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絵のない絵本式乗馬教室

第11鞍:並足の時に鐙を上げてと言われたら

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「今日は速足の練習は少しにします。」

「その代わり、並足の時に鐙を上げてと言われたら、鐙を鞍の上にはね上げてください。」

「はい」

「体をほぐすために、まず、並足で歩かせながら、馬上体操をして下さい。体操をしながら聞いて下さい。速足をあなたがなかなか上達しないのは、臆病とかそういうことでなく、やっぱり、筋力が弱く、かつ、バランス感覚が悪いせいだと思うんです。ところで、あなたはずんぶんスマートに見えますが、もし良ければ、BMI値と体脂肪率を教えて下さい。

「『BMI値が20で体脂肪率が30%』ですか。あなたは見かけは痩せていて、スマートに見えるけれど、それは隠れ肥満というやつです。あなたは過去にダイエットを試みて、一時的には成功しても、すぐリバウンドしてしまい、そういうことを何度か繰り返したことはありませんか。」

「ああ、やっぱりそうでしたか。ダイエットで体重を落とそうとすると、血糖値が下がるので、アドレナリンが沢山出て血糖値を元に戻そうとします。アドレナリンの働きで脂肪が燃えますが、それはもっと後に起こることで、先に筋肉が減ります。ダイエットをやめて、体重がリバウンドすると、先に脂肪がつきます。こういうことを繰り返していると、一見痩せているけれど、実は肥満という、隠れ肥満になります。あなたはまさにそれです。」

「あなたは筋肉というと、手や足を動かすものしか思い浮かばないかも知れません。それは骨格筋というやつです。筋肉にはそのほかに、心筋と平滑筋があります。心筋とは、もちろん、心臓を動かす筋肉です。つまり、ダイエットとリバウンドを繰り返すと、心臓が弱くなるわけです。平滑筋の中には、血管が破れないように、血管のまわりを取り巻いて保護しているものがあります。つまり、ダイエットとリバウンドを繰り返すと、血管が破れ易くなります。平滑筋のあるものは消化管の運動や子宮の収縮に関わっているのもあります。」

「つまり、ダイエットとリバウンドを繰り返すと、こういったものもうまく働かなくなります。それから、ダイエットすると骨からカルシウムが抜けていきます。」

「更に、過激なダイエットを行うと飢餓状態に陥り、こういう状態で妊娠するのは好ましくないので、体の方で排卵に必要なLHサージという現象を起こさないようになります。また、体内でコレステロールが欠乏するので、コレステロールから作られる女性ホルモンが作られなくなります。つまり、生理が止まります。過激なダイエットをやめても、完全に回復するには、生理が止まっていた期間の倍くらいかかるといわれています。こういう人は閉経が早いと思われます。」

「閉経すると、女性ホルモンの量が激減します。女性ホルモンは骨からカルシウムが抜けるのを防ぐ働きがあります。過激なダイエットの経験者は、既に、ダイエットの影響で骨からカルシウムがかなり抜けています。それで、閉経が早ければ、非常に早く骨粗鬆症になります。骨粗鬆症では、骨からカルシュウムが抜けて骨折しやすくなるばかりでなく、腰が曲がったりもします。詳しくはを参照して下さい。」

「骨粗鬆症は60代以降の女性に多い病気ですが、このような生活を続けると、現在の若い女性は40代になると骨粗鬆症になる人が続発するでしょう。」

「でも大丈夫です。」

「安心して下さい。あなたはまだまだ若いので、これから、十分な睡眠と、バランスのとれた食事と、適度な運動を行えば、そのようになる恐れはありません。適度な運動とは乗馬のことです。激しい運動を行うと、大量の酸素を体の中で燃やすので、活性酸素や過酸化物ができてしまいます。これは血管を硬くしたり、老化を早めます。乗馬はそれ程激しい運動ではないので、健康を保つための運動としては最適です。」

「特に、速足は激しい振動が体にかかるので、骨にカルシウムを沈着させる効果が高いです。骨は外部から力がかかるとカルシウムが沈着して、丈夫になります。ついでにいっておくと、宇宙飛行士は飛行中重力の影響を受けないので、骨からドンドンカルシウムが抜けてしまうので、問題になっています。」

「では並足で馬場を回って下さい。」

「あなたは骨が丈夫になる速足をなぜ苦手かというと、度重なるダイエットとリバウンドのせいで、筋力が弱くなってしまい、バランスをうまくとれないからです。バランス感覚を取り戻すため、鐙を使わないで乗馬するというトレーニング法があります。これをやると、体が硬くなって乗馬姿勢が悪くなるという意見もありますが、あなたの場合はやった方がいいと思います。」

『鐙をあげて!』と言ったら、鐙から足をはずし、鐙を鞍の前橋の上にたすき掛けの形にあげてください。そうすると、膝の内側ではさむ力とふくらはぎではさむ力で、馬に乗ることになります。今は、並足の時だけですが、そのうち『鐙をあげて!』は速足や軽速足でもやってもらいます。特に、軽速足では腰を上下させるので、軽速足でこれをやるのはとても苦しいです。でも、乗馬に必要な筋力はつきます。」

「あ、それからついでに言っておくと、”乗馬を続けるとがに股になる”という話がありますが、あれは根拠のない俗説です。正しい乗馬姿勢であれば、そのような恐れはありません。むしろ、がに股が直ると言われています。

「鐙をあげて〜」

「では、鐙をはずして、鞍の上に上げて下さい。どうですか。並足ならそんなにつらくないでしょう。そのままで、馬場を3周して下さい。並足なら、落馬の危険は少ないです。速足や、軽速足だと、筋力が充分ないと、ちょっとバランスを崩しただけで、即、落馬です。

「3周終わったら、今日の練習は終わりにしましょう。馬の肩をペンペンと軽く叩いてから、下馬して下さい。」

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