防空システム イージスへの系譜

第二次世界大戦、中でも太平洋戦争における、日本海軍の神風特別攻撃隊に手を焼いたアメリカ海軍では、飛来する航空機を確実に撃破する手段の必要に迫られた。
なぜなら、それまでの航空機による攻撃は、対空射撃により直接撃破する効果だけではなく、弾幕により攻撃をそらせる効果にも依存していた。
それは、攻撃側の搭乗員が生還を前提とすれば、当然のことであった。
しかしながら神風特別攻撃隊の場合、もともと搭乗員が死を前提としての攻撃であるから、弾幕自体に怯む要素はなく、確実な射撃による撃破以外、防空を達成する手段がなかったためである。
砲や銃などの砲煩兵器の場合、近接信管により命中率を向上したとはいっても、所詮撃ちっぱなしの弾に過ぎず、射撃後、目標がコースを変更すれば、撃破することはできない。
ここで考えられたものが誘導弾である。日本ではミサイルと通称されるこの誘導弾は、文字通り発射後誘導により目標のコース変更に追従し、最後まで目標へ向け突進することを可能とする兵器である。

アメリカ海軍では、いくつかの推進、誘導方式、防空範囲から、RIM-8Gタロス(Talos)、RIM-2Fテリア(Terria)、RIM-24Bターター(Tartar)の、後に3Tと呼ばれるミサイルシステムの開発を開始した。

RIM-8Gタロスは長距離射程の、ラムジェット推進、ビームライダー方式の誘導弾として開発、1959年に実用化され、ミサイル巡洋艦ロングビーチ、アルバニー級3隻などに搭載され、ベトナム戦争では、ミグの迎撃に成功したとされる。しかしながら、構造が大型に過ぎ、他のミサイルの性能向上により、退役した。
射程:65浬(120km)、全長:9.53m、直径:0.76m、弾頭:核もしくは高性能爆薬

RIM-2Fテリアは中距離射程の、2段式ロケット推進方式の誘導弾として開発、1956年に実用化され、ミサイル巡洋艦ロングビーチ、ボストン級、各種ミサイルフリゲート(DLGで、のちのFFGとは異なる)、航空母艦などに搭載され、アメリカ海軍の艦隊防空の一環をなした。しかしながら、構造が大型で、他のミサイルの性能向上により、退役した。
射程:20浬(37km)、全長:8.23m、直径:0.34m、弾頭:核もしくは高性能爆薬

RIM-24Bターターは短距離射程の、駆逐艦クラス搭載用に、1段式ロケット推進方式の誘導弾として開発、1961年に実用化され、駆逐艦に搭載され、アメリカ海軍の艦隊防空の一環をなした。
射程:10浬(18.5km)、全長:4.57m、直径:0.34m、弾頭:高性能爆薬

タロスやテリアで、核弾頭の使用も可能なのは、できるだけ遠方において、相当の誘導誤差をもっていても、とにかく大規模な破壊力で、あおりり落そうとした為である。

最初のミサイル巡洋艦は、大戦型巡洋艦 CA69ボストン の改造艦で、テリアを搭載し、CAG1として1955.11に就役した。
新造による最初のミサイル巡洋艦は、テリア2基、タロス1基を搭載し、CGN9として1961.9に就役したロングビーチである。
最初のミサイル駆逐艦は、大戦型駆逐艦 GYATの改造艦で、テリアを搭載し、DDG1として就役したが、試験的色彩が強かった。
新造による最初のミサイル駆逐艦は、ターター1基を搭載し、DDG2として1960.9に就役したチャールズ・F・アダムス級である。
空母機動部隊の防空直衛艦として、ミサイルフリゲート(DLG)という艦種が生み出され、テリア1基を搭載する、クーンツ級、テリア2基を搭載するレイヒ級、テリア1基を搭載するベルナップ級、が、各10隻程度づつ、順次整備されていった。
また、レイヒ級を原子力艦化したベインブリッジ、ベルナップ級を原子力艦化したトラクストンも建造されている。

CG(当初 DLG) ベルナップ級
p0029/p0029020.

DDG チャールズ・F・アダムス級
p0028/p0028024.

