「魔女の宅急便」━キキはなぜ飛べなくなったか?の部屋


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キキの飛べなくなったわけ━━最初の理由


  なぜなんだろう、というのが初めて見たときの感想でした。直感的には、不自然なところはないし、そのままさらっと見たのですが、後でうーんと思ってしまったのです。考えてみれば、突然飛べなくなるんですよね。風邪が治って、トンボとデートして帰ってきていきなりです。
  このいきなりさが、なかなかリアルなんじゃないかと思います。そして、懸命に練習、スランプならこれもいいでしょうが、キキの場合は逆効果かもしれません。どんどん飛べなくなってしまう。解決しようとする努力が逆に症状を強化してしまう、というのもなかなかリアルです。
  キキの場合は、後の絵描きの女性との会話で、飛べるのは魔女の血によってであることがわかります。つまり、習得したものではなく、生まれつきのものだということです。ひとつの遺伝的な才能とみることもできますが、私たちが2本足で歩き、手を使い、言葉を話すというのは、才能というより人間の血ですよね。
  どんなに利口なチンパンジーでも、私たちのようになることはできないし、私たちのうちのどんな才能のある人でも、空を飛べるようにはなりません。魔女という人種のみそれができるとしたら、才能というより生まれつきの能力とみたほうがいいと思います。




  さてそこで、私の手がある日急に動かなくなったり、足が動かなくなったり、声が出なくなったらどうでしょう。病院に行っても、原因不明といわれたらどうでしょう。こまりますよね。実際にあるんですよ、アメリカの例を持ってくると、ある青年の片腕が動かなくなった。病院に行っても原因がわかりません。ある医者は、これは精神的なものではないかというのです。青年は怒りました、本当に動かないんだ、自分で動かさないんじゃないし、気が狂ったのでもない、というわけです。
  かといって動かないし困ってしまう。きき腕を骨折したことのある人ならわかるかもしれませんが、これは不便ですよね。たいていの事に手を使いますから、生活全体に支障が出てきます。
  この青年も困り果て、しかし、医者のところはこりごりだというので、催眠術師の所に行ったわけです。社会的な自分には、理解できないことですが、自然な自分は良く知っています。なぜなら、自然な自分が意識できないところで、それをやっているからです。自然な自分にアプローチするには、催眠誘導が一番直接的です。
  そのために無意識のうちに、社会的な自分がどう理由付けをしようとも、青年は知らず知らず催眠術師のところへ導かれたように行くことになったわけです。付け加えておくと、この青年は熱心なクリスチャンだったということです。




  催眠術師は、青年の話を聞くと、まかせておけというわけです。たぶん経験から、彼のようなタイプは催眠に入りやすい(すでにもう入っている)ということを、よく知っていたと思います。TVなんかでみるように、青年は催眠に入り、催眠術師が手があがるといえばあがり、動かないといえば動かなくなるというのに驚きます。そしてついに、動かない腕に向かって、術師は動く動くと指示したわけです。催眠のところで説明したように、青年の自然な自分は、別のハートの指示にしたがっているのです。そして、見事腕は動きました。術師は、催眠が解けても腕は動くと念押しします。そして、催眠をときました。




  どうなったとおもいますか?青年の腕は動くようになりました、ただ、大喜びすると思った青年は、動く腕を見ながら悲しそうな顔をしていたそうです。
  結末は、悲劇です。青年は、その足で自分の部屋に帰ると、そのまま動くようになった腕で自殺してしまいました。おそらくでしか言えませんが、青年は自殺したがっていたと思います。ただ、彼は熱心なクリスチャン(自殺はいけないことになっています)で、そんなことを考えるのさえだめだと思っていたのではないでしょうか。
  そして、「催眠状態の部屋━はじめに」で書いたように、社会的な自分と自然な自分の両方の目的は、生き残ること、そのやり方は防衛です。社会的な自分は、無意識のうちにそういう思いを見ないようにし、自然な自分は知恵を働かせ、自殺したがっている部分を封じるためにうでを動かなくさせ、意識をその動かないということに集中させて空回りさせる。こうやって、自殺に対して最後の封印を作ったわけです。
  自然な自分が自殺を望んでいるとしたら、自分の生き残りを目的にしてるというのは、おかしなはなしです。私にも正直に言ってわかりませんが、人間の自然な自分のなかには、残念ながら殺人と自殺という行動をとる部分があります。この部分はおそらく同じものです。出方が違うだけだろうと思います。これも、何かの意味で自分を守ろうとするものだろうと思う、としかいえません。




