第5話 サタヒープにいこ

便器の穴から蚊柱が立っていた。

失敗したかなぁ

素直にプーの家に直行しておけば良かったか・・



あのわけのわからん芝生の上の飲み会から2週間後,俺は

またサタヒープに来てしまった。

プーにしつっこいほど来るときには俺の所に泊まれ!と

言われていたのだが,まだ街の中をろくに見てなかった

こともあるし,知ってるヤツらにべったりだと疲れる時

もある。

帰る前に家に寄って飯でも一緒に食えばいいかな,と。

ちょっと安宿を探して転がり込もう。



そんな天の邪鬼が災いしたらしい。

気軽に決めた部屋には蚊は入らないが,トイレが凄い。

70バーツと安いだけあってトイレが共同だったのである。

いつもは必ず部屋を決める前にトイレもチェックするの

だが,この日に限って怠けてしまった。



天井が廊下と10cmほどの隙間で通じているので香取線香

でたきこんで入るという手も使えない。

えーい,と速攻で用を足すことにした。

尻を出してる間に,よう書けんところも食われてしまう。

ついてないときはこんなものである。

(単に注意力が足りないだけなのじゃ)



翌朝,宿の横の屋台でソバをすすっていると,トンがバ

イクでやってきた。



「イトウ!! なんでこんな所に泊まってるんだ?

 こんなとこ,まともなタイ人は泊まらないぞ。汚いぞ。」



・・・・そーかぁ?そうでもないよ。

  それよりなんで俺がココにいるってしってんの?

  来ること,誰にも言ってないのに。

  

「なにいってんだ!この町に日本人がウロウロしてたら

 すぐ噂になる。

 しかもこんなところに泊まる日本人なんてー

 この間お前が来て,随分有名になってんだよ。

 小さい町なんだからさ。」



・・・・そりゃーそうだけど。凄いね。

  てことはプーもしってんの?



「この間,一緒に飲んだり歌ったりしたところで待って

 るよ。

 後ろにのれよ。」



どうやらトンはプーの子分のようである。

ここのネットワークを甘く見ていた,やれやれ。



トンに送って貰うと,プーは少しむくれていた。

なんで家に来ないんだ,なんで来るなら電話しないんだ,

と抗議してくる。

いや,電話は苦手でさー,などと訳のワカラン言い訳を

するうちにあっさり機嫌を直す。

短気だが単純でいい男である。



「今日,友達の結婚式があるんだ。お前も来いよ。」



・・・・え!!

   でも,俺の知らない人でしょ。

   俺なんかが行ったら変じゃないの?

   服も無いし・・



「マイペンライ。あいつと俺は友達だ。お前は俺の友達

だ。

なにも問題ないじゃないか。

服はそのまんまでいいよ。問題ない!!

お前だってタイの結婚式を見てみたいだろう?

今,嬉しそうな顔したじゃないか」



うーん。見すかされているなー

じゃ,お祝儀のお金はいくら払えばいいのかな,と聞く

と お前はいいのだ,と言い張る。

それはいくらなんでもまずいんじゃないかぁ・・・



問題ない,を連発されて押し切られた。

お前は俺の友達だ,と言われて嬉しかったせいである。

俺も単純なヤツなのだ。



結婚式は夕方からだから遊ぶ時間は沢山ある。

プーの趣味は手作りヨットで,職場の仲間とクラブを作

っている。

軍から予算とスペースまで貰っていて,食堂の裏手にト

レーニング場,兼倉庫兼部室?を持っていた。

倉庫の中とまわりには小さなヨットが沢山置いてある。

目の前が浜で,すぐに海に出帆できるというわけかー

しばし,そこでウエイトリフティングなどやりつつ,他

の仲間にまた紹介されてしまう。



なぜウエイトリフティングなのかすぐに分かった。

二人ペアで自分たちのヨットを浜辺までエッチラオッチ

ラ運ぶのだ。

これがきつい!

ヨットと言ってもホントに素人の手作り!!という感じ

で,サイズもせいぜい二人のりで,小さくて形もばらば

ら。

子供の工作,いやお父さんの日曜大工といった風情であ

る。

でもこれで帆を張って浜辺から離れるとす・ご・く楽し

いのである。そんなに強風でなくてもすぐに沈してしま

いそうで,凄いスリルだ。

夢中になって時間を忘れた。

といっても乗せてもらってただけなのだが。



しばらく遊んだ後みんなで飯を食い,浜辺で寝そべる。

海水は綺麗とまではいかないけど,けっこう透明度があ

る。

一人が波打ち際で何か探しはじめた。

手を少し砂に埋めては海水にさらす。

アサリだ。

かなり小ぶりだがけっこうたくさんいるようだ。

つられて探してみると,かわいいのがたくさん取れた。



・・・・どうやって食べる?



「スープにして食べるんだ。うまいよ。」



スープかー・・ふと,思った。

アサリの味噌汁食いてぇなぁー・・



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



つづく。

ホームシックは食い物からくるようであります。


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