東西冷戦最盛期、アメリカの空母機動部隊に対して、ソ連軍からの同時多数のミサイル攻撃による、飽和攻撃が懸念された。
対空ミサイルの精度が上がったとは言え、1つの誘導装置で1発づつ射撃するわけで、防空艦の誘導装置の数がすなわち、同時対処能力という事になり、これを超えた物が、すなわち「命中」してくるわけである。

対策として、多数の目標を掌握できるレーダーと、同時多数の処理能力が求められる事になった。

アメリカ海軍では、これを踏まえた後継のシステムとして、RIM-50タイフォン(Typhon)LR、RIM-55タイフォン(Typhon)MRの開発を行ったか、1961.3に最初の試射を行ったものの、1963.11に開発中止され、実用化には至らなかった。

その後、艦隊防空システムとして、この3Tシステムを整理し、スタンダードミサイルとして発展させることとなった。

ターターをベースとしてスタンダードミサイル(SM1-MR)を開発し、既存のテリア搭載艦の都合もあるため、テリアの装置用に後継を、スタンダードミサイル(SM1-ER)として開発した。
スタンダードミサイル(SM1-ER)は、スタンダードミサイル(SM1-MR)の弾体に、テリアと同様の大型のブースターを装備した2段式ミサイルである。
その後、RIM-67BスタンダードSM2-ER BlockT、RIM-67CスタンダードSM2-ER BlockUと改良型が開発されたが、テリア搭載艦の退役と同時に廃止となり、現在はTMD計画の標的として使用されている。

三次元レーダーと、イルミネーター(誘導装置)
p1190004. p1190010.

Mk13ミサイルランチャー、スタンダードSM-1MR
p2361022. DSC_4491.

この頃、これらの艦隊防空システムに対し、個艦防空システムもクローズアップされ、シースパローとして具現化した。
その後、誘導装置や、推進方式の性能向上により、小型化が進み、ほぼターターのサイズで、かつてのタロスの射程をも実現することが可能となった。

タイフォン計画中止とほぼ同時期にASMS(Advanced Surface Missile System)がスタートした。
そして1969.12には、イージス武器システム(Aegis Weapon System)となっている。
1973には、陸上の試験サイトでフェーズドアレイレーダーSPY1の目標追尾試験が成功している。
1973.12-1974.1には、ミサイル試験艦「ノートン・サウンド」に装備され、1974.3に艦上でのフェーズドアレイレーダーSPY1の目標追尾試験が、1974.5.16には、ミサイル発射試験が成功している。
これをもって、1978.9に、イージス搭載艦の1番艦の建造契約が行われた。
スプールアンス級の船体に、イージスシステムを搭載した、DDG47タイコンデロガである。
その後、当時のどのミサイル巡洋艦よりも強力であるという理由から、CG47に改められて1983.1.22に就役した。

CG タイコンデロガ級
p0029/p0029009. DSC_1746.

スタンダードミサイル(SM1-MR)は、イージス用として発展し、スタンダードミサイル(SM2-MR)が開発された。
また、VLS垂直発射機構の実用化に伴い、小型のブースターを装備したスタンダードミサイル(SM2-ER)も開発されて行く。
紛らわしいのだが、SM2-ERは、テリア用の(RIM-67系)BlockUまでと、(RIM-66系)BlockV以降とでは製品体系が全く異なる。

MRと言うのは中距離用の意味で、ERは射程延伸型の意味である。
すなわち、テリア用(RIM-67系)は、BlockUまでで消滅し、(RIM-66系)の発展として、BlockVが発生している。



各種ミサイルのタイプ

RIM-66AスタンダードSM1-MR BlockT
射程:17浬(32km)、全長:4.57m、直径:0.31m、弾頭:高性能爆薬
1967年実用化
改良型射程 15-20浬

RIM-66AスタンダードSM1-MR BlockU
RIM-66AスタンダードSM1-MR BlockV
1967年実用化

RIM-66AスタンダードSM1-MR BlockW
1970年実用化

RIM-66EスタンダードSM1-MR BlockW
1983年実用化

RIM-66E-1スタンダードSM1-MR BlockW
RIM-66E-3スタンダードSM1-MR BlockW
RIM-66E-7スタンダードSM1-MR BlockW
RIM-66E-8スタンダードSM1-MR BlockW
RIM-66E-5スタンダードSM1-MR BlockWA
RIM-66E-6スタンダードSM1-MR BlockWB

RIM-66BスタンダードSM1-MR BlockX
射程:25浬(46km)、全長:4.47m、直径:0.31m、弾頭:高性能爆薬

RIM-67AスタンダードSM1-ER
テリア用
射程:35浬(65km)、全長:7.98m、直径:0.31m、弾頭:高性能爆薬
1970年実用化

RIM-66CスタンダードSM2-MR BlockT(Aegis)
射程 40浬(74km)、全長:4.72m、直径:0.31m、弾頭:高性能爆薬
1981年実用化