  青年の話に戻ると、その最後の封印を催眠術師はなんの考慮もせずに、といてしまったわけです。つまり、技術で勝って、知恵で負けたのです。
  青年の腕が動かなくなるような、このような症状はヒステリー症と呼ばれてきました。借金をしている人の首が動かなくなる、自分の先行きに不安がある人の視力が急に落ちて、メガネでも補正できないとか、自分を役立たずと感じている人の足が動かなくなるとかといったことが、実際に存在します。
  現在のアメリカのDSM─IV(4です)による分類では、身体表現性障害として分類され、その中の転換性障害がこれにあたると思われます。キキの例もこれにあたると思います。青年の例と同じように、別な理由ですが、自分を守るために自然な自分の中の意識しない部分で行われた封印によって、キキの飛ぶ力は封印されてしまったのだと思います。
  これがキキの飛べなくなった理由です。ただ、その症状を作り出す必要性というか、その症状でキキの中の自然な自分がやろうとしたことがあります。それを次に見ていくことにします。そのことこそが、キキがこの症状から抜け出ていくのに理解しなければいけないことですから。症状名がわかったところで、それが消えていくわけではありませんからね。



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キキの封印の理由


  青年は、自殺しないために腕を封印しました。では、キキが飛ぶことを封印したのは、何のためだったのでしょうか?
  そういったことを考えながら、物語を見ていくことにしましょう。
  まず、キキは、旅立ちの日を勝手に決めてしまいます。その日は、もちろん本人の気持ちが重要ですが、家族や友人、知り合いの人たちの気持ちや都合をまったく無視して決められます。黒猫のジジがそれに文句を言います。
  私の思うに、ジジは、キキの社会的な自分をおぎなう役割を持っているのだと思います。つまり、キキの社会的な自分はかなり未熟で、子供っぽい性格だろうと思います。キキの自分勝手さが、かわいい感じですよね。13歳の女の子なら当然ともいえますが、どうやら一人っ子らしいことからしても、すこし幼い性格のようです。
  また、服装や大きな赤いリボンなど装飾にもこだわり、飛ぶのが下手でも気にしない、後で出てくる場面で、トンボが知り合いの女の子と話すのを見るとしっとして怒り出します、こういったことをいろいろ合わせてみるとキキの性格は、ヒステリー性格の要素が大きいですね。ヒステリー性格は、社会的な自分が浮きやすく、不安定なのが特徴です。
  キキの言葉を見ていくと、最初からずっと服にこだわっています。ヒステリー性格の特徴のひとつは、目立ちたがりやで、人の注目を集めるのが好きだということがあります。逆にいえば、それができないと大きく傷ついたり、落ち込んだりするということです。キキが、旅立ちに対して何の準備もしなかったということには、失敗が人の注目を集めるということを、意識しない自分の中の部分として持っている可能性があります。しかし、もちろん受け入れられなければ意味がないので、失敗の程度にもよりますが。
  そして、自分は大丈夫という根拠のない自信(経験のないことを、準備もしないで大丈夫と思うのは、もし、冒険家だったらまず生きて帰れないでしょう)も、おさなさと注目を集めてきたという気持ちのあらわれだと思います。
  これらのことが、松任谷由美さんの歌が流れてくるまでに語られています。宮崎駿さんの、実にヒッチコックにも負けないすばらしい描写力だと思います。




  キキたちは、大きな海辺の町にやってきます。貨物列車の中で眠り込んでいるうちに偶然たどり着きます、楽天的というより、全く無計画ではらはらしますね。ジジは、社会的な部分を代表して、もう少し小さな町(手ごろで、小さな女の子でも入り込めそうな町)にしようといいます。キキは、耳をかそうとしません。
  この街に来て、さっそく挫折を味わいます。誰も気に留めてくれない(注目されないのは、キキにとってショックです。)そればかりか、泊まるところさえ確保できないのです。自分の思惑とのギャップに落ち込んでしまします。なんとか、オソノさんの所へ居候することになりますが。買い物に出た所で、靴に見とれたり同世代の女の子を意識したり、自分の服がもうちょっと素敵ならとつぶやきます。
  もちろん彼女の年頃の女の子としては、ごく普通ともいえますが、どうでしょうかもっと違った反応をする女の子も多いのでは? なぜって明日から、自分一人で稼いで食べていかなければならないのです。それも、ホテルにさえ泊めてもらえない(社会的に一人前扱いされていない)年齢なんですから。
  もう少し期待と不安で緊張しててもいいはずです。当然服も気になるでしょうが、それは何とか食べていけるようになってから、少し余裕ができてからでもいいはずです。そう思いませんか?




