CEC 共同交戦能力

CEC 共同交戦能力

Cooperative Engagement Capability / CEC
NCWコンセプトのもと、アメリカ海軍が策定した戦闘コンセプト。
聯合接戰能力(中文)

CEC:共同交戦能力とは、戦闘指揮に使用できる精度の高い情報を、リアルタイムで共有することにより、脅威に対して艦隊全体で共同して対処・交戦する能力を付与することである。このため、従来用いられてきた戦術データ・リンクよりもはるかに高速のデータ・リンク、および、これを運用できるだけの性能を備えた戦術情報処理装置が必要となる。
CECは、艦艇や早期警戒機等に搭載されるレーダー、IFF、電子光学装置などのセンサーから、目標の距離、方位、仰角、ドップラー変位、航跡番号、識別情報のほか、センサーの種類、位置情報などの、生データを高速大容量の無線ネットワークを通じて交換を行う。この目標情報は、グリッド・ロックと呼ばれる共通座標に変換され、イージス武器システムや、個艦防御システムに伝達される。また、各艦艇、航空機の交戦状況も配信する。CECを装備する全ての艦艇・航空機が、リアルタイムで、正確な状況を把握できる。
複数のセンサーからの情報を統合するため、カバーする範囲も広い。敵に対し、情報の速さ、正確性で優位に立ち、戦力を効果的に活用できる。目標追跡の継続性、敵味方識別の正確さは大幅に向上、必要な場合には最適な兵器を割当て、交戦を行う。
CECは、陸軍の地対空ミサイル・パトリオット、ホーク、THAAD、空軍のAWACS(空中警戒管制機)などとの連携も可能で、弾道ミサイル防衛の一翼を担う。


歴史

CEC:共同交戦能力の原型といえるのが、1960年代よりアメリカ海軍全体で運用されていた海軍戦術情報システム (NTDS) である。これは、各艦の戦闘情報センターを戦術データ・リンクで結び、艦隊全体で情報を共有し、脅威に対して対処するというものであった。しかし、NTDSでは、戦術データ・リンクの通信速度および通信容量、そして戦術情報処理装置の性能的な限界から、ここでやりとりされる情報はあくまでTrackingの精度と表現されるものであり、敵に対する射撃に直接的に使用できるものではなく、さらに自艦の射撃指揮レーダーなどで目標を捕捉・追尾して射撃諸元を得る必要があった。
共同交戦能力の直接的な原点といえるのが、ウェイン・E・マイヤーによって提唱されたコマンド・センターコンセプトである。これは、イージスシステム搭載ミサイル巡洋艦の開発において見出されたもので、艦隊の他艦より送信されたデータを元にしてイージス艦が交戦し、また、他艦の交戦を管制するというものである。しかし、1970年代後半の当時には、リアルタイム性に欠ける戦術データ・リンクしか使用されておらず、しかも、新世代の戦術データ・リンクであるLINK16すら登場していなかったため、直ちに実用化することは困難であった。
その後、技術の熟成とともに、リアルタイムの高速データ・リンクを実現できる目処が立ったことから、1985年よりコンセプト開発が開始され、1988年にはEシステムズ社(現: レイセオン社)がデータ・リンクの開発を受注し、ジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所を中心として開発に着手した。
1990年8月には、CG-55 レイテ・ガルフ およびCG-56 サン・ジャシント に機材を積み込んだバンを搭載しての実験が行なわれた。また、1994年からは、実弾も使用して、遠隔データによる交戦などの試験が行なわれたほか、陸軍のパトリオット地対空ミサイル部隊や空軍の防空管制センターとの協同にも成功した。
さらに、1995年の試験では、ワロップ島の実験施設より発射されたロケットをアイゼンハワーCVBGが追尾して、探知後5秒以内に発射地点の算出に成功した。これは、ミサイルを発射した移動発射台に対して、射撃位置転換以前に攻撃を加えることができることを意味する。
1996会計年度には、初期運用能力を獲得した。
そして、1998年にアーサー・セブロウスキー (Arthur K. Cebrowski) 提督がNCWコンセプトを提唱し、これがアメリカ全軍で採択されたことにより、CECの重要性は一層高まることとなった。すなわち、従来の軍事システムをPCW (Platform-Centric Warfare) に拘泥させていた要因の第一が、プラットフォーム間で共有される情報の精度にあったことから、CECにより射撃管制精度の情報共有を実現することによって、NCWコンセプトの導入をより徹底できる、すなわち、個々の兵器の性能を向上させずとも、実質的な戦力を大幅に増大させうることが認識されたのである。
しかし、イージス・システムBaseline6.1との互換性、およびデータ転送用周波数帯域などに問題を生じた。この対策に手間取り、艦艇搭載型AN/USG-2の全規模量産が許可されたのは2002年であった。
米海軍は、2006会計年度末迄に、空母、イージス艦、強襲揚陸艦など艦艇40隻、E-2Cホークアイ2000早期警戒機を装備する5飛行隊にCECを配備する予定だ。
米海軍のほか、英海軍も導入を決定しており、NATO諸国等も導入を検討中である。


