「どこで鳴いているんですか?」
「そうですね。あそこの桜の幹に止まって鳴いているようですが、幹と同じような色をしているので、どこにとまっているかわかりませんね。」
「今年の初鳴きは何時だったんですか?」
「7月12日だそうです。今年は気温が低いので、例年より遅いみたいです。」
「セミのことを英語でなんていうんですか?」
「cicadaです。あまり聞いたことはないでしょう。」
「ええ、なんだか語感が英語ではないように感じるんですが。」
「そうです。ラテン語です。もっとも、あの桜の木にはセミが複数いるので、複数形でcicadaeといわなければなりません。」
「ほかに、ラテン語を使っている虫の名前って何かありますか?」
「そうですね。イナゴのことをlocustといいます。」
「他にラテン語の虫の名前はありますか?」
「特には思いつきませんねえ。」
「では、英語の虫の名前をいくつか教えて下さい。」
「トンボはdragonflyでしょ。コオロギはcriketでしょ。ついでに言えば、mole criketはオケラ、Japanese criketはスズムシです。それから、glass hopperはバッタ、カメムシはstink bugです。」
「ホタルはなんていうんですか?」
「fireflyです。ああそういえば、世界最大の薬品会社のSigma-Aldrichで、薬品以外にも、Tシャツや帽子も売っていました。そのブランドのことをFirefly Clubと言っていました。製品の全てにハチのお尻が光っている絵が描かれていました。」
「何だか怪しげな団体ですね。」
「そんなことはありません。麻布十番にある香雅堂という香木を扱う店の会です。」
「香木って、お焼香の時くべるあれですね。」
「そうですね、あれは白檀という木の芯の部分です。粉にして線香に入れたりもします。インドの南部でとれるものが良質とされています。ここで言う香木とは沈香(じんこう)のことです。沈香の香りは知っていますか?」
「『長の日や 沈香も焚かず 屁も垂れず』のあれですね。屁はともかく、沈香は見たことも、香りをかいだこともありません。」
「今度、少し分けてあげましょう。」
「沈香って、何の木なのですか?」
「特に沈香の木があるわけではありません。主として、ベトナムでとれるのですが、ジンチョウゲのなかまの木にできるものです。それも樹齢30年以上でないとできません。台風で枝が折れたり、虫が食ったりして傷口ができると、そこにヤニがでてきます。木はやがて寿命で枯れますが、ジャングルの土のなかに埋もれていても、ヤニのしみこんだ木の部分は腐りません。その部分は微生物の作用で、ゆっくり変質していきます。そうこうして、100年以上過ぎて、やっと沈香になるのです。ヤニがしみこんでいるので、比重が高く、水に沈むので、水に沈む香木ということで、沈香と呼びます。」
「貴重なものなんですね。」
「そうです。沈香のなかでも、特に質の良いものを、伽羅(きゃら)といいます。伽羅にはたっぷりとヤニがしみ込んでいるので、黒っぽい色をしています。伽羅のなかでも特に良いものは、1gで1万円では買えません。」「家康は伽羅が好きだったので、何度も東南アジアへ船を出して買い付けました。そのため、伽羅は日本には比較的多く存在します。何でも、家康の遺品として、伽羅が約10kg残されていたという話です。しかし、現在、ベトナムでもほとんどとれなくなってしまったので、貴重です。何でも、数人が組んで、ジャングルのなかに入り、20日間くらいかけて伽羅を探すそうです。」
「ああそれから沈香の分類ですが、品質によって、伽羅、羅国(らこく)、真南賀(まなか)、真南蛮(まなばん)、寸門多羅(すもたら)、佐曽羅(さそら)の6つに分けられています。これを六国(りっこく)といいます。私は伽羅以外では、あっさりとした香りがするので、真南賀が好きです。」「それから、沈香は気を静めるということで、子供の夜泣き、疳の虫の薬として、室町時代に東大寺で作られて、現在でも使われている奇応丸という漢方薬の主成分です。」
「伽羅はほんの少量でも炊くと、甘い香りがして、病みつきになります。寝る前に炊くと、寝付きが良くなります。もっとも、火事に注意しなければなりませんが。」
「伽羅も少し分けていただけますか?」
「イヤです。自分で買って下さい。」「古くから知られていて、大きな伽羅には名前が付けられているものがあります。例えば、正倉院御物に蘭奢待(らんじゃたい)という伽羅があります。長さが約160cm、太さが一番太いところで約40cm、重さが約11.6kgあります。丸太のような形をしていますが、中空です。表面は黒い色をしていますが、断面は明るい褐色をしています。」
「1g5万円とすると、5億8000万円ですか。」
「蘭奢待には、何カ所か切り取った跡があります。足利義政、織田信長、明治天皇が切り取ったとされています。信長は約5cmの大きさで2枚らしいです。家康は切り取らなかったとされていますが、、秀忠と家綱は切り取ったという話があります。」
「蘭奢待ってどういう意味ですか?」「蘭の字をよく見て下さい。なかに東という字が隠れています。奢という字には大が、待には寺という字が隠れています。東大寺ということです。」「どんな香りがするんでしょうね。」
「数年前のことですが、香雅堂で伽羅には珍しい蘭奢待のように明るい褐色をしたものを売っていました。これを買って、炊いてみたところ、さわやかで甘い香りがしました。多分、蘭奢待もその系統の香りでしょう。」
「そうみたいですね。」
「あ、ずいぶん話が長くなってしまいましたね。では、練習を始めましょう。」
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