  トンボにパーティーに誘われたとき、キキは非常に喜びます。ここで、また服を気にします。まあ、ここではしょうがないか。仕事も舞い込んでいます。仕事振りを見ていると、キキは責任感のある、やさしい子であることがわかります。また、誠実で一生懸命です。非常に好感が持てました。さらに、家事についてもたぶん一応のことができるよう(家で、お姫様扱いされていたわけではなさそう)です。
  ここで注意しておきたいのは、キキをヒステリー性格と決め付けて、そのために症状が出たといいたいわけではない、ということです。たしかに、キキはその傾向があるのですが、そういった性格の部分なら、私でも持っているし、多分あなたも、ほとんどの人が持っているものです。したがって、彼女のその部分といろんな要素が絡まって、ヒステリー反応が強く出てきたのだと思います。
  キキの一生懸命さと、認められたいという思いと、寂しさや不安(表面にだしていなかったけど)から友達が欲しいという思い、そして、子供っぽい計画性から、時間に遅れそうになります。おまけに雨まで降ってくる。しかし、届けた先では、彼女の必死さは、あわれみと無感動で 迎えられます。おそらく彼女の胸には、むなしさと寂しさ、そして、プライドも傷ついたのです。
  トンボのパーティには行きません。彼女の心理状態では、とても行って楽しむなどということはできないでしょう。ここです、ここでキキの社会的な自分が浮いてしまった。ここから、自然な自分が勝手に動き始めたと思うのです。彼女の社会的な自分はがんばりました。そして、むくわれなかった。初めての挫折は、大きなショックだったと思います。それは、彼女をとらえ離さない。彼女の頭の中を、いろいろな思いや気持ちがかけめぐったでしょう。あの、夜の雨の中を打ちしおれて帰るとき、彼女の中は動揺し、社会的な自分は力を失ったのです。




  そして、風邪をひきます。初めて家族とはなれて暮らし、風邪をひくと、熱が出るせいもあるけど、心細く寂しくみじめで不安なものです。幼ければ幼いほど、そういうときは母親に甘えたいものです。しかし、それはゆるされない。さらに、社会的な自分が浮いていきます。
  風邪が治っても、心に力が入らないでしょう。それを、察したオソノさんのはからいでトンボとデートをします。いい感じです。しかし、そこに、昨日の女の子があらわれます。いっぺんに、キキはこの前の状態に戻ります。
  ここで、キキは「私はあなた達とは違って、働かなくちゃいけない、遊んでられない」というような意味のことをいって、プイっと帰ってきます。そして、自己嫌悪になる。ことさら、自分は仕事があって忙しいといわなければならない(今までは、ほとんどそういうことを表に出さなかったのに)ということは、その反対の気持ち、おそらく家に帰りたい気持ちを押さえ込んでいる状態でしょう。
  前に書いた、青年の話を思い出してください。ある気持ちを押さえ込むために、社会的な自分は、ますます浮きます。そして、自然な自分は自分の目的を達成するために、独自の知恵を使います。
  意識できない所で、キキを家に返すための理由作りです。彼女が一人暮しをするためにできる、魔女としての特殊能力は飛ぶことだけです。彼女自身がそういってるように、それは自分でわかっていることです。それがなければ、一人暮しをしていくための方法がありません。飛べなくなれば、彼女は家に帰るしかない。社会的な自分に、家に帰るための理由を与えよう。これが、自然な自分の知恵です。しかし、それがより良い理由になるためには、社会的な自分に知られてはならない。あくまで、何かの原因で自分には関係なく飛べなくならなくてはいけない。だって、自分がやっていることならやめることもできるはずだから。
  そうして、彼女の飛ぶ力は封印されました。




  どうでしょう、納得いくでしょうか?
  ジジの言葉かわからなくなたのは、キキのせいではなく、ジジが恋をして、ただのオス猫になってしまっていたからではないでしょうか。キキのことどころじゃなかったのだと思います。
  キキをこの状態から抜け出させるためには、どうしたらいいのかということがつぎのもんだいです。もし、私のいったようなことが飛べなくなった理由だとしたら、どうしたらまたキキは飛べるようになるのでしょうか。
  フロイトの心理療法の研究は、まさにこのヒステリー症状の研究から始まったのです。飛びたくない、家に帰りたい彼女の心をあばいてしまう。精神分析家のの解釈をつきつけるわけです。それでよくなるでしょう、でもなにかエレガントじゃない。お互い血みどろで、抱き合って泣くような、昔の青春ドラマのような感動はあるかもしれないし、ドラマになるかもしれない。
  それとも、催眠誘導をして、「あなたは飛べる、飛べるんだ〜」とやりましょうか、それでもよくなるでしょう。たぶん、キキの場合は、それで死んでしまうこともないでしょうから。
  もっと優雅で、あっというやりかたがあるでしょうか。何かいい考えがあったら、どうか教えてください。
  ひとつは、宮崎監督がやったように、トンボが飛行船にぶら下がり、キキが飛ぶしかない状況を待つことです。キキは、飛べるようになり、飛ぶということがどういうことなのかを知り、そして、魔女としての自分の意味を知ります。そのうえ、街の人気者になります。
  宮崎監督よりいいやりかたを思いつける人はいるでしょうか? なにか他に方法がありそうなものです。誰か挑戦してみてください。



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