構成

艦艇搭載のものをAN/USG-2、航空機搭載のものをAN/USG-3と称する。
CECを実現するシステムは CETPS (Cooperative Engagement Transmission Processing Set) と総称されている。

CETPSは、情報処理・通信端末としてのCEP (Cooperative Engagement Processor ) と、これらの間で構築される高速・リアルタイムのデータ・リンク・ネットワークであるDDS (Data Distribution System) を主要なサブシステムとして構成される。
また、CEPとDDSのほかに、情報の配布、指揮・情勢表示支援、センサー協同、交戦意思決定、そして交戦の遂行を助けるために5つのサブシステムが含まれている。

DDS
DDS (Data Distribution System) データ配信装置は、CECを実現するのに必須となる高速・大容量のリアルタイム・データ・リンクである。
CEC導入以前、アメリカ軍は、部隊の運用統制に使用するニア・リアルタイム (分単位での情報更新) の通信システムであるGCCS-Mと、艦隊の火力統制に使用するリアルタイム (秒単位での情報更新) の通信システムである戦術データ・リンク (LINK11, LINK16)を運用していた。しかし、リアルタイムと称する戦術データ・リンクのうち、より高速のLINK16ですら、その情報更新は秒単位であり、直接に射撃諸元を伝達できるほどのものではなかった。このことから、サブ秒の単位で情報更新でき、射撃指揮に直接使用できる精度の情報をやり取りできる超高速・大容量のデータ・リンクとして開発されたのがDDSである。
DDSは、耐妨害性と通信容量から、Cバンドの電波を使用する。この周波数の特性上、DDSは、見通し線 (LOS)内でしか使用できない。その一方、DDSで扱われる情報はいわゆる「Targettingの精度」であるため、DDSを通じて受信した目標に対しては、自艦装備のセンサーで再探知せずに攻撃を加えることができる。すなわち、火力の投射を担当する艦が無線封鎖の状態にあったり、地形上の問題で目標を探知できなくても攻撃が可能となる。

CEP
CEP (Cooperative Engagement Processor)共同交戦処理装置は、他のユニット (CU: Cooperating Unit)からDDSによって受信したデータを分析し、自艦装備のセンサーからの情報とともに融合し、共通戦術状況図 (CTP)を作成する情報処理システムである。
個々の航空機や艦船がレーダーやソナーなどによって得た観測データは、DDSによって空と海を通じて互いに連絡され、CEPによって融合されることで、それぞれ1機・1艦では得られない広範囲のレーダー覆域と高い位置精度が獲得できるようになる。CEPは、イージスシステムのC&DシステムやACDSなどの戦術情報処理装置と連接され、他艦探知の目標に対する攻撃を可能とする。
AISなどと、基本的概念は類似している。


他システムとの連携

CECは、リアルタイム性がきわめて高いことから、海軍のC4Iシステムとしてはもっとも狭い地理範囲で運用されることとなっている。
一方、従来「リアルタイム」の情報システムとして使用されてきた戦術データ・リンクも、CECよりやや広い範囲での艦隊運用に使用するものとして整備が継続されることとなっている。これまで使用されてきたLINK11は、現代の水準から見ると通信容量が小さいが、新しく大容量の戦術データ・リンクとして開発されたLINK16は、UHF帯のみであることから、見通し線上での通信しかできないことから、現在でも運用が継続されている。ただし、LINK16の技術をもとに、HF帯での通信を可能にしたLINK22が開発されている。
さらに、戦術データ・リンクよりもさらにリアルタイム性が劣る一方で、さらに広域での兵力運用に使用されるC4Iシステムとしては、GCCS-Mが整備されている。これはJOTSを発展させたもので、戦略・政治レベルで使用されるGCCSとの連接に対応している。
また、今後は、より広範囲な艦船や航空機、さらに陸上とも情報共有の出来るIT-21統合データ・ネットワーク (Joint Data Network: JDN)へと広げ、さらには航空・宇宙・陸上や国家最高指揮レベルまでも内包する遠征軍センサー・グリッド (Expeditionary Sensor Grid: ESG)にまで拡大を計画している。




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単艦では、レーダー覆域に死角が出る状況でも、データ連動によって情報が合成され、補うことができる。
Pict_1715a. Pict_1715b.   Pict_1715.

アンテナ

Dcim3439/DSC_0220. Pict_1018.

参考
CIC 戦闘情報センター
艦載兵器あらかると
ミサイルの誘導方式
電子兵器
艦隊通信
衛星通信
データリンク
レーダー
レーダーとECM
防空システム イージスへの系譜
イージス防空システム
海上自衛隊の対空作戦の系譜
海上自衛隊の対艦作戦の系譜
戦術情報処理システム
CEC 共同交戦能力




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新規作成日:2010年8月9日/最終更新日:2010年8月9日