第8話 サタヒープにいこ

小雨の中・・お馴染みの神風バスにゆられていた。



性懲りもなくサタヒープに向かっている。

雷雨の夜から2週間経っていた。



何故かな。

俺はプーの家族に気に入って貰えたようだ。

プーのお袋さんは体格の良い太ったおばさん。

ドスの利いた声で迫力がある。さすがはプーを産んだだ

けある。



プーの2番目のお姉さんは背の高い優しい人。

ご縁がなかったか,30近くで独身である。



プーの義兄は若ハゲが可哀想だけど,ギターとビートル

ズの歌が上手くて昔はさぞかしもてたろうなぁという雰

囲気。

一番上のお姉さんと結婚して,そのまま家にいる。

この人をはじめてみたときにびっくりした。

俺のおじさんにそっくりだったからだ。 柔らかなムー

ド。

俺にプラクルアンをくれた人。



正直に言ってタイで初めて,男と気兼ねのない友達にな

れたような気がしていたのだ。

無くしたくなかった。



終点に着いた。

お馴染みの風景。

バス停からプーの家まで1分もかからない。

玄関をのぞき込み,怒鳴る。



・・・・プー,いるかい?



お袋さんがノソノソと出てきた。

俺は慌ててワイをする。



「イトウ!よく来たね。 プーは夕方になれば戻るけど。

 どうせいつもの倶楽部だよ。バイク貸すから行ってみ

 る?」

 

・・・・うん。有り難う。

    でもゲートの中に入れないよ。

    その辺走ってきて良い?



この人,初めは恐かった。

睨み付けるように俺を見るのである。

しかし眼が悪いせいだ,とすぐに分かった。

今は俺を見てニッコリしてくれる。

素敵な笑顔だ。



お袋さんに借りたバイクで町を流してみた。

まったく美容院の多い町だ。



プーのお姉さんも家のすぐ近くで小さな美容院をやって

いた。

お前もやって貰え,ヤツがいう。

どうもプーは俺とお姉さんをくっつけたがっている節が

あった。

そりゃあご免だ。プーが弟になっちまう。



軍施設のゲートとは逆の方向へ海沿いに走ってから

少し内陸に入り,また海へ出る。 そこが半島の先端部

分だ。

地元のタイ人の海水浴場といった雰囲気の場所である。

もう夕暮れ近くなので人は少ない。

バイクを降りる気にもならず,トロトロと走る。

この辺はタムの後ろに乗って以前案内してもらった。

ここから2分も走ればタムの家である。



・・・(気まずいよなぁ。俺,なんでここに来たのかな。)



右手をグルンと回して素早く通り過ぎることにする。

ブォーン・・

明日はコサメットに行こう。

長居するとやばい(何がだ?)



プーの家に戻ると,既にビーチにて飲み会!の準備が出

来ていた。

プーの義兄さんはギターを抱えて鳥肉のあげたのやらメ

コンやらをぶら下げている。



・・・・いつもの所?



いくぞいくぞ!とドヤドヤと出かけ,ワイワイとはじま

る。

すると30分もしないうちに倶楽部のメンバーやトンがど

こからか湧いて出てくる。

いいよなぁ,こういうの。

すごく昔の青春映画みたいだ。



・・・・プー,俺あしたはコサメットに行くよ。



「そうか。 お前さえ良ければヨットで近くの無人島に

 連れていこうと思ったのに,残念だなー」



・・・・グッ! (こいつ俺の性格を掴んでやがる〜)



残念だなーを繰り返し,俺が「やっぱり行く!!」と言

うのを待っていたプーは俺が言わないので一人でガッカ

リしていた。

横ではプーの義兄さんがオブラディ・オブラダを歌って

いる。

ギターが上手いので様になっていた。



・・・・(うー,行きたい,行きたい・・でもなぁ)



明日になればタムが現れるであろう。

臆病な俺はどう対処して良いか分からない。

あの,なさけない夜の次の朝,タムは電話番号と住所を

書いた紙を俺の手に押しつけて言った。



「電話して! 家は電話無いから,お隣の親戚の番号なの。」



・・・・そりゃ,駄目だよ。(するわけないだろ!)



タムの大胆さは恐すぎる。

駄目だって言ってるのに・・

やっぱり明日は朝からコサメット行きだ!



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



すんません。

やっぱおわんなかった(~_~;)


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