RIM-66DスタンダードSM2-MR BlockT(Tartar)
射程 40-90浬
1981年実用化

RIM-66GスタンダードSM2-MR BlockU(Aegis)
1983年実用化

RIM-66HスタンダードSM2-MR BlockU(Aegis/VLS)
1983年実用化

RIM-66JスタンダードSM2-MR BlockU(Tartar)
1983年実用化

RIM-66K-1スタンダードSM2-MR BlockV(Tartar)
RIM-66K-2スタンダードSM2-MR BlockVA(Tartar)
RIM-66L-1スタンダードSM2-MR BlockV(Tartar)
RIM-66L-2スタンダードSM2-MR BlockVA(Tartar)
RIM-66M-1スタンダードSM2-MR BlockV(Aegis/VLS)
RIM-66M-2スタンダードSM2-MR BlockVA(Aegis/VLS)
RIM-66M-5スタンダードSM2-MR BlockVB(Aegis/VLS)

スタンダードSM2-ER
射程 65-100浬

RIM-67BスタンダードSM2-ER BlockT
テリア用
射程:100浬(185km)、全長:7.98m、直径:0.31m、弾頭:高性能爆薬
1981年実用化

RIM-67CスタンダードSM2-ER BlockU
テリア用
射程:100浬(185km)、全長:7.98m、直径:0.31m、弾頭:高性能爆薬

スタンダードSM2-ER BlockU
ECM対策能力向上型
1986年12月実用化

RIM-67DスタンダードSM2-ER BlockV
低高度目標対処能力向上型
1988年6月

RIM-66CスタンダードSM2-ER BlockVA
弾頭改良型
1992年2月

スタンダードSM2-ER BlockVB
赤外線誘導モード採用型
1995年5月

RIM-67EスタンダードSM2-ER BlockW
新型ブースターに換装し、RIM-156Aに変更。

RIM-156AスタンダードSM2-ER BlockW
射程:130浬(240km)、全長:6.55m、直径:0.31m、弾頭:高性能爆薬
ECM対策能力向上型

RIM-156BスタンダードSM2-ER BlockWA
戦域弾道ミサイル防衛型

RIM-161スタンダードSM3
戦域弾道ミサイル防衛型
射程:130浬(240km)、全長:6.55m、直径:0.31m、弾頭:高性能爆薬
2004.11アメリカで実戦配備予定
p1237017. p1241020. p1241021. p1241022. p1237023.

Dcim4279/DSC_1883.
SM3 BLK1、SM3 BLK2

Dcim4279/DSC_1871. Dcim4279/DSC_1873.
SM3 BLK1 KW

Dcim4284/DSC_2432.
SM3 BLK1 3段目ブースター


発射情報探知、発射探知・追尾、上空撃破、週末段階撃破
Pict_0640. Pict_0641. Pict_0642. Pict_0643.

迎撃範囲
SRBM/MRBM:SM3、IRBM:SM3、ICBM:SM3、SRBM/MRBM:PAC3
Pict_1323a. Pict_1323b. Pict_1323c. Pict_1323d.

ミサイルの誘導方式
セミアクティブ・レーダーホーミング方式では、ランチャーから発射されたミサイルは、艦のイルミネーターから目標に照射される誘導電波が、目標に反射してくる電波をミサイルが感知し、ホーミング誘導される方式である。
この方式では、同時に対処可能な目標は、イルミネーターの数に制限され、同時多数の来襲に対処する事は、自ずと限度が有り、イージスシステムへと移行されて行く。
イルミネーターは、通常1組2基装備されているが、通常の運用では、1基が誘導、もう1基で次なる目標の追尾を行う。前述の理屈から、同時に飛行中の弾体は、最大2発と言う事になる。
イージスシステムの場合、中間誘導として、慣性航法、無線誘導を導入し、イルミネーターへの依存を終末誘導に局限している。


参考
ミサイルの誘導方式
イージス防空システム
Mk41 VLS
CG47 TICONDEROGA 型
DDG51 ARLEIGH BURKE 型
DDG79 ARLEIGH BURKE (フライトUA) 型
弾道ミサイル防衛
弾道ミサイル
2006.6テポドンへの対応
対空戦



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新規作成日:2003年4月22日/最終更新日:2008年10月5日