必要なんですか?」

「髪の毛や爪を燃やすと臭いでしょう。」

「ええ。」

「あれは、髪の毛や爪はコラーゲンという蛋白でできていて、コラーゲンは蛋白どうしがS−S結合といって、硫黄の原子2つを介してつながっているから、燃やすとくさいのです。S−S結合をたくさんしているおかげで、堅いのです。コラーゲンを合成するときにビタミンCが必要なのです。髪の毛や爪だけでなく、血管もコラーゲンが包んでいます。」

「壊血病って知っていますか?」

「知りません。」

「壊血病は今ではなくなったと思いますが、大航海時代に問題になった病気です。船乗りが新鮮な野菜をとるのが困難で、ビタミンC不足になり、血管が破れやすくなる病気です。」

「幕末になって、黒船が三浦半島に来るようになると、村民は水と薪とダイコンを無償で提供していました。」

「ダイコンは船員に評判がよく、もらうとそのままぼりぼりかじったそうです。」

「そういえば、ダイコンにはビタミンCが多かったんじゃありませんか?」

「そうです。」

「芋に不足している栄養って何かありますか?」

「タンパク質です。」

「芋を食べながら聞いて下さい。芋にはタンパク質があまりありません。ところで、芋だけを食べていても、筋骨りゅうりゅうとしている人たちがいるのを知っていますか?」

「いいえ。それはどこの人ですか?」

パプアニューギニア高地人です。彼等はサツマイモだけを食べています。1日に食べるサツマイモから換算すると、1日タンパク質はたった15gしか摂取していません。体重1kgあたり1日に少なくとも1gの蛋白が必要なのにです。」

「それで、どうして筋骨りゅうりゅうでいられるんですか?タンパク質を自分で合成しているんですか?」

「高等動物の人間がタンパク質を合成できるわけはありません!」

「そうですね。」

「実は、腸内細菌についてはこの間話が出ましたが、腸内細菌の善玉菌のメンバーであるユウバクテリウムが関係しています。彼等の腸の中には、このバクテリアがたくさんいます。このバクテリアはアンモニアからアミノ酸を合成します。そのアミノ酸が腸から吸収され、タンパク質を合成できるのです。」

「ところで、ニトロゲナーゼという酵素を知っていますか?」

「根粒バクテリアがこの酵素をもっています。」

「ああ、あのレンゲ草の根っこについているツブツブの中にいる菌ですね?」

「そうです。この酵素は空気中の窒素ガス(N2)を還元して、アンモニアにします。」

「もし、人間が腸内細菌として根粒バクテリアとユウバクテリウムを持てば、腸に入ってきた窒素ガスがアンモニアになって、それからアミノ酸に変化するので、食事をとらなくてもタンパク質を合成できます。」

「タンパク質ができれば、これを分解して糖分のかわりに体内で燃やすこともできるので、仙人のように霞を食べて生きていくことができます。

「あ、ずいぶん話が長くなってしまいましたね。では、練習を始めましょう。」

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