第4話 サタヒープにいこ

朝である。

今日はスコーンと晴れている。

もうトンが来ると言った時間は過ぎていた。

慣れているので気にはならない。



部屋のドアを開けるともうダイレクトに外に出られる。

けっこう敷地が広い。

昨日は気がつかなかったけど,ホテルの玄関前にヨット

がボコンと置いてある。オーナーの趣味か?どらどら。

近づくとヨットの下から子犬が3匹,ヨチヨチと出てきた。



キュウーン,キュウーン・・

実は子犬はメチャ,好きである。

少し俺と遊んでくれよ,よしよし。

こいつらも大きくなると路上に大の字になって寝るよう

になるのか。ううーん



「イトウ!!汚いわよ。」

タムがあきれたカオをして後ろに立っていた。正気に戻

った。

腹這いになってカオを舐められてクウン,クウンと鼻を

鳴らしていた俺はなんかきまりが悪くててれくさい。

さも何事もなかったかのように立ち上がり,タムに挨拶

する。



・・・・トンが来ると思ってたよ。



「友達と出かけたみたいよ。替わりに私が来たの。

後ろにのってよ。・・あなたって犬が好きなのね。」



女性が運転するバイクの後ろに乗るのは,ちと恥ずかし

いなぁ。良いのかなぁ。

人妻だしー,触っちゃったらたらまずいしなぁ・・ぶつ

ぶつ



こっぱずかしいけど後ろにまたがる。



「お腹すいてるよね?何食べたい?」



・・・・カオマンガイ!!



とりあえず何か食いたい。凄く腹減ってる。

昨日の夜,軽く済ませたしなぁ。

バイクは町中に入る。

交差点の角の店でレックナームとカオマンガイ,あとぶ

っかけごはんを頼んでがつがつ食べる。

タムは金が無くて犬好きで,その上大食らいなコン・ユ

ィープンをホケーっと眺めている。

文句無く,旨かった。



腹が一杯になり,余裕を持ってまわりをみる。

しっかり田舎の街である。

だけど,一つまた気になることが出来た。

やけに美容院が多いのである。

美容院と言ってもよくある,小さな家族でやってるよう

なところだ。

異常に多い。

50メートルおきにあるような(おおげさか?)

こんなん,商売になるんだろうか。



俺の田舎,愛知県の田原町は異常に喫茶店が多かった。

(関係ないけど)

街の人が暇さえあれば喫茶店にいってる感じである。

人の好みも所変わればだしー

この街の人は足の爪を整えたり髪洗ったりしてもらうの

が好きかもしれないじゃないか,ふむふむ。



街の案内というと,どこでも定番のお寺に行く。

小さな街なのに立派である。

お休みにはここで野外で映画を上映するのだそうだ。

タムがお線香をあげるというので,おつき合いで

俺もあげる。



「従兄弟のプーの家がこの前なの。おいでよ。紹介する

よ。」



ホントに寺の前だ。

1メートルも幅のない路地を30メートルほど入ると突き

当たりはいきなり海になっている。

オオ,海〜の右側がプーの家だった。

家は海につきだした高床式だ。

頼りなく浸食が進んだ木の柱が海の中に突き刺さってい

る。



「プー,いるんでしょ?プー?」

タムが家の中に怒鳴る。



「オー,タムか,なんだい?」

出てきたプーはでかかった。

190cm近くありそうだ。

しかも筋肉質で男っぽいハンサム。

プロレスラーにしたら人気が出そうである。

こんなタイ人,はっきり言って見たことがない!

俺の足は30cmほどあとずさった。ズリッ



タムが簡単に俺のことを紹介する。

紹介といっても,金が無くて犬好きで小さいクセに大食

らいの日本人だというくらいしかデータはなかろうが,

あんた。



「俺はプー,プー・タレーだ。」

確かに怒ったら強そうなカニだ。



・・イトウデス。ムアン・カップ・ミートゥ・ヤイ・ナ



それで十分。

タムは娘を連れに家に帰るという。

後はプーにまかせる,ということかな。



プーはかなり変わったタイ人だった。

まず,グラサンにTシャツで短パンを穿く。

そして登山用の分厚い靴下にキャラバンシューズ(かな

り上物)を穿く。

とどめは真っ赤なバンダナの海賊巻きだ。

体格と相まってものすごい存在感である。



今度はプーの後ろに乗り,お待ちかねのゲートの中に入る。

プーは哨戒艇の船乗りである。

身分証明をゲートでチラリと見せ(どうせ顔馴染みなの

だが,この辺は建て前を守っているようだ)中にはいる。

関係者と一緒ならノーチェックではいれるわけか。



軍の船はたくさん止まっている。

基地の中っていってもそんなに緊張感はないものなんだな。

兵の宿舎,外国のVIP向けの宿舎,軍用車の駐車スペース,

ごつごつした感じの各種軍艦,隊列を組んで基地に戻っ

てくる部隊。

でも,出入りの屋台もあるし,食堂もある。

どちらかといえば普通のかっこのタイ人が多いし,

すぐにリラックスした。



「休みの日の溜まり場があるんだ。みんなに紹介するよ。」



また紹介されてしまうのね。

VIP向けの宿舎前に綺麗な芝生の広場がある。

そこにみんな来た。トンもいた。後からタムも娘を連れ

てきた。



郵便局職員,ドンムアンのイミグレーション担当,警官,

軍艦乗り,親方三色国旗の職業が良くまぁ集まった。

ここはそういうカラーの街なのか。

誰かがギターを持ってきた。

そして誰かがビールを買ってきた,イエーイ!



・・・俺はその日,バンコクに帰るのをあきらめた。



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つづく,です。


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