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朝,ずいぶん早く目が覚めてしまった。
明け方の涼しい風が海から吹いてくると,床板の隙間か
ら潮の香りが吹き上がってくる。
少し生臭い。
隣を見るとプーがガーガー寝ている。
トイレに行ってしゃがむ。
下をふと見るとそのまんま海だ。
海に面した外廊下に出て,ゴロンと横になる。
寝直しだ。
この時間だと蚊もいない。
涼しくて気持ちいい・・・
そこでぐっすり眠った。
暑くて目が覚めると・・タムが膝を抱えて俺を見ていた。
「はい,お水。」
・・・・ありがとう。
冷蔵庫から出してきた水は冷たくてすごく旨かった。
「イトウ,冷たいね。 電話も手紙もくれない。
ココに来ても教えてくれない。
今日はコサメットに逃げちゃうの?」
・・・・えーとぉ,うーん・・そうだよ。
うう・・正直に答えるしかないや。
バン,バン!!と叩く音。
お姉さんがまな板の上の骨付き鳥肉を中華包丁で叩き切
っている。
そばで義兄さんがしゃがみ込んで石臼をコンコンやって
いた。
「イトウ,飯作るから食べてから行きな。」
義兄さんは料理が上手いらしい。
味付けは彼がやり,タムやお姉さんは下ごしらえを手伝
っていた。
鳥肉の辛い炒めものと,鳥肉と冬瓜のやさしい味のスー
プが出てきた。
外廊下の部分で,みんな好きな場所に座って食べる。
・・・・プーが起きてこないね。 食べないのかな?
「いいよ,腹がへれば食べるだろう。」
タムはずっと元気だった。
明るくよく食べ,よく笑った。
「何時ころ出かける?」とタム。
・・・・12時くらいのバスに乗りたいね。
あまり遅くなるとバンぺーで舟の数が減るし。
「じゃ,写真撮ろう! イトウのカメラで。」とタム。
「よし,プーも呼んで全員で撮ろう。お母さんもね。」と
義兄さん。
食後は記念写真を気合いを入れて撮ることになった。
飯だ,と呼んでも来ないプーが,写真だと言うとのそっ
と出てきた。
2枚の写真を撮った。
2枚とも,一番前にタムは座った。
1枚目,俺がシャッターを切る。
タムはプーの右腕を抱え込んでいる。
2枚目,プーがシャッターを切る。
タムは俺の右腕を抱え込んでいる。
”カシャッ”
なんだか儀式のような記念写真だった。
・・・・俺,バスのチケット買ってくる。
「もう俺が買っといたよ。ホラ」とプー。
いつの間に。
素早いな,プー。 どうせ金は受け取らないんだろ。
いろいろありがとう。 本当に。
ラヨーンへ行くバス停は,プーの家から歩いて1分かから
ない。
時間が来た。
挨拶しようと思ってたら,お母さんも義兄さんもどこか
に行ってしまった。 しょうがない・・
プーとタムがバス停まで見送りに来た。
「また来い。一緒に酒を飲もう。」
・・・・ありがとう。チョークディー。
でかい,ごつい手と握手する。
それから小さい手と握手した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
おわり。
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